閑話⑩
我が社の日常:市場で取引お買い物①
本日もまた、何処かのダンジョンへ訪問……ではない。
今日はちょっと別の用事。実は、『市場』に向かっているのである。
我が社のミミック派遣代金は、金銭の他に『素材』でも支払いを可能としている。例えば鉱物とか、食材とか、魔物自身の毛や爪や諸々とか。
まあそのあたりは、今までを知ってもらっていればわかるだろうから省略して…。今回は、その一部を市場まで売りに行くのが目的の一つ。
『一つ』といった通り、目的は他にも色々あるのだけど…。とりあえずは、この『素材売却』についてご説明しよう。
頂いた素材類は優先的に『箱工房』で使用するのだが…当然、そこだけで使い切れる量ではない。使う素材に偏りもあるし。
だから定期的に業者や魔王様方と取引してお金に換えてるのだけど…それでも時たまに、倉庫から溢れかけることがある。
更に素材によっては競売にかける必要や、業者の都合とかで、市場に持っていかなければいけない物も数多く。
ということで、定期的に市場に売りに行くのである。馬車に乗って。
…といっても今荷馬車を引いているのは、私が召喚したドラゴンなのだけども。だから、正しくは竜車?
―え? そんな倉庫から溢れんばかりの素材、どうやって運んでいるのかって? 確かに、荷馬車数台程度で済む量ではない。
しかしそこは、我が社だから為せる解決策が。ちょっと後ろを…荷台を見て欲しい。
――さあ、どうでしょうか?中々に圧巻でしょう。 荷台いっぱいに、たっぷり詰まれた宝箱は。
察しの良い方ならば、もうお気づきになったはず。あの宝箱、全部……。
パカッ
「ねーアストちゃーん。まだ~?」
「あと少しですよー」
「はーい。じゃ、もうちょい寝てよ~」
パタンッ
……おわかりいただけただろうか? 今、その宝箱の一つが開いて、私と会話したことに…。
いや別にホラーでもなんでもないのだけど…。一部冒険者達から見たら、卒倒ものかもしれない。
―えぇ、その通り。この宝箱の山は…全部が、全員がミミック。上位下位問わず、山盛り状態。
そしてミミックの特徴の一つに、『明らかに見た目以上に、物を箱の中に詰め込める』というのがあるため…。
そう、ミミック達に素材を詰めて運んでいるのである。
あ。一応断っておくが…。別にこれ、強制じゃない。ぶっちゃけ、素材の運搬だけなら社長一人でできるらしい。面倒だからあまりやりたくないみたいだけど。
ではなんでこんな皆で来てるかというと…。単に『市場でお買い物したい人~!』という問いかけに、『は~い!!』って手を挙げたミミック達に協力して貰っているだけ。
つまり、この荷馬車は乗合馬車みたいな感じでもある。…まあ傍から見たら、宝箱運送業者でしかないが。
ということで、これも目的の一つ。『市場でショッピング』。素材を全部降ろしたら、後は時間まで自由行動なのだ。
因みに、今回の馬車は二台。今私と社長が乗っていると…後ろにラティッカさん達、箱工房ドワーフ勢が乗っているのが。勿論、そちらにもミミック盛りだくさん。
皆、比較的落ち着いているものの…市場が迫ってきてワクワクしてるのか、もぞもぞ動いてる子も結構いる。やっぱり傍から見たら、蠢く宝箱でホラーな図である。
―って、そうこうしているうちに市場が見えてきた。それでは…レッツ、ショッピング!
……とはいえ、まずは素材の売却が先。いつもの業者や競売所に、手分けして持っていく。
持ってきてくれたミミック達に吐き出し……コホン。もとい、取り出してもらい、よいせよいせと。
そして、ここで役立つのが…私の魔眼『鑑識眼』。 素材の相場が明確に確実にわかるため、あらかじめ幾らぐらいで売れるか予測がつけられるのである。
既にそれを使って目標売却価格リストを作成し、各担当者に配布済み。これさえあれば誰でもスムーズに取引が可能で、買い叩かれることもない。
このリストを作れるおかげで、何度社長に喜ばれたことか。初めて作ったときなんか、飛びつかれてぎゅううって抱きしめられたし。
まあ今となっては、お願いすればいつでもぎゅううって抱きしめてくれるのだけども。というかいつも私が抱っこしている形だから、ほぼほぼ…。
…ケホン、話を戻して…。 けど、実際のところ、足元を見られるっていうことはほとんどない。それにはとある理由がある。
…ミミックを敵に回したらどんな目に遭うかわからないから? 箱の中に詰められ、値段交渉に応じるまで閉じ込められるから?
いやまあ…そういう理由もあるかもだけど…。そうじゃなくて…。
…まあ…社長とかラティッカさんとかは案外血の気多いタイプだから、ちょっと脅し的な事もしそうっちゃしそうではあるけども……いやだから、そうじゃなくて!!
