第58話 vs吸血鬼

「私の自己紹介は済んだな。そんじゃまぁ、邪魔な貴様には死んでもらうぜ!」


 ルミノスが言った時には、既にソリトは目の前で姿勢を低くして近づいていた為、視界から消えていた。

 気が付いた時には既にソリトは左拳をルミノスの顎に放っていた。


「ぐがっ!」


 地下の天井を突き破り、未だに曖昧な【気配感知】でルミノスの気配を辿ると尚上昇を続けている。

 スキルなのだろうが、暗い地下では影を使われて攻撃を入れることも困難だと思い外へ出そうと殴った。

 そこまでは良かったが、ソリトの一発はこのまま家を突き破る勢いだ。

 間髪入れずにソリトも天井穴の壁を蹴って後を追う。


「追い付いた」


 姿を捉えた瞬間、ルミノス、ソリトの順に家を突き破り空中に放たれる。

 ソリトは麻痺針を放つ。

 その時、ルミノスが何かを呟いているのが聞こえてきた。


「精霊よ、我が声を聞き届け、血の槍を突き立て…」


 魔法の詠唱をだと気付いたソリトは直ぐに聖剣を突き出す。

 

「……数多の墓標を築け〝ツヴァイブ・ブラッドエッジ〟!」


 しかし。詠唱阻止は間に合わず発動を許してしまった。

 直後、村長の家から数多の真紅の槍がソリトに向かって突き上がって迫り来る。

【思考加速】で体感時間を引き伸ばし、回避方法を探す。

 が、間に合わないこと距離か、とソリトは魔法を唱える。


「っ〝エアリアルシールド〟!」


 風魔法盾で自身を守り、体を捻り、体勢を変え、風魔法盾を足場にソリトはその場を一旦離脱する。

 直後、風魔法盾にヒビが入りルミノスの魔法で砕かれた。


「ちっ」


 間一髪で免れた。

 一瞬追い詰められた事にソリトは自然と舌打ちしながら近くの屋根に着地。

 直ぐ様【賢者の卵】の能力【想像詠唱】で初級幻影魔法〝ミラージュ・ハイド〟をイメージし自身の姿を消した。

 屋根を伝ってルミノスの背後に回り、相手の方まで跳躍、聖剣で肩の方から斜めに掲げ、聖剣を振る。


「ちっ…暗殺者風情が!」


 ソリトに気付いたのか、ルミノスが体を捻り顔面に向かって拳を放ってくる。

【思考加速】でゆっくり向かっていた攻撃だったが既に防ぐことを考えられる距離ではなく、ソリトはまともに拳撃を受け何軒か家を破壊しながら殴り飛ばされた。


「う…」


 家の瓦礫がれきから上半身を出して起き上がる。

 次の瞬間、顔をルミノスに掴まれ瓦礫に叩き付けられる。


「うぉらぁぁ!」


 そのままソリトの顔を家に叩き付けながら駆ける。

 痛みに堪えながら自身の顔を掴んでいるルミノスの腕を両手を全力で掴み返し反撃する。

 小さくミシッと音が聞こえたと同時にルミノスの手が顔から離れソリトを振り払おうとする。

 しかし、【破壊王】という攻撃力に特化したスキルで容赦なく掴んでいるためソリトは離れない。

 ルミノスの腕から不吉な音が鳴り続ける。


 とは言え、流石魔王四将という事だけはある。いや封印されていたのだから元になっていても可笑しくはない。

 そこはどうでも言いが、レベルとステータスが高い所為で中々腕が潰れない。

 その分、痛みに苦しみ、歪む顔から見られる。


「いい加減、離、せ!」


 腕から引き離そうと地面に叩き付け続ける。

 ソリトはそうはさせまいと【想像詠唱】で初級火魔法の火球を掴んだまま零距離で自爆攻撃覚悟で撃ち込んだ。

 直後、爆発と同時に互いの体が吹き飛ばされる。


「ぁ…ぅぐ…」


 【火耐性】の一段階アップ状態の【火炎無効】でダメージはないが代わりに熱と攻撃の反動でビリビリとソリトの両腕が痺れる。

 しかし、それも【自己再生(中)】によって直ぐに治まる。

 ルミノスの場合は片右腕半分が焼けていた。

 ソリトは聖剣を拾い上げてルミノスに突進する。


「チッ」


 逃げるようにルミノスが自分の影の中へ入っていく。


 逃がすつもりはないソリトは更に地を蹴り突進する速度を上げる。


「従いし者よ、我が呼び声に応え、命を全うせよ〝眷族召喚〟」


 その瞬間、ルミノスの前に白目を向き、青ざめた様々な魔物達が現れた。


「逃げるか吸血鬼!」

「まさか、貴様を倒すには力が不足しているから補いに行くだけだっつうの。貴様にとってはこいつらはどうってことないだろうがちょっとした時間稼ぎくらいにはなるだろ?また後で会おうぜ」


