人間側 ある冒険者達と機雷

「様子はどうだ?」


「サメ共の哨戒は丁度過ぎた頃合いっぽいな。行くなら今だぜ」


水中、いや海底の岩礁に身体を潜めながら、俺達は先の様子を窺う。そこには、穴ぼこだらけになって横たわる…沈没船の数々。



あれらは元はと言えば、勇猛果敢に海上を駆けていた連中なんだろう。それなのに沈んじまうなんて不幸なものだ。


しかし、安心して眠っていて貰いたい。共に海の底に転がってしまったお宝は、俺達が引き上げて有効活用してやるのだから。







俺達はトレジャーハンター。宝があるならどこへでも。例え火の中水の中草の中森の中、あの子のスカートの中にだって潜る覚悟の冒険者パーティーだ。



そして、今日はそんな『水の中』にやってきている。 海のど真ん中、『船の墓場ダンジョン』と呼ばれるところに。



ダンジョンとはいっても、洞窟とか遺跡とかではない。かつて誰かが乗り、何かしらの理由で沈んだ『沈没船』群によって構成された、変わったダンジョンだ。




沈没船…! あぁなんと浪漫溢れる響きだろうか。今や魚達の棲み処となっている、古びた船。一目見ればいにしえの船員達に思いを馳せることができる、素晴らしき存在。


そう、素晴らしい存在だ…!! 既に動かぬその身には、たっぷりの金銀財宝も眠っているのだから。




トレジャーハンターの血が騒ぐに決まっている。なにせ俺達の大好きな三大標的は、うち捨てられた古代遺跡、地中の埋蔵金、そして沈没船。これに決まりだ。



……いや、暗く静かな洞窟というのも捨てがたい…。希少鉱物が眠る鉱山を掘っていくのもたまらない…!ジャングルの奥地や絶海の孤島を指し示す宝の地図なんて最高レベル…!!



くそっ…三つになんか決められるか! 俺達トレジャーハンターは強欲なんだ!








「おい何してんだ? 行こうぜ。早くしなきゃ見つかっちまうぜ」


「…あ。 あぁ…!」



頭の中でトレジャーハント的好物件選手権をしていたら、仲間達に置いていかれかけていた。サメやマーメイド、そしてネレイス…海の精霊達が来る前に船に入らなければ。



ここはあくまでもダンジョン。故に、棲んでいる魔物達が防衛に動く。まずはそれをどうにかして避けるか、下さなければいけない。ちょっと、いやとんでもなく面倒だ。


幾ら水中適正の魔法をかけまくってるとはいえ、海中だと勝手が違う。武器を振るのもやけに遅くなるし、炎系魔法も効果が薄い。


極めつけに下手に浮き上がると、着地するまで時間がかかるから力みにくい。そんな状態で水棲魔物の相手をしなければいけないのだから、本当に骨が折れる。




因みに、こんな海中ダンジョンに侵入する方法は二通りある。ダンジョン直上まで高速艇で来て、一気に潜るやり方。そして今の俺達のように、少し離れた場所で降りて、ゆっくり近づく方法。


こっちの手段の方が警戒されにくいから、出来る限り戦いを避けたい場合に向いている。それが功を奏し、魔物が来る様子は…。…ん?



「おい、なんだあれ?」



目の前にある沈没船の近くに妙なものをみつけ、仲間に声をかけてみる。 あれは…魔物…ではなさそうだ。何かが複数揺蕩っている感じか…?



