6-14 二階堂の追求

「え・・・これは小型カメラ・・・?」


姫宮は二階堂が突然出してきた小型カメラを見て戸惑った。


(一体この社長は何を考えているのかしら?突然私にこんなものを見せてきて・・・。)


「あの・・この小型カメラがどうかしたのですか?」


(何だ・・・この反応は・・・もしかして本当に何も知らないのか?それなら・・。)


小型カメラを見せても姫宮の様子に何も変化が見られないので、二階堂はさらに話を続けた。


「この小型カメラ・・・・何処で見つけたと思う?」


「さあ・・・?いきなりそのような質問をされても私には何の事なのかさっぱり分かりませんが?」


(どうやらわざととぼけているような感じでは無いな・・。仕方が無い・・。)


「実はこの小型カメラは鳴海社長の住む億ションで見つけたのさ。エントランスが良く見える場所に実に上手に隠してあったよ。水やりが殆ど必要無い観葉植物にね。」


「・・・。」


姫宮は黙って聞いている。


「この日は丁度ひな祭りの日でね・・初めて鳴海の家にお邪魔したんだ。駅までの迎えは朱莉さんが来てくれたよ。」


姫宮は朱莉の名前が出るとピクリと反応した。その様子を二階堂は満足げに見ると再び続けた。


「そしてエントランスにやって来た時・・偶然見つけたんだよ。この小型カメラをね。驚いたよ・・まさかあのセキュリティがしっかりしているはずの億ションで隠しカメラが見つかるとは思いもしなかった。それで俺は物騒なこの小型カメラを押収したのさ。・・・・姫宮さんはどう思う?」


「どう思う・・とは・・?」


「いや、どんな人間があの億ションにカメラを仕掛けたのかなと思ってね。」


「さあ、私は警察でも探偵でもありませんので想像できかねます。」


あくまで冷静に姫宮は対応しているが、内心はすごく焦っていた。


(どういう事なの?何故二階堂社長は私にカメラを見せて来たの・・?ひょっとして・・何か気付かれてしまったのかしら・・・。)


そんな様子の姫宮を二階堂は黙って見つめていた。


(ふ〜ん・・・こういう状況でもまだ表情1つ崩さずに、ポーカーフェイスを装っていられるのか・・なかなかやるな。)


そこで二階堂は再び会話を続けた。


「実はこのカメラを押収した後、面白い事が起きたんだよ。」


「面白い事・・?」


「ああ、ある男が現れたんだ。年齢は・・・そうだな俺と姫宮さんと大して変わらないんじゃないかな・・。彼は俺が朱莉さんと一緒にいたのが気に食わないのか、物凄い剣幕で睨み付けて来たよ。実はその男性とは一度だけ会った事があってね・・。ほら、今年鳴海グループの記念式典が行われていただろう?あの会場で会ってお互いに自己紹介はしていたからね。男の名前は京極正人といってIT企業の社長だ。」


「!」


そこで初めて姫宮のポーカーフェイスが崩れた。顔が青ざめ、心なしか小刻みに震えているのが分かった。


(やはり間違いない・・・姫宮さんと京極は何処かでつながりがある!)


反応ありと見た二階堂は確信した。


「それにしても驚いたよ。まさか京極と鳴海が同じ億ションに住んでいたとはね。彼とは少しだけ話をして、エレベータホールの隣にあるカフェに入っていったよ。」


「そう・・ですか・・。」


「それで・・・どうしても隠しカメラの事が気になったものだから、億ションを出る時にコンシェルジュに尋ねたんだよ。素敵な観葉植物ですね、何処で買われたのですかって。すると名前こそ明かさなかったけど、あの億ションに住んでいる人物からの贈り物だって言ってたよ。恐らく犯人はあらかじめ監視カメラを仕掛けて、あそこに観葉植物を置かせてもらったのではないかと考えているんだけど・・・姫宮さん?どうかしたのかな?何だか顔色が良くないようだけど・・・?」


