顧客リスト№55 『サラマンドラの火の山ダンジョン』

魔物側 社長秘書アストの日誌


―さて。今日もまたミミック派遣のため、ダンジョンの視察に来ている…の…だが……。



「熱ぅ…」



駄目…。いくら魔法で軽減しても、暑いものは暑い。いや熱い。スーツの上、脱いじゃおう…。




…うん。ほぼ変わんない。これ以上脱ぐわけにもいかないし…仕方ない、もっと耐熱魔法を強くかけるとしよう。



このままだと全身汗で透けちゃうどころか、息する度に喉が焼けそう。いっそのこと、自分にだけでも熱を完全無効化する魔法をかけとくべきなのかも。







なにせ周囲には、真っ赤なマグマがぐらぐらボコボコ。さらに至る所で、火焔業炎がメラメラぼうぼう。



何も対策してこなかったら、あっという間に熱でダウン。それで済めばまだいい方で、下手すれば全身黒焦げ炭化。



だというのに、こんなところ…『火の山ダンジョン』にも、冒険者達は現れるというのだからびっくり。きっと今の私以上に、ひいひい言いながらやってきているのであろう。








「流石に熱いわねぇ」



私が抱えている社長も、宝箱の中に引きこもり気味。とはいえ、存外平気そう。一応ダンジョン内の環境調査でもあるため、耐熱魔法の付与は控えめではあるのに。





そして…もう一人も。




「いやー! ほんとにな! こうも熱いと、連れてきて貰った甲斐があるってモンだ!」



熱いのを喜ぶかのような声を上げている彼女は、我が社のメンバーの1人にして、『箱工房』のリーダー。ドワーフのラティッカさん。



今回珍しく同行を希望してきたため、久しぶりに一緒にダンジョンへ来たのだ。







…それにしても…。普通に耐熱魔法をかけているとはいえ、ラティッカさんやけに元気いっぱい。背にリュックを背負って、鼻歌交じり。



その他の恰好は普段通り。ボサッと髪を後ろに束ね、へそ出しチューブトップとダボついたズボン姿。だから、比較的涼しくはあるのだろう。



けど、それにしても堪えている様子はない。やはり、火山の熱を利用し鍛冶や工匠を生業とする種族なだけある。





「どれどれ、この辺のマグマの温度はっと…! 熱ちち…! でも、もうちょい熱くて、魔力が詰まってるほうがいいな」




……だからといって、私の魔法があるからといって…ちょこちょこマグマに手を突っ込むのはどうなのだろう…。



いや、ダンジョンだから復活や治癒とかは簡単だけど……。見ているこっちが怖い…。







まあだから…。完全無効化魔法は私の分だけで良いかなって…。2人共、必要なさそうだから…。



別に私、熱いのに弱いわけじゃないんだけど…。どうもこの二人と一緒にいると、相対的に暑がりにみえてしまう。おかしいのは社長達のほうなのに……。










――そう言えば…。



「ラティッカさん、今回は何故同行を?」



ふと理由を聞いてなかったことに気づき、何とはなしに彼女へそう聞いてみる。



「んー? いやな、実は工房の火をもうちょい工夫したくて。なんか良いのないかなって考えてたら、『火の山ダンジョン』から依頼を受けたって聞いてさ!」



指についたマグマをお湯のようにぴっぴっと払いながら、そう答えてくれるラティッカさん。…わっ!マグマ雫がこっち飛んできた!? あぶなっ!



