第2話
衝撃のビビットイエローから始まった一週間。翌日からは、何事もなかったかのようにまたいつもの青に戻っていた。
それからしばらくして、また、うつらうつらとしている彼の首元に黄色いネクタイを見つけた。以前見たものと同じ柄だった。
「ねえ聞いて」
「んー?」
何度目かの黄色いネクタイを見つけた日、居ても立っても居らずに友達に話を聞いてもらうことにした。
私の唯一の日課をいつも笑って聞いてくれている数少ない友達だ。
「いつもあのサラリーマン、今日黄色いネクタイしてたんだけど」
「出た例の青ネクタイのイケメンさん」
スマートフォン片手に薄笑みを浮かべながらの応答。
事の重大さを何にもわかっちゃいない。
「そう、青ネクタイさんが、だよ? それも一度だけじゃなく何度も」
「そりゃーそんな日もあるでしょ。何も毎日同じネクタイしてるわけじゃないんだし」
「そうなの。毎日同じネクタイをしてるわけじゃないの。にもかかわらず、頑なに青いネクタイをしてたのに、だよ?」
ふーん、と言ってスマートフォンを机に置いた彼女は、わざとらしく遠くを眺めて、それからにやりと口角を上げた。
「いいね、なんかあるのかもね。その黄色いネクタイはいくつもあるの?」
乗ってきた。こういい下世話な話にも面白おかしく乗ってくれるところが彼女の好きなところだ。
「いや、覚えてる限り一種類だけだったと思う。日を置かずに着けていることがなかったから曖昧だけど、多分いつも同じやつ」
色の印象に引っ張られてちゃんと見られなかったこともあるかもしれないが、また新しいのが現れたらきっと覚えているだろう。
「同じのをリピートとしてるってことね。お気に入りなのかな」
「お気に入りだとしたら、その割には登場回数少ないよ。サラリーマンのネクタイのサイクルはよくわかっていないけど、隔週でも登場してなかったと思う」
「勝負服とか。なんか大事なプレゼンの日とかに気合い入れるために着けてるとか、ありそうじゃない? 他になんか、法則性とかないの。曜日とか月のタイミングとか」
うーん、と少し考える。流石の私もそんな観察日記みたく記録してるわけではないので記憶は曖昧だ。
「初めて見たのは確か先々月末の月曜だったかなー。衣替えにしては変な時期だよね」
「確かにね。それにしてもよくそんな二ヶ月近く前のことそんな覚えてるね。ちょっと気持ち悪いよ」
「ちょっと待って、ひどくない?」
聞いといて、彼女は乾いた笑みを浮かべた。
他に黄色いネクタイは二度ほど登場していた記憶があるが、特に日付や曜日は覚えていなかった。
「まあまたなんか発見したら聞くからさ」
話に飽きたようで、彼女は机に置いたスマートフォンを手に取った。
次、黄色いネクタイの日を見つけたら、今度はカレンダーにメモくらい残しておこうかな、と思った。
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