サード ガーデン
さんまぐ
第一章・記憶をなくした少年。
第1話 テッドとオプト。
ここは何処だ?
暗闇…どこまでも続く暗闇。
そこに居る。
少年は暗闇の中を漂っていた。
夢か現か…。
声がする。
遠くで声が聞こえる。
少年の耳に男女の声が聞こえてきた。
だが遠い。
集中しないと聞き取れないくらいに声は遠い。
耳を澄ませる。
声を今度こそ聞き逃さない。
「――僕達は君の来訪を歓迎する」
「あなたの存在がこの世界の刺激となって世界は光り輝く」
「私達はあなたを祝福します」
何だそれは?
歓迎?刺激?祝福?
それにしても耳障りな声だ。
聞いていると何故かイライラする。
再び男女の声がした。
少年は聞きなれない声、意味不明な言葉を耳にして疑問に思う。
そして不愉快に思っている。
光――。
目の前が光り輝く。
何だこれは?
気が遠く…な…る……。
少年は再び目を瞑った。
それは睡魔に襲われたのではない。
意識を失ったのだ。
「…もし…もし…」
声がする。
今度は耳障りではない。
「あの…大丈夫ですか?」
少年は声と共に身体を揺すられる。
その声で起きた方が良いと少年は判断をして目を覚ました。
少年が目を開けると目の前には12…13歳くらいの男の子が居た。
男の子は身なりの良い緑色主体の服を着ている。
「あ、目が覚めましたね。大丈夫ですか?」
心配をされたと言う事はそう言う状況だったのか?
「何が大丈夫なんだ?」
少年は疑問を口にする。
「いえ、ここは僕の家です。僕の家…庭で寝ていたので何かあったのかと思いまして…どうされたんですか?」
どうした?
何がだ、ここはそもそも何処なんだ?
少年は疑問を口にする事にした。
「ここは何処なんだ?」
「え?」
目の前の少年が驚いた顔をする。
「何もわからないんだ」
「何もですか?」
「ああ、何もなんだ」
「分かりました。時間が無いので手短に説明します。ここはシィア国です」
シィアの国と聞いても何もピンと来ない。
「シィア?」
「はい。僕はオプトと申します。お名前はわかりますか?」
緑色主体の少年はオプトと名乗った。
「名前…」
少年は自分の名前を真剣に考えたが思い出せない。
「…大丈夫ですか?」
せめて名前くらいは…少年はそう思って必死に名前を思い出す。
鈍い頭痛。
その直後に聞こえてくる…いや、思い出される男の声。
「よう!テッド、お前の名前は…テッド、テッドだお前の目的を教えるからな…」
テッド…それが自分の名前と言うのは何とか分かった。
だが目的?最後まで聞き取れなかった。
少年はオプトに向かって名前を名乗る。
「テッド……らしい」
「テッドさんと言うのですね。よろしくお願いいたします。ただ早速で悪いのですが、テッドさん逃げてください」
オプトは名乗ったテッドを見て嬉しそうな顔をしたが次の瞬間には真面目な顔つきに戻って逃げるように促してきた。
テッドは何故か日常会話が出来る自分を訝しんだがいちいち気にしては話が進まないので会話を進める事にする。
「何故だ?」
「ここはシィアの国の端の街です。
もうすぐここに魔物の群れが来るんです」
「なら何でオプトは逃げない?」
「僕はこの街を治める立場なので逃げません。使用人達には皆逃げるように指示を出しました」
そう言うオプトを見ると手が震えている。
「手が震えている」
「はは…、はい。父と母が旅立って僕一人になっていきなりの魔物の群れですから…」
「父と母はどうしたのだ?」
「ようやく楽園に行けることになりました」
「楽園?」
「はい。あ!そうか!そうだったんですね!!」
オプトが急にテッドの顔を見て納得の行った顔をする。
「どうした?」
「テッドさんは産まれたばかりなんですね!!」
「俺が?」
そう言ってテッドは自分の手を見て顔に触れる。
記憶は無くても赤ん坊と言うものは知っているし、人は生まれた時は皆赤ん坊だ。
「はい。テッドさんもプラスタなんですね!それで何かトラブルが起きて自分の事もわからないしいきなりうちの庭に現れたんですね」
そう言ってオプトは合点がいったと喜ぶ。
「プラスタ?」
「はい、プラススタッフの略です。この世界にはスタッフ、マイナススタッフ、プラススタッフ、プレイヤーと居るんです。プレイヤーとスタッフはこの世界で自由に生きる存在。
マイナススタッフは仕事を果たして自分の罪を償うまで解放されません。
そしてプラススタッフは神様達から祝福をされた存在。幸せになる為に産まれてきたんです。僕達プラスタは楽園に行ける日まで幸せな時間をこのサルディニスの世界で過ごすんです」
矢継ぎ早にオプトがテッドにスタッフの説明をする。
オプトの言う通りであればテッドはプラススタッフと言うことになる。
「何だそれは?」
「身体能力が高く才能が多い存在を言います。この世界のスタッフには皆[祝福]と言われる創造神イィトが授けてくれた特殊な力があります。僕にはその祝福を少しだけ見られる鑑定の力と癒しの力があるんです」
!!?
