愛慾のチョコレゐト

米 八矢

終わりに


冷たくなった君の温かい血を僕は舌先で舐める。鉄の味がした。

苦かった。けれど、僕にとってはこれほどまでに甘美な味を知らない。


愛している。


それを最後にあなたに伝えたかった。本当に。

どうして、先に逝ってしまうんだ。一緒に逝くことが、意味のない人生の中で最も幸福なときになるはずだったじゃないか。

一人だけ先に行くなんて。裏切りだよ……。

僕は泣いた。あなたの穏やかな表情かおに。この世で唯一信じられる人に裏切られた哀しみに。

 やがて、その表情を犯してやりたくなった。恨みをすべてぶつけて滅茶苦茶にしたくなった。白いブラウスのボタンに手をかける。一つ一つをゆっくりと外していく。露わになった桃色の下着を強引に引っ剥がす。

 色白く、豊満なその乳房に僕は顔を埋めた。今まであなたにしたくても出来なかったことを、あなたの亡骸にぶつける。

 スカートも下着も脱がし、一糸まとわぬ姿へと変える。あなたを辱めるために。

僕はあなたに欲望をぶつける。あなたを激しく犯して。そして、あなたの中で果てる。


それでもあなたの表情は変わらない。幸せそうに笑ったまま。

それが無性に空しくなった。自分がちっぽけで哀れに思えてきたのだ。

辺りに投げ捨てたあなたの衣類を拾い、再びあなたに纏わす。

 両腕であなたの亡骸を抱えて僕は海辺の崖を目指した。あなたと何度も足繁く通った場所だ。

 終わりの場所にふさわしいだろう。

木の柵を乗り越えて、海風にこの身を晒す。これで本当に最後だ。人生で最も幸福なときだ。

最後にあなたと唇を重ねる。リップクリームの甘い味がした。


もし、生まれ変わることがあるならば、あなただけとは巡り合うことがありませんように。

そう願って、一歩、前に歩いた。


幸せな未来あしたを願って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛慾のチョコレゐト 米 八矢 @Senna8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