人間側 とある王女様と卵兎


「ミカド様、到着いたしました。ここが『イースターダンジョン』でございます」


「うむ、くるしゅうない」


案内の付き人と共に、麻呂まろは馬車から降りる。ほう…魔物共のダンジョンにしては案外手入れされている。



それも当然、ここにはあの美姫がいるのだから…!







――なんてことを、ミカド様…もとい兄様は考えておられるのでしょう。現に、ウキウキした様子で馬車を降り、軽くスキップするようにダンジョン内へ向かっていったのですもの。



さて、ではこなた此方達も、後を追う事に致しましょう。









あぁ、これはとんだ失礼を。こなたとしたことが…。



こなたは、『ヒメミコ』と申します。今しがたイースターダンジョンという場所に入っていった兄様…ミカドの妹でございます。


ご存知やもしれませんが、兄様は一国の主。つまりこなたも、それに準ずる身と相成ります。



まあ有り体に言うとなれば、王女ということになりますね。







何故そのような身で、ダンジョンという危険な場に近づいているのか。それには理由があるのです。



以前、兄様はお忍びでとあるダンジョンへと赴きました。確か…『お月見ダンジョン』と呼ばれている、とある時期の月夜に開放されるところにございます。



正直申しますと、こなたはそのようなところがあったとは存じ上げませんでした。なにぶん、夜は眠くなってしまうので…。


月は見惚れるほどに綺麗なのですが、やはりこなたには暖かな太陽の方が性に合っております。





少し話が逸れてしまいました。戻すことにいたしましょう。


こなたが気づいたのは、兄様の様子がおかしくなったと感じてからでございます。




やけに手紙は来ていないかと聞いてきたり、常に詩を考えて上の空になっていたり、兎とお団子に妙な執着を見せるようになったり…。


明らかに前とは行動がおかしいと察しましたため、それとなく探ってみたのです。



そうしましたらなんと…! とある魔物の姫にご執心で、文を交わし合っていると判明いたしました。


しかも兄様のお付きを問い詰めると、次は『イースターダンジョン』なるところに向かい、その姫に会いに行くとも白状したのです。




魔物の姫…。どのような方かは存じ上げませんが…兄様が変な相手に囚われているやもしれません。


その場合は、何とかしてその篭絡の手から解放して差し上げなければいけないと思い、こっそりと後をつけてきた次第でございます。






「ヒメミコ様、お足元にお気をつけくださいませ」


「くるしゅうありません。ふふっ、こなたですもの」


ついて来て頂いた女従者へ微笑み、軽く馬車から飛び降りるように。そして、すたりと着地。


こなたは兄様のように詩は紡げませんが…蹴鞠を嗜んでいますので、足腰には自信があるのです。



さあ、向かいましょう。こなた、初のダンジョンに…!













「咲き誇るお花にも負けない、色とりどりのお餅はいかがー?」


「エッグ団子、生みたて…じゃなかった、出来立てほやほや! 中にカスタード入っていて甘ぁいよー!」


「うさぎ団子、好評につき今回も売ってるよー!」





まあなんと…! ダンジョンなるものは恐ろしき威容だと聞き及んでおりましたが…。これではまるで城下町の賑わい。


暖かな日の元、バニーガールなる魔物達の売り込み口上が、そこかしこから。そしてそれにつられるような、人々の楽しそうな声も聞こえてまいります。



ダンジョンが全てこのような場所ではないとはわかっておりますが…。なかなかどうして、良きところ…! 卵型の建物が、いとかなし。


特に…恥ずかしながらこなたは、時折付き人達の目を盗み、町へと遊びに行くこともある身。故に、楽しくなってまいりました…!





そしてこの入口で頂いたお団子も、中々に格別。お抱えの菓子職人泣かせでございます。従者は諫めようとしてきましたが、代わりに彼女の口の中に突っ込んで差し上げました。



…しかし、この味。どこかで味わったことが…。  …あぁ! 前に、兄様がどこからともなく大量に買い付けてきた美味なお団子と同じ!



