乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった俺

島風

破滅フラグが回避できない!?

第1話婚約破棄

「クリスティーナ・ケーニスマルク! 婚約者の私をさしおいて他の男性と交友するものなど私に相応しくない! あなたとの婚約は破棄とし、このアン・ソフィーを新しい婚約者として迎える!」

「カール様っ! いけません!」

「アン、私なりに考えた決断なんだ。・・・・・・私はあなただけを見ていたいんだ。クリスの様に私の気持ちなど考えずに他の男と・・・・・・君だけしか信じられないんだ」


 ここはアトランティス王国の魔法学園高等部

それも、卒業パーティが、今始まろうとしていた時だった


 突然叫びだしたのは、この国の第三王子セーデルマンデル公カール・フィリップ。そして、その傍で、氷りついた様な顔で固まっているのが、俺様の友人でもあるアン・ソフィー


 毎年の事なのだが、親同士が勝手に決めた婚約を破棄する最後の機会がこの卒業パーティー。この卒業パーティーを逃したら、王族、貴族の子息、令嬢は親の決めた婚約者と結婚するしかないのだ


 もちろん、婚約破棄には正当な理由が必要だ。そして、今、正にこの俺様、この王国の右大臣ケーニスマルク家令嬢、クリスティーナ・ケーニスマルクは、第三王子の婚約者によって、今、ここに、無事に婚約を破棄された


 一瞬、ポカンとしてしまった俺様だが、もちろん、計算通りだ。落ち着いて、計算通りの台詞を吐く


「……婚約の破棄、承知いたしました。アンはめでたくカール様と婚約されるという事で宜しいでしょうか?」

「そうだ。君との婚約は破棄だ! 君は何だ、その事務的言葉は! 私とて、苦渋の決断なんだぞ! 君が君の幼馴染と頻繫にデート等していなければ、君を信じる事もできた。でも、君は私の言葉など耳を傾けず、幼馴染と逢瀬を重ねたんじゃないか!」


 俺様はカールの阿保の発言を無視して


「カール様はアンの事を愛してらっしゃるのですか?」

「もちろんだ。アンはいつも穏やかで、謙虚だ。君とは大違いだ!」


 俺様は更に深呼吸すると言葉を紡いだ


「では、私に異存はございません。私が幼馴染のアルベルトと最近よく会っていたのは事実です。ですから、カール様のおっしゃる事はごもっともです。それに、アンは私の大切な友人です。アンを幸せにしてあげてください」

「君はなんで、そんなに平然としていられるんだ?」

「そうです。いけません! クリスティーナ様、私の事はお気になさらず! ご自身の事をお考え下さい。貴族のご令嬢のクリスティーナ様が婚約破棄などされたら、修道院に行くしかないのですよ!」


 そうなんだよ。だから、修道院に行きたいんだよ。俺様は!


 作者より解説:実は主人公の悪役令嬢クリスティーナ・ケーニスマルクは現代日本からの転生者なのです。そして、クリスティーナは生物学的には女性だが、中の人は男なのです。彼は結婚なんてしたくないのです。中身が男だから・・・・・・どちらかというと美少女ハーレムが好みなのです


「アン、あなたがカール様にご好意を寄せられているのは知っておりました。そして、私はカール様の信用を裏切ったのです。ですから、あなたは、なんの気兼ねもなく、カール様の婚約をお受けすべきです」

「クリスティーナ様!」

「自分に素直になるのです」

「そんなクリスティーナ様・・・・・・」


 へっへっへ、上手く行っている。このまま、婚約破棄の上に、俺様の死亡フラグも回避だ

ゲーム通りだと、ここで、俺様は暴言を吐き、不敬罪で死刑のフラグだった


「クリスティーナ・・・君はそんなに簡単に僕の事を忘れられるのか?」

「私はアンの為に身を引きます。信用を失った事も事実です。私が悪いのです」


忘れられるに決まってるだろ!

当たり前だろ!

男に興味ねーつの!

誰が男に後ろ髪を引かれるかっつんだ!


 作者より解説:第3王子カールは婚約破棄を宣言したにも関わらず苦悩に満ちた顔をしている。何故なら、彼はクリスティーナもアンも両方愛しているのだ。クリスティーナを正室として、アンを側室とすればいいだけなのだ。この世界は一夫多妻制で、アンは平民の出。カールがわざわざクリスティーナに婚約破棄をしたのは、クリスティーナに心を戻して欲しかったからだ。流石に婚約破棄を受け入れるとは思わなかったのだ。彼はかなり落胆しているのだ




「では、皆さん。かつての私の婚約者クリスティーナ・ケーニスマルクは婚約破棄を承諾。そして、新たに、私とアン・ソフィーとの婚約をも了承した。お集まりの皆さまを立会人とし、今ここに、新たな婚約を宣言します」


 よし!

俺様は密かに心の中でガッツポーズをした。完璧だ!


 しばらく静寂が包んだが、何処かからか、拍手が沸いた。新たな婚約。それも相思相愛のカップルの誕生に会場が揺れた


 俺様はさっさとウォールフラワーというモブになろう。そう思って、移動しようとした、が!?