「なんだぁ…?」

「超でっけえ…ウニ…?」

「にしては、棘少なさそうだし…なんか紐みたいので止まってないか?」


仲間達3人も首を捻りながら、更に距離を詰めてみる。ある程度近づくと…。あぁ、正体がわかった。



「『機雷』ってやつか…」






海底から生える海藻のようにゆらゆらと揺れているのは対船兵器、機雷。ゴンッとぶつかったらボンっと爆発するアレ。


それが幾つか、沈没船への侵入を防ぐように並んでいるのだ。しかし、珊瑚とか海藻とか錆とかついていて如何にも年代物。もはや兵器の役割は果たせそうにない。





「んー? この間ここに来た時、あんなものあったっけか…?」


「ここの沈没船群何故か位置変わるし、どこからか流れてきたんじゃねえか?」



眉を潜める仲間の1人に、他の1人がそう答える。…まあ、確かにそうだ。



ここの沈没船は、時折位置が変わる。それどころか、新しい沈没船もどこからか運ばれてもくる。多分ネレイス達が何かやっているんだろうが…。おかげで飽きなくて良い。


大方あの機雷も、どっかの沈没船の積み荷が漏れ出して偶然置かれたとか、ネレイス達が適当に置いたとかだろう。



…だが……。




「ああ並んでると、ちょっと近づくの怖いな…」


ボソリとそう漏らしてしまう。先に言った通り機雷は、丁度沈没船に入れそうな穴の前に鎮座しているのだ。


「んだよ。船用の兵器だろ? 俺達には反応しねえさ!」


と、仲間の1人が豪快に笑う。それでもな…と渋っていると―。


「しゃーねーな…おらよ!」


そいつは俺の装備…ハープーンガンを勝手に取り… 




「バシュンッ!!  ってなァ!」



はっ!?!? 撃った!?











「「「待て待て待て! 何してんだお前!?」」」


慌てて三人がかりで止めるが、既に遅し。放たれた銛は水中を貫くように突き進み…。



ゴンッ!



と、機雷に…激突してしまった…!






「「「っ…!!」」」


銛を撃ったヤツ以外、揃って身を縮める。 しかし…。


「ほら見ろ! あれぐらいじゃ爆発しないだろうが!」


聞こえてきたのは、そいつの笑い声。恐る恐る顔をあげると、銛が当たった機雷は爆発することなくふわんと揺れ、元の位置に。



「全く…怖がり過ぎなんだよ! そんなんじゃ良いお宝は手に入ら…」


ニマニマしながら肩を竦めるそいつ。俺達はその言葉を遮るように―。





「この馬鹿! 不発で済んだから良かったものを…!」


「もし爆発したら船は宝ごとぶっ壊れるし、ネレイス達も駆け付けてくるだろうが!」


「なに速攻で死ぬタイプのトレジャーハンターフラグ立ててやがる!」




一斉に怒鳴り散らしていた。 いや当たり前だろ!爆弾に銛ぶち込みやがって!


確かに俺達トレジャーハンターはスリルを求める側面もあるが…。不必要に地雷原、もとい機雷原に飛び込んでく奴なんて、ただの馬鹿かドMだけだ!







「わ、悪い……」


俺達に畳みかけられ、流石にシュンとなるそいつ。全く…。


機雷に下手に刺激を与えてしまったのだ。これではいつ爆発するかもわからない。まず、あそこをくぐっていくのは危険だろう。




ということで一旦迂回し、別の沈没船を狙うことに。警戒しながら進むが、なにせ無駄な時間を使ってしまったので…。



「やべ…! 見つかったぞ!」


哨戒らしきサメがこちらに気づき、突撃してきてしまった。急ぎ武器を構え迎え撃とうとする。


と―。



「ここは俺に任せてもらうぜ!」



さっき機雷に銛を撃ちこんだやつが、誰よりも前に出る。責任を感じたのだろうか。…思いっきりフラグ重ねている気しかしないが。



「へっ! サメには、こいつだァ!」


そう吼えながら、武器を構えるそいつ。ドッドッドッと音を鳴らすそれはチェーンソー。水中で使える魔法武器版のだ。


…なんでサメにチェーンソーなのだろうか。来る前も、「絶対これが効く」って言って聞かなかったし。



「来な…サメ野郎! 竜巻でも起こさない限り、俺には勝てないぜ!」


やっぱり自信満々なそいつは、襲い来るサメへと突撃。 ―その瞬間だった。





ドスッ!


「…! なっ…!? 俺の…チェーンソーに…!?」



足を止めてしまうそいつ。俺達も絶句してしまっていた。何故なら…どこからともなく飛来したトライデントが、チェーンソーのエンジン部分を貫いたのだから。



そのせいで、チェーンソーはプスンと音を立て停止。勿論サメは容赦なく迫り―。


「わぁっ…! あぁっ! 返せ…!俺のチェーンソー…!」



サメにガブリと噛まれ、持ってかれてしまっていた。一体誰がトライデントを…上か!



視線を移した先には、ネレイスが一体。更に遠くからは…シャチやマーメイド達が駆け付けてきているのがわかる。


「マズい…! おい、一旦逃げるぞ!」


ここで戦うのは危険。そう判断した俺は、チェーンソーを奪われたそいつに急ぎ指示を出す。



だが、突出していたのが悪かった。先程のサメが、今度は本体に食らいつかんと接近して来ていたのだ。くっ…ハープーンの狙いが…!



