人間側 とある青春男女と迷惑客


《遊園地ダンジョン、その入り口にて》



【~~ある『男の子』の心中しんちゅう~~】



…来て…しまった…! 今日が…! そして…『遊園地ダンジョン』に…!



……確かに誘ったのは僕だけど…! 下調べもして来たけど…! 緊張してきた…。



出来るかな…。彼女をエスコート、出来るかな…。 告白、出来るかな……。 



…いい返答、貰えるかなぁ……。


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【~~ある『女の子』の心中~~】



…き、来ちゃった…! 今日が…! そして…『遊園地ダンジョン』に…!



誘われたのが嬉しくて二つ返事でOKしたけど…! 予習もしてきたけど…! 緊張してきちゃった…。



大丈夫かな…。告白、して貰えるかな…。それとも、告白できるかな……。



…いいお返事、貰えるかなぁ……。


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【~~ある悪漢数人組のリーダーの心中~~】



あまりにも暇だから、また来ちまったぜ。『遊園地ダンジョン』に。



けどよ…。俺達みてえな大物には、夢だか希望だかの国を謳うような場所で、他の連中と同じようにガキくさく戯れるなんて似合わねえ。



だから、俺達流の楽しみ方で遊ばせてもらうとするぜ! ピエロ共が吠え面をかくぐらいになぁ!


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《ジェットコースター、搭乗口にて》




【~~ある男の子の心中~~】



えっと…まずは…。ジェットコースター…! なんとってもここの花形で、カップルコースの大定番のひとつらしいし…。



観覧車も良いって聞いたんだけど…。…その……。まだ、二人きりになるのがちょっと……。



それにジェットコースターなら、隣に座れるから…ワンチャン手を繋げる…!



そうでなくとも、カッコいいところを…落下時に驚かないところを見せてみせる…!




そんなことを思ってたら、もう僕達の順番だ…! エスコートしなきゃ…!


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【~~ある女の子の心中~~】



じぇ…ジェットコースター……。 ど、どうしよう……!



ううん、こういう絶叫系が嫌いってことじゃないの…。寧ろ、好き。



けど…けど…! 多分隣に座るんだよね…! 心臓、耐えられるかな…。落下のドキドキと胸の高鳴りで、爆発したりしないかな…!?



あ、あと…! 多分叫んじゃうし…! それで嫌われたらどうしよう……。




って…!もう順番来ちゃった…! あ…! 手を差し伸べて、転ばないように引っ張ってくれて…! 優しい……!


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【~~ある悪漢数人組のリーダーの心中~~】



やぁっと順番回ってきやがった。オラッ!飛びこむように乗り込んでやるぜ!



…あ? なんだあ?前の方の若造カップル。 男も女もモジモジしやがって、見ていてムカつくなぁ…。



ちょっと邪魔しに…チッ、もうアナウンスが流れ始めたか。




『バーを下げ、身体を固定して下さ~い! さもないと、どこぞの探偵漫画の第一話被害者みたいになっちゃいますよ~! …あれ、違ったかしら?』




……はぁ? 前来た時とアナウンス変わったみてえだが…何言ってんだ?




ヘッ、まあいい。俺達がそんな忠告を守ると思うか? 守らねえんだなコレが!



身体を固定しちまったら、動いている最中好き放題出来ないじゃねえか! だからよ…バーの隙間に物を挟んで、ちょっと浮かせとくんだ!



これで、いつでもスルリと抜け出せるってもんだ。手慣れてるからな、確認されてもバレずに…ほら、動き出したぜぇ!


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《ジェットコースター、コース頂上付近にて》



【~~ある男の子と女の子の、おんなじ心中~~】



た、高い…!  結構、高い!! 結構、怖い!!!



こんなの…! 驚かないのも、叫ばないのも無理…! 絶対無理…!




あ、あと…! すっごく胸が鳴ってる…!  これ、隣に聞こえてないよね…!?



…わっ…! 顔を窺おうとしたら…目が合っちゃった…! そして反射的に、顔背けちゃった…!




どうしよう…。変に思われてないよね…? で、でも…今顔を合わせちゃったら、赤くなってるのバレちゃう…!




――あ。手…! 変に身体を動かしたから…隣とぶつかっちゃってる…! に、握るチャンス!



で、でも……―。




「「「「むごぉおおおお!?!?」」」」




―!? な、なに!? 悲鳴!?  後ろから!? 何が……。



ハッ…! 変な声のせいで驚いて、思わず手を握り合っちゃった! って…!もう下り…―!!!





