顧客リスト№49 『魔族達の学園ダンジョン』

魔物側 社長秘書アストの日誌



キーンコーンカーンコーン




建物全体に、チャイムが響く。すると、私達に群がっていた皆は慌てたように席に戻っていく。



それからわずか後、ゆっくりと一人の女性がこの場へ入ってくる。彼女を見た担当の子は、元気に号令をかけた。



「きりーつ!」



それに合わせ、皆はガタガタと立ち上がる。私と社長も、それに合わせる。全員が揃ったのを確認すると、担当の子は再号令。



「れい! ちゃくせーき!」



一斉にお辞儀をし、再度机に着席。その手慣れた動きに合わせるようにブレザーやスカートがふわりと揺れる。



その時不意に、どこか甘酸っぱさすら感じさせる、アオハルな雰囲気がふわりと辺りを包んだ。





そう、ここは学校。若き才英達が集う、学びの場。前途ある彼らが学徒となりて過ごす、光輝く園―。









…………うん…。それは良い、それは良いのだけど……!








「なんで私も、学生服を着せられているんですか!?」













ハッ…! 思わず叫んでしまった…! …でも、許して欲しい。



だって私、もう普通にお酒飲める歳。こういうのを着る年齢ではない。こんな、リボンに、ブレザーに、チェックのスカートなんて……。結構可愛いけど!




「似合ってるわよアスト~!」


と、横の席からはそんな社長の野次。木製の椅子にいつも通り箱を乗せ座っているのは良いのだが…何故か、男性物の学生服を着ている。




「そうですよ! アストさん、似合っていますよ!」

「ちょーピッタリ! 年齢わかんないし! 着こなし、うちら並みだし!」

「間違いなく学園のアイドルとかに選ばれるやつですってそれ!」



社長に乗っかる形で、周囲の皆…『学園の生徒』達が男女問わず褒めちぎってくる。いや、嬉しくはあるけども…。




「なら、もっとスカートとか短くしたほうが良かったんじゃな~い?」


ちょっと照れている私を、社長はケラケラ煽ってくる。負けじと私も言い返してやる。



「社長は初等科の服の方が良かったんじゃ? あっごめんなさいっ! 触手で胸を揉もうとしないでください! 不純異性…じゃなくて同性か…! 交遊ですって!!」











ふぅ…。あわや生徒達の前で揉みしだかれるところだった。危ない危ない。…ちょっと男子生徒達が残念そうな顔している気がするけど…。



まあそれはさておき…こんな格好こそしているが、今回もまた依頼を受けてやってきているのである。





ここは『学園ダンジョン』。世にも珍しい、学校とダンジョンの合わせ技。確かにダンジョンの魔力濃度は育ちざかりの生徒達には良い補助となる。魔法練習とかもしやすいし。


因みにだが、ここに通っているのは私のような悪魔族か、エルフやドワーフ、獣人のような亜人族。というかそもそも、学校に通うのは主に人型である上位種ばかりだけども。



そして、どうやらそこに不届き者…もとい冒険者が侵入してくるらしく、その対策として派遣依頼がきたのである。





…へ? ではなんで、私達が制服を着て授業を受けているかって?



いや、それは…なんていうか…。話の流れがそうなってしまったとしか。







実は私、学校に通ったことがないのだ。前にお伝えしたと思うが、一応、アスタロト家という大公爵の娘。


だからか…両親が過保護気味で…。小さい頃は基本的に箱入り娘(ミミックの意味ではない)で、勉強も家庭教師を招いていたのである。



まあその反動のような感じで、今は無理やり両親を説得しきり、こうして社長の秘書として働いているのだけど。




そして社長も、同じく学校経験なし。『ミミックに学校なんてないわよーだ♪』ってゲゲゲと笑ってた。


けど、どうやら現魔王と幼少期からの知り合いらしいので、ついでに色々教わってたらしいけど。







そんなこと(私の素性や社長と魔王の関係は隠して)をここの主である学園長先生にポロっと話したら、『なら是非、体験していきませんか?』と誘われ…今に至るのである。



最初こそ制服を用意され戸惑ったが、確かにこれは新鮮な体験。正直、学園生活に憧れたことはあるし。


そして物珍しさもあるのだろう。授業外の休憩時間とかは常に生徒達に囲まれ、色々と話させてもらった。皆良い子ばかり。



…そういえば社長、その時『良い学パロね!』って言ってたけど…。何それ…?












