自由研究

makura

第1話 「自由研究って何をしたらいいの?」


「お父さん、自由研究って何をしたらいいの?」

「そりゃあ、研究したいものを研究するんだろ?」


仕事から帰り、冷房の効いた部屋で夕食を食べていると息子が夏休みの自由研究について聞いてきた。

はて、息子はいったい何に興味があるんだろうか。

そこにちょっと興味があった。



「うーん。なににしようかな…」

「迷ってるな」


「そう…なんだよね」

「明日、友達とかに聞いてみたらどうだ?」


「そうだね!そうする」




翌日、僕は町に出ることにした。


いつも行く学校までの通学路を歩いてみた。

熱い。アスファルトかコンクリートか僕にはわからないけど、灰色の路面ではゆらゆらと空気が歪んでいるようなうねりが見える。


うねりは青空に向かうが空に届く前に消えてしまっている。


よくよく周りを見ながら歩いてみた。


あるのは…踏切、中学校、駄菓子屋、神社、住宅街と自分の小学校。


おなじみの風景過ぎて何も浮かばないな。


自分の小学校についてしまった。

期待通りというか期待外れというか、そんな気分だ。


そこでは、偶然友達が野球をしていた。


おーいと言いながら僕はうれしくなって、みんなに近づいて野球に加わった。


僕は当初の目的をすっかり忘れて野球を楽しんだ。





「じゃーねー」

夕方になっていた。


校庭から見た空は赤い夕陽の色に染まっているが地面近くは少し薄暗い。


同じ方向の数人と一緒に帰ることにした。


途中で駄菓子屋に立ち寄った。


僕はお母さんからもらった300円でみんなと同じカツとかキャラメルのお菓子を買って店の前で食べていた。


駄菓子屋は狭い一本道の通路があり、突き当りにレジ、通路の両脇に駄菓子や缶詰、乾麺なんかが売っている。


レジの向こう側にはガラスケースに入った女の子の日本人形、馬の置物、なんらかのお守り、ほかにもなんだかにぎやかな景色と障子があり、さらに奥に部屋があるようだ。


店のおっちゃんが出てきて話しかけてきた。


「今日は何してたの?」

「野球ー」


「おおそうか!よかったな!」


店のおっちゃんはこんな感じで、一言二言気さくに話しかけてくる。


なんだか優しい雰囲気なのだ。






家に帰り、夕食を済ませた僕はぼーっとテレビを見ていた。


「なんか見つかった?」


「んー。忘れてた」


お父さんに聞かれるまですっかり自由研究のことは忘れていた。



翌日、僕はもう一回通学路を歩いた。


何かいいものないだろうか、そう思っているうちに学校についてしまった。


友達が校庭の端に集まってゲームをしていた。


おーいと言って僕もゲームに喜んで加わった。







夕方になってしまっていた。


帰りに駄菓子屋に寄った。


僕は、おっちゃんに聞いてみた。


「自由研究って何をしたらいい?」


「うーん、知ってる?中学校の幽霊」


「なにそれ!?」


「夜、中学校には幽霊が出るんだよ」


おっちゃんは僕を驚かすように幽霊のポーズを取って言ったが、僕はこれだ!と思った。





夜になった。


お父さんが聞いてきた。

「なんか見つかった?」


「幽霊!そうだ、これからちょっと一緒に中学まで来て!」


息子は私の服のすそをすでに引っ張っている。


息子は自由研究のテーマに幽霊を選んだらしい。


息子と歩いて近くの中学校まで来た。中学校は息子の通う小学校の途中にある。


中学校についた。私には何も見えなかったが、息子には見えたらしい。


校門の塀の上に向かって息子はだれかと話していた。


息子は「出た!」とか言っている。


薄気味悪かった。私はすぐに息子に「帰るぞ」と言って一緒に帰ってきた。







お父さんには見えなかったのかな。僕は次の日も学校まで行ってみた。


暑くて汗だらだらかき、たまらず神社で一休みした。


この神社は通学でいつも通り抜けている神社だ。



こんど夏祭りがあるらしい。


掲示板にポスターが貼ってあった。



行きたいなと思った。


学校につくと友達がカードゲームをやっていた。


僕もおーいと言って一目散に一緒に混ざった。


夕方、踏切まで来た。


踏切の脇にはいつもおじさんが座り込んでいる。


話したことはないけど、おじさんはいつも座ってうなだれている。


僕はどういうわけかその日は声をかけてみた。


「おじさん、何してるの?」


「おじさんはなぁ、ここから動けないんだ」


「なんで?」



「なんでって、おじさんはなぁ、帰れないんだ。帰るところがないんだよ」


「何で?」


「なんでって、おじさんが家に帰ったらみんなびっくりするだろ?いや、無視されるかもしれないな」


「ふーん」


この踏切おじさんは家に居場所がないらしい。そうとうダメなおじさんだったんだろう。


「おじさんにも君くらいの息子がいたんだ」


「へー」


「もう、会えないけどな」


おじさんは、なんだか元気がない。なんだか世界にぜつぼー?してる感じだ。



もう少しで、夕日も完全に隠れようとしていて、空は夕焼け色だが辺りはもう薄暗い。


踏切おじさんがぜつぼーしてるから、この辺りも暗いのかもしれない。

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