人間側 ある魔法使いへのロボ
「はーいバーリア! ざんねーん、触れられませーん!」
張ったバリアの表面にカンカンギンギンと弾かれる攻撃に向け、私はベロベロバーと舌を出して煽ってやる。弾丸も、剣も、噛みつきも、巨大ゴーレムの拳だって、ぜーんぶ防げちゃうんだもんね!
ここはゴーレム族が棲む『基地ダンジョン』。至る所に防衛設備があり、侵入はかなり厳しいとされてる。
だけど、私にかかればそんなの無駄無駄!いくら苛烈な攻撃でも、全てバリアで弾いちゃえばいいだけなんだから!
私のジョブは『魔法使い』。でも、そんじょそこらの子たちと比べないでほしい。だって私は若くして、ある魔法を極めたんだから!
それは、今私が使っている『バリア魔法』。戦士の持つ盾のように、あらゆる攻撃を弾く魔法の壁。ただ…ちょっと普通の魔物とか、魔法相手には効きが悪かったりするんだけど…
ケホン…ううん!それも今は関係ない! 私のこのバリア魔法、何故かゴーレム達には無類の強さを発揮するの。
だから、ここは私にとって最高の稼ぎ場所。ゴーレム達の身体はすっごいレアな金属や鉱石素材から出来ているから、一気に大金持ちも夢じゃない!
…まあ、ゴーレムを砕く際に、お人形を壊すようでちょっと気が引けるけど…。慣れたらもうお金の山にしか見えなくなっちゃった!
ふふ…それに、ここに潜ることになってから、さらに対ゴーレム最強の魔法を覚えたの。それが…これ!
「食らえー! E・M・P!!」
バリアの内側にいたまま、杖をえいやっ!と振る。すると、杖先に紫のバチバチな珠が発生し、バシュンと撃ち出された。
それはバリアを抜けて、外にいた巨大ゴーレムの一体にバチンと当たる。そしたら…!
「ゴ…ゴゴギガ…ガ…」
ズゥン…
ね!見た見た? ゴーレムが突然電源が切れたようにバタンと倒れたでしょ?凄いでしょ!?
これが私が覚えた魔法、『EMP魔法』!意味は…
『【E】いい感じにゴーレムが』
『【M】全く動けなくなって』
『【P】パタンと倒れる』
魔法ってこと!ふふーん。ま、工学?科学?なんてよくわからないモノ、魔法の前には一捻りってことね!魔法最強!
「おーい…悦に入ってるとこ悪いんだけど、はやく回収しちゃおうぜ。そのいーえむなんとか?ってのも10分程度しか効果ないんだろ」
と、パーティーメンバーがちょいちょいと私の肩をつついてきた。もー…これだから男って…。余計な一言を言うんだから…。
「いっけー! EMP乱射!」
一気に魔法をばら撒き、襲い掛かってきていたゴーレム達や各迎撃装置も止めちゃう。ピカピカ点滅していた変な板も、グオオンと動いていた機械も全てストップ。これで良しと。
「じゃ、さくっと壊して素材貰っちゃお!」
と、バリアを解除し、倒れたゴーレムに歩み寄ろうとした時だった。
キュイイイイイン…!
「―! 何の音だ…!?」
「増援か!? おい…!」
「わかってるわよ! バリア!」
どこからともなく聞こえてきた異音に警戒し、再度周囲にバリアを張る。その直後―。
「わっ! ケホケホッ…迎撃装置で出た煙でむせるわね…」
「ということは侵入者が近いってことでしょ! あっ!いたいた!」
どこからともなく走ってきたのは、二本脚のゴーレム…じゃない!!なにあれ!?
そのゴーレム?はローラーで走っているのか、脚は動かないまま滑るようにこちらへと迫ってきている。…のだけど、上半身がおかしい。
だって…腰から上には宝箱が乗っかっているだけなんだもの!
「お、おい…あれミミックじゃないか…?」
「ほんとだ…上位ミミックだ…隠れてすらいない…」
突然の変な敵に全員で呆然としていると、あっという間にミミックは接近。そして…。
「「どーん!!」」
うええっ!? 勢いよくバリアに突撃してきたぁ!?
ビキキキキ…!
「うおっ…!? おい!バリアにヒビが入ったぞ!?」
慌てるメンバー。こんなの私も予想外…!だって、ゴーレム達の猛攻を凌げるはずのバリアに、一瞬にして亀裂が…!
