8-9 芽生えたもう一つの嫉妬心
翔達は二次会の会場が開かれるまでの間、ホテル側から借りた控室に集められていた。
「・・・・。」
翔は長テーブルの前に座り、右手で頬杖を突きながら、左手の人差し指をずっと
トントンとテーブルを叩きながら足を組んでいた。
「おい、やめろ。翔、さっきからその恰好・・・こっちの気が散ってしょうがない。お前イライラするとその癖がでるのな・・・。全く昔から変わらないな。」
翔の隣に座った琢磨が出されたコーヒーを飲みながら言った。
「何だ?そういうお前だって、さっきから何度も腕時計を見てはため息ばかりついてるじゃないか。大体この会場へ入ってからお前、どの位コーヒーをお代わりしているのか分かっているのか?」
翔は琢磨を見ると言った。
「え・・・?」
言われて琢磨は初めて気が付いた。琢磨のテーブルの上には空になった紙コップが5個以上並べられていた。
「・・・・。」
琢磨は無言で並べられた空の紙コップを重ねると、近くにあったダストボックスに投げ捨て、再び席に座ると深いため息をついた。
「おい・・・翔・・。」
「何だよ・・・。」
「お前、気にならないのか?」
「何が?」
翔と琢磨はお互い、視線を合わさず正面を向いたまま話を続ける。琢磨は翔の気の無い返事に失望し、それ以上口を開くのをやめた。
「「・・・。」」
少しの間、2人の間に気まずい沈黙が流れたが、ついに我慢できず翔は舌打ちしながら言った。
「くそっ・・・!二階堂先輩め・・・!余計な事を・・・・。」
その台詞を琢磨は聞き逃さなかった。
「何だ、翔。やっぱりお前・・・気になっていたんじゃないか?」
「何の事だ?」
ギロリと睨み付けるように翔は言うと、琢磨も真正面からその視線を受け止めた。
「お前・・・朱莉さんがお前の秘書と一緒にホテルを出たのが気に入らないんだろう?」
翔はその言葉にピクリとなった。
「どうだ?図星だろう?」
「そう言う琢磨・・・お前だってどうなんだ?朱莉さんが修也と一緒に帰る後姿を恨めしそうに眺めていたのを俺が気付いていないとでも思ったのか?」
翔の何処か喧嘩腰の口調に琢磨はカチンときた。
「う、煩い・・・。大体、翔・・お前よくも今迄俺や明日香ちゃんをずっと騙してきたな?」
「騙してきたなんて人聞きの悪い事言うな。大体・・・何故今迄俺が教えるまで気付かなかったんだよ。」
「あのなあ・・あんなにそっくりなら分かるはず無いだろう?大体お前とあの各務って男は背格好はほとんど変わりないし、声だって似てるじゃないか。今迄何回位入れ替わって来たんだよ?」
「さあな・・・いちいち数えていないが・・回数的にはそう多くはないぞ?大体、入れ替わっていたのだって放課後とか、休みの日位だからな。修也だって学校があったんだ。そんなに俺にしょっちゅう入れ変わっていられる余裕なんか無かったさ。」
あさっての方向を見ながら言う翔に琢磨はどうしても1つ確認しておきたい事があった。
「おい・・・翔。1つ聞いておきたい事があるんだが・・・各務は・・朱莉さんに会った事があるのか?」
「?何言ってるんだ?今日の結婚式で会ってるだろう?大体一緒に帰って行ったじゃないか。くそ・・・っ!修也の奴め・・・あれ程朱莉さんには必要以上に近付くなとくぎを刺しておいたのに・・・。」
すると、その言葉を聞いた琢磨が失望したように溜息をついた。
「おい・・・翔。お前ふざけているのか?それとも俺の質問の仕方が悪かったか?つまり俺が聞きたいのは、朱莉さんと各務は・・・高校生の時に出会った事があるかどうか聞いてるんだよ。」
「あのなあ・・そんな事俺が知るはず無いだろう?大体、学年だって違ったし、俺は朱莉さんの履歴書を見るまで・・同じ高校だったって事も知らなかったんだぞ?」