なるほど、あの時であらせられましたか。『お月見ダンジョン』なるところに兄様が出向いたのは。


確かに月が美しき巡りでありましたし、丁度兄様の様子がおかしくなった時分と一致いたしますね。





これはこなたも、大量に買い付けていかねばなりません。手頃なお店へ交渉に参りましょう。…おや!



「兄様! この茶屋におられましたか!」









「んぐっ!? ん、ん!? んぐぐ…!?」


こなたの顔を見るや否や、食していたお団子を喉に詰まらせた兄様…! いけません…! 誰か、お飲み物を…!



「―――! ぷはっ…! ヒメミコよ…! 何故ここに…!?」


「兄様が忍んで出かけるのを知り、後をつけてまいりました」



こなたの微笑みを見て暫し呆然とする兄様。直後、お付きの者をキッと睨みます。彼は可哀そうに、顔を必死に逸らして逃げようと。



「兄様、こなたが答えさせたのです。お許しくださいませ。良き場所でございますね、ここは」


お付きの者を助けるためにそう申しますと、兄様は一つ溜息。そして致し方なさそうに乗ってくださいました。



「うむ。『お月見ダンジョン』とはうって変わり、照るような明るさが心地よく占めている。しかしながら、同じように安らぎと朗らかさをも感じる、実に素晴らしきダンジョンであるな」


「まあ流石兄様。こなたも思っておりました所感を実に雄弁に。お見事にございます」



パチパチパチと兄様を褒め称えます。―と、そのついでに、気になっていたことをお聞きしてしまいましょう。



「ところで…おひとつお聞きしたいのですが…。あのバニーガールなる魔物達の、その…破廉恥な服装は何なのでしょうか?」







ずっと不可思議だったのは、バニーガール達の服装でございます。白や灰、黒の柔毛に包まれておりますが…あれは確か『バニースーツ』なるもの。


賭場やそのような場所で良く用いられていると聞く、少々ふしだらな衣装。そのようなものを、どのバニーガール達も着こんでいるのです。




「ほう。麻呂の妹だけあって、目の付け所は流石である。しかしなんでも、あれはバニーガールの伝統衣装が一つらしい。それを麻呂ら人間が模倣し、用いているだけなのだと」


「まあ、そうなのですか?」


「確かだ。とあるバニーガールの者から、そのような説明を受けたのでな」



別のところとはいえ一度行った経験があるために、既知の仔細を語ってくださる兄様。…はて、その教わった相手とは、もしや…?



「そのバニーガールの者とは、兄様が文を交わしている美姫とやらでございますか?」









「ごほっ!? げほっ…げほっ…!!」


あぁ…!? 兄様、今度はお茶を喉に…! 背中を叩いてあげまして、と…! 



「…何故なにゆえ、それを知っているのだ…。 いや…!」


先程より強く、お付きの者を睨む兄様。その間に割り込むように、こなたは入ります。



「彼を責めないでくださいませ。そもそも兄様、手紙が来ていないか結構な頻度でこなたに訪ねてきたり、まつりごとさ中でも詩を詠むのに必死になっていたりもすれば、こなたと言えども察します」



「ぐむ…」



言葉に詰まってしまう兄様。そして次には、完全に諦めた表情へと。


「教わった相手は別の者だ。最も彼女は、かの美姫の…カグヤの妹御のようでな。快活さと美しき器量を兼ね備えたバニーガールであった」


そう解説すると、兄様は煩うかのような惚けた顔に。


「しかし、カグヤはそれを容易く超える撫子、まさに玉のような美人でな。十二単を纏ったその姿は、天の羽衣を纏いし月の輝きの化身とも呼ぶべき―」




「そこまでお褒めの言葉を頂いてしまうと、わたくし、かの羽衣を纏わずに参りましたことを恥じ入るばかりでございます」







兄様の台詞へ被せるように、鈴のような耳障りのよい声が。思わずそちらを見ますと―。



「…まあ!」



そこへ居られましたのは、確かに天女の如き、明眸皓歯めいぼうこうしにて仙姿玉質せんしぎょくしつな麗しき佳人。彼女が、カグヤ姫様…。


しかし…お召しになっているのは十二単ではなく…その、他のバニーガールの方が纏っているふわふわバニースーツ。


そして少し恥じらう様子が、その服装と艶やかなギャップを構成しておりまして…。



パンッ



……?  あぁぁっ…! こなたが見惚れてしまっている間に、兄様の鼻が破裂して、血が…!!













