ウロボロスの指切り
毒の徒華
序章
第0話 指切り
――私は、絶対に君を見捨てたりしない
「ねぇ、指切りしようか」
私は象牙のように白い左手の小指を、彼に向けて立て差し出す。
彼は動揺を見せたけれど、おずおずと私に向けて自分も左手の小指を私の前に差し出してきた。
しかし一向に双方の小指は絡ませられない。
「指切りって、なんで『指切り』って言うか知ってる?」
彼は無言で首を横に振る。
「指切りっていうのは、昔の
私の質問に彼は小さく首を縦に振った。
その質問に答える彼の、胸の方まで伸びた長い髪がそれに合わせかすかに揺れているのを私は見ていた。
「
私が物騒な話をにこやかに話しても、彼はそれを黙って聞いていた。
彼は私の左手の小指の第一関節の辺りを無言で見つめた。
二重の花のかんばせ。長い睫毛が瞬きで震える。
「だから昔のしきたりに従って、本当の『指切り』をしよう。と言っても、流石に第一関節を切り落とすのは嫌だから、これで我慢して」
ポケットの中から取り出した小さなカッターナイフで、私は小指の第一関節の部分を傷つけた。
鋭い痛みが小指に走り、私は顔が少しひきつる。
「いっ……」
彼は私を動揺したような顔で見ていた。
というよりも、実際に明らかに動揺しているようだった。
傷つけたばかりの小指からはまだ血は溢れ出していない。
私は自分の小指の傷の状態を確認した。思ったよりも深く傷がついている。
少し見ていると、だらりと血液が溢れてきた。
「君は、誰のことも信じられないだろうけど……私は君を裏切らない。その誓いの証がこれだよ」
「止血しないと……血が……」
相変わらず、彼には私の言っている主旨がきちんと伝わっているのだろうかと心配になってくる。
いや、こんな狂気の沙汰をしている自分の頭の方を心配をしないといけないのかもしれない。
昔はこれが普通だったのだろうかと、遠い昔の遊女に思いを巡らせた。
自分の小指を切り落として送るというまでの行為で、どれだけ相手にその愛情が伝わったのだろうか。
そうこうしている間に、彼と離れなければいけない時間がやってくる。
私が目の前の彼に想いを馳せていると、小指から垂れる血が服に染みこんでいく。
自分で想定していたよりも深く、放っておいてもしばらく血が止まる気配がない。
「また時間できたら来るから」
「はい、ありがとうございます……傷……止血してください……服が……」
歯切れの悪い言葉が返ってくる。
「『指切り』したからね。約束だよ」
私は後ろ髪引かれる思いで、私の方を振り返ってぎこちなく手を振る君に、優しく笑って手を振り返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます