40.学ばないヤツら



「よーし、じゃあ今日のメニューはこれで終わりだ! お疲れさん!」


 リハビリは、体に過度な負担を掛けない様に、通常練習よりも早めに終わる。つまり、その後の時間が長い。もちろん動画で自分の投球の分析をするとか、やれることはたくさんあるのだけれど……、まずはやっぱり。


「お疲れ様でした! 林さん、良かったら海にでも行きません? 今日、せっかく晴れてますし。」

「お、良いな。行くか!」


 せっかく晴れているし、早く終わる分まだビーチの遊泳時間も終わってないのだから、入れるなら海に行きたい、と思って林に声をかけてみた。



 4時前、既に夕方と表現しても良い時刻ではあるのだが、まだまだ陽が高い。夏だということもあるのだが、そもそも沖縄は東京と緯度が15度近く違うから、太陽の動き方も1時間近く差があるのだ。



「やっぱ海、綺麗だなー!」


 穏やかな波が押し寄せては戻り、押し寄せては戻り、をササーッ、という白い砂を洗う音と共に繰り返す。人が多いとはいえさすがは沖縄の海、透明度が高い。砂が舞い挙げられているから濁りを感じないではないけれど、「汚れている」なんてことは一切感じない。爽やかな潮の香りと相まって、胸がスッとする感覚があった。


「波打ち際歩きません?」

「良いじゃん、そうすっか。」


 膝丈まで海に入って、遊泳区域の端から端を男2人でひたすら往復する。特に何か目的があって歩いている訳でもないから、周りから「何だこいつら?」という目で見られてるような気がしないでもないが。




「なんかさ、海に来るとスカッとするよな。」

「何か分かる気がします、その感じ。」


 オイルフェンスで囲まれた遊泳区域の内側にも、ちょこちょこ魚影がある。


「こんなに人いるのに、魚いるんですね。」

「そうだなー。さすがにあんまり大きいのはいないけど。」






「なあ、遊泳時間終了も近いし、最後にダッシュしねぇ? 人も大分減ってきたし。」

「良いですね、やりましょう! 何なら、競争します?」

「お、良いねえ! でもさ、さすがに現役のお前にはかなわないぜ、ハンデくれよ。」

「じゃあ、5メートル位前から走ります? スタートも林さんのタイミングで良いですよ。」

「よし乗った!」


 スポーツ選手の性だろうか。何があるって訳ではなくとも、勝ち負けがつくものでは負けたくない、と思ってしまうものだ。


「ではでは。よーい……ドン!」


 その言葉と同時に、2人が走り出す。


 ——あれ、林さん速ぇじゃん! チクショウ、負けるもんか!

 風を切り、水を跳ね上げなながら、ぐんぐん進んでいく。



 遊泳区域の端に近付いたところで、ようやく林に追いついて横並びになった。


「くっそ、負けねー!」

 そう叫びながら、林が両手を伸ばすのが見えた。


 ——あっ、ヘッスラする気だ! なら俺も……!


 バッシャァーン!


 豪快に水しぶきを飛ばして、2人がほぼ同時に滑っていく。



 ——気持ち良いー!あっ……。





 我に返った時には、時既に遅し。



 2人で青ざめた顔を見合わせる。……やっちまったなぁ。








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