ふぅ…。 先程は驚いてしまいました…。



カグヤ姫様の姿を見た兄様が、鼻から血を出して倒れまして…。今はカグヤ姫様に膝枕をしていただき休んでいるところにございます。



その間に、彼女と幾つか話をさせていただきました。カグヤ姫様、器量も宜しければ性格も宜しき淑人であらせられました。 こなたの心配、どうやら余計なお節介だったようです。



そして先程話に出てまいりました、カグヤ姫様の妹御。名をイスタ姫様と仰るようですが…、どうやら彼女が此度のダンジョンを仕切っているご様子。



しかも、幸運が訪れる加護が褒賞となるイベントを開催していると聞きました。せっかく来たのですし、兄様の介抱はカグヤ姫様に託すことにいたしまして、参加をしてみますことに。



同じ妹同士、気が合えば幸いなのですけど…。





そうそう。驚いたことがもう一つありました。 茶屋でお団子を頂いたのですが、その際、お団子の乗せた三方さんぼうが跳ねながら手元に参ったのです。


これ如何に…? と唖然としておりますと、カグヤ姫様が教えてくださいました。なんでも、中に『ミミック』なる魔物の一種が入りお手伝いしているのだと。



確かに、横の穴から奇妙な色の蛇が顔を覗かせました。お団子一つ分けてあげますと、喜んでくねりくねりと舞を見せてもくれました。なんともおもしろきかな。



そんなミミック達もまた、宝探しの仕掛け役として協力しているらしいのです。 わくわくしてまいりました。










さて、そうこうしているうちにダンジョン最奥の本殿にたどり着きました。どこで受付をすれば…。


…はて? あれは…?



「ぴょんぴょんぴょーん! こんな良い日には~! 踊らにゃぴょんぴょん♪」



…カラフルな巨大卵がいくつもくっついた建物…。ここが本殿で相違ありません。ですが…その屋根?の上で楽しそうに踊り狂っているバニーガールの方が。



あの容姿…あの口調、そして手にしている輝く玉の枝…。間違いありません、あの方がイスタ姫様…?カグヤ姫様と、雰囲気が全く違います…。




「ぴょん? あなたもエッグハントの挑戦者っぴょんか?」



そんなこなたを目敏く見つけ、彼女はぴょんっと本殿より飛び降りてまいります。 …あら、確かに、カグヤ姫様と並ぶほどの美しき目鼻立ち…。常に動いているので少々分かりづらいのですが。



「私の加護、欲しいっぴょん?」


「…へ。 えぇ! こなたも挑戦してみたいのです!」


問われていたのに気づき、こなたは慌てて頷きます。するとイスタ姫様、楽しそうに笑みを。



「ふっふっふー! ならば試練を与えるっぴょん! はいこれどーぞっぴょん!」



くるりと一回転しつつ、どこからともなく紙を取り出した彼女は、それをこなたに。これは…?



「この地図に描かれている卵、五種類! 全部集めて私のところに持ってくるぴょーん!」



なるほど…! こなたの中のお転婆心が滾ってまいりました…!












担当のバニーガールの方から詳細の説明を受けまして―、いざ宝探し開始と!まずは…。



「ここの岩場にある、『岩模様の卵』でございますね…!」




最初にやってまいりましたのは、大小さまざまな岩転がる荒れ地。普段は特に気にも留めぬ場所ですが…。


「こう見ますと、至る所に隙間があるもので…」



岩々が乱雑に積まれたそこには、手が入るかわからないほど小さい隙間から、身体がすぽりとはまってしまうほどに大きい隙間がそこかしこに。この何処かに、卵が…。



「ヒメミコ様、お召し物が汚れてしまいます。どうぞ私めにお任せを…」


「いいえ、なりません。こなたが挑戦するのです。 …あぁでも、あなたも加護を賜りたいのであれば、共に探すことにいたしましょう!」


惑う従者を半ば強引に誘い、岩場に足を…おっとっと…! 


