55.最後のアピールチャンス①


「高橋、再来週の遠征、投げれるか?」

「もちろんです!」

 寺田の問いに、二つ返事で答えた。


 9月下旬、JPBもシーズン終盤となって、優勝争いやクライマックスシリーズ争いも佳境を迎えた頃のことであった。


「とりあえず、今決まっている段階ではムーンズと2試合。ただ、ムーンズがベストメンバーになるか若手主体のオーダーになるかはまだ分からないんだけど。あと、もしかすると広島メープルズともやることになるかもしれなくて、そん時は合計3試合か4試合の遠征だな。」

「試合数、決まってないんですか? もう2週間しかないのに……。」

「俺らが相手させてもらえるのはな、クライマックスシリーズに進めたチームが実戦勘を維持したいからなんだよ。」


 JPBでは、3月下旬から9月終わりまで、計143試合のレギュラーシーズンを2リーグに分けてそれぞれ戦い、上位3チームがクライマックスシリーズに出場し、それぞれのリーグでクライマックスシリーズを勝ち抜いた2チームが日本シリーズで激突、日本一を決める。


 シーズン最終盤にはそれまでに中止になった試合が追加日程として組まれた試合をこなす為、週6試合行われていた試合日程が2日や3日おきとなる。さらに、レギュラーシーズン終了からクライマックスシリーズ開幕までは1週間ほど空く。この期間、実戦から離れて試合勘が鈍るのを防ぐためにクライマックスシリーズに進出したチームは練習試合を組みたがる。ところが、クライマックスシリーズに進めなかったチームは、次のシーズンに向けて一足早くオフシーズンに入る。シーズンを終えて選手も消耗している中、わざわざ練習試合を組もうとするJPB球団はいない。そこで、独立リーグや社会人チームと練習試合を組むのだが、今年はその練習試合のオファーがネイチャーズにも来たのである。



「……ってことはもしかして、一軍クラスの選手相手に投げれるってことですか?」

「そりゃ、まあそういうことになるな。もちろんクライマックスのベンチ入りを争う選手も出てくるだろうけど。」

「……!」

 目の前におやつを出された子犬の如く、高橋がパアッと目を輝かせる。


「ほんっとにお前、分かりやすいな。まあ、スポーツ選手の性だよな、対戦相手が強ければ強い程ワクワクしちまうのは。」

 苦笑いしながら、寺田が頷く。


 ——それに、プロ相手にしっかり投げれれば、それだけドラフトに引っ掛かる可能性だって高くなるってことだろ!


「……なるほど、この試合はお前にとってもアピールチャンス、ってことか。」

「そりゃあ、直に球団の人に見てもらえるんですからね。嫌でも燃えますよ。」


 高橋のどこか引き締まった顔に、寺田の口角が微かに上がった。



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