第15話カール・フィリップ
ケーニスマルク家の令嬢二人と平凡な三人の令嬢のやり取りを冷静に見つめる男がいた。いや、男というには、彼は歳の重ねが少なすぎるだろうか? 彼の名はセーデルマンデル公カール・フィリップ。この国は第三王子だ。彼は値踏みしていた。先日は自身の正義感より求婚してしまったが、今は冷静に、かの令嬢を見つめていた。
カール・フィリップ、齢7歳にして、彼は王座を目指していた。第三王子に、王座の可能性は低い、普通なら・・・7歳にして王座を意識する様な者はいない。普通なら・・・
血・・・なのかもしれない。カールはそう思った。カールの父、カール三世・グスタフは8年前に王位についた。先王が崩御し、弟のグスタフが王座についた。
「果たして、自然死だったのか?」
心の中で呟く、自身の中で、決して声に出ない様に、注意を払いながら・・・
カールは先王が自然死だとは思えなかった。何故なら、王座を狙う自分がいる。自身が父の立場なら、王を毒か何かで害し、自身が王位につく。当然の事だ。そこに頂きがあるなら、何故登らない? 戴があるなら何故奪い取らない? 第三王子? 関係ない。最後の王位についた者が真の王なのだ。
「王になるには後ろ盾がいる」
子供のカールにも、それ位分かった。父が一部の貴族の声を無視できないのは何故か? それは彼らが父の協力者であり、同盟者なのだ。自分にも大きな後ろ盾がいる。後ろ盾が強固な者なら、自分が王位に就く可能性が高くなる。嫌、後ろ盾が大きければ、自身の意思に関係なく、王位に就く事になるだろう。
問題は誰を味方につけるべきかだった。候補は二人、右大臣ベルンハルド・ケーニスマルク、左大臣ベネディクト・ヴァーサ。この二人だ。この二人は父であるグスタフの重臣たる双璧だ。しかし、父の後については、互いに敵となる可能性がある。では、どちらが良いか? 現在、右大臣ケーニスマルク家の力が有力だ。右大臣ケーニスマルクは灌漑、治水等に成功し、民の信頼が厚い。その為、現在は左大臣より、右大臣の方が影響力が大きい。左大臣は頭脳明晰で、父のブレーンとして最高だったが、民の認知度は右大臣に比べ低い。何より、カールが王位につく頃、左大臣の頭脳は役に立たないだろう。どの様な知恵者も老いには勝てぬだろう。
「やはり、ケーニスマルク家か?」
そして、二人のケーニスマルク家の令嬢を見る。二人共美形だ。クリスティーナ穣は生粋の貴族らしい気品とやや冷たさも感じる美しさを既に持ち始めている。ベアトリス穣は平民の母親の影響か、愛らしさが滲み出る。
どちらも欲しい位だな。いや、そうは行かないか。流石に7歳で、二人も婚約者を持つものはいない。そもそも、最初に選ぶのは正妻なのだ。それは王座を狙うには最も重要な事だ。その婚約者の父親が自身の最大の後ろ盾となるのだから。恋愛は後日すればいい。今は・・・
カールはクリスティーナとの婚約を考えた。彼は彼女がこの社交界にどれだけ影響を与えたかを考えた。クリスティーナが貴族の令嬢の鏡とも言える発言をした事は、社交界にニュースとして駆け抜けた。7歳のカールの耳にさえ入った。そして、今、目の前で見た事! クリスティーナは本物だ。本物の尊い心を持つ貴族。その尊さは自分の力になるだろう。彼女を婚約者とできれば、自身の力量を示す事ができる。
カールは7歳にして、政略結婚の相手を自身で決めていた。
今日、父に話そう。今、目にした事を、そして願おう、彼女と婚約する事を・・・7歳の男の子に一目ぼれはあるのだろうか? それは解らない。だが、父もクリスティーナとの婚約に反対するとは思えなかった。悪い話ではないのだ。父にとってもケーニスマルク家との関係を強固にするものだから。
「それにしても、長兄が気になる」
心の中で呟く。巷では長兄は無能とされ、本人も既に王位を放棄する発言をしている。だが、感じるのだ。自身と同じ匂いを! 父の血は自分だけではなく、長兄にも流れているのでは? 長兄は平民出身の正妻の子だ。後ろ盾はない。彼が無能ではなかったら? 逆に彼が賢こかったら? そう、毒殺等を恐れ、無能を演じているとしたら? そして、王位を狙う用意を周到に考えていたら?
「やはり、長兄を警戒すべきだ。第二王子は唯の筋肉馬鹿だ」
第二王子ヨハン・フリードリヒは事実上の王位継承権第一位だ。近々、第一王子であるメクレンブルク公アドロフ・フィリップは正式に王位継承権を破棄するとの噂がある。おそらく事実だろう。しかし、第二王子ヨハンには得に後ろ盾はいない。まだ9歳の彼は踊らされているだけだろう。踊らせているのは、おそらくケーニスマルク家・・・
「早い者勝ちだ。ケーニスマルク家も自身の娘の婿を王位につけたいだろう。彼にとっては第二王子でも、第三王子でもどちらでもいい筈だ。むしろ、こちらから、手を差し出した方が印象がいいだろう」
彼の目に冷たい知性の光が宿る、だが、誰もそれに気が付かない。誰しもが、ケーニスマルク家の令嬢に魅了された・・・そう思っただろう・・・
帰宅したカールは即座に父に今日見た事を報告した。
「ほう、ケーニスマルク家の令嬢がその様な、誠に尊いな」
「私もそう思います。それで、お願いがございます」
「なんじゃ?」
「クリスティーナ穣と婚約をさせてください。先日怪我をさせてしまったのも何かの縁。それに、私は感動しました。あの様な女の子と婚約できたならと」
「一目惚れしたと言うのか?」
「は、はい。初めて、女の子の興味が持てました!」
「そうか、わかった。どちらにせよ、かのケーニスマルク家の令嬢との婚姻をお前かヨハンかを考えておった処だ。ちょうど良い」
危なかった。一歩遅ければ、ヨハンに先んじられていたかもしれない。意図してならともかく、偶然の産物で、差をつけられてたまるか!
「ところで、カールよ。長兄のアドロフをどう思う?」
突然で驚いた。思わぬ質問。意図は何か? わからない。だが
「アドロフお兄様は優しい方です」
「ただ、優しいだけの男だと思うか?」
「私にはわかりかねます。父上ならお分かりだと思いますが?」
「ははは! ヨハンめはアドロフは無能だとほざいておった。やはり、ケーニスマルク家へはお前を婚約者としよう。カールよ、お前はワシの血を継いだか?」
「何のことでしょうか? 父上?」
カールは冷や汗が出た。それは父の告白。カールが推測した通りだったのだ。父は自身の血を濃く引く、自分と長兄アドロフどちらかを後継者へと考えているのだ。
ケーニスマルク家だけではなく、父からの期待に応えなくては、王座は遠のく、自身に言い聞かせた。
第三王子カールの母親は隣国、パシフィス帝国から嫁いできた。その為、後ろ盾はいない。だが、第二王子ヨハン・フリードリヒも又、隣国ムー同盟国から嫁いできた母親を持つ。そして、長兄は平民出身の母。王位をめぐる争いは、起こるに決まっていた。
こうして、クリスは一見、いい事をしているかの様だが、ドツボにハマっていくのだった。そして、後日、カールの方がましだったと思う事になる。
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