2 真相

『しかし、最近における公判の進展に伴い、

最大の戦犯とされた〝啓示の王〟にも

酌量しゃくりょうすべき事情のあることが

明らかとなってきました。

それは、彼女が帝国の存続に対する使命感、

さらには〝先帝〟種族への深い情愛のゆえにこそ、

避けられぬ内戦の発生を、あえて早めたのだ

という可能性です』


『〝啓示の王〟の記憶組織と

高位の人格群に対する取調べによれば、

旧帝国における軍事種族の腐敗や権力闘争は、

極めて深刻な、憂慮ゆうりょすべき事態と認識されていました』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660040602823


『また後に、そうした種族達の暴走は、

〝先帝〟の権威や彼女自身の影響力をもってしても

いずれは制御不能になるという悲観的予測が、

大勢たいせいを占めるに至ります』


『そして何より〝啓示の王〟は、

旧帝国の草創期から共に国家を築いて来た、

最も古い同盟種族のひとつとして、

〝先帝〟に対し、深い情愛を抱いていたのです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660040687428


『そのため彼女は、同様に帝国の変質を危ぶむ

〝先帝〟種族の良識的な人格群と協力し、

勢力均衡や軍備制限などの手段によって

状況の改善を図ろうと、接触を試みました』


『しかしこの時、すでにそうした人格群は

秘密裡ひみつりに、最も忠実で情深なさけぶか

文官種族であったサタンのもとに亡命し、

健全な中間層となるべき途上種族の育成を初めとした、

帝国全体の改革を図っていました。

彼女の計画は挫折ざせつしてしまったのです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660040776671


『その結果として〝啓示の王〟は、

戦略の転換を余儀よぎなくされました。

今では彼女が、好戦的な種族間の衝突を

むしろ意図的に誘導することで、

粗暴、短慮あるいは利己的な軍事種族の

〝共食い〟による選択的自滅を図ったのだ、

という仮説が急速に有力となりつつあります』


『こうした見解を受けて、新帝国の特別調査班が、

彼女の行為の〝大戦〟への影響を検証したところ、

恐るべき事実が判明しました。

すなわち、彼女による軍事種族の〝淘汰〟なくしては、

現実の歴史のように新帝国側の被害が少ない

平和回復は、客観的に見て極めて困難、

あるいは不可能であったという事実です』


『また、彼女の主観的な意図や心情に

関する調査も正しいとすれば、

〝先帝〟種族の滅亡や罪なき種族の膨大な犠牲、

ラグエルやラジエルのように忠良な

軍事・技術種族の離反と壊滅など、

内戦の予期せぬ惨禍さんかを最も嘆き悲しんだ者もまた、

彼女自身だったのではないかと考えられるのです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660042225806


『さらに、こうした見方を裏づける事実として、

彼女が〝大戦〟の際に、

現皇帝サタンと〝先帝〟との関係を推察し、

あえて決定的な攻撃を控えたと思われる事例も、

少なからず発見されつつあります』


『そこには、サタンによる支援の最大の成功例であり、

またそれに乗じて〝慈愛の王〟が、

〝先帝〟種族の生存人格群、通称〝聖霊〟が宿る

量子頭脳を秘匿ひとくしていた、

太陽系第三惑星〝地球〟に対する

戦略攻撃の阻止も含まれています』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660042382159


『もちろん、このような事情は彼女の責任を、

全て消滅させるといったものではありません。

しかし、これにより特別法廷及び新帝国政府は、

彼女の処遇及び新国家の人的資源政策について、

大幅な見直しを求められつつあります。

今後は、かかる悲劇的選択を迫られた種族への報復よりも、

我等が将来二度と同様の悲劇を繰り返さないための、

現実的かつ人道的な技術と政策を考案することこそが、

最重要の課題となるでしょう』


私は、風刺を込めた過激な諧謔ユーモアで知られるヴォラクが

神妙しんみょうな表情で発表を終えるのを見て、少し驚いた。

……だが、安心するのはまだ早かった。


『ただし一言ひとこと、私見を述べさせていただくならば、

以上の事実は、戦中あるいは戦前から、

新旧帝国の一部人格群の間において、

〝淘汰の許容〟を巡る何らかの合意や取引があった

可能性を、必ずしも否定するものではありません』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660042553341


『これについては現在、

さらなる民主化や自由化を進めつつある

新国家の健全な発展のためにも、

我等の政府が報道媒体や監察機関の

公正な取材や調査を禁圧することは

ないものと確信します』


画面の外で、記者達の驚きの声や歓声、

他の理事種族達のものと思われる

なげきの声や溜息が、一斉に響き渡った。


ヴォラクはそのざわめきを背に、

謎めいた、だが一種凄みのある

微笑を浮かべながら退場した。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660043514494

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