4-11 副社長室で
10時―
バンッ!!
突然副社長室のドアが開けられると、そこには翔が立っていた。
「翔っ!どうして急に日本へ・・?!」
修也は驚いて椅子から立ち上がった。
「どうして?そんな事分かり切っているだろう、修也。お前があんな事電話で言うからだ。」
翔はズカズカと修也に近付くと言った。
「まさか・・・それだけの為にアメリカから帰国してきたって言うのかいっ?!」
「おい、修也。それだけって何だ?お前にとってはそれだけかもしれないがな・・俺にとっては一大事なんだよっ!」
翔は修也のネクタイを掴み、グイッと引き寄せると言った。
「しょ、翔・・・。」
修也は驚いていた。口では散々な事を言われてきたけれども、今までこれほどまでに暴力的な行為を翔から受けたことが無かったからだ。
「修也・・・お前まさか・・・もう会長にあの事を話したのか?」
翔は相変わらず修也のネクタイを掴んだまま、怒気を含んだ声で睨み付けた。
「い、いや・・話していないよ。朱莉さんにも相談したけど・・・朱莉さん自身、どうしたら良いか迷っていたみたい・・だったから・・。」
「そうか、ならいい。」
翔は修也のネクタイを離すと言った。
「いいか、修也。これは俺と明日香・・・そして朱莉さんの3人の問題だ。部外者のお前が口を挟むのは許さないからな。」
「翔・・・。本当に・・3人だけの問題と思ってるのかい?」
修也は翔を見た。
「何だ?修也・・・お前、一体何が言いたいんだ?」
すると修也は言った。
「翔、一番肝心な相手を忘れているよ。」
「肝心な相手・・・誰だ?」
翔は怪訝そうに首を傾げた。
「翔・・・本当にその相手が誰なのか分らないのかい?・・・蓮君だよ。」
「蓮・・・?しかし蓮はまだ・・・。」
修也が言いかけると翔は言った。
「まだ4歳だから、自分の意思は関係ないって言いたいのかい?確かに翔が蓮君と別れた時はまだ1歳だったけど・・・今は大人ときちんと会話が出来る子供なんだよ?」
「だが・・・蓮は俺の子供である事に変わらない。子供は親の言う事を聞いていればいいんだ。」
「翔っ!それでも・・・蓮君の父親と言えるのかいっ?!兎に角、翔がいつまでも考えを改めないなら、僕は会長に全て話してもいいんだよ?」
修也が珍しく声を荒げた。
「修也・・・そうか、分ったぞ・・お前の魂胆が・・。」
翔は不敵な笑みを浮かべた。
「?」
修也は何の事か分らずに首を傾げる。
「修也、やはりお前は次期社長の座を狙っていたんだな?今までずっと俺から隠れた場所にいて・・・油断させていたって訳だな?そして俺の弱点を握って・・まんまと社長の座を手に入れる・・・そういう魂胆なんだろう?」
「それは違うっ!翔・・!」
その時・・・。
「随分話が盛り上がっているようだな?私もお前たち2人の会話に混ぜて貰えるか?」
部屋の入り口で声が聞こえた。ハッとなって修也と翔が振り返ると・・・・そこには秘書の滝川を連れた猛が立っていた。
「か、会長・・・な、何故ここに・・?」
翔は狼狽しながら猛に尋ねた。すると猛は副社長室に置かれたソファに座ると翔を見た。
「それはこっちの台詞だ。翔・・・お前は何故ここにいる?お前は本来ならカルフォルニアにいるはずだろう?」
猛は翔を鋭い目で見ると尋ねた。
「そ、それは・・・。」
(くそ・・・っ!なんてタイミングが悪いんだ・・・っ!)
