第11怪の後半 百面相の理由  Byふぁーぷる

 私はiPhoneの曲のボリュームを最大に上げてノリノリで

 マスク内で歌を口ずさみながら彼女の座席前に立つ。


 彼女は目を瞑っている。


 リズムを取りながら私はショルダーバッグの中に手を入れる。


 冷んやりとした固形物の感触が伝わる。


 ノリノリを止めそれを取り出し彼女に振り下ろす決意をする。




 <ずぶり>


 <ポタポタ、ポタ>


 私のワンピースの腹部が血に染まる。


 腹に彫刻刀が突き刺さっていた。


 その持ち手は彼女だった。




 <カッ>と見開いた眼。


 それは身を守るしっかりとした眼差し。




 私はショルダーバッグに手を入れたままで崩れ落ちる。


 倒れた反動でショルダーバッグからハンマーが転がり出る。




 悲鳴や怒号が飛び交っている。


 刃が深かった様で内臓に到達してるのか…。


 口から泡立った血を吐きながら私は彼女に話してる

 つもりで口をパクパク。




 あなたはやはり人の心が読めるのね。


 私の検証は成功。


 あなたは正当防衛だから悪くない。


 私は人に飽きたから死にたかったの。


 だから悪くない。




 私はサトリ。


 人では無い。


 あなたは毎日私に語りかけてくれていた友達。


 こんな別れは寂しいけど人は儚い。


 悠久で逢えたらまたお話ししましょう。




 私は最後の気力を振り絞ってショルダーバッグのハンマーを

 手にしっかりと握りしめる。


 私が先に彼女を襲った証拠のために。


 眼の光が失われる。


 その暗闇に何かが居る。そして私を誘っている…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る