はぁ…そんなこと思ったのが社長にバレたら、抱きしめられるよりも、触手でにゅるにゅるされて問い詰められそう…。 …それは…それで…?
…ケホケホン!もう一回話を戻してと…。 持ってきた素材が買い叩かれない理由は、ずばり『ダンジョン産』だから、である。
ダンジョンの利点は色々あるけど…やはり、魔力がどこよりも潤沢なのが最大の特徴。場所に寄るけど、かつての魔王城よりも魔力が豊富なところすら存在する。
そんな魔力の元で成長した素材は、質がかなり高くなる。食べ物だったら美味しく、鉱物や宝石だったら綺麗にとかとか。
……そして、本日二度目だが…おわかりいただけただろうか…? 『素材』…それは即ち―。
――そう。そこに棲む魔物達の爪や牙などなども、かなり質が高くなるのである。だからこそ、私達の派遣代金として代用できるのだ。
…まあ…裏を返せば、そんな理由があるから、冒険者がダンジョンに侵入してくるのだけども…。なおそれがダンジョンの唯一の欠点…。
けど代わりに魔物優位に戦えるし、やられても即座に復活魔法陣から蘇ることができる。だから、実質帳消し?
それに、下手にダンジョンじゃないとこに棲んでいていて、冒険者に乱獲されてしまったら目も当てられないから…。ほんと、冒険者ってどこにでも湧くし……。
へ? そんなに高く売れる素材なら、なんで当の魔物本人が売りに行かないのかって? その疑問は最も。
かくいう私も、同じことを考えて社長に聞いてみた。すると……。
『そりゃ当たり前よ。いくらお金になるからって、自分の髪をバッサリ切ったり、角を削って売るのは躊躇われるでしょ?』
…とのこと。言われてみれば、確かに。
私は上位悪魔族なのだけど…。実は、髪や角を始めとした私の『素材』は、凄く高値で売れる。いやほんと、とんでもない価格で。
多分、『貴族産』ということでプレミアがついてるのだろうけど…。まあそれは一旦置いといて…。
幾らお金が必要だからって、文字通り身を切るような行いをするのは難しいもの。仮に売ったとしても、同族から噂されるかもだし、そもそも1人分とかでは大したお金にもならない。
しかもダンジョンに棲む魔物は、それこそ質の良い他素材を売ったり、自給自足したりして何不自由なく暮らしている。
だから、『ダンジョン産の魔物素材』というのは中々出回らないのである。
勿論、中には高値で売れることを理解していて、散髪ついでに毛を売りに来たりしてる者も。結構良い小遣い稼ぎになるみたい。
ただ、巨大魔物や市場を利用しない魔物達には、やはり縁遠い行為。そもそも売れることすら知らない者も沢山。
だからこそ我が社は、冒険者に困っているダンジョンへミミックを派遣し、その代金として、ダンジョン主達には廃品同然の素材を頂いて売っているのだ。
―え?
ミミックといえば、やはり『箱』だろうけど…。別にあんまりお金にならない。だって基本、その辺に落ちてる物だから。
それをミミックの能力で強化し、やりたい放題しているだけ。たまに勘違いされる点である。
そういえば…必死こいてミミックから箱を奪い、意気揚々と売りに入ったらはした金で泣いたという冒険者の話も聞いたことがある。ちょっと可哀そう。
あ、でも…社長監修、ラティッカさん達謹製の『箱工房特製箱』は、かなり高値で売れるらしい。
この間作ってた…『クーラーボックス』だっけ?は、暇な時に作って卸したら、一瞬で完売したと聞いた。他の箱も、そのレベルの売れ行き。
中にはその箱の噂を聞きつけ、我が社に入社希望のミミックが来るほど。―そうそう、入社希望と言えば……。
もう少し後だけど、
「お、いたいた! 社長、アストー! こっちは終わったぜ!全部良い値段で買って貰えたよ!」
売却が丁度終わった頃合い。良いタイミングでラティッカさん達が戻って来た。彼女達の手には沢山のお金の袋。
勿論、同行しているミミックの箱の中にも。…あ、数人、そのお金袋の中に入って遊んでるし…。
しかも金貨に包まれて変に笑いが漏れてしまうのか、袋入りミミック達、大体にやけている。
これが本当の『わらいぶくろ』…。宝石入りの袋で踊ってないだけセーフ?
