3-7 美由紀の救世主?
「キャアアアッ!!」
背後でものすごい悲鳴が起こり、琢磨は驚いて振り向くと美由紀が遠藤に強く手首を握りしめられていた。
(え・・・?あの男は誰だ・・?)
「美由紀っ!遅いじゃねえかっ!人を10分も待たせやがってっ!!」
遠藤は美由紀の腕を強く握りしめ、会社の前で怒鳴りつけている。その様子を通行人たちがじろじろと見ながら通り過ぎていく。
「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!」
それはあまりにもすごい剣幕で、見ている者たちは恐ろしくて、止めに入ることも出来ずにいた。
(あれは・・・DVだっ!しかもうちの女子社員に・・・っ!)
琢磨はすぐに引き返すと美由紀と遠藤のもとへと向かった。
「おい!美由紀!てめえ・・この俺を10分も待たせたんだからなっ!覚悟はできているんだろうなっ?!・・ん?誰だ?てめえは?」
遠藤は突然近づいてきた琢磨に気が付き不機嫌そうに睨みつけた。
「何をしているんだ?手荒な真似はよせ。」
怒気を含んだ声で琢磨は遠藤に言った。琢磨は女性に暴力をふるう男を一番この世の中で軽蔑していたのだった。
「ああ~ん・・・・この女は俺の彼女なんだよ。自分の所有物をどうしようが貴様には関係ないだろう?」
そしてより強く美由紀の腕をねじり上げた。
「い、痛いよっ!離して達也さんっ!」
美由紀は涙交じりに訴える。
「やめろっ!」
琢磨は遠藤に怒鳴りつけた。その時騒ぎを聞きつけてか、2名の自社ビルの警備員が足早にこちらへ向かってやってきた。
「チッ!」
遠藤は舌打をすると美由紀の腕を離し、足早に繁華街の方へ向かって去って行った。
「大丈夫でしたか?」
「お怪我はありませんでしたか?」
2名の男性警備員は琢磨と美由紀に声を掛けてきた。
「いや・・・俺は大丈夫だったかが・・この女性社員、階段から落ちて怪我をしてしまったようなんだ。」
「え・・怪我を?」
「どこを怪我したんですか?」
2名の警備員に聞かれた美由紀は俯きながら答えた。
「あ、あの・・・右手首と左足首を・・・。」
それを聞いた琢磨は警備員たちに言った。
「すまないが・・この女性を医務室まで連れて行ってあげてくれないか?」
「ええ、分かりました。」
「どうぞ、つかまって下さい。」
警備員たちは美由紀を両脇から支えた。
「・・・ありがとうございます・・・。」
美由紀は涙目になって2人の警備員に礼を述べ、琢磨を見ると言った。
「・・・社長。ご迷惑をおかけしてしまい・・申し訳ございませんでした。」
「いや・・それよりも今の男性は・・きみの彼なのかい?」
琢磨は美由紀に尋ねた。
「・・・・はい、そうです・・・。」
「そうか・・悪いことは言わない。ああいう男とはすぐに別れた方がいいな。」
そして2人の警備員に言った。
「それじゃ、この女性をよろしく頼む。」
「「はい。」」
警備員は声をそろえて言うと、美由紀に声を掛けた。
「では医務室へ行きましょう。」
「しっかりつかまっていて下さいね。」
「ありがとう・・ございます・・・。」
美由紀が警備員達に支えられてビルの中へ戻って行くのを見届けると、琢磨は溜息をつき駐車場へと向かった―。
怪我の治療を終え、美由紀は家路に着いていた。その道すがら美由紀は溜息をついた。頭の中で琢磨に言われた言葉が頭の中でこだましている。
《 悪いことは言わない。ああいう男とはすぐに別れた方がいいな。 》
「そんな・・・・別れられるものなら・・もうとっくに別れているよ・・・。」
美由紀はポツリと呟いた。
遠藤が実はDV男だったと言うことが発覚したのは3回目のデートの時だった。
この日、美由紀は達也と上野動物園に一緒に行く約束をしていた。10時に上野公園で待ち合わせをしていたのだが、電車に乗り過ごしてしまった美由紀は5分遅刻してしまった。
(別に5分位の遅刻なら連絡入れなくても大丈夫だよね?)