「こ、これは…中々に歩みづらく…!」


着の身着のままで来たのが災いしてしまいました。せめて、お忍び用の軽装束を纏ってくれば…。


…いえ! これも一興。聞くところによると、兄様も同じような宝探しを完遂したと。ならば、こなたに出来ぬわけありませぬ!





「ここには…ございませんね…。 そちらは見つかりましたか?」


「いえ、何も…」



少しの間、穴を覗き歩きを繰り返します。存外見つかりませんが、これもまた楽しく…! …おや!そのようなことを思っている間に…!


「発見いたしました! よいしょ…!」


とある隙間の奥に、ちょこんと置かれているのを見つけることができました。手を差し入れまして…!


「柄も一致しておりますね! まずは一つ目…!」


取り出したそれを、ウキウキと懐に忍ばせた時でございました。



カパンッ



「…!? まあ…!」


今しがたこなたが手を入れた隙間の真横、抱えることの出来そうな大きさの岩が開きました…! そして中から、先程もお見かけした、蛇が…!?


「お下がりをヒメミコ様!」


慌ててかけつけた従者が刀を引き抜きますが…。その蛇は何も気にすることなく、自らの入る岩の中へと顔をごそり。岩模様の卵を咥え取り出すと、隙間の奥へとすっと置いたではないですか…!



「なるほど…! ミミックがお手伝いとは、このような…!」



先のカグヤ姫様のご説明、これにて納得いたしました。…しかし全く気付けませんでした。


ミミックは宝箱や物に潜んで冒険者を襲う魔物だと伝え聞いておりますが…こうも擬態が上手いと、誰も彼も引っかかってしまうこと請け合いでございましょう。



…もしかして、他の卵のところにも…? 俄然、興味が湧いてまいりました…!











「次は…『兎と時計模様の卵』でございますね!」


やってまいりましたのは草原。青々と茂っております。 はて…?このどこに、卵が…?




ジリリリリリリリンッ!




「あら…? どこからともなく、目覚ましの鈴の音が…」


その音に惹かれ、草原の中へと。 すると―。



ピョーンッ!



「まあ、兎が…!」



軽やかに跳ねたのは、一匹の兎。懐中時計を身につけ、チョッキを着ているようでございます。そして手には、卵を抱えておりました。



「捕まえろ、ということでございましょうか…? そうと決まれば…!」



追いかけさせていただきましょう…! 従者に回り込むよう指示して、一気に走り寄ります…!



「お待ちくださいませ…!」


駆けるこなた、逃げる兎。追いかけっこと相成りました。 ふふ、愉快にございます。


そうそう、そのままお進みに。その先には…!



「ハッ! 捕らえました、ヒメミコ様!」


こなたの従者が潜んでいますので!  これで二つ目にございます。




従者が抱きかかえた兎から卵を貰い、自らの懐へ。 ここは兎が仕切っているとあらば、ミミックはいないのやも…。



パカリ



…!? な、なんと…! 懐中時計の蓋が開き…触手が…!  そしてその触手は、別の卵を握って…!


…!?!? どうやってそのサイズが、懐中時計の中に入っていたのでしょうか…!




取り出された新たな卵を手に、兎は草原のどこかへと消えてゆきました。 今しがた目にした面妖な光景に目を擦りつつも…三つ目に参りましょう。











「えーと…お次は『竹と筍模様の卵』でございますね」



辿り着いた先は、竹林。鬱蒼としているほどではなく、整備の手は入っているご様子。



しかしこれまた、ヒントがございません。とりあえず、辺りを見回しつつ―。 はて、あれは…。



「竹が、光って…」



竹の葉の隙間から入る木漏れ日の中、それを弾くほどに強い輝きを放つ竹があるのです。


丁度こなたの顔の位置付近でございましょうか。その節の部分がきらきらと。思わず近づき、手を触れてみますと…。



カパリ



と軽い音を立て、竹の一部が蓋のように開きます。中には…灯りと、可愛らしい燕…?



「これは…『宝箱ツバメ』という、ミミックの一種にございます。…しかし何故に竹の中に…?」


従者が解説を挟んでくださいましたが、彼女もまた首を捻っております。するとその燕は、灯りの裏を探り、何か小さな紙を…。


「「下…?」」



それは、下矢印が描かれた紙にございました。従うように視線を下げると…。そこには筍が。もしやこれが…。



スポンッ!



