ペアレス(朝)①

ピアが起きるまでの間に、朝ごはんの準備をする。

外は薄明るくなっていて、心地よい風も吹いてくる。


朝ごはんは、パンとサラダと卵とハム。

何とも味気ないような気もするが、これから暮らしていくのに無駄な出費をしないように心がけているのだ。

パンはピアの好みに合わせて薄めに切り、卵は半熟状態でお皿に盛る。


最後の紅茶を注ぎだす前に一仕事。


「(コンコン……)そろそろ起きないと、朝食が冷めちゃうよ」


ピアの部屋のドアを叩いて呼びかける。

しかし、一回では応答が返ってこない。


もう一度、同じように呼びかけるが、またも応答がない。


「しょうがないなぁ」


ドアノブに手をかけて回した後、引いてみれば鍵も掛けていないことがわかる。

……暮らしているのが僕たちだけだからって、これはないんじゃないかな。

信頼されているからの結果か、ヘタレだと思われているからなのか。


ため息をつきながら部屋に入れば、カーテンによって外からの光が遮られ、薄暗い中、ベッドに横たわっている人影を見つける。

近づいてみれば、窓とは反対の僕が入ってきた側へ体を横にし、何とも気持ちよさそうに寝ている。


それを見ていると、単純に起こすのは面白くない。


プランは三段階で行こうか。


①頬っぺたに指を軽く突き刺す。

ピアの左頬を指でプニプニ……。

あぁ、触り心地がいい。

指だけでは足りそうになく、手のひらでパン生地をこねる形で頬っぺたを触ると、さらに柔らかさを感じることができる。

これは病みつきになるなぁ。


僕としては満足いったが、これでは起きない。


②頭を撫でてみる。

ピアの顔にかかっていた髪を横にどかしつつ、軽く撫でる。

……うん、いつもと変わらない。


これで起きるピアでもなかった。


しょうがない。最後の方法に入るとしよう。


③とある言葉を耳元で囁く。


この方法を行うにあたって、注意事項が一つある。

それは反射神経。

並の人では負傷を負いかねない危険な方法なのである。


先ほどと同じく頭を撫でつつ、耳元の髪をどかす。

そして、口を近づけていくと甘い、いい香りがしてくる。

この状態なら、本当にかわいいんだけど。


そうして準備が整ったため、決心を決めて一言。


「新刊、持ってきたんだけど」

「ど、どこにあるの!?」


反射的に体を持ち上げて叫ぶピア。

彼女が体を起こす前に、僕は瞬間的に体を後ろへ避ける。

しかし、今日のピアは一筋縄ではなかったらしく、意識朧気ながら、僕の胸倉をつかんできた。


「しんかんは~!」

「お、おはよ。

新刊はまだだよ」


起きたことを確認しつつ真実を伝えると、瞬間的に静かな時間が過ぎ、胸倉をつかんでいた手を離したピアは、またベッドへ吸い込まれようとする。


「こら、起きたんだから寝ない!」

「……意地悪なリクラがいるから、狸寝入りしてやるんだから」

「せっかく朝食を準備したのに」

「……ん」


僕の言葉を聞いて、片手だけ伸ばしてくるピア。

しょうがないなぁ。

彼女の手をつかみつつ、もう片手で彼女の反対の方を持ち上げる。

どこまで自堕落するやら。


「おはよう、ピア」

「おはよー、リクラ」

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