ガタタタタタタタタタタタッッッ!!!




「わぁあああああああああっ!!!!」

「きゃあああああああああっ!!!!」


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【~~ある悪漢数人組のリーダーの心中~~】



おぉ~登ってる登ってる! 良~い高さだ。



さて、そろそろ頃合いか。さあ、なにしてやろう。




コースターから降りて、支柱に飛び移るのがいいか。それとも、コースターの先頭に移動して、風を全身で感じるか。



いやいや、他の乗客に絡んで、弄り倒してやるのも捨てがたい。特に、前にいるあの初心うぶカップルなら良い反応してくれそうだぜ。




なにはともあれ、バーを外すのが先だ。しかし、さっき仕込んでたから簡単に……―。





……あれ? 外れねえ…。 というか…身体が動かねえ…!? どういうことだ!?




ッ!? 足が…体が……だと!? うおっ! 手にも…顔にも…!



お、俺のダチ共は……全員、縛られてやがる!?  ―!?触手…コースターの席の中から出てんのか!?



て、テメエ…! 止めろ…!変に絡まるな…! うおっ…口が塞が――!?



「「「「むごぉおおおお!?!?」」」」



なんだこりゃあ…! これじゃあ、何も出来ねえ…! や、やべえ…! もう落ち――。





ガタタタタタタタタタタタッッッ!!!




「「「「むおおおおおおおぉ!?!?」」」」 



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《とあるベンチ付近にて》



【~~ある男の子の心中~~】



凄くドキドキしたけど…楽しかった…! 偶然、手を握れたし…!



結局、落下時に驚いて声出してしまったけど…。写真を見る限り、そこまで変な顔になってなかったから良かった…。



……ただ…。その写真は買うのが躊躇われて…。…恥ずかしかったというのもあるんだけど…。



…………後ろの席に、何故か手や足や口をグルグル巻きに縛られた変な人達が写っていたから…。台無しで……。





それを見たせいかはわからないんだけど、ちょっとあの子女の子の様子がおかしくて…。なんか、ずっと俯いていて…。



耐え切れなくなって、僕が飲み物を買ってくるって提案したら…彼女『な、なら私、ポップコーン買ってくるっ!』って走ってっちゃって…。



一応、合流は近くのベンチにしたんだけど…。……嫌われちゃったのかな……。


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【~~ある女の子の心中~~】



手…握っちゃった…!手…握られちゃった…!! しかも、ぎゅって…! ジェットコースターが落ちる時だったから、凄く強く…!



その感覚を思い出していたら恥ずかしくなっちゃって、彼の顔、ずっと見れなかった…。…変に思われてないよね…?



そして、急に飲み物を買ってきてくれるって言ってくれたから…慌ててポップコーン買ってくるって宣言して走ってきちゃった…。




…それにしても……。ジェットコースターの写真、欲しかったな…。触手?に縛られた変な人達が写ってなかったら…。



…恥ずかしくて、買えなかったかもだけど……。


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【~~ある悪漢数人組のリーダーの心中~~】



な…なんだったんだぁ…あの触手……。 ジェットコースターに、なんであんなモンがいるんだよ…。



全身雁字搦めにされて、しかも若干席から浮かせられてたから…。やけに怖…ゲホン、疲れた…。



あまりにも訳わかんなすぎて、落下の勢いもあって、まだ頭がぼうっとしてやがる…。



…あ。チッ…! ここのキャストであるピエロ共を問い詰めるの、忘れてたぜ…。…もういい、めんどくせえ…。



…だがよ、結局アレ、なんだったんだ…―




「…『ミミック』だ…!」



んあ? ふと、ダチの1人がそう口を開いた。なんだ? ミミック? 聞いたことがあるような…。



「ダンジョンに棲む魔物だ! 宝箱とかに隠れて冒険者を襲う、ヤベえヤツ!」



…ははあ。そういやここ、ダンジョンだったな。なるほど、ちょっと納得できたぜ。



んで、コースターの椅子の下に隠れてた理由もわかる。そういう生態ならよ。



……だが、なんで俺達を襲って来やがった…? あんな絶妙なタイミングでよ……。



おかげで気分もガタ落ちだ。もう一度乗る気は起きねえし…。しゃーねえ、別のヤツで遊ぶか。


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《ベンチ付近、各所にて》



【~~ある男の子の心中~~】



…どうしよう…。どうやったら機嫌直してもらえるかな…。 飲み物、ジュースとかのほうが良いのかな…。



あ…。そうこうしている内に着いてしまった…。えーと、財布財布…。



―っと、あっ!? 手が滑って、お金が地面に…! ま、待って…! 





