第156話 海底遺跡探索

大変、大変長らくお待たせいたしました。

納得できず時間が掛かり過ぎました。

本当はもっと書きたーい!wwwwww

たくさんのフォローありがとうございます!






 分かれ道まで戻る間に、聖槍とクティスリーゼからダンジョン特有の今自身のいる迷宮路という場所についてソリトは軽くレクチャーを受けた。


 一つ、迷宮路はランダムに道が変化する時がある。

 一つ、迷宮路には罠が存在することがある。但し、中級以上。

 一つ、上級以上の迷宮路には魔物群スタンピードのような魔物で溢れた部屋が存在する。


 等々を踏まえ、再び密林に出るなら進み、何もなければ分かれ道まで一旦戻る。

 何かあった場合は、どちらへ進むかは相談。

 そして今、その状況が起きていた。


「……【天秤】。一方に絞って探索を進めるぞ。あっちだ、こっちだとふらつくよりも安全性が確保できるからな。それでだ。お前ならどちらに行く?」

「そうですわね……」


 考えるクティスリーゼの傍らで、ソリトはこのまま迷宮路の方を進む方が良いと考えていた。


 密林の場合、道のりを全て即座に記憶する力を要するし、またマッピングは意味を一時的になくす。

【感知】系のスキルがあっても、もしこのダンジョンが高ランクならば密林と湿地のある方が危険だ。

 撤退する状況にでもなった時、迷って逆に追い込まれる可能性があるからだ。


 だが、迷宮路であればマッピングが可能だ。

 危険と感じればマッピングした地図を頼りに引き返して、一度ダンジョンを脱出すれば良い。密林より撤退は容易な方だろう。

 デメリットとしては、前後に挟み込まれる事が危機的という点。

 だが、それは密林湿地エリアでも同じ。


「【天秤】、お前記憶力には自信あるか?」


 ソリトは即記憶出来るような頭は持ち合わせていない。

 決して悪いという事ではない。ただ、良い方かと言うと良いというわけでもないと彼自身は思っている。


 もし、クティスリーゼが即記憶出来る程の記憶力があるなら、密林の方を視野に入れることも考えるべきだろう。


 途中で繋がる道に出る可能性もあるが、これはあくまで可能性というよりは憶測に過ぎない為、ソリトは一旦思考から外す。


 危険性のまだ低い方を選択し、マッピングをしつつ経路を確保しながら進む。

 協力者を危険に晒している中で更に放り込むのは余りに無謀なことだ。今更だが。

 しかし、だからこそクティスリーゼの身の安全を考えた上で行動するという選択を取ろうと、ソリトは考えているのだ。


「良い悪いと言われると、良い方ですわ」

「その場で記憶することは?」

「その場で!?……まぁ…出来ない、事も、ないと思いますわ」


 言葉を詰まらせながら、ただ、と前置きしてクティスリーゼは続ける。


「状況に寄りますわ。今みたいに警戒しているだけならまだしも、撤退等の非常時みたいな場合は、そうもいきませんわね。冷静と感じていても命の危険がある中では、無意識に何処かで焦りは出るでしょうから」


 そうなると、やはりマッピング出来る迷宮路を進むべきかもしれない。


「ですのでまずはこのまま進むべきかと……」


 意見が一致したようだ。

 なら行くぞ、と言ってソリトはクティスリーゼと密林エリアへと続く迷宮路と逆の右の方へ足を向けた。


 それからの道中、ダンジョンのわりには魔物に遭遇することなく順調に奥へと進行していく。

 しかし、それがソリトには逆に不可解で気になった。


【気配感知】【魔力感知】【危機察知】、そして自身の感覚を頼りにし、加えて壁や天井に注意を払って、ソリトは先頭を進んで行く。


 特に気になるような部分はない。

 更に進んでいく。

 特に変わりはない。

 それでもまだ不可解と感じる違和感はソリトの中から拭えない。


 何分経ったのか、それからソリトは【夜目】で道の突き当りを視認した。

【気配感知】でも自分の感覚でも反応はないが、そろそろ魔物と遭遇しても可笑しくない。

 松明を左手に持ち替え、聖槍をホルダーから抜き構える。


 眉間に皺を寄せてソリトはダンジョン化した未発見の遺跡を慎重な足取りで、静寂を背に暗闇の通路を松明の火をクティスリーゼに持ってもらい突き当りとの距離を一メートル、また一メートルと縮めていく。