そう考えた美由紀は遠藤に遅刻する連絡を怠ってしまった。5分くらいの遅れ位は構わないだろうと考えたのだった。だが・・・それが間違いのもとだった―。
公園に着くと、すでに待ち合わせのベンチには遠藤が足を組んで座っていた。
「ごめんね、達也さん。少し遅れちゃって・・・・待った?」
美由紀は笑顔で遠藤に声を掛けた。すると遠藤はイライラした様子で美由紀を睨みつけるといきなり怒鳴りつけてきたのだ。
「遅いっ!!遅すぎるっ!!」
「キャアッ!!」
そのあまりの迫力に美由紀は思わず耳を押さえてしまった。
「え・・?た、達也・・・さん・・?」
美由紀は一瞬何が起こったのか理解できなかった。
「おまえなあ・・・。」
遠藤はベンチからユラリと立ち上がると、再び激しく怒鳴りつけてきた。
「約束の時間を5分もオーバーしやがってっ!!しかも、遅れるって連絡を一度も入れずにっ!ふざけるんじゃねえっ!!」
「ご、ごめんなさいっ!!許してくださいっ!」
美由紀は必至で頭を下げた。あまりの恐怖に目じりには涙が浮かんできた。一人っ子で両親から甘やかされて育ってきた美由紀は、誰かにこれほどまでに怒鳴られたのは生まれて初めての事であったのだ。
「謝れば済むとでも思っているのかよっ!!」
美由紀が必死で謝っても遠藤の怒りは収まらない。
「お願いです・・・・達也さん。何でもしますのでどうか許してください・・・。」
美由紀は震えながら必死で頭を下げ続ける。すると少しだけ遠藤の声のトーンが落ち着いた。
「ほ・・う。何でもしてくれるのか?」
「は?はい・・・。」
美由紀は恐る恐る顔を上げた。
「そうか・・なら、今日のデート代、すべてお前が払えよ。」
「え?」
美由紀は遠藤の言葉に耳を疑った。
「何だ?聞こえなかったのか?ならもう一度だけ言ってやる。美由紀、今日のデート代は全額お前が持つんだ。入場料金から昼飯代にカラオケ代・・・・いいな?」
本当は美由紀はこの日、給料前でお金が無かった。それに前回も、その前も全て傍目は遠藤が支払ってくれていた。だから今回も遠藤がデート代を支払ってくれるのだろうとばかり思っていたのだった。
「おい、聞こえてるならなあ・・返事ぐらいしろやっ!!」
再び大声で怒鳴りつけられ、美由紀はビクリとなった。
「は・はい・・・わ・分かりました・・・。」
カタカタと小刻みに震えながら美由紀は必至で返事をしたが、もう頭の中は恐怖で一杯だった。
そしてこの日を境に美由紀の日常は恐怖へと変わっていったのである。
「ふう・・・それにしても・・良かった・・あれから達也さんから連絡が入ってこなく・・・て・・?」
美由紀はスマホをとりだし、やがてある重要なことに気づき、顔面蒼白になってしまった。
階段から落ちた時の衝撃か、それとも何らかの原因かは不名だがスマホの電源が落ちていたのである。慌てて再起動させ、着信履歴を見て美由紀は顔が青ざめた。
何と遠藤からの着信がメールと電話も含めて、恐ろしい程に届いていたのである。
「そ、そんな・・・・。」
思わず美由紀の目に涙がたまる。その時・・・・。
軽快な着信音がスマホから流れ始めた。相手は遠藤からであった。
「どうしよう・・・。」
美由紀はガタガタ震えながらスマホを握りしめていた。電話はまだ鳴り響いている。
(どうしよう・・・怖い・・怖いよ・・・誰か・・航君・・・っ!)
気づけば美由紀は心の中で必死で航に助けを求めていた。
その時―
突如、何者かが美由紀の手からスマホを奪って電話に出た。
「もしもし・・。」
美由紀は電話に出た人物を持て息を飲んだ。
電話に出た人物・・・それは航であった―。
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