ま…! とても簡単に抜けてしまいました…! おや、こちらも開くようで…パカリと。


「卵…!」



燕の卵ではございません。竹と筍模様の卵がその中に。なんとまあ、奇々怪々な隠し方。




しかし、もっと奇々怪々なことが。筍を地面に置き直しますと、そのまま地面を滑り始めたのでございます。


宝箱ツバメなるミミックも、矢印紙を刺し直した灯りを咥え、それを追い飛び立ちます。そして少し先の竹に入り、筍もその真下に停止いたしました。



そのように位置替えもできるとは…。ミミックとは、なんとも頭が良き魔物で…。









『四つ目は…。『卵模様の卵』…?』


地図には、カラフルに塗られた卵に、更に卵が描かれております。これはどのような…。



「エッグハントの参加者さーん? こっちこっちー!」



と、聞こえてまいりましたのはバニーガールの声。そちらに赴くと…! なんと…!



「これは…! 大きな卵にございますね…!?」



そこに鎮座しておりましたのは、カラフルに染められた、こなたの身より更に大きい卵。なにかしらの魔物の卵のようでございます。 と、従者がぽつりと。


「この巨大さ…。ロック鳥の卵でしょうか…」


はて…。こなたはそのろっく鳥は存じ上げませぬが…。よほど大きな鳥に違いないのでしょう。どうやらその殻を流用した様子にございます。





「これを転がして、あっちの道をぐるり一周したら卵あげまーす!」



バニーガールは、目的の小さい卵を手にルールの説明をしてくださいました。なるほどと頷き、卵へ手をかけようとした、そんな折でございます。



「普通に押して転がすのと、中に入って転がすの、どっちが良いですかー?」




バニーガールから、妙な提案。中に入るとは…? そう疑問を口にすると、彼女は耳をぴょこぴょこと。


「こういうこと! お願いしまーす!」


パカッ

「はーい!」





なんとなんと…!巨大卵の殻が開き、中から女魔物が姿を現したではないですか…! すると、従者が再度呟きを。


「じょ、上位ミミック…!?」


どうやら、ミミック達の上位存在のようで。一体どのようなことをしてくださるのでしょう。



「中に入ります?」

「えぇ!」


こなたが頷くと、上位ミミックはまたも快活な返事一つ。そして、手を…ひゃっ! 幾本もの触手に…!?


そのままこなたと従者は絡めとられ、卵の中に…! な、なんとも不思議な感覚…!



「私達はこのまま動けるのだけど…。あなたがたは前が見えないと動きにくいですよね~」


殻の蓋をパタンと閉じた上位ミミックは、そう言いながら端についた魔法陣へ手を触れます。すると―。



「まあ…!景色が…!」



卵の殻が透け、外の景色が良く見えるように…! これは魔法でしょうか…!



「アストちゃん特製、透視魔法! さ、動き出しますよー! 微調整は私がやるのでご安心を! れっつらごー!」





上位ミミックの号令を元に、こなたと従者は卵の壁を押しゴロゴロとっとっと…! ひゃわわ…!


た、卵ですから…!楕円形ですから…! 上手に転がりません…! あっちへころころこっちへころころ…!



「も、もうちょっと向こうへ動いてくださいませ…!」


「は、はい…!ヒメミコ様…! で、ですがこのままいくと…!わわわわ…!」



2人揃って、卵の中でわちゃわちゃ。時にはすってんころりんと転んで卵壁に張り付いてしまい、一回転してしまいます…!


有難いことに、こなた達の身と卵の進行方向に危険が迫る度に、朗らかな笑いと共に上位ミミックが手助けを。そのおかげで、心地よいドキドキが身を包みます…!



あわわ…! そんなことを述べている間に…! 卵がまた変な方向に…! あわわわわ…!!







「おっかえりなっさーい! どうでしたー?」



「恐らくは…一生味わえぬ痛快な気分で…! そして、ひよこになった気持ちにございます…!」



卵から降り、少々くらつく頭でバニーガールの問いかけに答えました…。 あぁ、ぴよぴよ…!