「い、いえ・・そんな事はありません。大丈夫です。」


それでも姫宮は気丈に振舞っている。


「そうか・・・なら話を続けるよ。それにしても俺がカメラを押収してすぐに京極が現れるなんて偶然にしては出来過ぎていると思わないか?」


「さあ・・・大体私はその京極という方は存じませんので。」


「でも彼はあの式典に参加していただろう?招待客リストに乗っていたなら京極という名前くらいは聞いているんじゃないのか?」


「いいえ、出席者リストには京極と言う名前はありませんでした。」


「ふ〜ん・・・でも無くて当然じゃないか?俺も式典に呼ばれていたから招待状を貰っていたけどね・・・出席者リストは名前ではなく企業名が書かれていたよね?」


「!」


「なぜ出席者リストには京極と言う名前は無かったと言ったんだ?元々リストには参加する代表者の企業名しか書かれていなかったのに・・・。まるで最初から姫宮さんは京極の名前を知っていたような口ぶりに聞こえてしまったけど・・・それは俺の気のせいかな?」


「そ、それは・・・。」


今の姫宮は誰が見ても狼狽えているのが分かった。恐らく翔が今の姫宮の姿を見たらさぞ、驚いた事だろう。


「バレンタインの日・・・鳴海と女性記者のインタビューのセッティングをしたのは姫宮さんだろう?何故そんな日にあんな場所で日時を組んだ?普通に考えれば・・あの日は避けるべきだった。鳴海からは君が優秀な秘書だと聞いているよ。何せ以前はあの会長の秘書をつとめていたそうじゃないか。そんな君が・・うっかりミスであんな事をしてしまうとは思えない。しかもご丁寧にその日のうちに鳴海のスマホにメールが入って来た。写真付きでね・・・あんな写真見たら・・2人は恋人同士に見られても仕方が無い話だ。」


「・・・。」


姫宮の顔色は完全に色を失っているようにも見えた。


(参ったな・・・これじゃまるで俺が虐めているみたいだ・・・。女性を追い詰めるのは俺の趣味じゃ無いのに・・・。)


二階堂は心の中で溜息をついた。そして姫宮の様子を見守っていたが、最早冷静さを完全に失っていた。


(正人の馬鹿・・っ!監視カメラを仕掛けていたなんて・・・っ!しかもそのカメラは二階堂社長の手の中だし・・・どうしたらいいの・・・・。)


そんな震えている姫宮に二階堂は言った。


「だけど・・・君は京極とは違う。」


「え・・?」


「京極は・・・朱莉さんを怖がらせてばかりいる。朱莉さんに取って京極は最早恐怖の対象でしかない。だけど・・・姫宮さん。」


二階堂は優しい口調で言った。


「君は朱莉さんの事を大切にしている。彼女の手助けして・・・朱莉さんを守ろうとしているように思えたよ。それは式典の時に感じた。鳴海の子供を会社の保育所に預かって貰う手続きをしてあげたんだろう?そして帰りも朱莉さんに付き添ってあげたり・・・。朱莉さんが鳴海と一緒に洋服を買いに行った時は子供まで預かったそうじゃないか。俺の秘書は絶対にそこまでやってくれないからな。幾ら頼んでも断るだろう。」


「あ・・・。」


この時姫宮は二階堂の顔を見上げた。


「教えてくれ。姫宮さんは・・京極と何か関係があるんだろう?安心しろ。絶対にこの事は京極には伝えない。それに・・もし鳴海や朱莉さんにも黙っていて欲しいと言うなら誰にも秘密は洩らさない。だから・・・正直に答えて欲しい。俺の中では君と京極は絶対に何かつながりがあると思っている。だけど京極と君は考え方が違うんじゃないのか?」


姫宮は黙って二階堂の言葉を聞きながら思った。


(もうこの辺りが引き際なのかもね・・。私もいい加減こんな事辞めたいと思っていたし・・ごめんなさい、正人・・・)


姫宮は二階堂の顔を真っすぐ見つめると口を開いた―。












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