創造神の名を聞いた時、俺の動悸が速くなる。
テッドは早まる鼓動を抑えるように胸を抑える。
「テッドさん?大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ…」
「テッドさんはプラススタッフでも神話にある[始まりの地]からやってきたプラススタッフだと思います。なので産まれたてでも記憶が曖昧なんですよ。
ただ、おかしいなぁ…。[始まりの地]から来るプラススタッフは3人の神様が教会に送り届けるんですけど…、なんでテッドさんはウチに居たんでしょうかね?」
「俺が聞きたい」
「ようやくわかった所でテッドさん、早く逃げてください。右側に階段がありますのでそこから逃げて街に降りたら左に向かって真っすぐ行ってください。そうすれば教会があります。そこに今避難している街の人達が居ますから事情を話して保護をして貰ってください。
神父様は僕より上位の鑑定が出来ますので鑑定をして貰って神様に来てもらってください。そこで話をすればテッドさんもこの世界の事がわかります。プラススタッフは幸せになる為に産まれてきます。
テッドさん、幸せになってくださいね」
そう言ってオプトは笑う。
その笑顔を見たテッドは何か熱いものが込み上げてくる。
それと同時に頭の奥で「違うだろ!?お前の役目と目的は…」と聞こえてくる。
なんだこの声は?
段々と耳障りで不愉快に聞こえてくる声。
その声よりもしなければならない事。
「つっ…」
「テッドさん!?」
「オプトは逃げないのか?」
「僕は…逃げません。納める立場の僕がここに居るのも変な話です。
でも先日まで父と母と過ごしたこの家を見捨てて逃げたくないんです。
僕はこの家と共に…」
その先は聞かなくてもわかる。
オプトは思い出と共に死ぬと言うのだろう。
テッドの心が揺れる。
「俺達プラスタは戦えないのか?」
「え?…身体能力は元々高いので[祝福]の内容次第では十分に戦えます。でも僕の祝福は鑑定と癒しですから…」
オプトはそう言うと悔しそうに下を見る。
「俺はどうだ?」
「テッドさんですか?」
「ああ、もしも俺に戦う力があればオプトは助かるだろう?試してみないか?」
テッドは自分でもおかしなことを言っていると思う。
でも今は目の前のオプトを見捨てたくない。
そんな気持ちでいっぱいだった。
「わかりました」
少し間をおいてオプトがテッドを見る。
「行きます。【鑑定】!」
オプトが一瞬光る。
「え!!?ナニコレ…、テッドさん?
え…3つ?そんな人が居るの?」
目の前のオプトが慌てている。
「どうしたんだ?」
「テッドさん、あなたは凄い祝福を授かっています。僕が見ただけで3つの祝福が見えました。[ライトソード][ライトシールド][ソードマスター]」
そう言って顔を紅潮させたオプトはテッドを見る。
当のテッドはそれの何が凄いのかわからない。
「俺は戦えるのか?」
「多分大丈夫です。僕も詳細は知りませんが剣と盾を授かっています。この組み合わせなら戦えると思います」
「それならさっき言っていた階段で魔物を迎え撃とう。危ないから家の中で見ていてくれ」
「わかりました。テッドさん、祝福を使う時にはそのモノを唱えなければいけません。癒しなんかは唱えなくても意識をすれば出ますが効果が弱いんです。なので緊急時以外は唱えるように心がけてください」
テッドはわかったと言って階段に向けて歩いて行く。
「魔物と戦う…何で俺は普通にそれを受け入れられているんだ?」
1つの疑問を口にしてしまう。
それも神に会えば解決するのだろう。
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