10-6 航の考え
「フワアアア・・・。」
朱莉の運転する車の中で航は5回目の欠伸をした。
「フフフ・・・ビールを飲んで車に乗ってるから眠くなっちゃったんでしょう?着いたら起こしてあげるから眠っていいよ?」
朱莉がハンドルを握りしめながら助手席に座っている航に言った。
「いや・・・だって、それじゃ・・運転している朱莉に・・悪いだろ・・?」
今にも眠ってしまいそうな声で航は言う。
「そんな事気にしなくていいってば。ほら、眠って?どうせあと30分くらいはマンションに着くまで時間かかるんだから。」
「ああ・・・悪いな・・。朱莉・・それじゃ少し寝かせてもらう・・・。」
最後まで言い終わる前に航は眠りについてしまった。朱莉は航の眠っている横顔を見ながら思った。
(フフ・・本当に弟みたい。航君は童顔だから尚更そう見えちゃうな。)
そして信号が赤になった時、朱莉はショパンのクラシックCDを車にセットすると、ボリュームを小さくして音楽を車内に流し、これからの事を考えた。
(どうしよう・・・やっぱり翔先輩に報告をしないと駄目だよね・・・。京極さんが沖縄にやって来て、偶然会ってしまった事・・・。責められるかな・・翔先輩に。どうして妊婦の恰好をしていなかったんだって。それに・・航君の事・・報告しないといけないのかな・・・?)
その事を思うと朱莉は気が重くなってしまった。こんな時・・・琢磨が居てくれれば相談に乗って貰えたのにと思った。
口では迷惑を掛けられないと言っていても・・・結局朱莉は琢磨に助けを求めようとしている事に気が付いてしまった。
「九条さん・・・今、どうしているんだろう・・・。」
朱莉はポツリと呟いた。
「航君、航君。起きて、着いたよ?」
朱莉はマンションの駐車場に着くと、航を揺すった。
「あ・・・。着いたのか?」
航は目を擦りながらぼんやりした声で言った。
「うん。もう目・・覚めたかな?」
「ああ、大丈夫だ。悪かったな。朱莉に運転させて・・・。」
「そんな事気にしなくていいから。それじゃ・・マンションに戻ろう?」
「そうだな。帰るか。」
朱莉が5F行きのエレベーターボタンを押すと、ドアはすぐに開いた。
そして2人で乗り込んだ時、航は朱莉の表情が浮かないことに気が付いた。
「朱莉・・・?どうしたんだ?何だか元気が無いみたいだけど・・。あっ!さてはまた・・あいつが妙な事を言ってきたか?」
「あいつって・・・どっちのあいつ?」
朱莉が笑みを浮かべながら航を見上げた、その時エレベーターのドアが開いた。
2人でエレベーターから降りると航が言った。
「朱莉、どっちのあいつって何の事だ?」
航の声を聞きながら朱莉は玄関のカギを開けながら言った。
「どっちのあいつ?航君が言ったことなのに忘れちゃった?」
クスクス笑いながら朱莉が玄関に入った時、航は自分が言ったことを思い出した。
「あっ!そうか・・・。俺が言った事だったっけな・・。まだ寝起きで頭が冴えていないみたいだ。あいつって言うのは・・・勿論京極の方だよ。」
玄関で靴を脱ぐと航はリビングのソファに座った。朱莉も向かい側のソファに座ると言った。
「京極さんから連絡は来ていないし、翔さんからもあのメール以来、連絡ないよ?」
「朱莉・・・。そう言えば、朱莉が風呂に入ってるときに・・・鳴海翔から電話が入ったことがあったけど・・連絡はいれたのか?」
「うん。メッセージは入れたんだけど・・・あれから何も連絡が来ないな・・・。」
そこで再び朱莉の表情が曇ったのを見て航は朱莉に尋ねた。
「なあ朱莉。何か悩み事でもあるのか?俺・・・朱莉の力になりたいんだ。話してくれよ。」
「航君・・・。」
(そうだった。今私には航君が付いてくれているんだから・・・航君に相談してみようかな?)