俺様は驚いた。いつの間にかたくさんの人が集まっている。な、何事?


「クリスティーナ様! この後、是非私にエスコートの栄誉を…」

「お前、抜け駆けをするな! クリスティーナ様、是非僕と…」

「クリスティーナ様、今度、私と食事を是非…」

「王都に面白い見世物が来ておりますので私めと是非…」

「我が領の名産の美味しい紅茶が入りました是非一緒に…」

「珍しいお菓子を…」


 貴族子息の婚約者のいない者達なのだろう

一斉に俺様の周りを囲み、我先にと声をかけ始める


 な、なんでそうなる?

普通、婚約破棄なんてされた女なんて、相手にされない”ばついち”なんだぞ!

修道院に行くいかないんだぞ!


「失礼ですが、クリスティーナ様のエスコートは私にお任せください」


 いつの間に、モブたちの中に紛れ混んでいたのか、あいつがいた

端正で凛々しい顔立ちに、金髪碧眼、正に王子様の出たちだ

パシフィス帝国の第四王子イエスタ・メクレンブルグ 。俺様の大嫌いなイケメン中のイケメンだ


 なんで、こいつが?

そう思った。ゲーム内では、こいつも主人公であるアン・ソフィーに告白した処に、俺様が馴れ馴れしいくいいより、他国の王子への礼を欠き、俺様であるクリスティーナはこの王子に不敬を働き、死刑になる破滅フラグだった。舞台はやはり、この卒業式だ


「あの金髪、美丈夫、パシフィス帝国のイエスタ王子様?」

「噂に違えぬ美しさ!」

「素敵ですわ!」


 俺様は恐怖した。破滅フラグを回避しきれなかったか?


「イエスタ・メクレンブルグと申します。滞在して魔法を学ぶ為、留学しておりました」


 いやいやながら、俺様は右手をイエスタ王子に差し出した。貴族のたしなみは俺様にもある。ここで、こうしないと失礼にあたる。失礼になると、切り殺されても文句言えない位、ここは厳しい男尊女卑の世界なのだ


 イエスタ王子は俺様の前で跪くと右手を手に取り、先ず、手の甲にキスをした

濃厚接触だ・・・・・・や、やめろっ……や、やべでくれ……気持ち悪いぃぃぃぃぃ


「わたくしは、クリスティーナ様を心からお慕いしておりました。あなたに婚約を申し込みたく、不躾ながら声をかけさせていただきました。お嫌ですか?」


 俺様はかなり以前からお前に殺意を抱いていた。イケメンは俺様の敵なんだよ! 俺様はもう我慢できなくなった、もう、我慢の限界。こんなに令嬢の役をこなしているのも、今日が卒業パーティという特別な日で、こんなところで何かしでかしたら、かなり有名人になる。悪い意味でだ。でも、もう我慢出来なかった。俺様が一体、何をしたと言うんだ!


「ひぃっ、にゃ、にゃんで、そうなるんだーーーーーーーー」


 俺様は大声で叫んだ。そして、


「止めて――――、やだ、やめ――――あぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!

か、かんべんぢてくなさい……ぜっかぐ、逃げきられたのにっ……。あ、あ……だれか、たすけてっ! たすけてくらひゃい!!」


 俺様はギャン泣きした・・・


 悲しい事に、周りは俺様が感極まって泣いたと思われたらしい。たくさんの人から、拍手と歓声があがった。モブの癖に俺様を痛めつけるな!


「失礼しました。あまりにも早急でしたね。お返事は来週の成人の式典までお待ちしております。本日のところはエスコートの権利だけ頂戴させて下さい」


 こうして、俺様はどうも隣国の王子の嫁になる羽目になっている。断る権利? ある訳ないだろ!

断ったら、多分・・・死刑だ・・・・・・


 ほぼ、抜け殻となった俺様はイエスタ王子に連れまわされ。不快な事に、周りからは、天に上る気持ちで、茫然自失な状態と思われていたらしい


☆☆☆


 馬車で自宅へ帰る途中、当たり前の様にイェスタ王子がエスコートする。帰宅する令嬢を送るのは礼儀だが、できれば、勘弁して欲しい


 そそくさと礼を言うと、俺様は自室に籠った

そして、我慢していた事を全て吐き出した


「け、けっこんしだくない……せっがぐ、うまくにげられたのにっ……。あ、あ……だれか、たすけてっ! たすけてくらひゃい!!」


『コンコン』


 ノックの音がした。多分あーちゃんだ


「クリスティーナ様」

「あ゛、あーちゃん。だじげて、おねひゃい!!」


 中に入ってきたのは、亜麻色の髪の可愛いメイド服を着たメイドのアリシアだった


「話は聞きましたよ。クリスティーナ様」

「お、俺様ど、どぼずれば・・・・・・」

「どうもこうも、普通、王子様との縁談なんて、女の子の夢じゃないですか?」

「お、俺様、中の人おどごだ......から」


 駄目だ又、ギャン泣きしそうだ


「仕方無いですよ。クリスティーナ様は可愛いすぎるんですよ」


 あーちゃんは俺様の心に太い丸太をぶっ刺した

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