「―教科書は次のページ、現魔王様の御父君、先代魔王様の政策についてです」



今は歴史の授業中。女性教師の言葉に合わせ、借りた教科書を捲る。写真とかあって凄く読みやすい。



…ふと気になってちらりと他生徒の様子を見てみると、彼、その写真に落書きをカリカリと。やっぱり、あるあるなんだ。



かくいう私も、家庭教師の隙を盗んで描いてたタイプ。ちっちゃいのしか描かなかったけど。






「―というお考えから、各所へのダンジョンの設営を強く推し進め、様々な魔物の力となっています。その政策は現魔王様にも引き継がれて…。では、スデン君!」



「っ!? は、はい!?」



あ。私が見ていた、落書きしていた男子生徒が指名されてしまった。バレてたみたい。 女性教師は、そのままビシリと問いかけた。



「昨日の授業の復習がてら、質問です。 長らく魔王様方の補佐をしている最上位悪魔族の方々の内、先代魔王様のダンジョン繁栄政策にも大きな助力となった『大主計』として名を馳せる一族の名は?」



「あ…えっと…なんだっけ…」



忘れたのか、そもそも覚えてないのかわたわたする男子生徒。女性教師は次々と遊んでいたと思しき生徒を当てていくが、誰も答えられない。




「もー…。テストに絶対出る名前ですよ? なんで覚えていないんですか?」



呆れている女性教師。ならばと正解を言えそうな子を探すが…。その途中に私と目があった。アイコンタクトを交わしあい、彼女は私を指名してくれた。




「では…アストさん。 ご存知でしょうか?」



「はい。『アスタロト一族』です。 先代魔王様のその政策の際は、『ペイマス・グリモワルス・アスタロト』が当主を務めておりました」





一切の迷いなく、ずばりと答える。すると女性教師は、満面の笑みでパチパチと拍手を。


「素晴らしいです! 皆さんも、アストさんのように即座に答えられるようにしましょう!」




…そりゃ、自分の家の話ですから即座に答えられますとも。特にそれ、お爺様…祖父のことだし。





そうそう、説明し忘れていた。我が一族は代々魔王様の主計係を務めている。だから私の魔眼も『鑑識眼』というお金に関わる能力なのだ。



…ただそんな役職でも、現魔王様の顔を見たことがないらしい。社長曰く、現魔王様は恥ずかしがり屋らしいけども…。







まあうちの話や、魔王様の話は置いといて、と。



あの女性教師の方…『プルフソラ』先生というのだが、別に私の素性は伝えていない。いや彼女に限らず、誰にも教えてないけど。


だから、アスタロト家の質問は偶然なのだろう。視線からもそれっぽかったし。 …けど正直、ちょっと肝が冷えてしまった。






そんな私の胸中いざ知らず、プルフソラ先生は授業を続ける。



「―ということで、先代魔王様の政策の一つでした。 …そういえば、超・余談になりますが…。先代魔王様在任当時、魔王様でも一目置く、『最強トリオ』なる三人組が暴れ回っていたとかいないとか…」



なにそれー! と生徒達から笑いが漏れる。 うーん…歴史ならまだしも、噂話はよく知らない…。


そうだ、社長なら何か知ってるかも。そう思い、横に首を向け聞いてみる。




「社長、知ってま…すか…。 って…あちゃー…」



「すぴぃ…」





…寝てるし。 教科書を立て、ぐっすり。暖かな日光に照らされ、プルフソラ先生の授業を子守歌にして。


しかも身体が小さいから、プルフソラ先生もよくわからなかったのだろう。現に今やっと、私の動きに気づいて察し、ちょっと悲しそうな顔をしている。



これはお仕置きが必要。とりあえず立っている教科書を外して、と…。




(プルフソラ先生…! 手のそれで…!)


