183.日本一の東北へ
「『RESTRAT! 日本一の東北へ』。Let’s go、東北クレシェントムーンズ!」
開幕2カード目、今シーズンのムーンズ本拠地開幕戦。球場の音響設備と大きなビジョンを駆使した凝った演出のホーム開幕戦用PVが流されると、スタジアムのボルテージが一気に上がる。ちらちらと雪が降る程の寒さなど忘れたかの様に、地響きの様な歓声と拍手が沸き起こる。
——平日のデーゲームなのに、満員だ……
4時試合開始、夕方だから人によっては仕事を早上がりして来てくれたのだろうけれど、火曜日のこの時間にこんなにお客さんが入るあたり、東北のファンがどれだけこの日を心待ちにしていたかがうかがえる。ちなみに、平日なのにデーゲームで開催する理由は2つあり、1つは学生の春休み期間でデーゲームでも集客がある程度見込めること、そしてもう一つ、と言ってもこれが何よりの理由だったりするのだが、それは寒さである。プロ野球チームの本拠地の中で、仙台は最北端に位置する開放型球場である。故に最も寒いとされる本拠地であり、開幕直後のこの時期には気温は1ケタ台、夜中には寒い年だと氷点下を記録することさえある。そんな気温の中で試合すると怪我をしやすくなるし、観ているお客さんも辛いだろうということで、4月の頭までの仙台での試合は基本的に暖かい時間にやることになっているのだ。
「皆様、お待たせいたしました。プロ野球公式戦、北海道ベアーズ対東北クレシェントムーンズ1回戦。ただ今より、両チームのスターティングメンバーを発表いたします!」
「先攻、北海道ベアーズ。1番、センター、石川。センター、石川。背番号7。2番、ライト、大畑。ライト、大畑。背番号5。3番、レフト、遠藤。レフト、遠藤。背番号8。4番、……」
「続きまして、後攻、東北クレシェントムーンズ——」
先攻のベアーズのスタメン発表が終わると、後攻のムーンズのスタメン発表に移っていく。
——これが、今年のPVかぁ……
去年の好プレーやオープン戦でのプレー、さらにはこのPV用に撮影したのであろう映像に派手な演出が施されて格好良く仕上げられた映像と共に、ムーンズのスタメン発表が始まる。
「1番、センター、背番号25、高田ァ克紀ィ!」
「「そーれ、か・つ・き!」」
「2番、ショート、背番号5、尾木ィ勇五郎!」
「そーれ、お・ぎぃ!」
ムーンズの選手の名前が呼ばれる度に、レフトスタンドのムーンズファンから太鼓の音と共に応援コールが沸き起こる。
——うわぁ、これがプロの声援かぁ……!
公式戦、しかも本拠地の声援というのは練習試合やオープン戦のそれとはまるで比べ物にならないほどのものである。千葉でも相手チームの応援は聞いていたはずなのだけれど、自チームに向けられたものだと思うと、やはり感じ方が違う。
「すっげぇ、これがプロ……」
「すげぇだろ。こんなに沢山のファンが、俺たちを応援してくれてるんだぜ?」
思わず漏れた感嘆の言葉に、高橋の隣に座っていた青原が静かに、でも力強く返す。
「俺たちはこんだけの人の想いを背負って、そしてこんだけの人に背中を押してもらってプレーしてるんだ。だからさ、このチームを応援してくれてる人たちに、このチームを応援してくれてる東北に、『日本一』を届けようぜ」
今年のチームスローガン「日本一の東北へ」。球団がこれをスローガンとして掲げた理由が、分かった様な気がした。
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