第16話カール王子との婚約
俺様が王宮の庭園で怪我をしてから、カール王子は何度もお見舞いにきた。いい奴なんだろうな・・・イケメンでなければ良い友人になれたかもしれない。しかし、俺様にとって、イケメンは敵なのだ。そんな最中、それは起こった。本当に残念な事件が・・・
お昼下がりのお茶の時間はもうじきかな? という時間帯に来た。馬車だ。王族の紋章が入った正式な馬車。なんで、そんなものが? もちろん、うちは名家だから、王族との関連は強い。だけど、紋章入りの馬車が来るなんて、どんな時なんだろうか?
馬車からカール王子と大勢の従者が共に降り立った。カール王子は正装していた。何事? まさか、婚約じゃないだろうな? 俺様は冷や汗が出て来た。落ち着け、俺様、怪我をしたことは、もう、関係が無い筈だ。気にしてないし、こちらの方が悪かった。それは王子も納得してくれた筈だ。しかし、もし、ガチ政略婚約だとしたら? そう言えば、あーちゃんがうちの家は王家に嫁いでもおかしく無い家柄だと言ってた。落ち着け、落ち着け、俺様・・・そうか! 俺様は思い当たる節があった。ベアトリスだ! こんな変な女の俺様と婚約する奴がいる筈がない! と、すると、婚約はベアトリスとだ。王子はベアトリスに好意を寄せたのかもしれない。ませたガキだ。しかし、俺様のベアトリスに手を出すとは・・・でも、王子様のお嫁さんになるのはベアトリスにとってはいい事なんだろうな・・・ここは姉として、祝福するしかないのか・・・
そうして、俺様を含めて、家族がリビングに集まった。父ちゃん、お母さん、俺様、妹ベアトリスの4人だ。それに主だった家の執事やあーちゃん等、専属付き添いの召使達。あーちゃんは俺様の後ろに控えていた。そして、カール王子は父ちゃんと話し始めた。
「ベルンハルド・ケーニスマルク殿、今日は正式に婚約のご挨拶に参りました。是非、あなたの姫を私の婚約者として、お認めください」
「殿下、私の娘等を婚約者にと、もったいないお言葉、もちろん、宜しくお願いします」
あれ? 本人の意思は? 関係ないのか・・・政略結婚だもんな。ベアトリスが少し可哀そうになった。でも。この世界では、普通、王子様と婚約、結婚なんて、女の子にとって、夢の話らしい。だから、ベアトリスにとって、いい事なんだろう・・・俺様はベアトリスの顔を伺った。すると、ベアトリスは流石ヒロインの一人といわんばかりの愛らしい笑顔を俺様に向けた。あー!!! 可愛えぇぇぇぇーーー 大丈夫だ。ベアトリスは嫌じゃないんだ。ここは姉として、素直に祝福しよう。
「では、この婚約、ご了承頂けたという事で、宜しゅうございますかな?」
王族の執事が父ちゃんに聞いた。
「もちろんで、ございます。この様な栄誉を賜り、恐縮する次第です。どうか、娘を宜しくお願いします」
「殿下?」
「うむ、ベルンハルド・ケーニスマルク殿、私の求婚に許可を頂き、ありがとうございます。姫は必ず、幸せにします。ここに、女神エリス様の名の元に、私はクリスティーナ・ケーニスマルク穣を婚約者とし、永遠の愛を誓います」
うん、うん、良かったね。ベアトリス・・・あれ? 今、ベアトリスじゃ無くて、クリスティーナとか言わなかったよな? 王子様、いい間違えたのか? そうだよね? 間違えたんだよね? そんな訳、無いよね? 無いよね!?
「クリスティーナ、良かったな。殿下に気に入って頂くとは、父として、鼻が高いぞ! これからは未来の王女様として、相応しい立ち振る舞いに勤しめ。父は嬉しいぞ!」
「えっ! あっ! いや、えっ!」
俺様は冷や汗、既にだらだらだった。マジ? マジなの? そして、王子カールは席から立ちあがると、つかつかと俺様の方に向かって歩いて来た
「ひぃ……! あぐっ……や、やめっ……!」
王子は俺様の前に跪づいた。俺様は慌てて立ち上がり、自分の右手を差し出した。貴族の男性が跪づいたら、女性は手を差し出して、キスを受ける。それが貴族のしきたりだ。そうしないと失礼にあたる。俺様はやむ終えず、手を差し出した。そして、その手の甲に・・・キ、キスされた。ぞああああぁぁぁぁぁZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZと虫唾が走った。濃厚接触だ! 駄目なんだぞ濃厚接触は東京で駄目だと散々言われたんだぞ!! 夜の店へ遊びに行くの、凄い我慢したのに!
「いいいいいいいいいいいいい、いや”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ! や、や、や、やめれ、やめれ、やめれて・・・いぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!! やめてくらひゃい。おねひゃいします。らめ、らめ、らめらから。お願いだからゆるひてくらひゃい」
「クリスティーナ、どうしたんだい?」
王子様は、相手が嫌? て言う可能性を全く考えていない様だ。そりゃそうだろうな! 将来イケメン確実で、その容貌で王子様だと・・・嫌な女の子いないだろな! でも、俺様は嫌なんだよ! 漢らから!