「楽しんで貰えて何より何より! はい!卵をどうぞー!」




これで…四つ目…! 残りは一つ…!














「最後の一つは…『波模様の卵』でございますか…!」


楽しき卵探しもとうとう次が最後。少々寂しくもあります。



さて、残るは青く染められた卵。指し示されたのは、池にございます。





おや、あれは…! 池の真ん中の小島に、山積みにされた目当ての卵。なるほど、あれを取ってくれば良いのですね…!


しかし…足場がございませぬ。どこかに何か…。 ……むむむ…?




池を見渡していると、何かがぷかりぷかりとやってまいりました。これは…! サメ…!? いえ、ワニ…!?


…いえ、どちらでもございません。サメのヒレのような手すりが中央に立っている、ワニのような色と見た目の巨大な蓮…?


とにかく、足場らしきものが点々と動いているのです。どうやら、この上を跳ねて向かえということでしょう。



「では、行ってまいります!」



心配する従者を黙らせ、いざ八艘飛び…ならぬ、はっすぅ跳び…。少々無理がございました。



言葉遊びには失敗いたしましたが、飛び移りは好調。兎のようにぴょんぴょんと♪



―と、思いきや…。この蓮、勝手気ままに動くのです。故に、次の蓮が丁度良き位置に来るのを待つことも。どうなっているのでしょう。





「これにて…到着!」


なにはともあれ、危なげなく目的地へと。卵を懐に仕舞い…。



「そういえば、この蓮はどのような仕組みなのでございましょう?」



ふと興味をそそられ、しゃがみ込んで最も近い蓮へ触れてみます。ふむふむ…やはり本物の蓮ではございません。触り心地は案外固く、作り物の浮き足場にございます。


そして何故動いているのでしょうか。少々はしたないですが、蓮を軽く持ち上げ、裏側を…。



「まあ…!」



なんとそこにいたのは、宝箱。 もとい、宝箱型のミミックでございました。どうやら頭…蓋?部分に足場を取りつけ、泳いでくださっていたご様子。



泳ぐ宝箱とはまたまた奇天烈。ミミック、不思議な魔物でございます。





「ヒメミコ様! お早く…!」


と、従者から急ぎの声がかかってしまいました。あんまり不安にさせるわけにも行きません。来るまでの間でコツは掴みました。


では、次こそ八艘飛びで! せーの…! それっ! それっ! そっ……



ズルッ



「あ、あら…?」





バッシャーンッ!














「ぴょんぴょんぴょーん~♪  ぴょん? 集めてきたぴょん? …って、びっしょびしょぴょーん!?」



本殿で出迎えてくださったイスタ姫様は、こなたの姿を見るなり耳をピンと驚きの仕草…。


えぇ…。調子に乗ってしまいました…。 お池にバシャンでさあ大変でございます…。行きはよいよい帰りは怖い、と…。



ですが、泳いでいた宝箱ミミック達が一斉に助けに動いてくださり、すぐさま岸へと打ち上げて頂きました。


従者も慌てて服をかけてくださいましたが…。悪い事をしました…。彼女、今、袴とサラシだけになってしまっているのですから…。



まあ、ただ…。散々遊んで火照った身体に、心地よい冷たさでした…!






「風邪ひいちゃうっぴょん! 私達の服、着るぴょん? 加護かかっているから快適ぴょんよ?」


そう提案してくださるイスタ姫様。と、いうことはつまり…。



「ひ、ヒメミコ様…! それは流石に…!」


「是非!」


引き止めようとする従者を押しのけ、お願いいたします…! 今は四の五の言っていられませんので。


…というのは建前で…。実はこなた、気になっていたのです。バニースーツとやら…!



