<終章> 5-8 2人の門出 ― 本編完結 ―
会長の下へ修也が朱莉と結婚したいと願い出てから1カ月が経過した。
「よし、これで・・・手続きは全て終了したな。」
猛は書類にサインをすると顔を上げた。
ここは猛の書斎、今この部屋には猛と秘書の滝川、そして修也と朱莉に蓮が揃っていた。
「これで、修也と朱莉さんは正式な夫婦になった。そして・・蓮は正式に2人の子供となったわけだな。」
猛は笑みを浮かべると言った。
「会長・・・本当に有難うございます。」
修也は猛に頭を下げた。
「会長、ありがとうございます。」
朱莉も頭を下げると、隣に座る蓮の頭を撫でながら言う。
「蓮ちゃん・・・ようやく蓮ちゃんと本当の家族になれたわ。」
「本当の家族?」
蓮は首を傾げる。
「そうよ、蓮ちゃん。お母さんと・・修也さんは結婚して夫婦になって・・・そして蓮ちゃんは正式に私たちの子供になったの。」
すると修也が言った。
「蓮君、今度から僕は・・蓮君のお父さんになったんだ。・・いいかな?僕がお父さんになっても・・。」
修也は恥ずかしそうに蓮に尋ねた。すると蓮はパッと笑うと言った。
「ううん!そんな事無いよ。だって・・僕修ちゃんの事大好きだもん!あ・・・もうお父さんって言うんだっけ・・。」
そして蓮は修也を見ると恥ずかしそうに言った。
「お父さん・・・。」
「蓮君・・・。」
修也も顔を赤らめて蓮を見た。
「よし、それじゃ蓮君。そろそろ皆でマンションに帰ろうか?」
修也が蓮を抱き上げると言った。
「うん!帰る、僕たちのおうちへ!」
蓮は嬉しそうに修也の首に腕を巻き付けると笑顔で言う。そしてそれを幸せそうな顔で見つめる朱莉。
そんな蓮に猛は声を掛けた。
「蓮、蓮と一緒に暮らした1か月間・・・本当に楽しかったぞ。又・・遊びに来てくれるかい?」
「うん、又来るよ。だって僕、曾お爺ちゃんの事大好きだから。」
「そうか、そうか。」
猛は目を細めると言った―。
「会長はやはりすごい方です。」
3人の乗った車を見送る猛に秘書の滝川が言った。
「何がだ?」
猛は振り向いた。
「始めから・・こうなることを想定済みだったのですね?」
「こうなる事・・とは?」
「朱莉様と翔様を離婚させて、蓮君の親権を自分に移してから・・新たに夫婦となった修也様と朱莉様の養子に蓮君を引き渡す・・・これであの方達は名実共に本当の家族になったわけですから。しかも入籍するまで1か月間の期間を設け・・両家の御挨拶や、他の方々への報告・・引越しの準備やさらに朱莉様と修也様の新婚気分を味わせて差し上げたのですから。全く・・お見事でした。」
滝川の言葉に猛は言った。
「朱莉さんと修也が・・・互いに惹かれあっているのはすぐに気が付いたからな。あの2人は優しく、お人好しなところが似ている。翔の様に強引な男に言い寄られでもしたら・・恐らく朱莉さんは拒否しきれないと思ったから、少々強引な手を使って翔から朱莉さんと蓮を引き離したのだ。・・翔がもう少し穏やかな人間だったら・・私もこんな強引な手段を使わずにすんだのだがな・・。どのみち、翔にはきついお灸が必要だと思ったのだ。自分は必ずこの鳴海グループの後継者になれると勘違いし・・・思い上がっていたからな。最大のライバルがいるという事も忘れて・・。」
「会長・・・。」
すると猛は滝川を見ると言った。
「さて、滝川。今日は病院に診察へ行く日だ。そろそろ準備をしようか?」
「はい、かしこまりまた。」
滝川は頭を下げた―。
「ほら、蓮君。新しいおうちに着いたよ。」
修也は蓮の左手を繋ぎながらマンションを見上げた。蓮の右手は朱莉が手を繋いでいる。
「新しいおうち・・?でも、前住んでいた処と同じマンションじゃないの?」
蓮は首を傾げた。
「フフ・・確かに同じマンションだけどね、住む場所が変わったのよ。」
朱莉は蓮の繋いでいた手に力をこめると言った。
「場所が変わったの?」
「ええ、そうよ。前のおうちよりも広いお部屋になったの。今日から・・3人でずっと一緒に暮らすのよ。蓮ちゃんと・・・お母さん、そしてお父さんと一緒に。」
朱莉は修也を見つめて笑みを浮かべた。
「朱莉さん・・・。」
修也も朱莉をじっと見つめる。
「ねえねえ、ネイビーも一緒だよね?」
蓮が修也と朱莉を交互に見ながら言う。
「ええ。」
「勿論一緒だよ。」
「やったー!それじゃ・・早く僕たちのおうちに帰ろう?」
蓮は嬉しそうに言った。
「そうだね・・・それじゃ帰ろう。僕達の新しい家へ・・。」
修也は笑みを浮かべて、愛しい妻と我が子を見つめるのだった―。