「ごめ゛んなざい! ごめ゛ん゛なざい! ゆるじでください!! だからもう、止めて……許して下さい……」
俺様は目をあーちゃんに注いだ。あーちゃんはにっこり笑って。こう言った。
「もー、クリスお嬢様は感極まると、いつもこうなるのです。良かったですね! お嬢様!」
あーちゃん! 一体何を言ってんの?
俺様はセミの抜け殻の様になった。今なら蝉の抜け殻の気持ちが良くわかるぞ。もう、何も未来が無い感じだ。とうとう来てしまった。破滅フラグ・・・
こうして蝉の抜け殻になった俺様は、幸せなあまり、茫然自失・・・という状態・・・という事にされた。そして、嵐の様に王子様は帰って行った。その辺の記憶は詳しくない。蝉の抜け殻に記憶なんて、ある訳無いだろう? だから、何も覚えていない・・・
「ははは、クリスもやっぱり女の子だな。流石に王子様に求婚されて、感極まったか!」
「そうですわね。女の子の夢ですからね。クリス、良かったわね」
「お姉ちゃん。羨ましい。でも、ベアトリスたくさん応援するからね!」
父ちゃん、お母さん、妹が祝福の声をかけてくれる。でも、俺様は気分が悪くなった。
「う、うげぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ゲロしちゃった。キラキラだしちゃった。
「あら、あら、お嬢様、また、やっちゃいましたね。本当に気がちっちゃいから。緊張し過ぎたんですね」
みんなびっくりした様だ。でも、何であーちゃんはそんな嘘言うの? 俺様、王子との婚約が気持ち悪くてゲロしたのに。
「後はお任せください。お嬢様は、意外とお気持ちがちっちゃくて、あまりの事に、お腹の調子を悪くされた様です。ここは私にお任せください。いつもの事ですので」
「そうか、クリスにそんな処があるとは知らなかった。だが、いつも付き添っているアリシアが言うのなら。間違い無いのだろう。では、クリスを頼む。実はクリス以外、みんな知っていたのだが、サプライズにしてやろうとしたのだ。しかし、心の準備ができていなかった様だな」
「そうですわね。クリスもやっぱり女の子なんですわね。私、安心しました。自分の事を俺様だなんて言っていても、心は乙女なのですわね」
「お姉ちゃんは黙っていれば綺麗なんだけど。みんな勘違いしちゃうんです。ベアトリスは知っています。お姉ちゃんは優しくて、とても素敵な女の子なんです」
家族が俺様の心をズタズタに切り刻む。お願い、俺様、漢だから、女の子らしいみたいな事とか言わないで! おねひゃいします・・・
自室に戻って、あーちゃんが俺様を介抱してくれる。人心地ついて、ようやくしゃべれる様になった。俺様はあーちゃんに苦情を言った。
「あーちゃん。酷いよ! あれじゃ、俺様が喜び過ぎて、おかしくなっちゃったみたいじゃないか!」
「そうしとかないと大変な事になっていましたよ」
「ど、どういう事?」
「王子様、王族の求婚を拒否したりしたら、普通、死刑ですよ!」
「マ、マジ?」
「マジです。滅多にありませんけど、悲恋の吟遊詩人のエピソードに好きな人に添い遂げる為に王族の求婚を拒否して死刑になる話、たくさんありますよ」
「求婚断る権利、俺様に無いの?」
「ございません。不敬罪になります」
「・・・・・・」
俺様はしばし考えた。流石に7歳児を死刑にしないだろう。普通そう思うだろ?
「ねえ、あーちゃん、それ、大人の話で、俺様、7歳児だから、流石に死刑はないんじゃ?」
「昨年、帝国の7歳のご令嬢が誤って、皇族の求婚を拒否されて死刑になりましたわ」
「マジ?」
「だから、マジですって!」
俺様は変な汗がいっぱい出てきた。危うく死刑になる処だった・・・それにしても7歳児を死刑になんて、よくできるな! この世界、ちょっとおかしい!
「死刑って、どんなやつなの?」
ごくり、俺様唾を飲み込んだ。毒とかで、簡単に死ねるなら・・・いっそ・・・
「不敬罪は大抵、断頭台の露と消えます」
「ひゃっ、ひゃぁぁぁぁぁぁああああああ!」
ちびる、確実にちびる、やだよ! そんなの! なんで、この世界はそんな簡単に胴体と首がさよならできる仕組みなんだよ!
「それに、ベルンハルド様をはじめ、他の家族の方にも罪が及びます」
「み、みんな死刑?」
「それはございません。しかし、領地は没収、お家はお取りつぶしかもしれません」
「そ、そんな~」
あーちゃんはにっこり笑うと
「あきらめて、女の子として、幸せを掴んでください。最高に幸せな結末じゃないですか!」
「ゆ、ゆるちて。ゆるちてくだひゃい・・・お、俺様、無理です・・・」
「困ったお嬢様ですわね。こんなに可愛いのに」
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”」
あーちゃんの意地悪だ。絶対、俺様が一番傷つく言葉だと、知ってて言ってる。俺様の心に初めて丸太が刺さった瞬間だった。
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