「ち、畜生…! こうなりゃ、俺の拳で…サメ殴りを…! ぎゃーーーーっ!」


哀れ、イチかバチかサメをぶん殴ろうとしていたそいつは、逆に噛まれどこかへと連れてかれてしまった。


つまり、見事にフラグ成立と。…そんなこと言ってる場合じゃない!



「急いであの船に飛び込め!」


他の仲間にそう促し、俺達は先程機雷が置かれていた沈没船へと駆け出した。









「もっと泳ぐんだ! あと少し…!」

「ひぃいいいっ!」

「あ、あぶねぇ…!」



ひたすらに足をばたつかせ、牽制のように攻撃を返しつつ、なんとか沈没船へと滑り込む。


すると、先程まで雨(海中なのにというツッコミは無しで)のように降り注いでいたネレイス達の攻撃は、ピタリと止んだ。





「…ふぅ…! これは変わらないか…良かった…」


ホッと息をつく。何故だかわからないが…ここのネレイス達は、俺達が沈没船の中にいると攻撃してこない。


そのおかげで、船に入りさえすれば安全地帯なのだ。…あぁ、もしかしてあの機雷、船に入らせないようにする脅しだったのか。



そう考えると、ちょっとは効果があったかもしれない。迂回させられたのだから。案外やるな、ネレイス共。





ただ…沈没船に侵入したということは、脱出もしなければいけないということ。それが一番大変。


宝を背負い重くなったところを狙われれば、ひとたまりもない。ダンジョンを抜け出すかその前にやられて復活魔法陣送りになるか、ひたすらの攻防となる。



だから、侵入前に見つかりたくなかった。何故なら一度バレてしまうと、連中、沈没船の周りをぐるぐると警戒し続けるから―。



「…あれ? おかしいぞ…?」



と、仲間の1人が妙な声をあげる。何事かと聞くと…。



「ネレイス共、どっかに消えていくんだが…」




その言葉に、俺も沈没船の穴から外を窺う。確かにそこいらで泳いでいたネレイスやサメが、どこかへと去っていく。


いつもならこっちの魔法効果が切れるか、向こうの忍耐が折れるかの我慢比べチキンレースが始まるところだが…。


別の場所で俺達の同業者が暴れ出したのだろうか。とにかく好都合。今のうちにお宝を探そう。









色とりどりの魚が泳いでいる中、探索開始。海藻やサンゴで滑らないように気をつけながら、船室を次々覗いていく。



「お、見ろよこれ。もうボロボロだが、サーベルっぽいな。どっかの軍船だったかもしれないぞ」


「向こうには大砲もあるぞ。当たりっぽいな」


「なら、海賊とかから回収した宝があるかもしれない。もっと奥を探してみるか」




そんな会話をしながら、沈没船内部を進む。少し後―。




「―ん? おぉっ! こっちだ!こっち! あったぞ、宝の山!」


1人が叫び、俺ともう一人は魚の群れを掻き分けその場に。そこには…!



「「おぉおお…!」」


汚れてこそいるものの、確かに金貨、彫像、壺、延べ棒、宝箱、宝石群…! トレジャーハント大成功だ!





「よし、バッグに詰めこめ詰めこめ! そしてさっさと帰るぞ!」


「おうとも! サメに食われたあいつの犠牲を無駄にするな!」


「…なんかこれもフラグっぽいが…まあ大丈夫だろ!」



三人揃って、手近な宝へと手を伸ばした。―その時だった。




カパァッ…



「「「うおっ…!?」」」


突如、山積みにされていた財宝の内、藻を被ってボロボロな宝箱が勝手に開いた。何か魚でも入っていたのか? そう訝しんでいると…。



ズルゥッ…



「うわっ…なんだ…?」

「見た目的に蛸の足か…?」

「にしては、やけに長いような…」



出てきたのは、蛸足じみた謎の長いもの。と、箱の方もガタガタ動き…こちらへと迫ってきた!? って…!



「「「ミミックじゃねえか!」」」





ここにきてまさかの水棲ミミック。あれ蛸足じゃなくて、触手か…! ぐねんぐねん動くそれに捕まらないように、俺達は急いで距離を取る。



しかし、蛸足ミミックは泳ぐようにこちらへと接近してくる。このままでは船から追い出されてしまう…。


ならば戦うしかない。そう決め、武器を手にしようと…。 …ん?



「なんだ…? ミミックが、大砲の方に…?」



突如、ミミックの進行方向が変わる。丁度横にあった、錆びつきまくった大砲へ近づき…ニュルンと消えた。


直後―。



 ズ…ズズズズズズ…



「は…? は…!?」

「大砲が…!?」

「動いた…!?」



既に使い物にならないはずの大砲が…思いっきり動いた…!? しかも、俺達へとしっかり砲口を合わせ、ズズズと更に迫ってくる…!


