死にたがりが逝く!〜イチゴ奮闘記〜
magnet
第1話
「ほーんっと、お姉さまは何でもできますわね! 勉強にスポーツ、モデルまで何でもこなすなんて凄すぎですわ! 尊敬しますわ!」
「ふふっ、そんなことないのよ。でも、ありがとうイチゴ。イチゴは本当に優しくて可愛いわね、イチゴのおかげで私も本当に頑張れるのよ」
「謙遜までして、中身も人格者なんですわね! もう、そんなお姉さまが大好きですわ!」
そうやって私は幼き頃からずっとお姉さまに憧れ続けていましたわ。お姉さまは本当に才能と努力の塊とでも言えば良いんですの? 何でも器用にそつなくこなす、という程度ではなく、何でも完璧にこなしますの。
勉強も高校では常にオール5でしたし、大学生になってからも凄かったですわ。毎回首席を取っていて、私も何度かお姉さまが論文を発表しているところを見に行ったことがありますわ。
学会の方からも注目されていて、あらゆる方面から様々なスカウトが来ている程ですの。勿論、海外からも何件と来ていますわ。
そして、スポーツ、お姉さまはどの競技も非常に上手いのですが、特にお上手なのがフェンシングですの。反射神経と状況判断がとても優れていて、同世代では誰も勝てませんわ。
フェンシングのジュニアだけでなく、大人も混じった大会で、優勝こそ出来なかったものの高校三年生にしてベスト4にまで勝ち上がったお姉さまの姿は、フェンシング界に激震を走らせましたわ。適切なトレーニングを受けていれば間違いなくオリンピックに出場できたでしょうし、金メダルまで狙えたと思いますわ。
これだけでも凄いのに、お姉さまはモデルもしていらっしゃるの。ある有名な若者に人気の雑誌の専属モデルをしていて、何度も表紙を飾ったことがありますの。すでにファンも多くいて、ゆくゆくはテレビに進出して、女優も視野に入れてるんじゃないかって噂されるほどですのよ。
何を取っても一級品、いや最高級の出来栄えを誇るお姉さまは、あらゆる業界から引っ張りだこでしたわ。次々と結果を残していくうちに世間がお姉さまを見過ごせなくなりましたの。
でも、ある時を境に、お姉さまが急に表舞台から消えましたの。
どんなに凄くてもお姉さまは一人の人間だし、世間的に見ればまだまだ若いですわ。そんな中、あらゆる方向から多種多様な期待という名のプレッシャーに晒されればどんな人間だって耐えられないと思いますわ。
そんな中お姉さまは必死に頑張っていましたの。でも、世間はいい人達ばかりでは無いし、まだ若いお姉さまに対してちょっかいをかけてきたりしてくる輩も次第に増えていきましたの。
それには流石のお姉さまも限界を迎えて、ある時、全ての活動を休止する、と宣言しましたの。
世間は荒れに荒れましたわ。でも私をはじめ家族は誰も責めませんでしたわ。お姉さまの今までの頑張りを見ていたら当然ですもの。その時に私に言ってくれた言葉が、
「ごめんなさいね、イチゴ。もうお姉ちゃん、限界みたい。まだまだ頑張れると思うんだけど体が言うことを聞いてくれなくてね……私はイチゴが慕ってくれてたから、勉強もスポーツもモデルも頑張れたのよ? イチゴにはかっこいい姿を見せたい一心でね。
でも、もう見せられないわ、ごめんなさい、こんなお姉ちゃんで。もっとカッコいいお姉ちゃんが良かったわよね……」
この言葉を聞いた時、私は気づかぬ内に涙を流していましたわ。あんなにも素晴らしいお姉さま、がまさか自分の為に頑張っていただなんて、その当時の私には凄く衝撃的で、それと同時に凄く嬉しかったんですの。
私は衝動的にお姉さまを抱きしめて、
「お姉さまはもう十分かっこいいですわ」
その時初めてお姉さまの目にキラキラ光る、とても綺麗なものが見えた気がしましたの。普段はそんな姿は見せないお姉さまが見せた、最初で最後の弱った姿でしたわ。
そして、その日以来、私もお姉さまに会うことはほとんどなくなりましたわ。お姉さまはたまに海外に旅行にいくのですが、ほぼ家の自室で過ごしていますわ。
お姉さまが今までに築いた財産は短期間ながら、もう残りの人生を遊んで暮らせる程でしたし、普通に私の家もお金は持っている方ですから、何不自由なく生活しているようですわ。
二十代半ばにして、もう悠々自適なスローライフを謳歌するなんて流石としか言いようがありませんわね。
お姉さまが引退を宣言したのが丁度二十歳の時で、私が中学一年生でしたわ。今は高校生になりまして、およそ五年の月日が流れましたわ。私が歳を重ねるにつれて毎回お姉さまの背中の偉大さと、そこまでの距離を実感させられますわ。
お姉さまの代わりに今度は私が頑張ると誓いましたのに、勉強一つとってもお姉さまに追いつけそうにありませんわ。本当にお姉さまは偉大なんだと、凄いのだと、身に染みて感じさせられているところですわ。
そんな毎日を過ごしている中、私が学校から帰って来ると、玄関にはなんとお姉さまがいらしたの。
「お姉さま!?」
「お帰りなさい、イチゴ。久しぶりね。最近ご飯も自分の部屋で食べてたからね、元気にしてた?」
「た、ただいまですわっ! お久しぶりですわ、お姉さま。私は元気にしていましたけど、それよりお姉さまの方が元気にされてましたの? お体は大丈夫ですの?」
「やめてよ、婆さんじゃあるまいし、まだまだピチピチの二十代よ? それより、イチゴに頼みごとがあるんだけど……」
頼みごと!? お姉さまが私に頼みごとをするだなんて何年ぶりなんでしょう、それほど記憶にありませんわ。それこそ、私がまだまだ小さい頃に一緒に遊ぶのをお願いされた記憶くらいですわ。
一緒に遊ぶことくらい、喜んでしますのに、お願いするなんて、その頃からお姉さまの片鱗は見えてたんですわね。
「お姉さまの頼みごとなら何でもお聞きしますわ! このイチゴ誠心誠意を尽くして、お姉さまのお役に立ちますわ!」
お姉さまに頼られることが、あまりにも嬉しすぎて、気合が入りすぎてしまった私に投げかけられた言葉は凄く意外なものでしたわ。
「ふふっ、そんなに気合を入れるほど大したことじゃないのよ。でも、頑張ってくれるのなら、お姉ちゃんも嬉しいわ」
「はい! 頑張りますわ! それで頼みごととは何ですの?」
「うん、イチゴに私と一緒にゲームをして欲しいの」
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