万屋部のきせき
@tsuna-can
1,万屋部
高校3年の夏。夏休みも後半に差し掛かった昼下がり。俺は部活があるため、自転車で15分かけて学校に向かっている。額から汗が流れ落ちる不快さに思わず舌打ちする。舌打ちするのは別の理由もある。それは、この部活に行く意味をあまり見出すことができないからだ。ただただ、部長という理由だけが俺を部活に参加させている。部長は部活を第一に優先するという不文律があるせいかもしれない。その不文律に反発する勇気はない。というか反発したところで何の意味もなさないから。
そうこう考えているうちに、学校に着いた。昇降口のドアを開けると冷たい空気にほっと息をつく。俺は革靴を上履きに履き替えようと、靴箱を開ける。すると靴箱の中に手紙が入っていた。
「ラブレターか?」
と脳裏をよぎる間もなく、これはラブレターではないと気づいた。明らかに可愛らしい手紙ではなく、味気ない薄茶色の封筒だからだ。俺は封筒を手にし、表面に書いてある文字を呟いた。
「依頼。」
その2文字が封筒にふてぶてしく書かれていた。
たまにこのように、依頼がくる。その理由は俺が『
俺は『依頼あり。いつもの場所に集合。』と万屋部のLINEグループにメッセージを送った。部室はないが、普段使われていない会議室を拠点として活動している。だからいつもの場所でも部員には通じるのだ。他の部員からスタンプが返ってくるなか、1人だけ既読がつかない。いつものことだ。俺はその彼を呼びに図書館に向かう。
そいつの名は、「
「携帯の通知、オンにしとけよ。取りあえず依頼が入ったから、いつもの場所な。先、行ってるよ。」
それに対して萩一は「分かった。行くよ。」と淡々と返事をした。
例の会議室に着くと萩一以外の部員は揃っていた。そして、その数分後、遅れて萩一が入ってきた。
俺は「全員がそろったので依頼を発表する。」と言い、
封筒にハサミを入れる。依頼は皆の前で開けるのが恒例だ。1人だけ目を輝かせながら待っている部員がいる。
そいつは「
俺は封筒から1枚の手紙を取り出し、皆から見える位置に置いた。
手紙には『文化祭を荒らそうとする、この男を止めて欲しい。』とたった一行で書かれていた。
差出人は不明。
「この男って?」と疑問を持つ菜々に対し、
萩一は封筒の中身を確認している。すると、もう1枚、何かを取り出した。出てきたのは、男の写真だった。友達の少ない俺と、本が友達みたいな萩一にとって、その男は初見だった。しかし菜々は知っている様子だった。
「この人、この学校では有名人だよ。」
「どんな有名人だ?」依頼の内容からして何となく予想はついたが、俺は菜々に聞いた。
「結構なワル。問題行為を繰り返していて有名だよ。見た目も怖いし。数回、停学をくらっている噂もあるぐらい…。確か名前は、『
菜々から話を聞く限り、布袋は不良生徒らしい。俺は厄介な依頼がきてしまったのではないかと、先行きが不安になった。萩一は手紙を見て何やら考え事をしているし、菜々は少し心配そうだが前向きに依頼を受けるつもりのようだ。依頼に対して乗り気ではないのは俺だけかもしれない。
話し合いの結果、その依頼は情報が全然ないため、夏休み明けの2学期から本格的に動き出すことにした。俺にとって、多分最初で最後の大きな部活動になるだろう。乗り気ではなかったものの、廃部になる前に何か成し遂げて終わるのも悪くないと自分に言い聞かせて、少しは頑張ってみることにした。
そして打ち合わせの後は別の依頼の落とし物捜索を行い、今日の部活は終了となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます