第9話 テッドとクエスト。

午後になり瓦礫除去の終わったリリオと合流したテッドは食後にクエストを受けてみる事にした。

「リリオも行くか?」

「えぇ…、どうしようかなぁ…。内容によるかも。

そう言ってリリオは僧侶に話しかける。


「うーん、魔物の残党狩りなら行ってもいいかなぁ。

これならいいよ」

「ではそうしよう。それで何をすればいい?」


「昨日倒した魔物が今また街に来たら大変でしょ?街の周りで魔物を見つけて倒すの。

1匹あたり3エェンくれるって。

あ、エェンは通貨ね。お金。

3エェンあればここの宿屋に泊まれる金額だから覚えておくといいよ」


リリオがしたり顔で説明をしてくる。

街の周りで魔物を探すのか…

それで見つけたら倒せばいいと言うことかとテッドは納得をしてついて行く事になった。



街に出て少し歩くと茂みの中から昨日倒した首狩り蟷螂が現れる。

「よし!やっちゃって!」

「いいのか?リリオはやらないのか?」


「いいの!よろしく!」とリリオが言うと少し後ろに下がって行く。

これは丸投げでは無いのか?と一瞬思ったがライトソードを出して問題無く首狩り蟷螂を倒す。


「よし!1エェンゲットー!」

「何故だ?倒したのは俺だ?」


嬉しそうに駆け寄るリリオにテッドが疑問をぶつける。


「マネジメント料よ。

テッドは強いけど地理には疎いし知識も足りないから私がそう言う面をサポートしてあげるの。

報酬の3分の1でいいから」


「なに?」

「いいって、遠慮しないで。ほら、次行こうよ!」


リリオはテッドの背中を押す形で前に進ませる。

テッドは釈然としなかったが別にお金に困っては居ないし、宿屋が一泊3エェンとわかったのだからとりあえず30エェンくらい持っていれば何とかなるだろうと思う事で自分を納得させていた。


その後、前に進むと森が見えてきてリリオの勧めで森に入る事になる。


そこまでに昨日倒したゴブリンも4匹程いたが問題なく倒せた。

「そろそろ戻るか?」とテッドが言った時、森の更に奥で「エレメント!」と声が聞こえてきたので見に行く事にした。



森の奥でローブ姿の男と横にオプトくらいの男の子が居てゴブリンと戦っていた。


「【エレメント】!」

男の子がそう唱えるとゴブリンに火が着く。


ゴブリンはキィキィと鳴き声を上げるが倒すまではいかない。


「もっと集中をしろ。エレメントはこう使うのだ【エレメント・ファイア】!」


巨大な火の玉がゴブリンに直撃して燃やす。

「お師匠様!凄いです!」


男の子がローブの男を師と呼んでいるので師弟関係だと言うことが伺える。

その姿を見ているとローブの男がテッドに気付いて話しかけてくる。

「何用だ?」

「いや、声がしたから見にきた。今のはエレメントの祝福か?」


男はそうだと言って後ろを向く。

テッドはもう少し聞かせてくれと言って質問を始めた。

「そこの男の子はエレメントと唱えて火が起きた。だがあなたはエレメント・ファイアと唱えた。何故だ?」


男は少し嬉しそうな顔をすると「なにも知らぬようだな」と言う。

弟子の方が「僕は火のエレメントの祝福しか授かっていませんが、お師様は火と雷のエレメントを祝福で授かって居るので後ろに言葉を繋いで差別化する必要があるんです」と丁寧に説明をしてくれる。


「成る程。参考になった。もう少し聞いてもいいか?」

「どうぞ、僕でわかる事でしたら」


「そもそも祝福とは鑑定を受けないと使えないのか?」

「いえ、鑑定を受ければ自身の祝福を知れるだけですので鑑定を受けなくても使えます。

まあ、唱えて発動しないと恥ずかしいから試す人はあまりいません」


「もう一つだ。エレメントには何がある?」

「火はファイア、氷がアイス、雷がサンダー、水がウォータ、風がウインドです」


テッドはそれを聞いて弟子に感謝を告げる。

その時リリオが「来たよきたよ、また魔物だよ!」と声をかけてくる。

見るとゴブリンが1匹いる。


テッドには何か確信めいた勘が働いていた。

テッドは前に出るがその手にはライトソードが無い。


「テッド!剣出しなよ!出してよ!何やってんの?」

リリオが慌ててテッドに言うがテッドはその言葉が聞こえないように前に出る。


「テッド!」

「【エレメント・ファイア】」


テッドはエレメントの祝福を試してみた。

直後にゴブリンの目の前にリリオの身長くらいの火柱が起きていた。

ゴブリンは目の前に起きた火柱に腰を抜かしてしまう。


「当たらない何故だ?」


テッドは不思議そうに手とゴブリンを交互に眺める。

離れてゴブリンを見ていたリリオは驚きながらテッドを見る。


「テ…テッド?」

「リリオ、当たらない。わかるか?」


「知らないわよ!あんたエレメントも授かっていたの?」

「知らない。出来そうな気がした。だから試した。だが当たらなかった」


そう言ってテッドは「仕方ない」と男の子の方を向くと「済まない。質問が増えた」と言い出した。


「何故俺の攻撃が当たらない?」

「え?」


「初めて撃ってみたのだが当たる為の何かが必要なのか?」

「は…初めて?初めてであの火柱なんですか?今も燃えていますよ?」


男の子は涙目でテッドと火柱を眺める。

火柱はごうごうと音を立てて今も燃え盛っている。


「ば…バカな…?私の火球も何年も研鑽してあの大きさに育ったんだぞ?それを初めてで火柱だと?」

男の子の後ろでローブの男が愕然とする。


「嘘はついていない。初めてだ。そして出来た。あなたでもいい、当たらないのは何故だ?」


「ね…狙ったのか?」

「狙い?狙いが必要なのか?」


「当たり前だ、狙う相手を見て相手に当たるイメージをするんだ!そして威力もイメージが伝わる」

「そうなのか、参考になる。ありがとう」


そう言って再度テッドが腰を抜かしながら逃げようとするゴブリンを睨む。


「手です!手をかざして狙ってください!」

男の子がテッドに教える。


「ありがとう。…【エレメント・ファイア】」

テッドは手をかざしてゴブリンを狙う。

威力のイメージを意識してみた。

骨も残さずに焼き尽くしたい。


そんな事を思ったからだろうか…

ボンっと言う大きな音と共に巨木と同じくらいの高さと太さの火柱が起きてゴブリンのキィィィと言う絶叫が聞こえた。


「出来た」

テッドはそう言って男の子の方を見ると「ありがとう」とお礼を言う。

男の子とその師匠は言葉を失って立ち尽くしていた。


「大丈夫か?」

「……!?はい!大丈夫です!」


男の子の方は早々に回復したが師匠の方は「10年…10年の研鑽が…はは…っ…ははははは…無駄じゃないか…これじゃあ……」と放心しながらブツブツと言っていた。


「すまない。もう一つ聞きたい」とテッドは男の子に向かって言い「消し方がわからない。教えてくれないか?」と聞く。


「えぇぇぇ…僕のエレメントは勝手に消えるんで消し方を意識なんてした事ありませんよぉ」

男の子は物凄く困った顔でそう言う。


「では、あなたはどうか?」

テッドは放心状態のローブ姿の男に声をかける。


「あはははは…………、火がぼーって…あはははは。10年…10年…」

「駄目だ。話にならん。何故放心しているんだ?」


「あんた、マジで言ってんの?」

リリオが呆れた目でテッドを見る。


テッドはこのまま火が消えないと森が大火事になってしまう気がしていた。

そして自分はエレメントを使う際に属性を指定した。

恐らく他のエレメントも使えるだろう。

テッドはそう確信していた。



「やってみる。俺が火を消してみる」

「はぁ?」


「水だ、記憶の無い俺でもわかる。火を消すのなら水だ」

「え?うそでしょ?あんた何を言ってんの?」


その時、リリオの脳内では火を消すから水という理屈はわかったが、火の中を見るとゴブリンの影も形も無くなっているという事は目の前の火は骨まで残さない温度。

自身の知識でそんな火は1500度以上であったと思う。


リリオはプレイヤーなのでスタッフ達の知らない知識がある。

勿論、学の無いプレイヤーならそんな知識はないがリリオには雑学があった。


「え?骨まで焼き尽くすような火、きっと地面には小石とかもある…。そこに水?もしも水が超低温で大量なら……テッドだめ!!」


リリオがそう言った時にはもう手遅れだった。テッドは火柱に手をかざして「【エレメント・ウォータ】」と唱えていて、水が手元から火柱に向けて放出されていた。



水が火柱に触れた瞬間。

ボンと言う激しい音で火柱が爆発をした。

水蒸気爆発…たしかそんな名前だったとリリオは思いながら吹き飛ばされて尻もちをついていた。


「生きてる…よかった」

そう言ったリリオの周りには薄いモヤのようなものが光っていた。


自動防御の祝福。

リリオが授かった祝福は自動防御、それが爆発の直撃から身を守ってくれたのだ。

そして自身の無事を理解したリリオはテッドの事を思い出す。


「テッド!?生きている?」

名前を呼びながら先ほどまでテッドが居た場所を見るとその場所にテッドは居なかった。

だが少し後ろで、男の子を庇うようにライトシールドを構えて立っていた。


「無事だ。だが何故爆ぜたんだ?」

テッドは意味が分からないと首をかしげながら先ほどまで火柱があった場所を眺めている。

リリオが超高温の火と大量の水が合わさると爆発する事を説明してようやく納得をしていた。


「リリオ、また知ることが出来た。ありがとう。ではもう遅い。オプトが待っているから帰ろう」

「そうね。とりあえず私が居ないとこういう時に困るでしょ?だから報酬の3分の1で手を打ってあげるから支払ってよね」


「そうだな。頼む」

「毎度あり」


テッドとリリオはそんな事を話しながら街に戻っていく。

取り残された師弟は放心状態でいつまでも乾いた笑い声をあげていた。

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