翔がイライラした様子で琢磨を見た。
「翔・・・お前・・・。」
琢磨は一瞬呆れ顔になり・・その後尋ねた。
「翔、お前吹奏楽部にいただろう?何の楽器を担当していたっけ?」
「何だよ、琢磨・・・さっきから昔の話ばかり持ちだして・・・ホルンだよ。」
「ホルン・・・。うん。そうだったよな。」
琢磨は口の中で小さく呟いた。
「それがどうしたんだ?」
「各務も・・・ホルンを吹けたのか?」
「ああ、吹けた。しかも・・・悔しい事に俺よりも上手だったな。」
翔の言葉に琢磨は息を飲んだ。
「まさか・・・。」
「ん?どうしたんだ・・・琢磨。」
翔が不思議そうな顔で琢磨を見た。しかし、琢磨はそんな翔の態度が気に入らなかった。
(くそ・・っ!翔の奴め・・・元はと言えばこいつが全ての元凶だって言うのに・・お前なんかに誰が教えてやるものか・・!大体俺が二階堂先輩からオハイオに行かされたのだって・・元をただせば全て翔が原因なのに・・・俺も、航も、そして京極だって朱莉さんから離れなければいけなかったのに、翔。お前だけは未だに側にいられて・・。)
琢磨はちっとも気付いていなかったが、随分険しい顔で翔を睨み付けていたようだった。
「な、何だよ。琢磨・・・言いたい事があるなら睨んでいないではっきりいったらどうだ?」
「別にっ!」
そっぽを向くと、琢磨は本日7杯目のコーヒーに手を伸ばし・・・翔に尋ねた。どうしても確認しておきたい事があったからだ。
「翔・・お前・・朱莉さんが金属アレルギーを持っているって事・・知ってるか?」
「え?金属アレルギー?い、いや・・・知らなかった・・。」
「本当に?知らなかったのか?忘れていたとかじゃなく・・・。」
「ああ、当然だろう?そうか・・・だからか・・。」
翔はポツリと言った。
「何だ?何かあったのか?」
コーヒーを飲みながら琢磨は尋ねた。
「ああ・・・実は先月2人の結婚記念日に・・・腕時計を朱莉さんにプレゼントしたんだが・・。」
「ああ、知ってるよ。」
琢磨はぶっきらぼうに言うと、今度は翔が詰め寄って来た。
「な、何だって?何故お前が俺が朱莉さんに決記念日の腕時計をプレゼントした事知ってるんだよ?!」
「朱莉さんから直接聞いたからだよ。」
「聞いた・・・?一体いつだっ?!」
翔は琢磨の襟首を掴むと言った。
「落ち着けって!場所を弁えろよ!」
琢磨が言うと、翔は慌てて手を離すと再度尋ねてきた。
「いつ聞いたんだよ。」
「俺が東京に着いた日だよ。事前にいつの便で帰国するか知らせて置いたら、朱莉さんが当日車で飛行場迄迎えに来てくれていたのさ。」
「え・・・そ、そうだったの・・か・・・?」
翔は琢磨の言葉に少なからずショックを受けた。
「それでその時に聞いたのさ。結婚記念日に腕時計を貰ったけど、金属製だったから使えないって・・・。」
「そう・・か・・・それで朱莉さんは・・・腕時計を使っていなかったんだな・・。悪い事をしてしまったな・・。でも・・・話してくれれば良かったのに・・・・。」
翔に言葉に琢磨はポツリと言った。
「朱莉さんの口からなんて・・・言えるはず無いだろう。」
「何だ?何か言ったか?」
翔は琢磨の方を見た。
「いや、別に。」
フイと琢磨は翔から視線を逸らせると、先程朱莉と修也が並んで帰る後姿を思い出していた。
(もしかして・・あの各務って男は・・・ひょっとすると・・。)
琢磨は自分の中に修也に対し、どうしようもない嫉妬心が芽生えて来るのを感じるのであった—。
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