優しいおしごと。
鈴木 トモヒロ
第1話
(この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)
幼き小さな私の手を。
ゆっくりと引いてくれた優しい存在。
私は祖母が大好きだった。
祖父も母も仕事に追われ、食事を作ってくれたり、お散歩に連れて行ってくれたりと。
私の身の回りの世話をやいてくれたのは祖母だった。
小さかった私は「ありがとう」ということを伝えるのが精一杯だった。
何かお返しがしたかった。
でも、何をしたらよいのか分からなかった。
ある日、スーパーに買い物へ連れて行ってもらった。
見るもの全てが初めてのものばかり。
赤い丸い果物や、オレンジ色で少しゴワゴワしている果物。
後から知ったことで、りんごとみかんだった。
どちらも祖母が皮をむいてから食べさせてくれていたから、果実を見たことがなかったのだ。
ここにも知らず知らずの祖母の愛情が込められていたのだ。
さて、祖母が買い物を進めるためにカートにカゴを乗せて店内を歩く。
私も遅れをとらないように、祖母のあとに続く。
そして...。
お菓子コーナーの近くに...。
(チョコレートが欲しい)
私はチョコレートが大好きだった。
どうやったらチョコレートを買って貰えるか、幼い私は考えた。
すると
私と同じくらいの男の子とそのお母さんがお菓子コーナーにやってきた。
「お母さん、クッキーとチョコレートを買ってよ!」と、男の子は言った。
お母さんは「今日は買わない約束でしょ?お菓子は今度ね」と答える。
男の子は「嫌だぃ、嫌だぃ。お菓子買ってよ!」とその場で泣き出してしまった。
私は男の子と同じことをしようと思っていた。
でも実際に見ると、これはマズいなととっさに思った。
私は祖母に
「お菓子はいらない。」と伝えた。
祖母は
「おやっ?いいの?じゃあ、行こうか」とレジに向かった。
何事もなく商品の生産をして、買ったものをビニール袋に詰めていく。
小さなビニール袋には、バナナ一房を入れて私が持つことになった。
小さな私には、スーパーから自宅まで歩くのは大冒険だった。
チリンチリンと後ろから近づいてくる自転車。
目の前にやってきた大型犬。
青信号で走り出す沢山の車。
怖いものばかりだった。
恐怖を感じるたび、祖母の手をギュッと握った。
きっと祖母は私が怖がっていることを毎回感じていたのだろう。
「大丈夫だよ」と毎回言ってくれた。
家が見えてきた。
私の大冒険も終わりが来たのだ。
安心して走り出す私。
「ただいま!」と元気よく玄関のドアを開けた。
奥の方から「おかえり」と仕事中の祖父が返事をくれた。
その声を聞けて、本当に嬉しかった。
そんな様子を見ていた祖母は
「今日はありがとう。バナナを持ってくれて助かったわ。またお手伝いしてくれたら嬉しいわ」と言ってくれた。
(祖母が喜んでくれた!)
と、この日1番に喜んだ。
(そっかぁ。お手伝いというものをすれば、おばあちゃんは喜んでくれるのか)
私は初めて祖母にお返しが出来る手段を見つけることが出来たんだ!
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