「「「キィィィィィ……!」」」


 そして、残り二メートルにまで縮めた瞬間、不協和音の声が鳴り響いた。

 悲鳴にも似たその声を聴いたと同時にソリト達は両手で耳を塞ぎ片膝を突いた。


 耳を塞いでいる筈にもかかわらず頭に直接響いてくるような感覚を伴って、ハンマーで頭を容赦なく何度も殴り付けられているような頭痛がソリト達を襲う。


「………っ」


 意識が徐々に混濁していく。

 ゆらゆらとソリトの視界が揺れる。

 既に気持ちが悪いのに視界が霞んでいく。


 直ぐにソリトは、【痛覚軽減】で痛みを緩和させる。

 すると、意識が徐々にはっきりとし始めた。

 視界も安定してきた。

 ただ、頭痛が完全に消えたわけではなく、あくまで【痛覚軽減】で軽減しただけ。


 だが、それはソリトだけの話で、クティスリーゼは耐えられず直ぐにでも限界が来ても可笑しくない状況が続く。


 今はこの場を離脱する他ないと、立ち上がろうとしたが視界が再び歪み始め、今度は体のバランスが上手く取る事が出来ず、ソリトは尻餅をついた。


 軽減された痛みは変わらない。

 不協和音以外にも影響を及ぼしている原因があるのかもしれない。


 ここは体制を立て直すために退くべきだ。が、その前に元凶を一目見ようとソリトは相手を探す。

 しかし、その元凶は発見できない。

 近くにいることは何となく経験でソリトは分かった。

 だというのに、【気配感知】【魔力感知】【危機察知】に敵らしき存在を引っ掛かることなく攻撃が続く。


 かなり厄介な魔物が潜んでいるようだ。


 また、微かだが左右遠方の迷宮路からも似た叫び声が複数聞こえる。

 共鳴しているようにも聞こえる。

 考え辛くなっている頭で必死に思考を回す。その時、ソリトは背後から誰かの声を聴いた。


「……ㇲ…スター……マスターさんき、聞こえるッスか!」


 聖槍の声だ。

 一瞬声を聴き取ったソリトは聖槍に返事をする。


「あ?」

「す、すみませんッス!」


 警戒のあまり声に圧のあるで聖槍に返してしまい、彼女は萎縮してしまう。


「それはこっちのセ……いや、すまん、怒って…ねぇ。それより…」

「あっあの、これ、は、アラームバットの仕業ッス」


 アラームバット。

 集団で棲息し、戦闘能力は低い魔物。

 厄介な事に発見が難しいらしい。


 その中で最も厄介なのは、集団は一個大隊のように多数で活動しているのではなく少数に分かれているらしい。

 そして、そのアラームバットの少集団しょうしゅうだんに見つかると奇声を上げ、離れた場所にいる集団がそれに反応して共鳴し、近距離から遠距離にいる魔物を引く寄せるという事だ。