しまった……。側溝っぽいところに落ちちゃった…。深そうだし…これ無理かな…仕方な―。




「ハァイ、ジョージィ?」




―へ? うわっ!? 側溝の中に、ピエロがいる!?!? 



「オー…。 驚かせてすまなかったねェ」



…えっ。消え…。 !? い、いつの間に背後に…!?




「落とし物だよ、ジョージィ」



「え、あ…お金…。有難うございます…。 あの…別に僕、ジョージって名前じゃ…」



「オー! それはゴメンね! つい間違えちゃったんダ☆」



…ケラケラ笑ってるこのピエロの人…。側溝から出てきた(?)のに、汚れひとつない…。一体、何者…?



「ところで…君。好きな子、いるでしョ? ここに一緒に来てるでしョ??」



「!? 何でそれを…!?」



…本当に、何者…!?  僕が思わず後ずさると、そのピエロの人はにっこりと笑って、グッドサインを。



「ダイジョーブ☆ ボクたちは君達の味方で友達だヨ! 応援してるんダ!」



…え。 まさかの台詞に驚いていたら、ピエロの人は僕の手を取ってきた。



「この先も、良い一日になるようみんなでお手伝いするヨ! だから君も、勇気を出しちゃえ!」



その朗らかな、それでいて優しい励ましについ頷いてしまう。すると、ピエロの人はもう一度笑った。



「ハハッ☆ その意気さ! そうだ、風船いる? 黄色や赤色があるよォ?」



「…え、それは…あんまり…」



「なら、これをあげるヨ! で・も・それは帰り近くになった時、好きなその子と一緒に見てネ! ボクと約束!」



おずおずながら断ったら、代わりにピエロと宝箱が描いてある変な封筒を渡された…。 …あれ? 糊付けされてるらしいけど…とんでもなく硬い…? 



あ…。気づけばピエロの人いなくなっているし…。…まあ、約束守ろう…。




……飲み物買わなきゃ!!


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【~~ある女の子の心中~~】



…どうしよう……。 今更だけど、ポップコーンで良かったのかな…。 他のお菓子のほうが気に入ってくれるのかも…。



あ…。そんなことを考えてたら、ポップコーンの移動屋台の前に着いちゃった。とりあえず買っちゃおう。




―あれ? …店員さん、いない? でも、やってるみたいだけど…。沢山あるし、美味しそうな匂いするし…。



でも、椅子の上に、ポップコーンバケットバケツが置いてあるだけ。トイレ休憩とかなのかな…―




「ばあっ! はぁい、お客さ~ん?」




きゃあっ!?  バケットの中から、何かが跳び出して!? あっ…!転んじゃう…!



「おっとっと! 驚かせちゃってごめんなさ~い!」



へ…? 何かが私を支えて…。これって…! さっき、ジェットコースターのとこでみた、触手…!?



これ、どこから伸びて…。バケットから!? って、誰かそれに入ってる!?



「あら?私の姿にびっくりしてる? 私、『ミミック』って種族でね。常に何かに入ってるのよ!」



…そう説明してくれる、バケット入りのピエロメイクのお姉さん…。ミミックって…あの、魔物の…?



「ポップコーン買いに来たのよね? サイズはどれがいい?」



「あ、えっと…―」



とりあえず二つ注文。 わっ…!この紙容器、上の方が宝箱みたいな模様になってる…!しかも、しっかりと蓋つき…!




