閑話③

会社施設紹介:社員食堂

「むうぅ…ねむぅい…」


「ほら社長、朝ごはんはしっかり食べないと」


箱の中でごねる社長を手早く着替えさせ、いつものように抱き上げて部屋を後にする。そして向かうは、『社員食堂』である。




我が社には様々な設備がある。その中でも最も使われている施設といっても過言ではないのが、食堂。私やラティッカさん達のようなミミック以外のメンバーも含めた、皆のご飯を一手に担っているのだ。


どこにあるのか、という話だが…。以前、我が社の建物の外観は『半開きな宝箱』の形をしているとチラッとお伝えしたのを覚えているだろうか。


その半開き宝箱の開いた部分。そこに社員食堂はあるのだ。





「はーい、つきましたよ。どこで食べます?」


「窓際…」


「いつもの場所ですねー」


朝の日光が良く当たる席へと歩を進め、椅子に社長を置く。と、社長はこっくりこっくり舟をこぎ始めた。全く、相変わらず朝弱いんだから…。



窓際。そう、半開き部分には窓ガラスが一面に張られているのだ。それにより、外の景色を見ながら食事が出来るようになっている。


そして夜なんかは中の灯りのおかげで『中の宝物が光ってる宝箱』みたいになる。中にいるのはミミックだけど。



食堂の内装だが、ここはお洒落で明るい、開放感のあるカフェのような感じとなっている。二階席とかもあり、かなり広い。


それでもうちは結構大所帯だから、満席になることは稀にある。まあ、その場合ミミック達は自らが入っている蓋を机代わりにして気にせず食べてたりする。


一度、「なら机とか椅子とか要らないのでは?」と聞いたことがあるのだが、「景色よく見れないからやだ」「蓋が汚れるから、机も欲しい」とかの答えが返ってきた。



そうそう、机と椅子なのだが、基本的にサイズは私の様な人型が使うものとなっている。でも、それだと宝箱で床を移動しているミミック達は使いづらいのでは?という声もあるだろう。


そこはご安心あれ! 実はこれら、ここにあるボタンを押すと…。


にょんっ


簡単に伸び縮みするのだ。大小さまざまなミミック達でも、ドワーフ族のラティッカさん達でも好みの高さにワンタッチで変えられる。


これもまた、ラティッカさん達『箱工房』謹製。ドワーフって凄い。


…実は結構な数のミミック達がこの調整機能を使わず、ジャンプで椅子の上に乗っていたりするのだが…。まあそれはそれ。



「社長、何にします?」


「むにゃ…チーズリゾットとジュース…」


「はーい」


注文を受け、私は厨房へ。お盆を手に、ミミック達の列に加わる。と、ミミックの一人が問いかけてきた。


「社長まだおねむなの?」


「えぇ。まだ」


「いつも通りねぇ。アストちゃん何食べるの?」


「私はサンドイッチにしようかなと。野菜多めの」


「あ、もしかして最近食べ過ぎたの気にして…」


「うっ…いや…はい…そうです…」


そんな会話をしながら、順番を待つ。朝だからほとんど待つ必要はなく、すぐに回ってきた。



あ、そうだ。説明し忘れていた。ここの厨房は、よくある流れ式?を採用している。最初に注文して、横移動してご飯を受け取る、あの方式。


なのだけど、ここの受け取り台も人サイズの高さ。とはいっても、ドワーフがひょっこり顔を覗かせられるぐらいなのだが。


そうだとしても、やっぱりミミックには高い。注文すらまともにできない。しかし、机や椅子のように上げ下げするわけにもいかない。


なので、別の方式が取られている。それは―。



ウイィイン


微かな音を立て、目の前の緩やかな坂道に敷かれた魔法が動く。それは、社屋の至る所に引かれた『動く歩道』魔法と同じ。ミミック達はそれに足…もとい箱を乗せ、受け取り台より一段低い、専用の長台へと移動した。


要はエスカレーターである。これにより、ミミック達は高いところに安全に登れるのだ。


別にいちいちジャンプすればいいと考えるミミックは多いが、そうすると受け取り台が壊れるかもしれないという理由で設置された。使ってみると案外便利らしく、受け取り台にジャンプして乗るミミックはもういない。