(えっ…えっ…!? い、良いんですか…!? い、一応お客様なのに…!?)


(構わないです。 一発、バシンと!)


(えっ…で、ですが…! …わ、わかりました…!)




再度プルフソラ先生と、アイコンタクトでそんな会話を。生徒達もなんだなんだとこちらを見る。中には社長の寝姿を見てぷふっと噴き出す子も。




「…本当に、良いんですね?」


「授業中に寝ている社長が悪いんですから。お願いします!」



ゴクリと息を呑むプルフソラ先生へ、私はしっかり頷く。どうやらそれで覚悟を決めてくれたらしい。







「では…行きます…!」



一つ宣言した彼女は、手にしたチョークを思いっきり振りかぶり―。



「ごめんなさい!」



社長に向け思いっきり、投げつけた。








ヒュルルルッ!




魔法もかけられたチョークは、綺麗なコースで直進。そして…。



バシンッ!

「ふにゅっ!?」



見事、社長の頭にヒットした。流石(?)教師。






「ハッ!?」



ちょっと涎を垂らしながら、飛び起きる社長。では、先生に代わり私が一言。



「廊下に立ってますか?」



「あぅ…ごめんなさーい…」



てへりと謝る社長。…だが、こういうひとシーンも、言ってしまえば学園の醍醐味。青春の鮮やかなページに描かれる、落書きの一つ。



それを楽しめただけでも、一日生徒として参加した価値はあったと言えるのかもしれない―。











「―ということで! 気を取り直して商談に移りまーす!」



授業を幾つか受け終え、お昼過ぎ。社長はモードチェンジ。お仕事のお時間である。服は学生服のままだけど。



因みにお昼ご飯は学園の食堂で頂いた。他生徒達に囲まれつつ、和気藹々と。楽しい食事だった。



なお社長は…購買のパン買い競争に参戦してみてた。小さくフットワークが軽いため、あっという間に先頭集団に紛れ込み、焼きそばパンとかを買ってきてた。




その後皆に学園の色んなところを案内してもらっていたが、残念ながら昼休み終了のチャイム。


そこで私達は皆と別れ、応接間でお爺ちゃんな学園長先生と商談を開始したのである。






「では、昼夜問わず冒険者がやってくると?」


「うむ…。その度に教員や風紀委員が倒しに向かうのですが、何分手強く…。加えて生徒達も出入りする場ですから、あまりゴーレムや罠魔法を設置することができんのです」



内情を語ってくれる学園長先生。確かに下手にトラップを仕掛けて、生徒達が引っかかってしまったら一大事。


中には力を揮いたがる生徒達もいるだろうが…教師としてはあんまり許可したくないはず。怪我したら親御さんに示しがつかないし、建物壊れるかもだし。



だからこそ、静かに素早く冒険者を狩ることができるミミックに白羽の矢が立ったご様子。扱いは用務員ということで。






「ふむふむ…。予算的に、この派遣数でどうでしょう?」


「おぉ、充分です! ですが…大丈夫ですかな…?」


社長の提案に手放しで喜んだ学園長先生であったが、直後顔に不安の色を。何故かを伺ってみると…。



「ここは他のダンジョンと比べて、構造等がかなり違いますので…」





なるほど。確かに違う。普通ダンジョンは、そこに棲む魔物達の家。だけどここは、夜になれば基本無人。


それに洞窟とかではなく、色んな校舎が複数並んでいる形なのだ。確かに違うっちゃ違う。―だけど…。



「ふっふっふー! 全く問題ありませんよー! 生徒さんにも色々と案内してもらいましたが、こんな隠れるところがいっぱいなダンジョン、他にはないかもしれません!」