「あら? 案外脆いわね。ゴーレム専用のバリアだったり?」
「もっかいぶつかれば割れそうね!」
キュイイイイイと駆動音を鳴らし、助走をつけるミミック。しまった…!バレちゃった…!なんとかして止めなきゃ…!
でも…どうしよう…!私、攻撃魔法はからっきしなのに…!
「あっ!そうだ! ミミックが乗っているあれって…ゴーレム?でいいんだよね! なら…」
あれが効くはず…! 詠唱して、チャージして…!
「『E・M・P』!!」
バシュンッ!!
バチバチと音を立てる紫の球が、勢いよく杖先から発射される。当たればきっと…!
「ほっ!」
「よっと!」
へぇ…!? ミミックのゴーレムの脚が華麗なターンを描いて、躱されちゃった…!!
「も、もっと発射!」
バシュンッ!バシュンッ!バシュンッ!
焦ってEMP魔法を打ち出しまくる。ど、どれか一個でも当たれば動きを止められるのに…!
ヒョイッ
「甘い甘い! 当たらなければどうということはないのよ!」
ヒョイッ
「またハズレー! ターンピックが冴えてるわ!」
だ、駄目だ…。全然当たらない…! きっと弾幕が薄いんだ…!も、もっと…もっと撃たないと…!
「ちょいちょい。貴方、私達だけに集中してていいのかしら?」
「へ…?」
上位ミミックにそう言われ、思わず手を止める。すると、聞こえてきたのは…
バラバラバラ…
プロペラの音…? ということは…上!?
「はーい!ドローン便でのお届け物でーす! 印鑑は要りませーん!」
ミミックの言葉に釣られ、ハッと上を見上げる。その直後…!
バギィ!
「「「「わああっ!?」」」」
空中に飛んでた小さい何かから、宝箱が投下される。それは見事にバリアを貫き、私達のど真ん中に着地し―。
「シャアアアアアアアッ!」
白く尖った牙と、赤い舌を煌めかせた。って、これ…!!!
「「「「ミミックだぁ!!」」」」
まさかまさかのバリア内部への侵入。驚き慌てた私達が取った行動は…
「逃げろーー!!!」
その場からダッシュでの逃走だった。
「待て待てー!」
「早く逃げないと追いついちゃうわよー!」
楽しそうに追いかけてくるミミック達から、私達は必死に逃げる。しかも空からはミミックをつけたドローンも。更に更に、ゴーレム達まで。
「来ないでー!!」
私はただひたすらにEMP魔法を乱射してまくって逃げるしかなかった。動く歩道や、床掃除している小さく平らなゴーレムに当たりはすれども、ミミック達には全く当たらない…!
「おい!あれ、エレベーターだ!」
と、仲間が指さした正面には下に向かう巨大電磁エレベーター。あれにさえ乗れば…!
「早く乗れ!早く!」
「扉閉めろ!!」
「どれ!?ボタンどれ!?」
「多分これ!! 押すよ!!」
ポチッ ウイィィン…ガコン
「「「「……ふうっ」」」」
扉がしまり、動き出すエレベーター。内部にゴーレムやミミックがいる様子も…ない。良かった…。
ミミックさえいなければ、ゴーレムだけなら、敵じゃない…!よし、仕切りなおそ!
ウイィィン
エレベーターの扉が開き、私達は警戒しながら外に出る。…あれ?ミミックはおろかゴーレムすら一体たりともいない…?
しかも、目の前には一本道があり、空中にボウっと浮かぶ矢印マークが「奥に行け」と示しているような…。
「…なあ、なんかおかしくないか…? まるで俺達、ここに追い込まれたような…」
と、メンバーの1人が呟く。確かにそうかも…。あのミミック達、本気を出せば簡単に私達に追いついてこれそうだったのに…。
「もしかして…罠なのかも…! 逃げよ!」
そう判断し、脱出口を探そうとした…その時だった。
ゴォオオオ…ガション!
「あ。まだここにいたの?」
「本当に食べちゃうわよぉ?」
「「「「ひっ!?」」」」
エレベーターの横から、ジェットを吹かしながら降りてきたのは先程の上位ミミック2人。そのゴーレムの脚、そんなものまでついているの…?!
「は、走れー!」
仲間の号令で、私達は一斉に目の前の道へ。罠かもしれないけど、このまま食べられちゃうよりは!!
「へ…?」
「なに…ここ…?」
「ダンジョンの…最奥部?」
「広っ…!」
道を突き進んだ先にあったのは、かなり広く、天井も高いドーム状の空間。感覚でわかる、ここがこのダンジョンの一番奥…!