そんな容器を嬉々として受け取った時、そのミミックお姉さんがにんまりと。



「一緒に来てるの、彼氏さんでしょ~?」



「へっ!? いや…その…まだ…あの…うぅ…」



…思わず、狼狽しちゃった…。 …そうなりたくは…あるんだけど……。



すると、ミミックお姉さんはちょっと笑いながら謝ってきた。



「ごめんごめん! さっき驚かせたお詫びがてら、おまけしたげる! チュロス、好き?」



私が頷くと、屋台の中からチュロスを二本取り出してくれるお姉さん。―と、再度にんまりして、内一本を戻すように…。



「一本だけにする? そしたらチュロスだけに、間接『チュッ♡』ってできるかも?」



「なっ……!!」



「冗談よ☆ はいどーぞ!」



ケラケラ笑いながら、チュロスを二本渡してくれるミミックお姉さん。そして、メーキャップ越しにもわかるほど、慈愛の籠った笑みを向けてくれた。



「安心してね。私達キャストは皆、あなた達の味方で友達。だから難しいことは考えないで怖がらないで、『彼氏さん』と存分に楽しんでいって!」


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【~~ある悪漢数人組のリーダーの心中~~】



しっかし、どれに乗って暴れたモンか。あっちも良いが、こっちも良いな。いや、この辺りにあるオブジェに登って落書きでもしてやるかな。



……お? あそこを小走りで進んでるのは…。さっきジェットコースターに乗っていた、若造カップルの女のほうじゃねえか。



手にポップコーンとチュロス二つずつ抱えて、彼氏と一緒に食うってか。ケッ、ウザったいぜ。




――そうだ。あいつ、ナンパしてやろう…! あのカレシよりも、俺達の方が格好良いだろうしよ!オンナってのは、悪ぶれるオトコに惹かれるって相場が決まってるからな。



なに、仮に嫌がられても、こっちは数人組。無理やり遊んじまえ!






「よぉよぉ、そこの嬢ちゃん!俺達と一緒に楽しもうぜ!」



走るカノジョの道を塞ぐように、俺達は立ち塞がってやる。ここでウインクでもすれば、イチコロだ…



「あ…触手に縛られてた人……」



「「「「あぁ!?」」」」



このアマ…! 優しく声をかけてやったら、俺達が一番触れたくねえとこ突きやがって…!



許さねえ…! もう選択肢なんて与えねえ…! 今更怖がり出しても、もう遅え…!無理やり俺達の凄さ、味合わせてや―…!





「や…止めてください! この子は僕の、か…友達です!」




あ゛? 誰かと思ったら、カレシが割って入ってきやがった。ヘッ、俺達数人がかりに無謀なこった!見ろよ!足震えてんじゃねえか!笑えるぜ!



丁度いい!こいつをボコして、名実ともにこの女を俺達のモンにしてやる…ぜ…―?





♪~~♪~~♪~~





な、なんだこの音楽…? BGMはずっとかかってはいたが…急に変わったぞ…?



は? どっからともかく、誰かがスキップでやってきた…? あれは…ピエロと、着ぐるみ?



あ?? その2人組が俺達の周りにやって来て…。ピエロの方が大仰な動作で何かを取り出した?




なんだあれ?でっけえ布? それを着ぐるみに渡して、2人揃って俺のダチの1人に近づいた?



そして着ぐるみが布を広げて、俺達とそのダチの1人を隔てるように持って…そいつもダチ側に行って、見えなくなっちまった。




なんだ?マジックでも見せようってか? ピエロは布の前でステップを刻んで踊ってやがるが…。




お? すぐにピエロがパンパンと手を叩いた。すると、布がスルスルと丸まって…ハァ!?!?





だ…ダチが…!? 布の裏に居たはずの俺のダチの1人が…! !?




ど、どういうことだ!? あっちょっ! ピエロと着ぐるみがそのままスキップで逃げ出しやがった!!



おい!待てや!! 俺のダチを返せ! 返せええ! 



クソッ!追いかけるぞ!! ガキのカップルに構ってられるか! 待てコラァ!!待ちやがれぇッーー!


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《観覧車、とあるゴンドラ内にて》



【~~ある男の子の心中~~】



…とうとう、乗ってしまった……! 観覧車に……あの子女の子と二人きりで……!



外はもう日暮れ。だから、夕空が遊園地ダンジョン内を照らしていて凄く綺麗。



これは、僕が必死で考えたデー…えっと…。…コースの、最後の乗り物。ほとんど予定通りに入って良かった…。




勿論これに乗るまでに、アトラクションは幾つも乗ったし、体験した。他の絶叫系や、コーヒーカップ、メリーゴーランドとかも。



結構凄かったのは、お化け屋敷。かなり怖かったんだけど、あの子から手を掴んできてくれて…!



