第2話 列車内と外


 髪が顔に纏わりつく感覚。散らかって汗もかいてる。電車の中ということは理解したど、どうしてか、この列車は一車両編成で運転手がいない。それに、気がつけばわたしが気に入っているワンピースを着てる。

混乱が混乱を招くというより、理解不能な事態が重なってどうすることもできず呆れている。

だから溜息を吐く。

 1人の一車両の列車の中で、座席を陣取り上向けに寝転がる。一応は履いていた靴は脱いでおく。本来はルール違反か非常識な行為だけど、これが今の不安な状況に対しての、せめてもの反抗だった。

 寝転がった振動で舞うホコリがまた光に反射して、混乱していた心が落ちく。


「ホコリはホコリだし」


悔しくも、ホコリに対して一瞬でも感心してしまうわたしはどうかしてる。

だから、起き上がって列車内をもう一度だけ見渡してみる。当たり前にも、さっきと同じ光景だ。

だんだん、わたしの心の中は落ち着いてきている。不安なことといえば後一つくらいだけど、それがたぶん一番怖いことなのかもしれない。

 振り向きたくない。

別に外の世界が怖いからとか、後ろを振り向いたらお化けがいるとかそんな理由なんかじゃない。それに、背後には何が見えて何が映るのかも大体予想はついているのだから、尚更に見なくてもいいなんて思う。だから身体を横に倒す。


その瞬間だった。


ガッタンッ!


「うわぁっ!」


車輪がレールから外れた衝撃に身体が一瞬浮く。立て続けに、車輪が嫌に高く唸った。

そして、次に来るであろう衝撃に備えようと近くにあった手すりを咄嗟に掴む。

ぎゅっと身体全体を固めて目を瞑る。

こうなると後はどうなろうが、なるようになると自分に言い聞かせた。



…。


「あれ、止まった?」


余計なことを考えている内に、車両の中は静寂になっていた。そんな中で今、一人で何をすることも無くなってしまう。だからとりあえず、それも仕方なくだった。本当に仕方なく外を覗いてみることにした。


 「ここどこ!」


漏らした声が列車内に響く。車両内はまた静寂に戻る。差し込む光が優しくて、眩しくて目を細くしてしまう。辺りは、春的な花に埋め尽くされているけど、見たこともない不思議な景色。

花の色に合わせているたくさんの蝶が目に止まる。綺麗で暖かそうで、気持ちよさそうな風も吹いている外。この窮屈な車両から少しでも身体を出したいなんて思っちゃうけど、そこにはまだ少しの違和感があって、頭がぐるぐるする。それが嫌になって列車内に視線を戻して身体もしまう。


「頭がぁ!痛いからぁ!嫌だぁ!」


今度はむしゃくしゃする髪をわしゃわしゃと掻き回して横たわる。そうして目を瞑った。

目蓋の裏は真っ暗じゃない。あったかい光が瞼を通して、しつこく映る。

だから、それを無理に無視し続けた。

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