「あ、悪い! それでさ、ここって火の精霊『サラマンドラ』の住処だろ? なら魔力が潤沢に籠った火種も、それこそ火属性の素材もあるから、ちょいとばかし貰えたら嬉しいな~って!」




なるほど、そういうことで。 確かに今回の依頼主は、火の精霊サラマンドラ。彼女達の操る炎は、最高レベルの質を誇ることで有名である。



だから当然、今周囲にあるマグマや火焔も同じく。ならばミミック派遣の代金として、それを頂くのがいいのだろう。




……ただ、商談が纏まるかはちょっと怪しいかもしれない。











私達、今まで様々なダンジョンにお邪魔してきたが…。ここはある意味別格。



だって、どこもかしこも全てを燃やすほどの烈火に包まれている。そして更に、その火を焼き尽くすほどのマグマがたっぷり。



こんな灼熱地獄のようなところ、いくらミミックでも……。




「んー。これぐらいの熱さなら、ラティッカ達のおかげでイケるわね!」









……ええぇ…。 そんなことを思っていた矢先、社長がそんなことを…。いや確かに前に、ミミック達は頑張れば熱いところもへっちゃらとかいってたけど……。



というか…―?



「ラティッカさん達のおかげって、どういうことですか?」




社長のその言葉が引っかかり、聞いてみる。なお当のラティッカさんは理解したと言わんばかりに、にんまり顔。




すると社長、蓋をぱかりと開け…箱の縁をちょいちょいと。



「アスト、その脱いだ上着、ここに仕舞っちゃっていいわよ」



それは願ってもないこと。じゃあ甘えさせて頂いて……って!?




「ひんやりっ!?」









びっくりした…! 軽く畳んだ上着を箱に入れた瞬間、冷気が手を包んだのだもの…!



これってもしかして…! ちらりとラティッカさんの方を見ると、彼女はフフンと自慢げに。



「『氷結石』を始めとした素材で拵えた、新機能ってな! 周囲の魔力を燃料に、箱内を冷気で満たす! しかもその強さは調節可能!」




また凄いのを作ったもので。まさにこの『火の山ダンジョン』には必須な機能。するとラティッカさん、胸を張って―。



「名付けて!」



「名付けて…?」



どうやら命名もしているらしい。どんな名前なのか少し期待して待っていると…彼女はその名称を堂々と口にした。




「『クーラーボックス』だ!」





……なんか、違う気がする…。 お魚とか入ってそう……。











…―ということは…。もしかして、社長が平気そうだったのはこれのおかげ? そんなことを思って社長の方へ目を移すと、まるで見透かしたように笑われた。



「別にこれぐらいの熱さだったら、ちょっと気合入れれば普通に過ごせるわよ。ミミックなんだから」



さらっと言うが、常人ならば数秒でギブアップだと思うのだけど…。まあこの際、ミミックの耐久性は一旦置いといて…。社長のお話の続きを。



「けど、ずっと気合いれっぱなんて辛い…というか無理じゃない? 私だって暑い日はぐでんってなるし、プールに逃げるし!」



まあ確かに…。あと、出来れば逃げないで欲しい…。そんな私の心中を知らずか、あるいは知って無視しているかはわからないが、社長は決め台詞のように締めた。




「『ぐったり耐えて過ごす』のと、『ゆったり快適に過ごす』―。能率の観点から見たら、どっちのほうが良いかなんて明白でしょ?」





そう言われてしまえば返す言葉もないけども…。特にここは普通の真夏日とかの火…じゃない比ではないし。



ただちょっと気になるのが…『炬燵』騒動みたいに、必要な時に出てこなくならないかだが…。



「大丈夫よ!私達ミミックは場の環境にすぐ慣れる魔物だもの! 暫くここに居れば、心頭滅却しなくても火が涼しくなるわ! これはあくまで補助。特に下位の子たち用のね」 



…ということらしい。そういえば寒いダンジョンに派遣したミミック達に、専用装備を持たせてるのだが…しっかりと活躍しているとお礼状は来ている。



なら、問題ないのであろう。……逆説的に、炬燵のおかしさが際立った気がするが。やっぱりアレ、対ミミック特効持ってる。






「私がこれを使ってるのは、その実用試験をしてるのと…。はい、これ!」



―と、社長は箱内をごそごそ。取り出したるは…二本のボトル。



「つめた~い、お水! アスト達のためにね! 魔法で対策してるとはいえ、水分補給はしときなさいな!」



クーラーボックスの中から、水のボトル…。 …あれ、それって案外普通のことのような……?