「私・・・京極さんに姿見られてしまったから・・すごく困ってるの。明日香さんの赤ちゃんは私が産んだ事にしなくちゃならないのに・・。京極さんにお腹が大きくない姿見られちゃったから・・・絶対に私が赤ちゃんを抱いて戻ったら・・誰の子供かって問い詰められると思うの・・・。」
「朱莉・・・。」
「だから、京極さんはあったらいけない人だったのに・・・だから明日香さんが出産の為にロシアに旅立っても、私は1人、沖縄に残っていたのに・・・まさか京極さんが・・・沖縄にやってくるなんて・・・。しかも・・・翔先輩の秘書の女性と一緒に億ションから出て来る写真まであって・・・。」
「朱莉、俺が京極と姫宮って女秘書の関係を調べる。そして・・・朱莉。京極にこの先、朱莉が子供を連れて東京の億ションに戻った時・・・京極にその子供は誰の子供なのかしつこく聞かれるようなら・・・喋ってしまえ。明日香が産んだ子供だって事。」
朱莉は航の話に驚いて顔を上げた。
「航君っ!でもそれは・・・翔先輩との契約違反に・・・。」
「要はっ!」
朱莉の言葉を制するように航が言った。
「要は・・・京極が世間に朱莉達の秘密をばらさなければいいんだろう?」
「航君・・・。」
「だから俺達は京極の秘密を手に入れるんだ。」
「京極さんの秘密・・・?」
朱莉は首を傾げた。
「ああ、京極は鳴海翔の秘書と何らかの関係があるのは間違いないんだ。あの2人の関係を探れば・・・とんでもない秘密が暴かれるかもしれないぞ?だから俺は京極と姫宮の関係を探って・・・必ず情報を手に入れる。そしてもし朱莉を脅迫して来ようとしたら京極に掴んだ情報を言うんだ。・・逆に朱莉が京極を黙らせる為に脅迫するんだよ。いや・・・・言い方が悪いな?お互いの秘密を守らせる・・・協定を結ばせる?とでも言い方を変えてみるか?」
「航君・・・。」
「とにかく今は白を切りとおすんだ。明日香の産んだ子供を連れて東京へ戻るまでは・・な?」
「う、うん・・・。分かった・・・航君がそう言うなら・・・・。」
「よし、それじゃ明日から早速京極の事を調べるかっ!」
航が妙に張り切って言うので朱莉は尋ねた。
「ね、ねえ。それより航君。沖縄での仕事は終わったの?京極さんの事・・調べる余裕あるの?」
「ああ、ほぼ沖縄での仕事は終わった。だから心配するな。それで・・・朱莉。京極の新しい会社の場所は覚えているか?」
航はPCをカバンの中から取り出すと、ネットで美浜アメリカンビレッジの地図を表示し、拡大させた。
「う~ん・・・ごめんね。航君。上空写真の地図だと・・ちょっと分かりにくいかな・・?」
「う~ん・・、あっ!そうか・・・。朱莉、京極の会社の名前なんて言うんだ?」
「えっとね・・『リベラルテクノロジーコーポレーション』って名前だよ?」
「よし、『リベラルテクノロジーコーポレーション』か・・、検索っと。」
航はPCに打ち込み、画面を食い入るように見た。
「お?有ったぞ。どれどれ・・・。」
航はスマホにPCで表示された画面の写真を撮影すると言った。
「よし、この住所を頼りに京極の会社を探し出して、明日から張り込みをするか。」
妙にイキイキとした顔で航は言う。
「・・・航君。何だか・・・楽しそうだね?」
「おうっ!当然だ。朱莉を苦しめる男の知られたくない情報を手に入れて、朱莉に近づけさせないようにする事が出来るんだからな?」
「航くん・・・。でも、京極さんには・・東京でお世話になった恩のある人だから、あまり過激な真似は・・・。」
朱莉が言うと航は頷いた。
「分かってるって。これはあくまで京極が朱莉を脅迫してきた場合にのみの話だから。要は京極が朱莉に妙な真似をしてこなければ、何て事は無いんだからな?」
そして航は明日に備えて機材のチェックを始めるのだった―。
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