 追いかけようとするも眷族の魔物達に邪魔され影での逃亡を許してしまった。

 先を見てみると、教会が見えた。

 狙いは聖女という生きている人間、もしくは無自覚の村の死人達だろう。


 どちらにせよ厄介になる。

 魔物達を無視して行ってもいいが、結局追い掛けてきてルミノスと共に倒すことになる。

 なら今ここで戦った方が倒しやすい。

 ソリトは急ぎ教会に向かいながら、ステータス向上も計りつつ魔物達の討伐を決める。


「グルアアアア!」

「邪魔だ!」


 突っ込んでくる狼の魔物を一振りで斬り払う。


『レヴァナントウルフ討伐により全能力が上昇します』


 続けて、五体のコウモリの魔物が二メートルの距離まで接近すると音を発し始めた。その途端激しい頭痛が襲ってくる。

 その隙をついて音の発生源のコウモリと同種の仲間とレヴァナントウルフ達がソリトに攻撃を仕掛けてきた。


『スキル【苦痛耐性】獲得』


【耐性】と言っても一段階アップして【痛覚軽減】に変化する。【無効】ではない。

 それでも効果のお陰で頭痛が違和感程度にまで治まった。

 治まったところでコウモリの魔物の所まで跳躍して正面の相手を縦一閃に斬る。


『レヴァナントバークバット討伐により全能力が上昇します』


 左手を別のレヴァナントバークバットに向けて初級火魔法の火球を複数同時に放ち燃やす。


『レヴァナントバークバット討伐により全能力が上昇します』

『レヴァナントバークバット討伐により全能力が上昇します』


 久々に一体ずつでステータスが上昇していく。

 しかし、それを喜んでいる場合ではない。

 ソリトは残りのレヴァナントバークバットを横一閃に流星閃で斬り裂いた。


『レヴァナントバークバット討伐により全能力が上昇します』

『レヴァナントバークバット討伐により全能力が上昇します』


 次にレヴァナントウルフ達だが、降下していくソリトを円を描いて下で待ち構えおり、相手の攻撃範囲に入った瞬間、跳躍して突進してきた。

 ソリトは【思考加速】でじっくり観察して体を捻り回避すると同時にカウンターで斬り倒していく。途中内一体の赤いレヴァナントウルフが火球を連続で飛ばして攻撃してきた。

【火炎無効】のあるソリトは火球を受けて体に纏って回転しながら聖剣で赤いレヴァナントウルフを斬り倒した。


『レヴァナントウルフ討伐により全能力が上昇します』

『レヴァナントウルフ討伐により全能力が上昇します』

『レヴァナントレッドウルフ討伐により全能力が上昇します』

『Lvアップ。Lv59になりました』

『レヴァナントウルフ三体討伐により全能力が上昇します』

『武技:流水習得』

『武技:紅蓮剣習得』


「装備が燃えてない。アランのこの防具服、凄いな」


 感想を言いながらソリトは魔物の死体を焼き払い、勝利の余韻に浸ることなく教会の方へ再び駆け出す。

 先に進むと正面の方に複数の影が見えた。

 まだソリトは少し寄り道しなければならないらしい。


 ―――

 どうも翔丸です。

 スキルを幾つか獲得したまま説明無しなので書きました。


【立体機動】

 壁や天井、樹木などを走行、着地などの三次元動作が可能となる。(一段階アップ状態)

 スキル効果により【立体機動】が【空間機動】に変化。


【空間機動】

 立体機動可能。

 魔力を消費することで空中での走行、着地、跳躍が可能となる。


【苦痛耐性】

 身体、精神苦痛に対しての耐性を微付与(一段階アップ状態)

 スキル効果により【苦痛耐性】が【痛覚軽減】に変化。


【痛覚軽減】

 感じる痛覚を低減する。


 武技:流水

 十秒間だけ相手の攻撃を見切り回避する事が出来る技。


 武技:紅蓮剣

 炎を纏った剣で回転しながら相手を斬る剣技。

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