…ただそれでも…。井戸の作り物の中から、頭から突っ込まれたみたいに足が何本も何本も生えてて…どこからか『お前も引きずり込んでやろうかァ!』って声が聞こえてきたのがすっごく怖かった…。



なんか、やけに生々しい作り物の足で…僕もあの子も悲鳴あげてしまった…。…その時に思わず、ぎゅっと抱きあったのが…その…嬉しかった…。





そうそう、あのピエロの人が『みんなでお手伝いする』って言ってくれてたけど…あれ、本当だった。だから、予定通りに行ったんだと思う。



事あるごとに、ピエロたちが色々と助けてくれた。会話に詰まっている時とかは目立つところでショーっぽいことをしてくれてたり、アトラクションの空き具合とか教えてくれたり、時には食事のクーポンもプレゼントしてくれた。





あと…時折、宝箱に入った魔物のピエロがいた。『ミミック』って言うらしい。



ボートに乗るクルーズアトラクションがあって、そこの船長案内役をしていた。僕は初めて見る魔物だったんだけど…。



『こわ~いのが迫ってきたら、皆さんお近くの箱や椅子の中に隠れてやりすごしましょー! …あ、これ私達ミミックにしかできないか!』



って言って、笑いをとっていた。ただ、その後に…。



『なら、身体を小っちゃくしたり、逆に威嚇したり! お近くの方とぎゅっとくっつくのもアリですね!』



と僕達を見ながら言ってきたものだから、恥ずかしくなってしまって…。 ちなみにそこでもハプニングがあったんだけど…。それは一旦置いとこう。




そういえば、あの子は…彼女はミミックについて、知ってたみたい。色々と優しく教えてくれた。ポップコーンの屋台にもいたんだとか。






そして、そのミミックという魔物達も、ピエロと同じようにお手伝いをしてくれた。例えば…迷路でかなり長い時間迷いかけた時のこと。



あの子が見ていない内に、僕の近くにあった、飾りと思っていた宝箱が勝手に開いた。そして、中から長い舌が、音を立てずに出てきた。



……多分、あれもミミック。口をパクパクさせていたら、とある道をちょいちょいと指さして(?)パタンと戻ってしまった。 でも、とりあえずそっちに向かったら…ゴールにたどり着けた…!



そんな感じのことが何回もあった。本当、助かった…。






……でも、本当に助かったのはあの時。あの子が、変な人達に絡まれてた時。 …その変な人達は、ジェットコースターで触手に絡まれてたんだけど…。




―あの時、ピエロの人の言う通り勇気を出して間に入ったけど…。正直、怖かった。声もまともにでなかったんだもの。



ピエロと着ぐるみがよくわからない対応してくれてなかったら、どうなってたことか…。情けない…。




…でも、あの子が『助けてくれてありがとう!』って喜んでくれたから…。勇気を出した甲斐はあったのかな?






……告白、どうしよう…。 して、いいのかな…?大丈夫なのかな…?



シチュエーションも、雰囲気も、多分最高だと思う…。 これ失敗したら、あとチャンスは、ナイトパレードの時だけ…!



よし…言うぞ…! 言うぞ…! 『付き合ってください』って言うぞ…! ……ん?



……え? …………っえ!?  




「なにあれ……!?」


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【~~ある女の子の心中~~】



…とうとう、あの子男の子と2人きりで観覧車に乗っちゃった……! しかも…夕日で一番綺麗な時間帯に…!



すごい…! 完璧なコース設定…! まさに、デー……えっと…その…。うん…!



……顔、熱くなってきちゃった…! ちょっと、今日のこと、振り返ろう……。






色んなアトラクションに、あの子と一緒に乗った。本当、色々あった。



他のジェットコースターや、コーヒーカップ、メリーゴーランドとか。楽しかった……。



どれもあんまり待たずに乗れたし、偶然会ったピエロの方からご飯のクーポン貰えたし。不満なんて全くない、楽しいひと時だった…!



お化け屋敷はすっごく怖かったけど、あの子と手を繋げたし、ぎゅって出来ちゃったし…!迷路で迷いに迷ってたら、彼、急に手を引っ張ってゴールまで一気に導いてくれたし…!!






―そうだ。ボートに乗るクルーズアトラクションで、変なことがあったんだった。



あのアトラクション、途中でサメとかワニとか飛び出してくるビックリ系のやつで…。私、何回ビビったことか…。




で、それで…。 他のボートの席に、昼間私に声をかけてきた悪そうな人達がいた。消えたはずの1人もしっかりと。



そしてその人達、サメとかが飛び出してきた瞬間、ゴミを投げ入れてたの。幾ら作り物だとはいえ、酷いと思う。



船長役のミミックお姉さんがやんわり窘めても言う事聞かなくて…。寧ろ、食って掛かろうとしたその瞬間――!



「「「「あばばばっ…!?」」」」



そんな変な声出して突然にふらついて、倒れて…ボートの外に落ちて…!



バクッッ!



