氷
檜木 ひなた
第1話
「ねぇ柊一郎さん。私はきっと、氷なのよ。」
愛らしい少女が寝台の上に座っていた。その小さな掌にぴったり収まる大きさのグラスを傾け、そこに居座る氷を鳴らしていた。「だってそう思いませんこと。こうやって可愛らしい音を鳴らして、周りを冷やして、仕舞いには消えてしまう。こんなに惨めな物はきっと無いわ。」
彼女は結核を患っていた。いつ死んでもおかしく無いほどの重傷である。「この病が全て治ってしまったら、私、また舞台に立てるのかしら。」僕は答える。「きっとそうなるさ。ミヨは本当に舞台が好きなんだな。そうだ、また二人でかき氷を食べに行こう。そしたら君の云う、ただ消えてしまうだけではなくて、思い出に残るだろう。」ミヨ、もとい岩原ミヨ子は青白かった頬を少し染める。「そうよ。私は何年舞台に立っているとお思いになって。...かき氷。とっても楽しみにしているわ。絶対治して見せるんだから、待っていらしてね」僕はそんなミヨ子が愛おしく感じ、抱きしめた。
数日経ち、彼女は同じように僕の腕の中で氷のように冷たく、亡くなっていった。
僕はミヨ子と出会う頃のことを、氷の君との思い出を、思い出している。
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