「というか…。サラマンドラの皆さんから『火の加護』を貰えば良いのでは?」



「そーよ。だから『補助』と言ったでしょ。それに宝箱型の子達は外殻が箱だから、結局はアストの魔法も頼りよ!」



「ま、快適に越したことはないってな!」




お水を飲みながら、ダンジョン内を進む私と社長とラティッカさん。 …しかしこうも熱いと、つめた~いお水もすぐにあったか~いに。



でも心配はいらない。だって社長の箱はクーラーボックス…というかほぼ冷蔵庫。再度入れて貰えばキンッキンに冷やして貰える。




ということで社長が再度蓋を開き、ボトルを仕舞おうとした…その時―!





「火山弾のようにぃ…! どーーんっ!!」




わっ!? 誰かが勢いよく落下して…! 社長の箱の中に…!



「きゃああっ!?!? ちべたい!!」



あっ! お尻押さえて、跳ねるように出てきた! それどちらかというと、マグマとかに落ちた時のリアクションでは…?











「うー…。ね、私のお尻、青くなってない…? 温度下がってない…?」




そう言いながらソワソワしている彼女こそが、今しがた社長の箱へダイブしてきた彼女こそが、依頼主。



火の精霊サラマンドラのお一人、『サマーンド』さん。 赤く、ではなく青く、とは変わっているが…。それも当然。




赤い髪、赤い瞳、赤い服…炎のビキニを纏っており、手足の首も火の袖に覆われている。



というか髪もぶっちゃけ、トーチ松明のようにボウボウ燃え盛っている。全身真っ赤で、まさに火の化身と呼ぶにふさわしい。




…ただその格好も、登場の仕方も、以前依頼を受けた風精霊シルフィード達にどことなく似ている。四大精霊って案外、似た者同士?





「大丈夫そうですよ~。それに冷気は抑え気味にしたので、もう入って貰っても!」



サマーンドさんのお尻を診察し、箱の温度を調整した社長はそう招く。するとサマーンドさん、これまたお風呂の温度を確かめるようにしながら…。



「お邪魔しまーす!」



社長の真横にすっぽり。これまた、シルフィードの…というかあの時の依頼主、シーフィーさんとおんなじ行動。




ただ違うのが、あちらは風であったのに、こちらは火。さしもの社長も、真横が燃え盛ってるのは…。



「アツアツですね~! そだ!丁度マシュマロ持ってきてるんです! 一緒に食べましょ!」



…汗一つかかずに箱の奥からマシュマロを取り出して、サマーンドさんとシェアして…というかサマーンドさんの頭で炙ってる……。流石というかなんというか…。









「それで、ミミック派遣に関しては問題ないと思います! サマーンドさん方の加護と、我が社の箱と魔法があれば!」



「やったー!これでHOTホッと一安心! 」



焼き立てマシュマロを齧りながら話し合う社長とサマーンドさん。と、そこへ、貰ったマシュマロを食べ切ったラティッカさんがすすいっと。



「それで…代金として、火種になるモノも貰いたいんだけど…。魔力濃度高めのマグマとかさ…」



「マグマ?その辺の? え、もっと奥地の? よくわかんないけど…たっぷりあるから幾らでもどーぞ!」



「よっしゃっ!!」



こちらの商談もまとまった様子。…と、なると…―。




「あとは、どこにミミック達を配置するか、ですね…」











気づけばそろそろ、ダンジョンの奥地。そこで今更ではあるが、この『火の山ダンジョン』で狙われてるものを明かそう。



勿論ラティッカさんみたいに溶岩とかを取りに来る人は極少数。…いやそんな人、他にいるのかな…?





