第4話
僕が寝る前は扇風機の風を受けながら「ハアハア」としんどそうにしていたけれど、扇風機のタイマーが「連続」になっていることの方を気にしていたし、その犬が本当にもうギリギリのところまで弱っているとは全く思っていなかった。それは僕以外の人間も同じでまさか数時間後には死ぬとは微塵も思っていなかった。兄は自分の人生の新たなる門出である特別な日に死ぬなんて空気の読めない犬だと言った。父はその犬の亡骸を表情も変えずしばらく見つめ扇風機を止め、母は固まった犬の亡骸を撫でながらその犬が最後まで頑張って生きたことを誉める言葉を言い続けた。それから父は、兄の結婚式があるためにその犬の亡骸を土に埋めたり、業者にお願いして火葬するだとかの手配が今日は出来ないと判断し、テキパキと犬が入る大きさの段ボールを用意し、その中に新聞紙やボロボロになったタオルを詰め込みそれらでクッション代わりとしてその上に犬の亡骸を丁寧に抱えて置き、冷凍庫の中にあるアイスノンやビニール袋の中に氷を大量に詰め込んだものを犬の亡骸の周りに詰めた。僕はそんな父の行動を見ながら死体は腐ってしまうものだから、父がテキパキと犬の亡骸をすぐに用意できるもので冷やしていることは実に的確で正しい判断だと思った。ただ、父は表情を一切変えなかったので、昔から父のこういう面ばかり見てきたし、父が涙を流すことなど一度も見たこともなかったので、いつも通り昔から変わらない人だなあと僕は思った。
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