意気揚々と言い切る社長。その通りなのだ。学園ダンジョンには隠れるところがいっぱい。靴箱、ロッカー、更衣室、机、ピアノ…なんでもござれ。


これだけあれば、ミミックじゃなくてもかくれんぼとか問題なくできる。リアルな鬼ごっことかも。




ほっとする学園長先生に向け、社長はにんまりと、ちょっと学園に相応しくなさそうな笑みを浮かべた。



「では冒険者達に、学校の怪談を味合わせてみせましょう…! フフフフ…!」












商談は纏まり、契約書も頂いた。ふとそんな折、学園長は想わぬ提案を。



「ところでミミン社長、アストさん。折角生徒のご体験をなされたのですし、もう一つ面白い体験をなさって行きませんかな?」



「「へ?」」














昼過ぎの一時限が過ぎ、少し日が傾いてきたのがわかる頃合い。食後の眠気もようやく覚めた生徒達が、教室でわいわいと歓談している。



と、チャイムが鳴る。急ぎ席に戻る彼らと同時に教室に入っていったのは…。



「あれ? プルフソラ先生? 次は歴史の授業じゃなくて魔法学の授業では? あでも先生、魔法学も教えられるんでしたっけ?」



先程もこの教室で授業をした女性教師プルフソラ先生。生徒達の訝しむ顔に、彼女は微笑み返す。



「いいえ、私じゃありません。なんと今日の魔法学の授業は、臨時教師の方が勤めてくださることになりましたー!」







「え?」

「だれだれ?」

「なんで突然に?」



ざわつく教室内。プルフソラ先生は、満を持して、紹介を行った。




「なんと……! アスト先生でーす!」












「ど、どうも…!」




「わー! アストさんじゃん!」

「先生役もできるんだ…!?」

「へぇ…お手並み拝見…!」



おずおずと私が入ってくると、みんな多種多様な歓声を上げてくれる。 そう、今度は一日教師体験と相成ったのだ。



とりあえず教える内容を聞いて、難易度的に問題なかったので承諾。…人に魔法教えた経験そんなにないんだけど…できるかな…。緊張してきちゃった…。



あ。流石に服は学生服からチェンジ。いつものスーツに、伊達メガネをかけてみた。ついでに教鞭も持って…女教師感、出てればいいけど。




さて。では深呼吸して…! 授業を始めましょう!









とりあえずは、教科書通りに。でも一応自分の感覚とも照らし合わせて、わかりやすく、と…。



「―っという感じで、この魔導書を使う際には、あらかじめ魔力を手の上で練っておくとかなり楽になります。 えーと…イメージ的には片手に宝珠を持つ感じで」



自分でもやってみせながら、そう教えてみる。よかった、結構真剣に聞いてくれている…! あ、手を挙げてる子が。



「アスト先せーい! ここの詠唱、私上手く出来ないんですけど…」


「どのあたりですか? ―あぁ! そこは難しいですよね。 なら、ちょっと詠唱時間は伸びてしまいますけど…舌の裏を上顎にくっつけるようにして間延びさせて、それから続きを詠唱すれば比較的楽だと思います」



私の言葉に従って試してみるその子。するとすぐできたらしく、喜んでいる様子。


ふと見ると、他の子達もなるほど…!と呟いている様子。






お、今度は向こうの子。ちょっと変な笑みな感じがする。



「下位悪魔の召喚って、何秒ぐらいで成功すべきなんでしょうか?」


「な、何秒…? え、えーと…早ければ早いほど…? でも、とりあえずは成功させるのを優先にしてみましょう。よっぽどの状況じゃない限り、時間はありますから。なにはともあれ、まずはそこからですし」