コホン、話を戻して…。周囲が燃え盛っていることは既に説明した通り。しかし、そのところどころ至る所に、火ではないのに紅蓮に染まっている箇所がある。




多数の結晶が表出したようなそれらはルビーよりも赤く美しく、透けているその内部では炎が揺らめいている。




あれこそが冒険者の標的。『魔法石』と呼ばれる、特別な力を宿した希少宝石が一種。炎の属性を宿した、『フレアジュエル』なのである。






以前、風精霊シルフィード達の元にお邪魔した際、『ウインドジュエル』というのを紹介した。それの属性違う版と思って頂ければ。



フレアジュエルは炎が常に噴き上がり、かつ魔力が潤沢な地に生成される代物。ウインドジュエルと同じく、精霊達が棲まうこういったダンジョンにできやすい。




そしてやっぱり宝石のような高値で売れるため、欲張り冒険者が根こそぎ壊して奪っていくのである。少しだけなら許してくれるというのに…。






ということで、冒険者達がフレアジュエルを盗掘なり爆破解体なりする前に追い払うのが依頼内容。ならば前と同じく、フレアジュエル自体に擬態するという手段で良いだろうけど…。




「ま、出来ればフレアジュエル以外のとこにも潜ませたいわよね~」



マシュマロを食べ終えた社長は、私が思っていたことをなぞってくれる。そう、先手を打つため、または逃げ帰る冒険者達へのお仕置きのため、道中にも配置しておきたいのだ。




しかし、周囲は炎とマグマ。下手したらミミックも足を滑らせて、あっという間に真っ黒こげな気が……。




そう悩んでいると…。ラティッカさんが軽く手を挙げた。




「アタシ、ちょいと思いついたことがあんだけど」







日頃同行してないから当然とはいえ、ラティッカさんからの提案とは珍しい。一体何を――。



「いやほら、木を隠すなら森の中、箱を隠すなら箱の山の中って言うじゃんか」



…いや、後者は初めて聞いたのですけど…。 とはいえ箱工房の様子を知っていれば、そんな慣用句も思いつく。



なにせあそこ、大きさや形、色合いなどなど様々な箱が数千数万は積まれているのだ。そこにミミックが紛れてしまえば、もうどこ行ったか分からない。




――ということは、そういうこと…? いやでも、箱を大量設置するなんて違和感ありまくりだし…。



なら、岩にでも擬態するという提案なのかな。そう私が思っていたら…ラティッカさん、とんでもない一言を。




「じゃあミミックに火を纏わせて、炎の中に隠せばイケるんじゃないか?」








……一瞬、熱すぎて頭がおかしくなったのかと思ってしまった…。何を平然と……。



…いやでも、前、『お月見ダンジョン』で似たことをやった…。でもあれ、専用の耐火装備があったのと、少しの間だけだったから。そして何より、探索者に見つかるためだった。



流石に常に火の中に隠れて居たら、いくら環境に慣れるミミックと言えども、真っ白に燃え尽きるのでは…?