 また、同時に奇声とは別の、恐らくスキルで相手をしばらくの間、混乱状態を付与し身動きを取れなくさせ、引き寄せた魔物の餌食にするという事だ。


 やはり、ここは一度離脱すべきだ。

【威圧】を発動すれば、動きを封じて倒すことも可能だが、その相手を見つけることが出来ない以上それは不可能に等しい。


「……いや」


 否、【咆哮】であれば相手を特定することなく【威圧】を使える。

 ただ、【咆哮】は無差別で相手を一時的に相手の行動を封じる。

 それは、クティスリーゼも例外ではない。


 そして、これを使えば恐らく魔物を更に引き寄せる事可能性が大きい。


 使用する場合、発動タイミングを計り、先行して来る相手を壁として利用し、後ろから来る魔物達の行動を制限する。

 それくらいの状況を作る必要がある。が、実行する前に、クティスリーゼの限界が来る方が早いかもしれない。


 他に何かないか、と考えている時、ソリトの【気配感知】にアラームバットによって誘き寄せられた多数の魔物が引っ掛かった。


 右側の道から物凄い速さで迫ってくる気配が十五体。

 左側は右側よりも遅く数も十一体と少ない。


【痛覚軽減】で頭痛が多少楽になっていても、混乱状態のままでは二十体以上の魔物をクティスリーゼのフォローをしながら戦うのはソリトも少し難しい。


 ここは引き返して一度体勢を立て直すのが賢明な判断だろう。

 しかし、この状況からどの様に脱するか。

 頭痛で上手く思考が回ず、ソリトは考えがまとめられない。

 その間に、魔物は迫っている。


 苦悶の表情を浮かべるソリトは焦りで更に顔が険しいものに変わる。


「マスターさん、聞こえるッスか!?………え…なら早く【影移動】で逃げ…ッス!」


 朦朧とする意識の中で聴き取った助言で直ぐ様【影移動】で自身の影に潜り込んだ。


 影の世界に入ると、重りを外れたように、ソリトの頭から痛みが嘘のように消えていった。

 名残りはあるが、しばらくすれば消えるだろう。

 痛みが消えた事に安心感を覚えるが、感傷に浸っている場合ではない。


 初級回復魔法〝アインス・キュア〟を自身に掛け、混乱状態からも抜け出したソリトは、【気配感知】で気配を辿ってクティスリーゼの真下へ移動した。

 そして、手だけを地上へ出したソリトは手探りで彼女の足首を掴む。


 直後、掴んだであろう彼女の足が暴れ始める。

 絵面的にも、クティスリーゼからしても、危機的状況下の中で突然影から現れた手に掴まれれば抵抗したくなるのは明白だ。

 外では叫び声が上がっていても可笑しくない。


 一言入れるべきだった、後で制裁でも何でも受けよう。

 そう心に決めながら、ソリトはクティスリーゼを影の中へと引き摺り込んだ。


「ぁぁああああああー!!」


 泣き目で地上から落ちてくるクティスリーゼを抱き抱え、ソリトは急ぎ回復魔法で彼女の混乱状態を治癒した。


 ただ、影に引き摺り込んだ過程と経緯で未だ混乱していて、ソリトに気付かず、離れよう、抵抗しようと、クティスリーゼはお姫様抱っこ状態のまま暴れ続ける。


「【天秤】落ちつ……」

「ふん!!」

「ぅ…ぇ!」


 呼び掛けて、ソリトは自分の事を気付かせようとした瞬間、クティスリーゼのアッパーカットの一撃が顎にクリティカルヒットした。


「ぉ、おちつけ…」

「…ぇ…ソ、ソリト!」


 ようやく呼び掛けが耳に入ったようで、少し冷静になったのかソリトに顔を向けたクティスリーゼは振り上げた拳の当たった先を見て、目を見開いた。


 制裁でも何でも受け入れる覚悟はしていたので、ソリトはこれは仕方ない事だ、と受け止めて謝罪を入れようと口を開く。


「悪い、影の中に入る前に、一言言っておくべきだった」

「ほ、本当ですわ!朦朧とした中でソリトが消えたように見えて、わたくし、不安と恐怖が押し寄せてきたのですよ……ですが、誤って攻撃してしまい申し訳ございません」

「こっちの方こそ〝申し訳なかった〟。制裁でも何でも受け入れるつもりだ。だが、それは後だ。今は入口まで戻ってダンジョンを出る」

「分かりました……約束…ですわよ」


 おずおずと遠慮がちに尋ねる彼女の瞳には期待の色が宿っていた。


「ああ」


 短く返事をした途端、クティスリーゼは朗らかに微笑んだ。


「それでここは一体何処ですの?」

「ここはっ……っ!」


 説明し始めた直後、【危機察知】が鳴り響くと同時にソリトは背中に鋭い殺気を感じた。

 瞬時に膝を曲げ、クティスリーゼを抱き抱えたまま真上にバク宙で高く跳躍する。


 正体を確かめる為に視線を下を向けたが、何かが左から右に流れた様に見えただけで姿は視認できなかった。


「【天秤】目をつぶってろ!」


 跳躍限界に到達すると同時に【賢者の卵】で初級光魔法〝アインス・ライト〟を放ち周囲を照らす。


 周辺付近にいるのは間違いない事は向けられている殺気でソリトは把握している。

 だが、襲撃してきた魔物もアラームバット同様に気配も魔力も姿も感じ取れない相手のようらしい。


 聖槍にアドバイスを受け、確かに影の中ならば、ソリトはそう考えて影に潜った。

 そこにも魔物が存在していたのは想定外だが、魔物もスキルを行使するのだから単一スキルであろう【影移動】を持つ魔物が存在していても可笑しくないのだ。


 面倒な相手に遭遇し、ソリトは顔を歪ませて舌打つ。


 アラームバットは本能なのか殺気が無かった為に出来なかった。

 だが、相手の殺気をより明確に捉えられれば戦闘は可能だ。


 ただ、影の中では【影移動】が無ければ自由に行動出来ない為、クティスリーゼを離す事は出来ない。

 確実に影の中を彷徨うことになるだろう。

 となれば、やはり今はこのまま安全確保と状況の整理を最優先とするべきだろう。


 そう結論を出したソリトは遺跡の出入口の広場へ足を向けて踏む込み、魔物を無視して影の中を駆け出す。が、その直後、ソリトは正面から僅かに風を感じた。


「〝エアリアルシールド〟!!」


 見えない魔物の攻撃だと予測してソリトは風魔法の盾を展開する。

【孤高の勇者】よって中級風魔法の盾は上級に底上げされている筈だが、盾の防御力を上回った攻撃を受けたと同時にひび割れを起こす。

 耐えはしたものの、追撃を受け魔法盾は破壊された。


 後方へ飛び距離を取ろうと足に力を入れた、その時だった。

 剣を突き付ける様な鋭い殺気が新たに後方に現れた。

 そちらの敵も気配も魔力も姿も見えない。同じ敵なのは間違いないだろう。


 数は同数だが、【影移動】を持たないクティスリーゼは戦えない。

 挟み撃ちの実質二対一。形勢は不利。


 まるで、生き物のようにダンジョンに牙を剥けられているようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る