…ということは、やっぱり追い込まれたってことよね! うー…!なら、戦ってやる!追い詰められた冒険者はミミックよりも狂暴だってとこ、みせてやるんだから!
キキィ!
と、私達が覚悟を決めたのと同時に、背後からブレーキ音。ミミック達が到着したみたい。よーし…出来る限りの攻撃を…!
「ふー! やっとここまで来たわねぇ」
「じゃ、
…え? ミミック達は襲い掛かって来るでもなく、軽く伸び。そして、自身が乗ってるゴーレム脚をポチポチと弄りだした。
ガコンッ…
「わっ…!? なに…!?」
突然真上で響いた音に、ビビッて首を竦めちゃう。もしかしてまたドローン? 警戒しながら上を見て見ると…
「…クレーン?」
動いていたのは、二本のクレーン。しかも、クレーンゲームみたいな挟むタイプの。それは私達の頭上を通り過ぎ…
ガシンッ
上位ミミックを掴みあげた。
「「「「ええ…」」」」
ゴーレム脚を残し、引っ張り上げられてゆくミミックを私達はあんぐり見送る。クレーンはそのまま、ミミックを連れこの部屋の一番奥へと。
「なにしてんだ…?」
「わかんない…」
そう眉を潜めてると、メンバーの1人が何かに気づいた。
「…ん?おいあれ! 何か奥にあるぞ!?」
なんだろ?ミミック達が消えていった先へ、全員で目を凝らしてみる。と、その瞬間…!
ヴー!ヴー!ヴー!
「ひっ…!?」
突如として、部屋全体にサイレンが鳴り響く。更に、赤ランプも至る所で光ってる…!
と、ザザッとマイクの音の次に、先程の上位ミミック達の声が聞こえてきた。
「システム起動、私達を生体コントロールユニットとして登録…完了! あ、仮面つけよ! やっぱパイロットには仮面よね!」
「メインゲージ、順次臨界。システム、オールグリーン。各レバーを触手で握って…と。さあ、準備オッケー!」
なになになになに…!?何が起こってるの…! 困惑していると、ミミック達は声を合わせ―。
「「ミミック、行きまーす!」」
グポォン…!
ひぇっ…!暗闇の中、大きな赤い一つ目が光った…! モノアイ…ううん、違う…大きなランプ…!
そして、その赤いランプから光の線が幾つも伸びる。それは巨大な何かの外装を浮き彫りにし…!
「なに…あれ…!」
「超巨大な…宝箱…!?」
姿を現したのは、人の何十倍もある大きさの、とんでもないサイズの宝箱。ただし木とかで出来ているよく見るものじゃない。
金属が用いられた、滑らか且つ厳ついSFのようなデザインで、各所に細かなディテールが彫り込んである。このメカメカしさ…まるで…!
「「すげぇ…!巨大ロボットだぁー!!!」」
突然興奮した声をあげる男性メンバー達。目がキラキラしてる。
でも…確かにあれは巨大ロボット…!あんまりそういうのに興味のない私でもわかる。つまり宝箱型ゴーレムってこと…!?
先程の赤いランプは、宝箱の上部に着いた宝石のよう。あっ…!よくみると、さっきのミミック達がそこに乗り込んでる…!コクピットなのあれ!?
「さあ冒険者達、このゴーレムに勝てるかしら!」
ミミックのその声を合図に、巨大宝箱ゴーレムの横からガシャンと幾本ものアームが出てくる。まるでミミックの触手みたい…!
「レーザー発射!」
って観察してる場合じゃなーい! 触手アームが一斉にレーザー撃ってきたぁ!
「ば、バリア!」
間一髪、バリアを張って凌ぐ…でも、あれ…?
「防げてる…!」
当たればきっと一瞬で復活魔法陣送りの強力レーザー。それが私のバリアで防げてる!そっか、一応ゴーレムの攻撃だから…!
「ふ、ふふん! なら恐れることないじゃない!」
思わず笑みが零れてくる。これは勝ったも同然…! あんな超巨大ゴーレムの攻撃すら防ぐなんて、流石私!
そう思ってると、またもミミック達の声が聞こえてきた。
「あらー。やっぱ効かないかー。残念! じゃあ、アレを使いましょう!」
「えぇ、よくってよ!」
えー…まだなんかあるの…!? でも、このバリアさえあれば…!
「じゃ、操縦任せたわね。私が直々に出るわ!」
「はいはーい!」
…出る?何かする気? あれ…?コクピットにいるミミックが1人減ってるような…どこに…?
そんな疑問を吹っ飛ばすように、残っていたミミックの気合の入った台詞が。
「スイッチぃ…オン!」
ガコンッ ゴゴゴゴゴ…!!
