愛慕

平 一

1 経緯

https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660037894228


人類が星間帝国に参加して以来、

その政治には関心を持っている。

政府から重大発表があるというので、

報道映像を見た。


束ねた髪を向かって右側に垂らした、

体格が良く、元気そうな少女が、

視聴者に向かって微笑んでいる。 

……ヴォラクだ。


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660038010307


正確には〝新帝国〟の理事種族、

ヴォラクの代表人格だ。

帝国の最先進種族達は

量子頭脳への人格転移マインドアップローディングによって、

大量高速演算と共有人格形成を可能とし、

神魔の如き力を備えた高度な文明活動を営んでいる。


ヴォラクは量子人格化種族の複製計画から

生まれた、双子種族の一方だ。

人類向けの放送などで、

人間型の分離個体ヒューマノイド・アバターを使う時には、

姉妹種族のアミーと区別するため、

髪型や装飾品アクセサリーの左右を変えている。


『皆様、お早うございます。

本日私、新帝国の理事種族ヴォラクは、

現在進行中の軍事裁判で判明した重大事実について、

帝国内の全星域に対し、次のとおり報告します』


最先進種族は個々の人格を保ちつつ、

種族の総意を体現する共有人格も持てるので、

代表者が種族として喋る形式をとったり、

種族の代名詞が単数形だったりして、ややこしい(笑)。


『ご存知のように、銀河系中央部に近い

〝旧皇帝領〟にある惑星メギドでは、

〝大戦〟すなわち旧帝国を滅ぼした内戦における、

戦争犯罪についての裁判が行われています』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660038798935


『〝先帝〟種族が率いる旧帝国は、

銀河系統一の偉業を成し遂げましたが、

後に側近軍事種族の腐敗と抗争から、

悲惨な内戦が生じてしまいました。

これにより〝先帝〟を初め多くの種族が滅亡し、

あるいは甚大な被害を受けました』


『〝剣の王〟〝炎の王〟〝慈愛の王〟

そして〝啓示の王〟の四大種族は、

〝先帝〟の側近団をなす〝中枢種族〟の中でも

特に絶大な権力を持つ、量子人格化種族でした。

〝先帝〟種族と同様に、

彼女達もまた銀河帝国の権威を示すため、

その真名まなを用いることなく、

別名によって呼ばれたのです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660039081680


『〝剣の王〟は、

鷲に似た猛禽もうきん類から進化した種族で、

巨大な宇宙艦隊を建造し、

親衛軍の総司令官を務めていました』


『〝炎の王〟は、

獅子に似た肉食動物から進化した種族で、

惑星攻撃兵器、後には恒星破壊兵器も生産する、

軍需省長官でした』


『〝慈愛の王〟は、

猿に似た雑食動物から進化した種族で、

資源・環境負荷が少ない生物化学戦を担当し、

民需省長官に任命されました』


『〝啓示の王〟は、

牛に似た草食動物から進化した種族で、

量子頭脳技術による情報戦を得意とし、

情報省長官となりました』


『多くの種族が覇権を巡って争う中、

四大種族はそれぞれの分野において

帝国の拡大と銀河系の統一に貢献し、

他の種族から恐れうやまわれました』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660039862073


『旧帝国では文明開発長官であった

現皇帝種族サタンが、〝先帝〟種族の命により、

発展途上種族を支援するために用いた神話にも、

四大種族が登場したほどです』


『将来の帝国との関係を良好にできるよう、

現皇帝の分離個体が自ら悪役を演じる一方で、

四大種族の基本形態は、〝先帝〟をする善神の

守護天使達の姿として紹介されたのです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660040048124


そう、私達は知っている。 遥か昔の時代から……。

空想科学小説サイエンス・フィクションの巨匠A.C.クラークが書いた

「幼年期の終わり」という傑作は、

完全一致ではなくても、予言的作品となったわけだ。


『しかし〝大戦〟により、状況は一変しました。

〝剣の王〟と〝炎の王〟は、最終決戦となる

〝アンドロメダ戦役〟において滅亡し、

大部分の戦略兵器とその運搬手段を失った

〝啓示の王〟と〝慈愛の王〟は、

新帝国に降伏しました』


『裁判に向けた取調べにおいて、

四大種族の中でも特に〝啓示の王〟は、

量子人格化種族の判断にも干渉できる

不正演算指示ウイルスプログラムを開発し、

他種族の重要な決定に対して強い影響力を

及ぼしていたことが判明しました』


『そのため彼女は現在、特別法廷において

集中的な審理を受けつつあります。

〝大戦〟は中枢種族による〝先帝〟種族の傀儡かいらい化と

相互の抗争から生じたものだったので、

彼女がその黒幕として、最も責任を

負うべき種族と推認されたのです』


https://kakuyomu.jp/users/tairahajime/news/16817330660040432001

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