ネクストライフ・チューナー
みどりこ
1章 始まりの物語
第1話 公園のヒーロー
「あった! ほんとにあった! ありがとう!」
小さい男の子が歓声をあげて腕に抱きつき飛び跳ねて喜ぶので、笙野つばさは足をもつれさせながらもなんとか耐えて笑った。
少し懐かしいデザインで明らかにお下がりと思われる緑色のジャケットを着たやんちゃそうな男の子は目をキラキラさせて真っ直ぐな質問を飛ばしてくる。
「どーやって見つけたの!? おれのグレーダー!」
「あー、ラッキーだったんだよ。砂場に埋もれてたのをさ、掘ったら出てきたんだ」
集合住宅の谷間にあるひっそりとした公園に、小学一年生くらいだろうか、その子の興奮した高い声がこだまする。
「すっげえーー!」
登校時刻をやや過ぎたといっても人がいないわけではない。
公園脇の歩道を通り過ぎる人たちが怪訝な目線を投げかけてくるのを、つばさはひやひやした気まずさを腹の中に飲み込んで気づかぬフリをした。
なんでもありません、特に何も起きてません!…目立つのは苦手だ。
子供が片手にしっかり握りしめているのは、毎週日曜朝に放送中のヒーロー特撮の人形で、小さな手の中でもう二度と離すまいというように力を込められてややへしゃげている。
つばさが通学途中たまに見かける子で、いつも物凄い勢いで走って登校しているのでやけに元気なやつだな、と覚えていた。
それが今朝は憔悴しきった様子で
話しかけると驚いた顔をした後「グレーダーがなくなった」と小さく言った。
そりゃ放って置けるわけがない。
(妹と同じくらいの子だし)脳内で誰にともなく付け足し、制服の袖をまくってつばさは人形探しに名乗り出たのだった。
「良かったな!」
笑いかけると顔をくしゃっとさせて大きく頷いた。
「うん、ありがとう! でもさ、砂場おれすっげー探したんだよ。にいちゃん一瞬だったよね!」
ちらりとつばさは砂場に目をやる。
砂遊びには少しばかり大げさなサイズのスコップが砂場に突き立っている。
先が金色の金属製で持ち手が木でできた、庭木の植え替えにでも使えそうなものだ。
その脇にはほんのひとすくいしただけの穴があり、その分の砂一山が横に退けてあった。
「あー、えーと。砂からちょっと腕がでてたからさ、すくったら出てきたんだ」
我ながら怪しいごまかし方だなと感じて、つばさは照れ隠しに今にも目を覆い隠してしまいそうなくらい伸ばした前髪の先端を引っ張った。
(でも、結果見つかったわけだし?)
つばさは無愛想だと言われがちな己の外見をこの際有効活用することにした。つばさの背は185センチ。高1にしてぬっと背が高く一重の目とがっしりめの顎の形でまず子供にはウケが悪い。加えて今は高校の黒い制服姿で色の威圧感もあるだろう。
説明に窮する追求はこの見た目で抑え込めるかもしれない。つばさは掴まれていた手をそっと離し、片手を上げた。
「偶然偶然、じゃあな」
なんでもないような顔をして公園を出た。背中にかけられる声はなく、すでに周りに同じような制服姿は見つからない。完全なる名誉の遅刻は免れなかった。
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