私が眉を潜め、サマーンドさんも首を捻る中、社長ただ一人が、興味深そうに問い返した。



「ラティッカのことだから、なんか『仕組み』はあるんでしょ? なーに?」



信頼されているのがわかる台詞を受け、ラティッカさんはちょっと照れたかのように話し出した。





「いやさ。アタシ…というか下手すりゃドワーフ全員なんだけど、火を見るのが案外好きでさ。つい暇な時とか、窯の火をぼーっと眺めちまうんだ」



時には酒の肴代わりに。そう付け加えた彼女に、社長とサマーンドさんは…。



「「わかるー! つい見ちゃう!」」



わかるんだ……。 ともあれ二人から同意を受けたラティッカさんは、嬉しそうに続けた。




「けどずっと燃やしてるとあぶねえし、燃料代も馬鹿にならない。それでこの間思い立って、ちょっとした装置を作ってみたんだよ」



流石に今手元には無いんだが…。と少し残念そうに、どこからか紙とペンを持ちだしてサラサラと絵を。



かなり上手な絵で描かれたそれは、火やランプや板やらコードやらが組み合わさったような形。…私専門外だから、そんな説明しかできないけど…。




「『疑似炎』っていう、周囲の魔力を使って偽物の炎を映し出す装置でさ。それを別に作った小っちゃい暖炉にセットしたら、結構ずっと見てられるんだ」



なるほど。要は幻影魔法とか投影魔法とかそんな感じのものらしい。確かにそれなら――。




「かなりこだわったから、それこそサラマンドラ達レベルじゃなきゃ見破れないはず。だから、それを活かせば…」



「安全に火を纏えて、どこにでも潜めるってことね! うん、採用!」




と、社長の鶴の一声で決定と相成った。ラティッカさん、HOTホッとした様子。












対策が一つ決まったところで、とりあえずラティッカさんご要望の場所へ。



「多分ここが、一番魔力が凄いマグマ!」



サマーンドさんに連れてきて貰ったのは、グツグツに煮えたぎった溶岩のプール。私の目からしても、明らかに今までのとは質が違う…!




「どれどれ……。 うぉおお!? 熱っちぃいいいいい!!」



早速それに手を入れたラティッカさんだったが、即座に引き抜き転げまわった…。 溶岩だってのに、ちょっと熱湯に触れちゃったレベルの反応…。 いや良いんだけど…。





と、直後、彼女はパッと立ち上がった。そして火にも負けないぐらいアツい興奮っぷりに。



「けど…これこれ!魔力も温度も申し分なし! まずはサンプルとして、ちょっと貰っていっていいかい? ―よっしゃ!」



そう頼み、許可を貰ったラティッカさん。すると背負っていたリュックを降ろし…



「よいせっと!」



取り出したるは、箱工房特製、危険素材用の専用箱。用意周到に持ってきていたらしい。確かにそれなら、溶岩程度難なく運べそう。




おや、そしてもう一つ何かを……えっ? バケツ…?






「なんですかそれ…?」



「ん?溶岩汲むように持ってきたバケツ」



…いや、バケツ溶けちゃうんじゃ…? そんな私の内心を察し、ラティッカさんはカラカラと笑った。



「おいおいアスト。ただのバケツじゃないぜ。アタシらが作った専用品だ!溶岩すら掬えちまうな!」



あぁ、なら安心。 と、ラティッカさん、ちょっとズルしたと言うように付け加え。



「ま、正しくは全身四角で構成されている変なヤツから作り方クラフトを教わったんだけど!」




……なんか、『酪農ダンジョン』でもそんな人の話を聞いたことがあるような…。 全身四角の人…一体どんな姿スキンなんだろう…。











ということで、早速屈んでマグマを掬おうとするラティッカさん。バケツをチャポンと――




ズルッ



「へっ?」


「「「あっ!」」」





ドボンッッ!!








嘘…!! バケツに力を入れてたせいか、足を滑らせたラティッカさんはマグマの中に…!!



「熱っっちゃちゃちゃちゃちゃ!!」



あっ良かった…! 私の魔法と持ち前の耐性で、無事ではありそう。骨まで燃えて無くなってしまうってことはなかった…。



…ただ、溶岩遊泳とはいかず、溺れているみたい…!  助けないと!!




「良いわよアスト。私が助けるから」


「お手伝いするよー!」




―私が動くより先に、社長とサマーンドさんが動いた…! って…ちょっ…!




「「あいるびぃばっくっ!!」」

ドボーーンッ!




社長達もマグマに飛び込んだ!?






社長には耐熱魔法を控えめにしか付与してないのに…! 幾らミミックと言えども、これマズいんじゃ…!



って、そんな間に社長がラティッカさんのとこにたどり着いて、箱の中に…けど、どんどんマグマの中に…!!



あぁ…! あっという間に沈んで…! …なんで親指立ててるの…!?