あとは簡単、注文後その一段低い台の上を箱滑りして移動し、ご飯を受け取ってまたエスカレーターで降りる。背後から見ると、箱のせいでまんま流れ作業である。





「サンドイッチ野菜たっぷりとチーズリゾット、飲み物はオレンジジュース二つでお願いします」


私は厨房に注文を入れる。しかし、厨房の中からは返事は返ってこない。包丁や食器が動く音はしっかり聞こえるのに。


それもそのはず。ここを切り盛りしているのは人型魔物ではない。しかし、下位ミミックのような子達でもない。じゃあ誰かというと…。



厨房の中にふわふわと浮いているのは複数のお皿、菜箸、トング。遠くのコンロから同じく浮きながらゆっくり移動してきているのは大きなお鍋。


フライパンは勝手に振られ、まな板の上の食材は何本もの包丁によってリズムよく同時にカットされる。


おわかりだろうか。調理をしているのは『調理道具達』そのものなのだ。




ポルターガイスト、付喪神…呼び方は色々あるだろうけど、簡単に言えば道具に憑いた精霊、又は道具そのものが精霊となった子達。これまた社長がスカウトしてきたらしい。


何分調理器具だけあって、彼らが大好きなのは料理を作り、それを食べてもらう事。そしてミミック達は沢山いて、大食らいの子達も多い。まさに天職、win-winの関係。


この間お手伝いに行ったビアガーデンにも彼らを連れて行ったのだが、その際はその腕を奮いに振るっていた。腕ないんだけど。


あ、因みに、厨房の横には私達が使える調理室もある。自分で作りたければ、その調理道具精霊達を使わせてもらいなんでもできる。私もたまに社長にケーキを作って貰ったり、クッキーを焼いて食べさせてあげている。





「社長、お待たせしましたー」


二つのお盆を手に、席へと戻る。社長はやっぱり寝ぼけ眼。仕方ない、いつものように椅子を社長の近くに移動させて、と…。


出来立てで熱々のリゾットを掬い、ふーふーと吹いてあげる。口の中を火傷しないような温度まで下がったかな?


「はい、社長。あーん」


そう言いながらスプーンを近づけてあげると、社長は小さく口をパカリ。そこに優しく冷ましたリゾットを入れてあげた。


「熱さは大丈夫そうですか?」


私の問いに、社長はもぐつきながら頷く。良かった。でもこれ、子供というか鳥の雛…いや言うまい。


多分あと数口食べさせれば目を覚まして自分で食べ始める。…ほら、スプーンを受け取った。


さて、私も頂こう。あむっ…うーん、野菜シャキシャキで美味しい!









時間は流れ、正午。今日はお昼時のダンジョン視察依頼はないため、食堂でランチタイムである。


「あーお腹減った!」

「ですねぇ」


朝とはうって変わって、普段通り快活となった社長と共に足を踏み入れる。既にご飯を食べている人達も多く、中は結構賑わっていた。


そうそう、勿論食堂なのでメニューは幾つかある。余裕がある時に作り置きしてあるため、それらを注文すればすぐに食べることが出来る。


だが、それとは別に注文すればなんでも作ってくれる。勿論時間はかかるが。だから、早めにやってきて注文する子や、ピークを避けゆっくりとコース料理じみたものを楽しむ人もいる。



なお今日の日替わりメニューは、ジャガイモグラタンとソーセージランチ。恐らく、この間のビアガーデン手伝いのお礼として貰ってきた食材だろう。





私は日替わり定食を、社長はパスタを、あと追加でデザートのプリンを注文し、いつもの席へ。外を見ながら食事をすることに。


今日もまた、良い天気。外を見ると、近くの野原でシートを広げピクニックしているミミック達がちらほらいる。


勿論、この食堂で作って貰ったランチバスケットを持って。お弁当にも対応してくれるのだ。


…うん? あそこのピクニックグループ、ランチバスケット4つだけ放置してどこに…。あ、違う。うち3つにミミック入って遊んでた。ピクニックランチごっこ? いやなんだそれ。





社長と雑談しながらご飯を食べていると、妙な音が聞こえてきた。


ポゥン ポゥン ポゥン


小さい砲撃音。別にお昼を知らせる空砲とかではない。それは箱工房の方から聞こえてくる。


実はここ最近、食堂の真ん中辺りが改造されたのだ。突然話が変わった?いいや、変わってない。 


どんな改造かというと、そこに窓の外に通じる扉が出来た。そして、そこから外に向けべろんと大きな足場が設けられた。外から見ると、ミミックが舌を出してるような見た目に。


そこはフワフワしており、衝撃を受け止めるクッションのよう。と、そこに―。


ボスンッ ボスンッ ボスンッ


何かが次々に着地する。それは、箱。…まあ察せる通り―。


「ごっはん♪ ごっはん♪」


むくりと起き上がった箱たちは、滑るように扉をくぐり食堂内へ。言うまでもなく、彼女達はミミックである。



この間箱工房に赴いた際、『ミミックキャノン』という大砲をラティッカさんから紹介され、気に入った社長はそれを作るように命令を出した。それが、この間とうとうローンチしたのだ。


