グーで殴れ!
リンの
「やめて、私は気にしてないから――」
私はリンを制止しようとした。彼女の激情は時として、好ましくない形をとる。
「なに?文句があるなら――」
リンはセレアの顔面を殴った。もちろん、グーでだ。私は生まれてこの方彼女がビンタをした所を見たことがない。彼女は半端な暴力は振るわない。やるときはやりきるのだ。徹底的に。
セレアの鼻柱が折れ、パタタと鼻血が地面に飛び散った。
「えっ?」
セレアは自分に起こったことに理解が追いつかないようで、自分の鼻に手を当てて呆然としていた。
呆けているセレアなど関係なしに、リンはセレアの首元を左手で掴み、持ち上げた。あの細腕にこれほどの力があるのかと感心してしまうが、感心している場合ではない。
「もうやめて!」
「あ、あなた何を」
セレアがやっと自分の身の危険を悟ったがもう遅い。リンはセレアの顔面をもう一度殴った。セレアの折れた鼻柱がさらにぐちゃりと潰れる音がして、鼻血の飛沫が飛び散った。あれでは、セレアの鼻はもうまっすぐには戻らないかもしれない。
「や、やめて」
セレアが手をかざして、何とか身を守ろうともがいた。だが、リンは涙ぐましいセレアの防御など無視して、セレアの腕をかいくぐる様に、アッパーカットを食らわせた。
「…………!」
セレアは顎に強い衝撃を受けた瞬間、声にならない呻き声をあげた。リンはセレアにもう一撃食らわせるべく、腕を振り上げた。
「ごめん……なさい!もう、ゆるして。おねがいだから」
セレアは泣きながら、息も絶え絶えにリンへと許しを乞うた。
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