や、ヤバい…! もしかして、撃てるのか…!? それ、撃てるのか!? もし撃たれたら、機雷にも誘爆して…ひぇっ…!



「「「に、逃げろォ!」」」










「く…クソォ…なんだったんだ…!」

「あのミミック、なんてことしやがる…!」


近場にあった穴から、俺達は慌てふためき外に飛び出した。 それで少し落ち着いたのか、仲間二人はそう悔しがる。


それに声をかけるより先に、俺は急ぎ周りを見渡す。…よし、ネレイス共はいない…!なら…!



「宝がある部屋はわかってるんだ。次は穴開けて入ってやろう!」



そう2人を鼓舞し、武器を構える。あの沈没船の朽ち具合なら、船体を剣で叩き壊しても、蹴破ってでも入れる。回りくどく他の隙間から入っていく必要はない。



それに突然のことで驚いてしまったが、水中であんなオンボロ大砲が撃てるわけないだろう。仮に撃てたとして、ショートカットルートを作っておけば即座に逃げられる。



そうと決まれば、ネレイス共が戻ってくる前に急ぎ済ませてしまおう。そう思い、泳いで戻ろうとした…その時だった。






ギャリギャリギャリギャリ!



「…? なんだぁ…? ぐへっ!」


下から妙な異音が。直後、激突音と共に仲間の1人が何かに突き上げられ、真上に連れていかれたではないか…!




一体何事だ…!? 慌てて視線を移した俺は、妙なものを見た。






突き上げられた仲間が居た位置にあったのは、鎖。しかも、海底から伸びてきている…。どこかで見たような…。…っ!


何かを察し、そのまま弾かれたように上を見る。するとそこにはやはり―、巨大なウニ…もとい、機雷…!!




機雷って、勝手に動くのか…!? …いや、確かにそんなのもあるって聞いたことがあるような…。


でもそれは、船の動きに反応して動くってやつで、人なんかに反応するわけない。じゃなきゃ、人サイズの海の生物が巻き込まれるだけだし…。



というかそもそも、船なんかいない! いや、真下とかには沈んでいるのがあるけど…! 遠くに見える海面には、小舟の影すらないのだから…!







じゃあ、一体なぜ…? …もしかして、さっきハープーンガンを撃ち込んだ機雷が、誤作動を起こして…?



ゴスッ!

「ぐあっ…!」



俺が思考を巡らせていると、再度の激突音ともう一人の仲間の悲鳴…! なっ…!? 機雷が、もう一つ…!?!?








「痛っ…てててて…」

「大丈夫か…?!」


ぶつかった個所を擦る仲間を気遣いつつ、俺は機雷へと目をやる。



…さっき銛をぶつけたのは一個だけ。なら、連動したとでも…? しかしそれなら何故、先に動いた機雷とは違い、こんな海中の中途半端なところで停止を…?


幸い、思いっきり激突したというのに爆発する気配はない。幸運だ。何はともあれ、距離を…。




「あば…あばばばばっ…!」



「―!?」

「なんだ!?」


刹那、聞こえてきたのは、上に打ち上げられた仲間の声。ハッと見上げると…麻痺の状態異常を食らい、ぷかあっと海面へと浮かんでいく姿が…!?




な、なんでだ…!? 機雷にブッ飛ばされて気絶したでも、機雷が爆発して巻き込まれたでもなく、麻痺…!? なんで…!?


思わずあんぐりと口を開け、呆ける俺達。それを嘲笑うように耳に入って来たのは…。




キュポポポンッ




という、何かが引っこ抜かれたような音だった。







「「…っ!?」」


それが聞こえてきたのは、俺達の真横から。つまりは…機雷から。2人揃って弾かれたように見ると…!


「はっ…!? と、棘?…が…」

「外れてる……」



なんと、機雷のトゲトゲが、幾つも引っこ抜けているではないか…! ど…どういうこと…?



「お、おい…。何か嫌な予感がする…。離れようぜ…!」


と、最後の仲間の1人が俺に声をかけた、その瞬間―。






ギャリギャリギャリッ! ゴインッ!



「がうんっ…!?」




……上にあった機雷が…降りてきて…その仲間の頭に思いっきりヒット…! しかも、俺達の横にあるのと同じようにピタリと止まり、棘も開いている…!