嘘…!巨大宝箱ゴーレムの蓋部分が開いた…!? しかも中から現れたのは…おっきな大砲…!?
「ミミックレールガン、チャージ開始!」
ギュイイイイイ…!
強く閃光を放ちながら、チャージされていく大砲。ヤバい、明らかにヤバい…! なんか、普通のバリアじゃ防げない気がする…!
と、メンバーの1人がハッと手を打った。
「おい…!アレがロボットなら、お前のEMなんちゃらで…!」
そうか!その手があった…! 詠唱して…!
「E・M・P!」
バシュンッ!
撃ち出された紫の球は一直線に巨大宝箱に。的が大きいから外しようが…
プヘン…
「え…」
当たった。だけど…効果なし…?まさか、大きすぎて効いてないの…!? マズい…!もうチャージが終わって…!
「発射ぁ!」
ドッッッ!!!
「バ、バリア複数重ね!!」
反射的に、バリアを幾重にも重ねて召喚する。目にも止まらぬ速さで飛んできた砲弾はそれに直撃し…!
バチチチチチチッッ!!!
凄まじい稲妻が。うぅ…!!バリアに穴が…一枚ずつ突き抜けて…!砲弾が…中に…!このままじゃ…!
―ゴトンッ
「きゃっ…!あ…ふ、防ぎきれたの…?」
有難いことに、全てのバリアを突き破ってきた砲弾は力尽き、私達の足元に静かに転がる。ほっと安堵の息を吐くと、パチパチとミミックの拍手が。
「わー!そこまで凄いバリアだったんだ! じゃ、次弾そうてーん」
いやいやいや!もう一発凌げる気はしない! と、混乱したメンバーが私の身体を揺すってきた。
「な、なんとかならないのか!? この辺一帯バリアとか、完全無敵バリアとかは!?」
「できるわけないじゃない! てか何それ!?小学生じゃないんだから!」
半ギレ気味に、メンバーを叱り飛ばす。さっきから男子みたいなことばっかり…!
でも…一つだけ策がないわけじゃない…!!
さっきのEMP魔法。あれはきっと威力が足りなかっただけ…!なら、全魔力を消費して…!
杖を構え、魔力を注ぎ込んで魔法を詠唱する。その間に、あの大砲はチャージし始めた。だけど…私の方が早い!
「最大出力…! E・M・Pぃいい!!!!」
カッッッ!
瞬間、杖先から迸った紫の雷光は部屋全体を包み、視界を真っ白にするほど弾ける。思わず瞑ってしまった目を、恐る恐る開けた時には…
「…やった…!」
周囲のランプも、動いていたクレーンも、巨大宝箱ゴーレムも、全てが黒く沈黙。EMPは見事にきまった!
見ると、コクピットのミミックも閃光で気絶してるみたい。やった…!私の魔法の完全勝利だ! あとはあの宝箱から素材を貰って帰…
「ここまで食い下がるとは思ってなかったけど…惜しかったわねぇ」
へ…?この声 さっきのミミックの片割れの声…。なんで…
「ここよここ。この距離ならバリアは張れないでしょ。ま、もう魔力切れみたいだけど!」
ギュルッ
急に触手が現れ、私達を一気に縛る。ど、どこから…え…嘘…!! さっき飛ばされてきた砲弾が、パカッて開いて、そこにミミックが…!?
「『ミミック』レールガンっていったでしょう? 私が入ってたのよ、この砲弾」
そんなの…わかるわけないじゃん…! さんざん正面に出てきてゴーレムで惹きつけておいて…!最後に限って隠れてるなんて、ミミック卑怯…!!
「楽しかったし、楽に復活魔法陣送りにしてあげるわね!」
ぐ、ぐええ…駄目だ…これ逃げられない…! で、でも…なんで…
「最初から私達を倒せたはずなのに…なんで…?」
思わずそう聞いてしまう。だって、最初に会敵した際、遊んでなければ簡単に私達を倒せたはずだもん…!
すると、それを聞いたミミックはカラカラ笑った。
「だって、あのロボット使って見たかったんだもの! ここまで冒険者を連れてこないと使えないし!」
そ、そんな理由…。そう呆れていると、そのミミックは少し照れくさそうに。
「でも、ちょっと不安だったのよ。
と、そこでミミックは言葉を切る。そして、ふふんと胸を張った。
「ロボットのコクピットも、『箱』だもの! 私達
なにそれぇ…。そんな主人公みたいな…ガクッ…
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