翔はまさか今日、この時間に猛が本社に現れるとは思ってもいなかったのだ。それが顔に出ていたのだろうか?猛は言った。
「何だ?その顔は・・・。翔、お前・・・俺が偶然ここに現れたと思っていたのか?」
「え・・・?違うのですか・・・?」
「当然だ。お前の行動は逐一把握済みだ。現地スタッフの中には優秀な人材がいるからな。」
猛の言葉に翔はショックを受けた。
「ま、まさか・・・ずっと監視されていた・・?」
「おいおい・・・随分な物言いだな?それに監視と言う程大げさなものではない。お前の働きぶりを報告してくれている現地スタッフがいるだけの話だ。その人物から報告を受けたのだよ。突然お前が本日付の日本行きの航空券を手に入れたって話をな。それで・・もしやと思ってここに来たのだが・・どうやら私の考えが当たったようだな?」
猛はどこか嬉しそうに言う。
修也はそんな2人のやり取りを先ほどから黙って見ていた。
(会長・・・何て・・恐ろしい人なんだ・・。これほどまでに翔の事を把握しているなんて・・。だったらやっぱり蓮君の事も知ってるんじゃ・・・。)
すると猛は修也の方を振り向くと言った。
「さて、修也。私に一体何の話をしようと思っていたのだ?」
猛は笑みを浮かべて修也を見た―。
「ありがとうございました。」
蓮を腕に抱きかかえ、診察を終えた朱莉が受付の女性にお礼を述べた。
「お大事にしてください。」
受付の女性は朱莉に処方箋と明細書を渡すと笑みを浮かべた。
「さ、蓮ちゃん。お薬を貰ったらおうちに帰りましょう?」
腕の中の蓮に声を掛けると、蓮はぼんやりと目を開けて朱莉を見た。
「うん・・・。」
かかりつけの小児科の隣に調剤薬局がある。朱莉は蓮を連れて調剤薬局へ入ると受付に処方箋とお薬手帳を出した。
「お願いします。」
「お預かり致します。」
白衣を着た男性が処方箋とお薬手帳を受け取り、朱莉に番号札を手渡すと言った。
「番号が表示されましたら窓口に取りにいらしてください。」
「分りました。」
朱莉は番号札を受け取ると、蓮を抱きかかえたまま、窓ガラスの傍のベンチ型ソファに座り、スマホをバックから取り出した。
(明日香さんに蓮ちゃんの事・・報告しておかなくちゃね・・。)
そしてスマホ画面を見て朱莉は息が止まりそうになった。何とそこには翔からの着信が入っていたからだ。
(え・・?翔先輩・・・?ど、どうして突然連絡を・・・?)
一瞬朱莉は連絡を入れようと思ったが、すぐにその考えを改めた。
(そうだわ、いつ薬で呼ばれるか分らないから・・・マンションに帰って蓮ちゃんを休ませてからでも連絡するのは大丈夫よね・・・。明日香さんへの連絡も後にしましょう。)
そして朱莉はスマホをしまうと、腕の中の蓮を見た。蓮は赤い顔をしてフウフウ言いながら目を閉じている。
(蓮ちゃん・・・。)
蓮は基本的には丈夫な子供だった。熱も生まれてからまだ数える程しか出していない。それだけに突然の発熱は朱莉にとって驚きだった。
(やっぱり・・・昨日、ショッキングな出来事があったから・・蓮ちゃんは熱を出してしまったのかしら・・。)
朱莉はそう思うと、蓮が哀れでならなかった。まだたった4歳で自分の本当の母親は突然現れた明日香だった。どれ程ショックだっただろう。まだたった4歳の蓮には重すぎる現実だった。
(駄目ね・・・こうなる事は・・・明日香さんが蓮君を生んだ時から分かり切っていたのに・・・私がもっとうまく立ち回っていれば・・・こんなにも蓮ちゃんを傷つけずにすんだのかな・・・?)
朱莉には今後どうすればいいのか見当がつかなかった。なので翔からの電話は驚きではあったが、相談するには良いきっかけが出来たのは朱莉にとっては都合が良かった。
この時の朱莉はまだ何も知らなかった。
翔の身にとんでもない事が起きていると言う事が・・・そしてそれがやがて自分と蓮、そして明日香の身にも降りかかって来ると言う事を―。
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