そして、その開いた場所から…。…っ!



「なっ…! ウミヘビ…!」



ぬるりと出てきたのは、赤と青のカラーリングの明らかに毒持ちなウミヘビ。そいつは俺に目をくれず、頭を打たれて混濁している仲間へと飛びつき―、がぶりと噛んだ。



「痛っ…! あ…あ…あばぼ…がぼぼ…!」


それで若干正気を取り戻した仲間だったが、すぐさま様子がおかしくなる。麻痺して…海面に…!



そうか…!上に吹き飛ばされて麻痺した方の仲間は、このウミヘビに噛まれたのか…! しかし、なんという麻痺毒…!



この強力さ、どこかで見たことがある…。そう、他のダンジョンに潜った時、宝箱の中から現れた、同じようなどぎついカラーリングの蛇とか蜂とかにやられた時…。


確かそいつら、『群体型』ってよばれているミミックの一種だった気がする。ということは、このウミヘビもか…!




…えっ。ということは…。こいつら、機雷を棲み処にしていたのか…!? 嘘だろ!?







1人仕留めたのを確認し、今度は俺へと動いてくるウミヘビ。俺はハープーンガンを勢いよく振り、追い払おうと試みる。


「こ、コッチに来るな…!」


そしてそのまま、ウミヘビと機雷二つから離れる。速度的にはこっちが速い。ウミヘビに追いつかれることは…。




ギャリンッ!



は…………? ウミヘビが出て来てない機雷の方が…勢いよくこっちに向かって来たぁ!?






鎖をウミヘビの如くうねらせつつ、ぐねんと真横に動く機雷。え…真横に動いている…!?



いや、それだけじゃない…! 俺の動きを追うように、下にも上にも斜めにも動いてくる…!追尾されてる…!



なんで、なんで…!? 機雷って追尾するのか…!? …そういえばそういうのもあるって聞いたことある気がするけど…! けども…!



こんな生き物みたいな動きを、兵器がするか!? おかしいだろ、常識的に考えて! 



って、やばいっ!追いつかれる…! 怖い怖い怖い! 機雷が迫ってくるの、怖すぎるだろ!






更に足をばたつかせ、距離を取ろうと必死に。しかし、機雷はずっと追ってくる。それどころか―。



ギュルッ!



…!? 何かが…棘の穴の中から出てきた…! なぁっ…!? こ、これって…!ミミックの…触手!?



しまっ…! 絡めとられて…! そ、そうか…。こっちのも…ミミックだったのか…!



ぐ…ぐええっ…! 首が…締まる…! あっ駄目だこれ…死ぬっ…。




くそぅっ…機雷…………嫌い……。 ガクッ…。









―――――――――――――――――――――――――――――――――



冒険者を仕留めた後、ミミック入りの機雷二つは、棘をキュポリと直す。そして鎖を手繰り、最初の位置…沈没船への侵入口前へと戻った。



そう。冒険者が察した通り、この機雷はミミック。故に、爆発はしない。ダミー機雷に紛れぷかぷかとのんびり浮かび、冒険者が来るのを待っているのである。


冒険者が恐がり、近づこうとしないならばそれで良し。近づくのならば即座に攻撃。 もし別の場所から入っても、船内部担当のミミックが追い出し、先程のように仕留めるのだ。





おや、内一つが場所を変えるらしく、更に下へと。海底へと着地すると、鎖も重りも機雷の中に引き込み、そのままコロコロと転がりだした。


その姿は、まるでウニが海流に流されているようにしかみえない。…いや、巨大すぎて流石にシュールである。





ふと、そこへやってきたのは海の精霊ネレイス。そして、イルカ。



彼らは機雷ミミックと何かコミュニケーションを取っている様子だったが、すぐさまネレイスが指示を出す。



するとイルカは機雷ミミックを鼻で持ち上げ、まるでイルカショーのように運んでいく。時折ポーンポーンと弾ませてもいる。


それを見てネレイスは笑い、遊ばれている機雷ミミックもどこか楽しそうである。



―なお、その光景を傍から見ると、機雷を弄ぶ危険極まりない行為にしか見えない。超ヤバい。






少しして、イルカはとある場所で機雷ミミックを降ろす。そこは、沈没船の反対側。先程仕留められた冒険者達が、ネレイス達の猛攻から逃げ駆け込んだ場所。


機雷ミミックはそこで重りと鎖を出し、同じように浮かぶ。そして柔風のような海の流れを受け、そよそよと軽く揺蕩っていた。


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