3-3 久しぶりの再会 

「各務さん、すみません。お待たせ致しました。」


朱莉がレジに向かうと、修也は大きなカートを持ってレジの近くに待機していた。


「朱莉さん、・・電話終わったの?」


「はい、九条さんからだったんです。でも今各務さんと幕張の家具屋さんに来ていると言ったらすぐに切れてしまったんですよ。」


それを聞いた修也が驚いた。


「え?!電話の相手って・・・九条さん?」


「は、はい。そうですけど・・・?」


すると修也が考え込むようにポツリと言った。


「そうか・・・まずかったな・・・。」


「え?何がまずかったんですか?」


「あ、いや。何でもないよ。こっちの事だから朱莉さんは何も気にしないで。それじゃ会計に行きましょうか?」


「はい、そうですね。」


そして2人は会計へ向かった―。




 その頃、琢磨は二階堂が探してくれた新しいマンションに帰ってきていた。

気を利かせたつもりかどうかは分からないが、場所は六本木だった。初めて二階堂から新居のマンションの場所が六本木と聞かされた時、朱莉の自宅が近いので琢磨は浮かれていた。二階堂から<頑張れよ>と言われたこともあり、これからは頻繁に朱莉に会えるだろうと思っていた矢先に、帰国してみれば朱莉の傍に各務がいたのだ。

折角翔がカルフォルニアに行って不在なのでチャンスだと思っていたのに・・。


「全く・・・俺は一体何やってるんだ・・・。」


1LDKの広々としたまだ家具が何も揃っていない部屋にごろりと転がり、琢磨は天井を見上げた。


「家具なら・・俺だって買いに行く用事があったのに・・・。いや、むしろ俺の方が家具屋についていくのに適任だったはずだ。それにしても・・・各務さんもひょっとして朱莉さんの意事を・・・?」


そう思うといてもたってもいられなかった。琢磨の中ではもう確信に近いものがあった。恐らく朱莉の初恋の相手は修也なのだろうと・・。


(朱莉さんが各務さんの正体を知れば、ますます俺が不利になるのは確実だ。折角隠し子疑惑から解放されたのに、よりにもよって今度は朱莉さんの初恋相手が現れるとは・・・。)


「はあ~・・・・。」


深いため息をついて、ゴロリと一回寝返りを打って琢磨は起き上がった。


「そうだ・・航に連絡を入れてみるか・・。多分アドレス変わっていないだろう。」


そして琢磨はスマホをタップした―。




 朱莉と修也は家具を買って朱莉の住むマンションへと戻ってきた。

修也は本棚を組み立てており、朱莉は2人のお昼を作っていた。



「各務さん。お食事ができたのですが頂きませんか?」


エプロンを付けた朱莉がリビングで作業をしていた修也に声をかけてきた。


「ああ、ありがとうございます。」


修也は作業の手を止めるとダイニングテーブルへと向かった。テーブルの上には出来立てのカルボナーラパスタにレタスともみ海苔のサラダ、そしてオニオンスープがおいしそうな湯気を立ててテーブルの上に乗っていた。