それから半年後、朱莉と修也は都内のホテルで盛大に結婚式を挙げた。本来なら2人は入籍だけ済ませて式を挙げるつもりは無かったが、猛から鳴海グループの新社長なのだから結婚式を挙げて知名度を上げなければならないと説得された為、2人は式を挙げる事になったのだ。
結婚式には多くの著名人や、一流企業のトップ陣営、そして関係者一堂が勢ぞろいした。参加者の中には二階堂夫妻もいる。
「朱莉・・・とっても綺麗よ。」
花嫁の控室で車いすに座った朱莉の母、洋子がヴェールを被り、純白のウェディングドレスに身を包んだ朱莉に言う。
「お母さん・・・ありがとう。」
朱莉は思わず涙ぐむと洋子が言った。
「駄目よ、朱莉。泣いたりしたら・・せっかくのメイクが崩れてしまうわ。」
「う、うん。そうだよね・・・。でも、お母さん。本当に私達と一緒に暮らすつもりはないの?」
朱莉は母に言った。
「ええ、いいのよ。やっぱりまだ病気の事が心配だから・・それにあんな立派な特別室に入院させて貰えるのだから、こんなに幸せなことは無いわ。」
「でも、もっと体調が良くなれば・・・その時は・・・。」
朱莉が言うと、そこへ修也の母が顔を覗かせた。
「ええ、その時は私と一緒に住むことになるのよね?」
「え?!そうなんですか?」
朱莉は驚いて洋子と修也の母の顔を見比べた。
「ええ、すっかり意気投合してしまって・・・。」
「お互い、独り身だし、一緒に暮らすのも悪くないわねって話になったのよ。」
洋子と修也の母が交互に言い、2人は笑った。
「ま、まさか・・そんな事になっていたなんて・・・あ、あの。修也さんはその事を知ってるんですか?」
朱莉の質問に修也の母が答えた。
「まさか~・・・知らないわよ。でもいずれ、現実化する時は報告するつもりよ?」
そして笑みを浮かべた。その時・・・。
コンコン
控室のドアをノックする音が聞こえた。
「はい。」
朱莉が返事をするとホテルスタッフの女性がドアを開けて入室してきた。
「失礼致します、朱莉様。そろそろ式が始まりますので出て来て頂けますか?」
「は、はい。すぐに行きます。」
「朱莉、行ってらっしゃい。」
「朱莉さん、すごく綺麗よ。」
2人の母に見送られ、朱莉は会釈すると控室を出た。するとそこには真っ白いスーツを着た修也がそこに立っていた。するとその様子を見た女性スタッフが言った。
「・・まだ10分ほどお時間はありますので、後程伺いますね。」
そして気を利かせて立ち去っていく。
控室の前で2人きりになると修也が言った。
「朱莉さん・・・すごく綺麗だよ・・・。」
修也は頬を染めると朱莉を見た。
「修也さんも・・・とても・・素敵です・・。」
朱莉も恥ずかしそうに言う。
「どうしても・・式の前に朱莉さんのウェディングドレスを見たくて・・よく、式の前に花嫁姿をみてはいけないなんてジンクスがあるけど・・。」
修也がためらいがちに言った。
「ふふ・・だって、もう何度も試着で見てるじゃないですか。」
「うん、そうだったね。」
そしてふと真顔になって言う。
「朱莉さん・・・。九条さんや・・安西君にも本当はお祝いして貰いたかったんじゃないの?」
「あ・・。」
朱莉はその言葉に悲し気に目を伏せた。実は朱莉は琢磨や航から式には出ないから招待状は出さないで欲しいと言われていたのだ。
「仕方ありません・・・。私はあの人達を傷つけてしまったので・・。でも、それでも私は修也さんしか選べませんでした。」
「朱莉さん・・。」
「僕も・・・例え誰かに恨まれたとしても・・朱莉さんを手放すつもりはないよ。」
じっと見つめ合っていた2人はやがて互いに顔を近づけ、唇が触れるだけのキスを交わした―。
そして14年越しの恋を実らせた朱莉と修也は大勢の参列者達に祝福され・・牧師の前で永遠の愛を誓うのだった―。
そして2年の歳月が流れた―。
4月―
今日は蓮の小学校の入学式である。
「お父さん、お母さん、早く行こうよ!」
セレモニー服にランドセルを背負った蓮が満開の桜並木の下で朱莉と修也に手を振る。
「ほら、蓮。そんなに急ぐと、転んじゃうぞ?」
修也が笑いながら蓮に話しかける。
「蓮ちゃんは余程小学校が楽しみだったのね。」
朱莉は1歳になったばかりの愛娘を腕に抱きながら笑みを浮かべる。
「朱莉、今・・幸せ?」
不意に修也が尋ねてきた。勿論朱莉の答えは決まっている。
「ええ、勿論。修也さん。」
そして満開の桜の下で朱莉は修也に微笑む。
青空の下、美しく舞散る桜吹雪は・・まるで3人の新しい門出を祝っているかのようであった―。
<完>
****
残り番外編(数話)で完結です
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