第4話

 此の日は梅雨入りと世間が云う、雨が多く降った日であった。


 ミヨは最近、一人で何処かに出かけている。

 まさか、男が出来たのか。僕は青褪める。いや、別に彼女とは結婚している訳でもないし、付き合っている訳でもない。ミヨに男が出来たとしても僕には関係ないのである。然し僕は心にちくちくと茨の棘が刺さったような気がした。


 がらがらがら。引き戸が鳴る。ミヨが帰ってきた。

 「只今帰って来ました!」

 ミヨは林檎のような頬をして、そしてその頬のような色合いの傘を閉じてそう云った。

 「ミヨ、お帰り。今日は何処へ行っていたんだい。」

 ぽっ、と更に彼女は頬を染める。

 「うふふ。そろそろ云ってもいい頃かしら。一寸着いてきてくださる。見せたい処があるんです。」

 其れから僕達は雨が降る町を歩いた。


 「此処ですよ。私、女優さんになったのです。」

 ミヨは微笑みながら僕を見つめる。

 其処には映画で観る風景が広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る