「へえ~すごい。まるでカフェのメニューみたいですね。とってもおいしそうだ。」


修也は笑顔で椅子を引いて座ると朱莉を見た。


「い、いえ。冷蔵庫にある、ありあわせのもので作ったのでお恥ずかしいのですが・・・。ちょうど厚切りベーコンに卵と粉チーズがあったので・・・。」


「そうなんですか?僕もパスタはよく作るんですけど、カルボナーラは作ったことが無かったな・・・。良かったら後でレシピ教えていただけますか?」


「はい。あの・・私のレシピで良ければ喜んで・・あの、ではいただきませんか?温かいうちに。」


朱莉に促されて修也は頷いた。


「ええ。そうですね。」



「「いただきます。」」


そして2人は手を合わせて食事を開始した―。





 午後2時―


朱莉は修也を玄関先まで見送りに出ていた。


「各務さん。今日はお休みのところ色々ありがとうございました。」


「いいんですよ、どうせ暇だったんで。それより蓮君のあの本棚を見た時の反応が今から楽しみだな。」


修也は笑顔で朱莉を見る。


「はい、そうですね。そうだ、蓮ちゃんの素敵な表情カメラで撮ったら送りますね。」


「本当?それは嬉しいな。それじゃ、僕は帰りますね。お母さんによろしく伝えてください。」


「はい、伝えておきますね。」


修也は玄関を開けると言った。


「それでは失礼します。」


「はいお気をつけて。」



そして玄関は閉じられた。


修也が帰ると、たちまち部屋の中は静かになる。


「ふう・・・。」


朱莉は溜息をつくと、後片付けを始めた―。





 17時―


「ほんと、いきなりの呼び出しだったから驚いたぜ。」


上野にある焼き鳥居酒屋でお座敷席に向かい合って座るのは航と琢磨である。


「まあ、いいじゃないか。こっちは帰国早々トラブルに見舞われて大変だったから、少しくらいは愚痴を言わせてくれよ。ほら、おごってやるから好きなもの頼め。」


Tシャツにジーンズ姿の琢磨は航にメニューを差し出した。


「それにしても・・・琢磨。変わったよな?」


メニュー表を受け取りながら航は琢磨を見た。


「変わった?どこがだ?」


「服装だよ。以前ならTシャツにジーンズなんて姿見せたことなかったからな。」


かくいう航もTシャツにジーンズ姿である。


「それはな・・・何年もアメリカに住んでると周りに感化されるんだよ。」


「へえ~・・・やっぱりアメリカじゃ大体そんなスタイルなのか?」


航はメニュー表を眺めながら適当に相槌を打つ。


「ああ、そうだ。大体年老いた男性だってだなあ・・・。」


琢磨の話の途中で航は手をあげて店員を呼んだ。


「すみませーん。注文いいですか?」



「お待たせいたしました、ご注文は何でしょうか?」


すぐに大学生くらいの若い男性店員がハンディターミナルを持って現れた。


「えっと・・生ビールジョッキ2つと、枝豆、焼き鳥盛り合わせ2皿と、手羽につくね・・・軟骨唐揚げに山芋焼きとお新香お願いします。」


「はい、かしこまりました!」


店員が去ると琢磨は言った。


「おいおい・・航。お前・・そんなにたくさん頼んで食べれるのかよ?」


「ああ、別に問題ないね。大体俺の仕事はある意味肉体労働に近いからな。最低でもこれくらい食っておかないと体力が持たないんだ。」


「ふ~ん・・・そんなものなのか。」


お通しのワサビ漬けを食べながら琢磨は頷く。


「それより、琢磨。さっきの話の続きだけど・・・帰国早々トラブルに見舞われて大変だったって一体何の事だよ?」


航は興味深げに琢磨を見た―。




「アッハッハッ!何だよ、その話はっ!」


航はビールのジョッキを持ったまま大笑いした。


「う、うるさいっ!言っておくけどなあ・・・こっちは笑い事じゃすまなかったんだからなっ?!」


言い終わると琢磨は焼き鳥を嚙みちぎった。


「だ、だけど・・お・お前・・・酔いつぶれたところを、お・女に全裸にされたって・・・クックッ・・は、恥ずかしすぎるだろう?それって・・・。」


航は笑いを押さえながら必死で話す。


「あ・・・あたりまえだっ!恥ずかしいに決まっているだろう?!それなのに・・・あの女・・・今度は交際を迫ってきたんだからな。とんでもないあばずれだっ!大体俺は昔からガツガツした肉食系女は嫌だったんだよっ!面倒臭いからっ!」


そして琢磨はテーブルの上に置いてあるビールジョッキを持つと、グイッとあおるようにビールを飲む。そんな様子の琢磨を見ながら航はポツリと呟いた。


「肉食系女か・・・。」


「どうかしたか?」


「いや・・・やっぱり自分から告白してきたり、常に一緒にいたがる女って・・肉食系に入るのかな・・・?」


「う~ん・・・どうなんだろうなあ・・・?多分そうなんじゃないのか?」


航は美幸の事を思い出していた。


果たして美幸は肉食系女だったのだろうかと―。



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