「はーい。じゃ、アストの元に集めてね~。終わった子から、自由行動!」
自身もお金袋に包まれていた社長が、そう号令を。すると皆、わっと金貨袋を持ってきた。
さて、では私はまず、金庫行きの転移
流石に素材を全部転移させるのは魔力消費とんでもないし、時間かかるし、場所無いしで手間だけど…金貨袋ぐらいなら問題なし。
そして後は売却明細書を見ながら、袋の中の金額が合っているか確認して送っていくのである。
…いちいち金額を確かめるのは手間じゃないかって? ふふ、そこはご心配なく。 私の魔眼『鑑識眼』の出番。
素材を見て市場価格を割り出すこの魔眼は、当然『金貨』にも反映されるのだ。
つまり…袋をパッとみるだけで、中に100
因みにこれは『通貨』として換算であり、素材…『鉱物の金』としてみれば、また別の価格が表示される。勿論、含有されている他鉱物の価格も詳細に。
あ、勿論、袋の値段は別途表示。というか、表示オフにもできるし。
…売却価格リストより、この魔眼の勘定能力のほうが喜ばれたんじゃないかって? 案外そうでもない。凄く喜ばれたのは確かだけど。
いやだって…。社長…。そしてラティッカさんが……。
「ふむふむ…こっちは33万9000Gね。合ってるあってる。こっちは~…」
「えーと、この重さなら…70万と…飛んで77Gだな。 うし、当たり。次は…」
…と、あんな感じに…。社長は箱の中に入れただけで、ラティッカさんは手に持った重さで、瞬時に計測し終わってるのだもの…。私と同じぐらいの速さで…。
仕組み不明な社長はともかく、ラティッカさんは怪しい……かとおもいきや、2人共、今まで一回たりとも間違ったことが無いのだ。凄い。
「―これで全部かしら?」
「みたいだな」
「ひと段落ですね」
全部を片付け終え、社長とラティッカさんと私は身体を伸ばす。ふと見ると、最後に金貨袋を置いていったミミックが、ルンルン気分でぴょんぴょん跳ねてく後ろ姿が。
今回もまた、着服や金額エラーは無し。まあ社長が信用した業者にしか卸さないし、ミミック達もお金は盗まない。
ミミック達には充分な
――おっと、忘れてた。
「はい、ラティッカさん。金庫接続式の『魔法のお財布』です。領収書は全部忘れずにしっかり貰って来てくださいね」
「おう、さんきゅ! それじゃ、アタシらも行ってくるかね~!」
私が渡した大きめのがま口財布を受け取り、鼻歌交じりに出かけていくラティッカさん。待っていた他の箱工房ドワーフ面々と合流し、市場へと消えていった。
ここで、我が社が稼いだお金についてご説明しよう。何に使っているかというと…当たり前だけど、色々である。
例えば…各設備や魔法術式の維持費。私達や各ミミック達へのお小遣いやお給料。訓練に使う道具類の購入費や新規施設への準備費用。宣伝費や食堂の食材費etcetc…。
その中でも最も大きいのが、ずばり『箱工房の予算』である。というか、ほとんどそれ。
なにせ、ミミックといえば箱。そしてその箱のクオリティは、派遣するミミック達の質や戦法に直結する。
今までを知ってもらっている方ならわかると思うが…ダンジョンの状況や用途に応じて、様々な『箱』を作っているのだ。
水中を自由に泳げる箱、棘付き箱、落下やマグマに耐える箱、飛行できる箱、スケートできる箱、巨大殻、蛇殻、機雷、餅つき、カウベル、ロボット、卵、茸、樽、棍棒、着ぐるみ…………。
キリがないからここらへんで割愛。けど、まだまだ、まだまだまだまだある。本当に、色んな『箱』が。
それを作り出せる箱工房は、まさしく我が社の生命線と言ってもいい。そしてラティッカさん達が市場に来た理由は、その箱工房で使う素材の購入のためである。
だからこそ、金庫から幾らでもお金を引き出せる『魔法の財布』を渡したのだ。箱工房のためなら、資金は惜しまない。
あ、一応付け加えておくと…不正利用らしい動きは感知して、ラティッカさん以外はお金を引き出せないような魔法をかけてあるから安心。
更に、本日中に返却が無ければ財布の効力が消滅&爆発の魔法も付与済み。 不正利用はしないだろうけど…ラティッカさん、ほんと時たま、財布落とすから……。
…そう考えると、ミミックが財布になるのが案外安全だったり?
ミミックだから中に大量にお金を入れられるし、自分で動けるから失くす心配なし。 ひったくりに遭っても、逆に相手をバクリと食べちゃう。
但し機嫌を損ねると、お金を取り出させない。それどころか、持ち主を倒しちゃう…。
……うん。駄目だこれ!
そんなしょうもない事を考えてたら…。社長は私の膝の上にぴょいんと。
「さて! アスト、時間はどう?」
「はい、えっと…。 あ、頃合いですね。『面接』に向かいましょうか」
ということで、社長入りの箱を抱き上げ…面接会場にレッツゴー。ショッピングは
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