って、サメやワニの作り物に、食べられちゃった!! 私達や他の乗客が慌てていると、ミミックお姉さんが…。



『悪い事をする人には、相応の罰が下るもの。 ご安心を! あの子たちサメやワニは結構グルメ! きっと今頃、どこかでペッと吐き出してるでしょう!』



と、至ってひょうきんに…。 でも確かに私達がボートから降りたら、離れたところで目を回しているその人達がいた……。ピエロの方に何か言われてたみたいだけど。






――あ。また、思い出しちゃった。今日、何度も何度も思い出して、その度に頬が緩んじゃったあの時のこと。



私が、その悪そうな人達に絡まれた時、颯爽と駆け付けてくれたあの子の…彼の姿。格好良かった…。



その後、怪我が無いかって凄く心配してくれたのも、とても嬉しかった―…。





……告白するなら、今しかないよね…! 今、凄いチャンスだよね…! 待ってるだけじゃ、駄目だよね…!



よし…言おう…! 言おう…! 『付き合ってください』って言っちゃおう…! あの…その…!




「なにあれ……!?」



…へ? 彼が…素っ頓狂な声を…? どこを見て…。ええっ!?




「なにあれぇ……!?」


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【~~ある悪漢数人組のリーダーの心中~~】



ハァ…ハァ…ハァ…。 クソッ…なんだ、ここ…! 前来た時は、こんなんじゃなかったぞ…!




思えば、最初のジェットコースターからおかしかったんだ…! 『ミミック』…それが全ての元凶だ…!



あの若造カップルを虐めようとしていた時、突如と現れたピエロと着ぐるみ…! 多分だが…あの着ぐるみの方、ミミックだ…!



確証はねえが…。俺達がそいつらを追った先に、消えたダチが捨てられていた…! 今でこそ調子は戻ったが、『触手が…触手が…』ってうなされてやがったし…!




それに、他の場所にもだ! 俺達が向かったアトラクションの数々で…!俺達が暴れようとした矢先に…!ミミック共が姿を現しやがった!




乗り物系は、ほぼ必ず椅子の下に隠れてやがったし…! オブジェとかの飾り付けを壊してやろうとしたら、装飾品かと思っていた宝箱が牙を剥いたり、茂みから触手が飛び出してきたり…!



更にお化け屋敷じゃあ、作り物のお化けをぶっ壊そうしたら…!井戸からまたも触手が伸びて来て、俺達全員、スケキヨ状態にされた! 



しかも暫く解放されなくてよ…!! 他の客共が、俺達の脚を見て悲鳴上げていきやがった…!





んで、極めつけはクルーズアトラクションだ! 腹いせにサメの作り物にゴミを投げ込んで調子狂わせてやろうと思ったら…! 椅子の下から蛇みたいのが出て来て俺達を噛みやがった!



そしたら、全身が痺れだして…。ボートから落ちて…サメに食われて…!気づけば搭乗口だ! 



しかも、ピエロのヤロウから、『弱めの麻痺毒にしてもらってるヨ! これに懲りたら悪さしないでネ!』とか言われて…腹立つ…!!




だが…どこで鬱憤を晴らそうとしても、必ずミミックやピエロが現れて邪魔してきやがる!



しまいには追いかけられて、急ぎこの観覧車に乗り込んだんだ! 並んでた乗客、押しのけてな!







―ふぅ…。しかし、とりあえず落ち着いたぜ…。ここはゴンドラ、周りには誰もいねえ。安心だ…。



さて。なら、いっちょ遊んでやるか。とりあえず扉をこじ開けるか窓を割ってかして、外の空気を吸いながら一服でも……。





「観覧車では…てか園内では禁煙となっておりまーす! ご遠慮くださーい!」





うおおっ!? ゴンドラの椅子の下から、女魔物が飛び出してきた!! って、またミミックかこいつ!!



こんなとこにも潜んでやがんのかよ! あっテメエ! 煙草返せ!




「聞いてますよ~! あなた方、迷惑常習犯らしいですね~。 今日も結構暴れていて、ここゴンドラにも逃げるように入ってきましたよね~!」



コイツ…!俺達のことを知ってやがる…! 今日のことまで…!



「散々私達やピエロに諭されて、ま~だ懲りてないんですか? 今反省するなら……」



「ケッ! 誰が! 俺達を殺る度胸もねえマヌケ共の言う事なんて、聞いてやるかよ!」



ミミックの言葉を遮り、そう言い放ってやる。 ここは密室、相手は魔物とはいえ女1人。俺達総がかりで、外に捨ててやる…!