このままでは共倒れ…! やっぱり私も助けに…!  ――え…?




「すぴきゅぅうる! 噴火ぁ!」




わっ!? サマーンドさんの掛け声とともに、溶岩が火柱の如く噴き上がって…!! 



そしてその先から…! 何かがくるくる回転して飛び出してきて…! 私の前にスタンと着地した…!



「骨まで温まったわ!」



それは勿論、社長。箱の中からラティッカさんをぺいっと出して、周りについたマグマを振り落としてる…。 火傷はおろか、箱に焦げすらない…。




「ついでにマグマ、これに入れとくね~!」



しかもサマーンドさんに至っては、今しがた噴火させたマグマの一部を操り、箱詰めしてくれてるし…。






「ごめん社長…。サマーンドさんにも迷惑をかけちまって…」



一方で、しょぼくれ気味のラティッカさん。流石に火傷を負っているみたいだし、治してあげなきゃ。



「さんきゅーアスト…。 アタシとしたことがなぁ…」



若干焦げ、ボサボサ感が増した髪ごとガリガリと頭を掻くラティッカさん。と、社長は……。




「いいえ!寧ろいい方法思いついたわ! ラティッカ、私の入ってるこれみたいな、『溶岩でも溶けない箱』は作れるわよね?」



「え…。あ、あぁ…そりゃそれぐらいなら…」



それぐらいって…充分えげつないと思うんだけど…。私の苦笑いを余所に、社長はフフンと。



「なら、サラマンドラ達との協力技も出来ちゃうわね!」




…協力技…? 私達がハテナと思っていると、社長は更に一言。



「さっきのサマーンドさんみたいにするのよ!」














ということで戦法もある程度決まり、サマーンドさん達に見送られダンジョンを後にすることに。



ラティッカさんも気を取り直し、マグマ箱が入ったリュックを背負って意気揚々。早く工房に戻って試したいと言わんばかり。




――ところで……。



「なんか、変な音しません…? 『メラメラ』って…」







異音が耳に入り、思わず社長達にそう聞いてしまう。しかし…。




「そりゃ周囲が燃えてるんだから、そんな音するでしょ」


「だな。そこかしこでメラメラ言ってるし」





と、社長もラティッカさんも平然と。まあ確かにそうか…。 ……ん?




「なんか、変な音しません…? 『ボウボウ』って…」




「そりゃ周囲が燃えてるんだから、そんな音するでしょ」


「だな。そこかしこでボウボウ言ってるし」



やっぱり奇妙な音が耳に入ったのだけど…社長達の返答はほぼ変わらず。 あれー…?




…このままだと、『カチカチ』って音がなりそうな感じも……んん? 




なんか、やけに焦げ臭いような……。どこから……ってぇ!!?




「ラティッカさん!? 背中のリュック、燃えてます!!」








「へ? うわっ!?  嘘だろ!?一応、耐火素材使ってんのに!?  熱ちち!!」



気づかぬうちに背中が燃え上がり、悲鳴をあげるラティッカさん…! でもなんで今…!? さっきまでは火すらつかなかったのに…!!



「……ラティッカ。マグマ入れてもらった箱、ちゃんとしっかり閉めた?」



「「あっ…」」



そんな社長の一言で、ラティッカさんも私も、すぐに合点がいった。確かに、私の耐熱魔法を貫通するほどのあのマグマなら、耐火素材リュックなんて簡単に…。



…てか既にリュックに穴が開いて、マグマ漏れ出してるもの!! 間違いない!





「熱っち! 熱っち! マグマの雫が背中にあたって、お灸みたいで熱いっっっっ!!」



本日何度目かの悲鳴をあげ、慌てふためくラティッカさん…。今日は彼女にとって、厄日なのだろうか…。



…いや、厄日じゃなくて、厄『火』…? とりあえず、火属性完全無効化の魔法かけてあげよう…。


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