…そんなこと、気にしたことがなかった…。 まさかの問いに、思わずあたふた。



するとその子は、にやにやしつつ軽く返事をした。



「はーい。 …アスト先生はどれくらいで召喚できるんですか? 10秒? まさか、5秒ぐらいとか無理ですよね?」





…あ。多分試されてる、これ。 とはいっても…どんぐらいだっけ…? まあ試してみればいいか。



「えっと…。 ――。 はい」



「「「「1秒すらかかってない!?」」」」



わっ…! やって見せたら、質問した子以外も一気にざわついちゃった…。また私、何かやっちゃいました?



……とかいう冗談は置いといて。書類仕事の時にお手伝いとしてちょこちょこ出してるから速くなったのかもしれない。やはり、継続は力なり。









「―あ。もうそろそろ時間ですね。 えっと…皆さん、どうでしたか…? 私の授業は…」


丁度良く区切りがついたため、ちょっと質問してみる。 個人的には結構うまくできた気がするけど…。



「分かりやすかったです!」

「なんか今日だけで、レベルアップした気分!」

「あと、魔法詠唱もとんでもなく凄かったし…」



次々と上がる、生徒達からの称賛の声。後ろで見ていたプルフソラさんも、教員顔負けでしたよ! と褒めてくださった。ほっ…良かった…。



さて、後は社長のほう。確か体育教師として一日体験しにいったはずだけど…。







ドッゴォオオンッッッッッッッ!!!













「きゃっ!?」

「な、何ごと!?」



突然校舎を大きく震わせた爆裂音に、私もプルフソラさんもびっくり。勿論生徒達も仰天。


それどころか、周りの教室からも焦った様子の教師達がバタバタと。もしやこれ…!冒険者の襲撃…!?



もしそうならば、加勢しなければ! 急ぎ私も飛び出し、音が響いてきた方向へと…!











「えっ…!? ここって…校庭…!?」



辿り着いたのは、まさかまさかのそこ。かなり広いその場には、異常な光景が広がっていた。



「うぅ…」

「つ、強い…」

「あんなの…化け物じゃん…」



―と、校庭の端の方で、息も絶え絶えに倒れている生徒達。





「くっ…! この僕の、ユニークスキルが効かないなんて…!」

「わたくし、魔法学の主席ですのよ…!?」

「なんで…!? 先生だって余裕で倒せる、最大の一撃を放ったのに…!!」



―と、吹き飛ばされて膝をつく、なんか強そう?なエリート生徒達。




「はぁ…はぁ…! まさか、ここまでの実力者でしたとは…!」

「生徒達では荷が重いと参戦したが…。あれ、教員総がかりでも勝てないぞ…!」

「無茶苦茶よ!なんなのあの方…! 教員資格、返上したくなってきたわよ!?」



―と、肩で息し倒れそうな教師の方々。







彼らが見つめる先、広い校庭のど真ん中。そこでは巨大な爆炎がゴウゴウと唸っている。およそ、何者かがいるようには思えないが…。



「―! 出てきたぞ! 構えろ!」



刹那、爆炎の中で小さく揺れる姿が。気づいた1人が警戒を呼び掛け、立てる人達は一斉に武器を構える。



そんな皆を大胆不敵に笑いつつ、魔王の如く悠然と姿を現したのは……!