「はぁ~…。ほんと、馬鹿って意味で道化ピエロですねぇあなた方。赤ちゃん相手のように手加減してあげてるの、気づいてないなんて…」



…んだこの…!余裕そうな顔しやがって…! その顔、絶望に染めて―!




「ま、ピエロの方々に『執拗に懲らしめてやって』と言われてますし…。さあ、お仕置きの時間ですよ、ベイビー☆」




―あっ! 椅子の中に引っ込みやがった! 今更ビビッても遅え! 引きずり出して……―




「社長提案!安全検査及び許可取得済み! 食らいなさい! 『ゴンドラ大回転!』」



は…!?  ――!?!? ご、ゴンドラが動き…!? た、!? 



うおっ! 身体が浮く…! 遠心力で壁に圧しつけられ…! は、速いぃ…!



や、止め…! ぐえっ! や…ぐええっ!! た、助けて…! ひいいいいっ…!!


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《ナイトパレードにて》



【~~ある男の子の心中~~】



…さっきの、とんでもない勢いで回転していた観覧車ゴンドラって何だったんだろう……。こっちに揺れは来なかったけど…。



でも…それを見てたら、告白するチャンスを失ってしまった…。…まあ、出来たかどうかはわからないんだけど…。




――残るチャンスは、今から始まるナイトパレードの時だけ…。その途中か、終わり際か…。 あぁそして…始まってしまった…!









おおぉー…! 凄い…! ピエロたちを乗せた煌びやかなフロート車が、何台も何台も…!



もう日が暮れているのに、そのフロート車の輝きと、周りのライトアップで昼間みたい…!



あ。あのフロート車…宝箱型だ…! ミミック達も乗って、楽しそうに踊ってる…!





…ふと横を見ると…。彼女は…目を輝かせてパレードを見つめている…。…邪魔しちゃ悪いよな…。




……告白、今日じゃ、なくても…。 …ううん! あのピエロの人と約束したんだ。勇気を出すって…!





―あ、約束と言えば…。この封筒…。あれ、開けられるようになってる?



中は何が…。 ――えっ!! これって!?


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【~~ある女の子の心中~~】



…さっきの、縦回転していた観覧車ゴンドラって何だったの……? あんなの、初めて見た…。



でも…それを眺めてたら、告白するチャンスを失っちゃった…。…まあ、出来たかどうかはわからないんだけど…。




――残るチャンスは、今から始まるナイトパレードの時だけ…。その途中か、終わり際か…。 あぁそして…始まっちゃった…!









わあぁ…! 綺麗…! 可愛くて素敵なフロート車が、いくつもいくつも…!



フロート車と周囲のライトアップで、ピエロの人達が華麗にダンスしてるのが良く見える…!



あ。あのフロート車…宝箱型だ…! ミミック達が乗って、皆に手を振ってる…!





…ほんのちょっとだけ、横を見てみると…。彼も楽しそう。…けど、どこか悩んでるみたい。




―あの時、ミミックの人は『怖がらないで』とも言っていた…。 私の想い、怖がらないで伝えなきゃ…!



…あれ? 彼、突然に何かを取り出して…封筒? それを開けて…。



――えっ!! これって!?


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【~~ある男の子と女の子の、おんなじ心中~~】




封筒から出てきたのは、写真。 それは、ジェットコースターのあの写真。



けど、綺麗にトリミングされていて、自分達のところだけに。絶叫しているのが、手を繋いでいるのが、よくわかるように。




それだけじゃない。一緒にチュロスを齧っている時、コーヒーカップに乗っている時、迷路で迷ってる時…―。



二人でご飯を食べている時、お化け屋敷で悲鳴をあげてる時、クルーズを堪能している時…―。



そして、観覧車で揃ってモジモジしている時…―! 




他にも、写真が沢山。園内を歩いているところとかも、幾つも…! そしてそれらが全部、幸せを切り取ったかのような、楽しい表情で……!





パレードを見るのも忘れて、その写真を見入ってしまう。 ―ふと、一枚の小さな手紙が入っているのに気づいた。



『親愛なるお二人へ、私達からの贈り物。  あなた方の味方で友達、ピエロとミミックより』



と、書かれているのが……!






もしかして…今日一日、ずっと見守られて、写真撮られていた…!?



多分、撮影したのは…ミミック。 色んな場所に潜めるあの魔物なら、きっとこんなことも出来る…!どうやって閉じた封筒の中に入れたのかはわからないけど…。




それより…! ここまでして貰って、なあなあで終わるわけには…いかない…!



覚悟を決めよう…! 勇気をもって、怖がらずに…! 自分の想いを、あの子に…!!




