幼馴染の恋人に裏切られパーティを脱退した勇者のスキルが【反転】する〜何故か偶然出会った聖女が付きまとってくる(放っておけないだけです)が無視だ(しないでください!)〜
第72話 【孤高の勇者】どんな状況でも容赦なし
第72話 【孤高の勇者】どんな状況でも容赦なし
中央都市アルス周辺に点在する村や町は西、東、南にあり、北には存在しない。
前者は三方向に国がある為、後者は北へ進んだ先にあるのは境界線のように横に伸びる氷山地帯が原因だった。
その北東にはアルマ帝国が独立したように存在するが、アルマ帝国を行き来するにはクレセント王国北東部の先にある渓谷か渓谷を作る山を越えて通るしかない。
その為、北には村や町が存在しない。
【守護の聖女】が村か町に立ち寄り次第、すぐに滞在中の冒険者がギルドへ、そしてギルドマスターのカロミオへと報告に向かう事になっているらしい。しかし、ソリトとの話し合いではその報告は上がってきてはいなかった。となれば、【守護の聖女】の方向音痴能力によって北へ向かった可能性が大きい。
氷山地帯の前が荒野といえど、探すには時間も手間も掛かる。誰も一人で捜索しようなど先ず考えもしないだろう。
だが、そんな荒野を爆走する影があった。紅黒いコート、曇りのない煌びやかな紅色の籠手、腰に蒼白の剣を差す一つの影が荒野を駆け巡っている。
ソリトである。以前、群れから離れカールトン村へ向かった魔物を追って駆けた時とは比べ物にならないほどの速度で疾走し【守護の聖女】を探している。
探しているとはいえ、格好の特徴を知らない。それでも方向音痴という何処かの【癒しの聖女】のように癖の強い人物なら似た格好をしているのではないかとソリトは思っている。
格好と言っても全身を外套で覆った方だ。
決して可愛さと動きやすさを重視に聖女服をオーダーメイドで作り替えた服ではない。
それから北側を捜索をして約一時間が経った頃、北側を縦横無尽に疾走して、氷山地帯が小さく見える辺りを西に探していると【気配感知】に反応があった。
「おっ」
「マスター、見つけた?」
「多分な。感覚からして人間の気配で間違いないだろ。今感知に掛かったってことはこのまま西に進んで三十メートルの場所だ」
気配は一人分。【守護の聖女】はルティア同様、一人で各地を回っているのだろう。
しかし、氷山地帯が見える距離まで進んでいたのはソリトも予想外で期待はしていなかった。方向音痴とはいえ氷山地帯が見えれば北に進んでいると分かり、引き返すだろうと思っていたし、中央都市から氷山地帯までは馬車で四日は掛かる筈なのだ。
それを徒歩で二日掛けてとなると寝ることなくさ迷い続けたのだろう。
【守護の聖女】の方向音痴は極度が前に付くレベルかもしれない。護衛でも従者でも誰か付き添いを付けるべきだ。
「とにかく、急がないとな。明日には魔物の群れがこの辺りまで来る筈だ」
二分後、その場所で誰か外套で覆われている【守護の聖女】らしき人物が荒野の中で倒れているのを見つけた。
確認のためにフードを取ると自然色に近いリーフグリーンの髪をした、見た目十四、五歳の女の子だった。外套の中の服は金の装飾がされた白色の法衣。余程の信仰心でもない限り冒険者で着るような者はいないだろう。
目の前で倒れている少女は【守護の聖女】と断定して良いだろう。
気配が少し弱かった為、体調不良か何かとソリトは額に手を当て、聖剣には人の姿になってもらい身体に外傷がないか見て貰った。
「熱はない。聖剣、外傷は?」
「特に見当たらない」
「なら、連れてかえ……」
何処からか獣の唸り声が聞こえた。直後ソリトは警戒心を高め、剣に戻るよう聖剣に命令して構える。
しかし【気配感知】には近くに【守護の聖女】とソリト以外の気配は感じられなかった。
【魔力感知】でも探っているが同様に気配は二人分しかない。
気配と魔力、その両方を遮断するスキルを持った魔物が何処かに潜んでいると考え、【守護の聖女】を左肩に抱えて聖剣を片手だけで持ち身構えた。
女性への拒絶反応が起き吐き気が来るが、今は耐えるしかない。
警戒していると、左耳すぐ傍から再び獣の唸り声が聞こえた。
ソリトは【守護の聖女】をゆっくり地面に降ろして暫くその状態で待つ。
すると、【守護の聖女】の方から唸り声が聞こえた。どうやら先程の声は獣の唸り声ではなく、【守護の聖女】の腹の虫が鳴いていただけだった。気配が弱いのも単に空腹過ぎな為だろう。
興が削がれてしまった。
「………」
二日間、さ迷い続けていたのだ飲まず食わずであっても可笑しくない。
だが、それで警戒させられ、拒絶反応で気分を害していたと考えていると少々苛っと来るものがあった。
すると、無意識に【守護の聖女】を軽く蹴っていたソリト。
「ふが」
「……〝ぶらっどぷりず〜ん〟」
聖剣を鞘に納めたソリトは、やる気無さげな声で【血魔法】を唱え深紅の鎖で【守護の聖女】を縛り上げると、鞄のように鎖部分を掴み聖女を持ち上げた。
「マスター」
「なんだ?」
「ドンマイ」
「喧しいわ!」
そして、ソリトは中央都市アルスがある南へと疾走し【守護の聖女】を連れて戻った。
北門前まで戻ると、そこの門兵の一人に「頭を悩ませている人物を連れて帰ってきた」という伝言と共にアルス支部ギルドマスターのカロミオに取り次いで貰うように言い、暫くその場で待機しているとカロミオがやって来た。
それから、顔バレ防止の仮面の事を尋ねられたり、【守護の聖女】は何処かと尋ねられ自分の真下を指差した後、包みと勘違いして笑い吹いたり、【守護の聖女】だと気付き目が飛び出る勢いでカロミオが見開いて絶叫したりしつつ、ソリトは【守護の聖女】をカロミオに引き渡し、商業通行証を見せてアルスへ戻った。
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