第11話
「私ももう七十を過ぎたかあ。ちょうど死んだばあちゃんと同じぐらいの年になったんやなあ。私が今死んだら天国のばあちゃんと同い年ぐらいかあ。もし天国で今の私がばあちゃんと会えばどんな話をするんやろうなあ」
僕は母の言葉に心の中で大きく反応した。人は生きている限り年を重ねていく。年上の人にいくら頑張ってもその人の年齢に追いつくことは不可能であり、年下の人にいくら堕落して怠惰な生き方をしていてもその人に年齢で追いつかれることも絶対にない(精神年齢だとか周りの評価や見た目は別として)。あの子供だった頃の僕が、僕を育てていた両親の当時の年になり、なんとなく分かってきたつもりになったことがあるけれど、それらの「本当」は父と母の中にだけあるものであり。僕はそれを想像するしか出来ない。そしてあの幼かった僕を育てていた父と母も当然待ってくれる訳ではなく。僕があれから重ねた年数と同じだけ年を重ねた。今の父や母に僕はどう映っているのだろう?確かに母は電話では僕がしっかりしているだとか、兄は何故あんな風になってしまったのだとか、兄より弟である僕の方が全然大人として成長しているし地に足がついた生活を送っているだとかいうことが多かった。それでも僕はそんな母の言葉を話半分で聞き流しながら、経済的に自立しているからそんなことは当然の評価だろうと言う気持ちが半分と残り半分は、兄の存在と比較してのこともあるだろうし、お世辞で言っているのだろうといつも思っていた。
「父さんが結婚式で泣いてたけれど…。あれって…、なんでか分かる?」
僕は母ならその理由を知っているかもしれない、母ならそれをあくまで想像であろうと口にすることを許されると言うか、その権利を持っていると思い、そう聞いてみた。
「あんたは『あの電話』を覚えてないんか?」
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