「「あの…!」」



えっ…! 被って…!? で、でも…! 一度口を閉じたら、もう…! このまま、行くしか…!




「その…えっと…! 僕…! 君のことが…!」

「あの…えっと…! 私…! 貴方のことが…!」



―!? ここまで一緒だなんて…もしかしたら…! なら、夢と希望を、信じて――!




「「大す―――」」







ドォーーーーーーーーーーンッッ!!








「わぁ…!おっきい花火!」

「綺麗ねぇ…」

「まるで何かを祝福しているようにも見えるな」




…一際大きい轟音。そして周りから、他の来園客の歓声が。 見上げると、空には大輪の花束。




正直、花火の音のせいで、自分の声も、相手の声も掻き消されちゃった。…でも、多分、大丈夫。





だってほら、『あの子』は……―!





パレードよりも、花火よりも素敵な、満面の笑顔なんだから!




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【~~とある悪漢数人組のリーダーの心中~~】



クソッ! クソッ! クソッ! なんだあの観覧車!



えげつない回転のせいで気ぃ失って、目が覚めたらもう真っ暗じゃねえか!




許さねえ…許さねえぞ…ミミックとピエロ共…! もう絶対容赦しねえ…!



夢…?希望…? どこから来て どこへ行く? そんなものは…この俺達が破壊してやる!!





まずは、あのパレードをめちゃくちゃにしてやる! ぼーっと見てる客共を蹴散らしてやる!



って…!あそこにいるの、あん時の若造カップル! 丁度いい!あいつらからボコボコにして……ぐおっ!?




「どいたどいた! カップル成立のシャッターチャンス!」




痛ぇ…! 何かに押しのけられて、スッ転んじまった…。テメエ、何を…! …は?



「着ぐるみ…!?」







俺を突き飛ばしたのは、昼間ダチを消し去った着ぐるみ…! しかしそいつは、俺達をガン無視するように……。



「ハハッ☆ 完璧に良い顔取れた! あとはこれを、このマジックに使う布でちゃららららら~♪」



「何してやがんだ…?」



理解不能に陥り、ついそう聞いちまう。すると着ぐるみはくるりとこちらを向いて……。




「コルロッフォさんの…ピエロの力で、封筒に写真を転送してんのよ。 ピエロたち、色んなとこに即座転移出来るんだから、そりゃこんなことも朝飯前よねぇ」




そうにやにやしてるのは、着ぐるみの頭を軽く外した…あぁ!? ミミック!?







間違いねえ…! クルーズボートや観覧車で見た奴らと同じ感じだ…! ということはやっぱり…!



「昼間、俺達を襲ったのは…!」



「えぇそうよ!マジックに見せかけて、着ぐるみの中に引きずり込んでやってたのよ!」



ハンッ!と鼻で笑う着ぐるみミミック。と、更にしたり顔を浮かべやがった。




「けど、それだけじゃないわよ! 各アトラクションの椅子の下、お化け屋敷や迷路の中、あのサメやワニも! ぜーんぶ私達ミミックの擬態よ!」



「て、テメエら…! ずっと俺達を見張って…!?」



「当たり前でしょ常習犯共! 本来なら出禁なのに、ピエロの皆さんの寛大な心で見逃して貰ってたんでしょうが!」



そう怒鳴ったミミックは、今度は俺達をギロリと睨んできた。



「けど…その様子からして…まっっったく反省してないようね…! なら、本気で復活魔法陣送りに……!」



そして触手をうねらせ、こちらににじり寄り――。



「…って。あーあ…。 私の…ううん、ミミックの出番はもう必要ないみたいね。自業自得」







「「「「は…?」」」」



俺達は揃って呆ける。ミミックのヤツ、突如ピタリと止まって、触手をしまい着ぐるみ頭を装着したからだ。



「後ろ、見てみなさい。 ――最も、『それIT』を見たら、終わりだけど」



そう促され、ふっと背後に目をやると――。



「ここを…。ボクたちの夢と希望を…壊そうとしたんだネ? なら―…」



っっっっ!? ピ…ピエロが…! 同じ顔した奴らが何人も…!!! そして…白塗りの顔が…!!




「「「「 容 赦 シ ナ イ ヨ ォ 」」」」




お…おぞましい…化け物の顔に……っ!?





ひぃぃっ…! た、た、助け…!! や、闇の中に…引きずり込まれ…!!




ぎゃ…ぎゃああああああああああああああああああッッッッッッ!!!!

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