「そうっぴょん? じゃ、急いでこっちに来るっぴょん!」


こなたの手を引き、駆け出そうとするイスタ姫様。 ―が、その時でございました。








「ようエロい嬢ちゃん達…! 悪いけど襲わせてもらうぜ…!」


どこからともなく現れたのは、明らかに悪漢数人組。この場の雰囲気には相応しくない汚らわしさにございます。



「へへ…! どこぞの王族かは知らないが…水も滴る美女ってか?」

「そっちの女武者も、良い身体付きしてやがる…!」

「だがド本命は、そこのバニーガール…! そして、そのお宝の玉の枝だぁ!」



じりじりと迫ってくる彼ら。こなたの従者は即座に刀を抜き、応戦の気構え。しかし―。



「あぁもうっぴょん! 普段なら難なく蹴り飛ばしてやるっぴょんに…! 今は取り込み中っぴょん!」



叫んだのはイスタ姫様。そして手にした玉の枝を…。



「社長、お願いするっぴょーん!」



なんとなんと…! 放り投げました!?








「さ、今のうちに着替えちゃうっぴょん!」


「え、いえ、その…! あ、あれ…貴重な品なのでは…!?」



ぐいぐいと手を引いてくるイスタ姫様に、思わず問うてしまいます。すると彼女、即座に頷きました。


「そうっぴょん。大切な宝物っぴょん」


「で、でしたら…!」


「心配ないっぴょん! ほら!」



イスタ姫様が指さしたのは、くるくると宙を舞う玉の枝。悪漢たちはそれを受け取ろうと手を伸ばし―。



パカッ



「御石の鉢(※ただし、レプリカ)でぇ~! どーんっ!!」



ドゴスッッッ!!





……!?!?!? い、一体どうしたことでしょう…!? 空中から石の鉢が現れ、悪漢の1人を叩きのめしました…!


い、いえ…正確には…。玉の枝の先についていた、真珠のような玉の一つが割れ…その鉢が出てきたのでしょうか…!? そんな瓢箪から駒のようなこと、有り得るのでしょうか…!?



そしてその鉢の中には……バニースーツとウサ耳をつけた…上位ミミックが!! もしや、彼女の力…!?




「月は出ていないけど、お仕置きよ!」


玉の枝をキャッチし、決めポーズをとる上位ミミック。そしてそのまま暴れ始めました…!



「ひぃいいいっ!?」

「助けてくれえぇえ!」

「ぐええっ…」



悪漢達の悲鳴が上がる中、こなた達は茫然のまま、建物の中に連れられたのでした。













「よいっしょっぴょん! ここが一番気持ちいいっぴょん!」


「まあ…本当でございますね…! 暖かな光がこの身いっぱいに注いできます…!」



イスタ姫様とこなたは、卵型の本殿の上へと。冷えた体が、暖まってゆきます。それに―。



「このバニースーツ、着心地、とても良いのですね…!」



着せてもらったバニースーツを撫でつつ、感想を口にいたします。 ふわふわで、暖か。それでいて暑くはならない特殊な服でございます。ウサ耳もつけておりますが、似合っているでしょうか?



こなたの従者ですか? それが…こなたのバニースーツ姿を見たら泡を吹いて倒れまして…。寝かせております。 彼女にも似合っていると申してほしかったのですが…。というか、彼女にも着てほしかったのですが…。







「そうっぴょん! エッグハント完遂の加護、まだ授けてなかったっぴょんね! 手を出すぴょん!」



揃って日向ぼっこしていますと、イスタ姫様は思い出したようにぴょんと手を打ちました。こなたが手を差し出すと、優しく握り―。




「あなたに、幸運が訪れますように―。」




…まあ…!まあまあ…! イスタ姫様、確かにカグヤ姫様のような静やかな美しさを湛えて…!



「―はい、これで授けたっぴょん! いいことあるぴょんよー!」



あらほんのちょっと残念。先程のあっけらかんとした顔に戻ってしまいました。…そうだ、丁度良い機会ですので…!



「イスタ姫様、こなたにもう一つ幸運を授けてくださいませんか?」


「へ? なにぴょん?」


「こなたと、お友達になって欲しいのです!」





「わぁ! 勿論っぴょん!勿論っぴょん! 私にも楽しい友達が出来たっぴょん! 踊っちゃうっぴょん!」


「では、こなたも共に…!」



そのまま、屋根の上で2人でお転婆な舞を。 悪漢達を外に追い出した上位ミミックの方が、お団子を差し入れてくださるまで、こなた達は踊り続けたのでした。


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