何分この食堂は社屋の上階にある。箱工房で遊んでいた子達がここに来るのが少しだけ手間。だから、キャノンで打ち出されることであっという間に到着できるようになった。


精度は最高級らしく、今のとこ着地に失敗したという事例は聞かない。仮に落ちてもミミックだし、多分無事で済む。あと別に死んでも復活できる。


言ってしまえば片道切符の空の旅。いや箱だし片道宅配…あれ?宅配は普通片道か…? 頭こんがらがってきた…。









更に更に時は流れ、夕食時…を過ぎた夜更け。食堂の灯りも僅かに。(なお、夜食受付は何時でもやってる。私は太っちゃうのが怖くてあまり利用してないけど…)


しかしその一方、逆に灯りがつき、騒がしくなる場所がある。それは食堂の奥、厚く防音がなされた壁の向こう側。


「「「かんぱーいっ!!!」」」


そこは酒場なのだ。




さっき食堂の内装をお伝えするとき、『ここは』と言葉を加えていた。それはつまりこういうこと。この社員食堂、真横に社員酒場が併設されているのである。


食堂のお洒落なカフェ調の様子とは違い、ここはザ・酒場。冒険者ギルドのように木や石っぽい壁や床をしている。


時には数人で、時には皆で集まってわいわいと。毎夜のように宴会が繰り広げられているのだ。


因みに、酒場の更に横の部屋には落ち着いた雰囲気のバーもある。しっとりと飲みたい場合はそちらへ。




「うへへ…アスト良い胸してるじゃない」


「きゃっ…! もう、悪いことをする手はこれですか?」


「やぁん!痛い!抓らないでぇ!」


今日は私も社長もへべれけ。その様子を見た周りのミミック達もゲラゲラ笑っている。馬鹿騒ぎ、すごく楽しい。



そして、そういうテンションの時始まるものがある。宴会の席のお供、テキトー企画だ。


早飲み早食い、大食い大飲み選手権。トランプ勝負や料理作りあいっこ。かくし芸大会に(コスプレ)ファッションショー。なんでもござれ。誰とは無しに提案し、気づけば開催している酔っ払いの戯れである。



あぁ、ファッションショーと言えば…。この間社長命令が炸裂して、私とラティッカさんがやることになった。


ビアガーデンダンジョンにいた時の服をそれぞれ交換ということで、私はラティッカさんが着ていたへそ出しチューブトップ&肩ひも付きレーダー革製半ズボンホーゼンを。ラティッカさんは私が着させられかけたミニスカディアンドルを。


いやー、あれは大変だった。全員から絶賛されたが、それがまた恥ずかしくて。特にラティッカさんは普段男勝りな服しか着てないからか、顔をトマトのように真っ赤にしていた。ぶっちゃけ、とんでもなく可愛かったけど。



ところで、今日の企画は…。


「第…何回目か忘れた! ジョッキ何個持てるかせんしゅけーん!」


らしい。内容はシンプル。何個ジョッキを持ち上げ、一定距離歩けるかを競うだけである。でも結構白熱する。


落として割ったり、中身をぶちまけたりしないか? 大丈夫、ジョッキの道具精霊達に協力して貰うのだ。


彼らはふわふわ浮いているから簡単に何段も重なってくれるし、もし落としかけても自分から回避してくれる。ジョッキたちも案外スリルを楽しんでいる様子。それに割れて死んでも(以下略。




「れでぃー…ごー!」


参加した上位ミミック達幾人かが、ジョッキの中身を零さないように慎重に動き出す。それぞれ何十杯も手にして。


まあ使ってるの腕2本じゃないけど。手を幾本もの触手に変え、支えているのだ。


因みに2本腕部門では、私が一位だったりする。いつも社長を持ち歩いているから、物を持つコツがわかっているというか。


社長? 社長は殿堂入りである。多腕部門も二本腕部門も。だって一度、百個のジョッキを持って移動せしめたのだから。流石に数日は数センチも上がらないほど腕を痛めてたけど。


つまりこれは、文字通り自分の腕を鍛える修行…じゃないな、うん。





「じゃあまた明日ね社長、アストちゃん! あ、もう今日か!」


楽しい時間はあっという間に経ち、本日はお開き。徹夜で飲む面子もいるが、私達は先にドロンすることに。


既に寝息を立て始めた社長を抱え、部屋へと。寝巻を着せてあげる。こりゃ明日もねぼすけさんは確定かな。


ふあぁ…、私も眠くなってきた。寝よ。明日は何食べよっかな…。

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