「ふっふっふっふ…! まーだまだ! これぐらいなら、アストの方が何倍も強いわね!」





…………社長だった。しかも、ブルマ履いてる…。











「さあ!どんどん来なさい! 片っ端から揉んでやるわよ!」


爆炎をバックに、手を大量の触手にして吼える社長。 …揉むっていうのは胸ではなく、相手をしてやるという意味なのであしからず。




「いくぞッ!!」

「「「おーっ!」」」


掛け声と共に、一斉に飛び掛かって行く生徒&教員達。 しかし―。






「てりゃっ!」


「ぐあっ…!」


剣で切り付けようとした生徒を触手でデコピン。それで軽く吹っ飛ばした。





「魔法を…!」


「遅いっ! そーれ!」


詠唱しようとしていた生徒を杖ごと巻き捕まえ、そのままくるくると独楽みたいに回し戦闘不能に。





「隙あり…食らいなさい!  …なっ…!?」


「惜しいですね! 箱ガード!」


その間隙を見事に突いた教師の魔法の一撃を、箱に身を隠すことで完全ガード。身体はおろか、箱にすら傷がついていない。





「ち、ちくしょう…! 俺の攻撃ステータス…85000はあるんだぞ…!?」


「残念ね! 私のステータスは53万…いえ、カンスト済みよ! 知らないけど!」



更に襲い掛かってきたエリート生徒達の一撃を触手で直接ピタリと止めた。そしグーンと打ち上げ…



「せ、先生ー!」


ドーンッ!




…と、流石に爆発させることはなく、お手玉のようにポンポンポーンと。







そんな感じに千切っては投げ、千切っては投げを繰り返しまくる社長。 暴れてらっしゃる。


うーん。見たとこ、授業の一環で胸を貸したってとこっぽい。周りを見ると、倒れてた生徒達も座り直して見学し始めた。



社長自身は大怪我はさせないように配慮しながら戦ってるみたいだし…。まだ全然余裕ありそう。


じゃ、今の内に掠り傷負っちゃった子達の治療だけしとこっと。






「一体何が…! なっ…! あれは…!?」



そうしている間に、プルフソラ先生が到着。状況説明且つ、うちの社長がごめんなさいしたほうが良いと思い、そちらへ。



と―。





「むぅ…! あの暴れっぷり…やはり間違いない…!」



あれ、学園長先生。 どうやらずっと居たみたい。 多分戦闘許可だしたのも彼なのだろう。



「知っているのですか!? ライデン学園長!?」



そんな彼に、プルフソラ先生は驚愕して聞く。…そういえばそんな名前の学園長先生だったの、すっかり紹介しそびれてた。



そして問われたライデン学園長先生は、力強く頷いた。



「うむ…! 彼女は、かの伝説の『最強トリオ』が1人に違いありませんな!!」






「公的な記録には何故か残っていない、先代魔王の在任時に発生した、幹部率いる魔王軍団vs人間達の合同騎士兵団の激突…! そこにたった三人で乱入し、無傷のままに双方を壊滅させボッコボコにした…。それが『最強トリオ』の伝説…!」



どこぞの説明キャラのように、すらすらと語りだす学園長先生。そして唸るように続けた。



「なんでもそのトリオは先代魔王により結成され、彼の命により至る所で暴れたという…。まさに、向かうところ敵なしの無双三人衆…!! その内の1人、それがミミン社長であらせられたとは…」





学園長先生の解説に、もはや言葉を失ってしまったプルフソラ先生。私は代わりに、一つ質問を。



「あ、あの…。何故そのトリオに、社長が入っていると…?」



「えぇ。そのトリオ構成は、まことしやかに噂されています。まず、圧倒的な魔法を用いる魔王の血族。そして、あらゆる相手を魅了し幻覚に包んで好き放題操るサキュバス。そしてそして…全ての攻撃を箱で弾き、触手で薙ぎ倒していく上位ミミックであったと…!」




…あぁそれ…。間違いなく社長達だ…。現魔王様と、オルエさんと、社長……。


よく三人で遊んでたって聞いたし、該当するの、多分その三人ぐらいしかいないだろうし…。




どうやら、結構やんちゃしていたらしい。…やんちゃの域超えている気がするけど。というか、完全に味方ボコってない…?



社長に聞いても誤魔化されそう…。今度魔王様に合わせて貰えるし、その時に聞いてみようかな…。畏れ多いかな…。


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