第54話ドレスアップドーラちゃん
宿に入った時、ソリト宛にギルドから行商する場所を確保できた事への言伝てが届いていた。
場所は中央区域の役所が集まる前と、職人区域南側の二つだった。一つで十分だったが、そこは日替わりで行うことにした。
そして翌日、最初は中央区域で行商を行った。
結果的を言うと、銀貨百二十枚を確保できるほどに稼げたので都市で最初の商売は成功と言えた。
その理由として、中央区域で行商をする商人がいなかったこと、役所前という事もあり人の出入りが少ないことが原因だった。
そこは昨日書庫館に行っていた為予想がついていた。
唯にソリトは服は売らず、急遽治療薬と栄養薬を多めに作り、少し相場より安めに売りに出した。
軽い風邪や熱、疲労と疲労による食の不振の役人がいると予想してのことだ。
それが出来たのも、詳しい事はソリトも知らないがクレセント王国王都ルナールでの修業時代に時折書類仕事で疲れを溜めている王城の人間達がいたこと思い出したからなのだが、ソリトとしては生かすことが悔しく、少しの間、複雑な気分になった。
そして稼げたもう一つの理由は昼食である。
人数を考えると簡単な物しか作ることはできなかったが、一人二人と買っていくと次々と売れていったのだ。
中央区域にも飲食店や食堂を構える役所はあるらしいが数少なく、殆どはその飲食店に行くらしい。
食材にかなり金を使ってしまったが、お陰で上手く売れ食材費と薬草費等を取り戻す以上に売れたので問題なかった。
その他にもドーラを使っての門番への手紙やギルド等への書類の配送、ギルドから役場への書類など、役場を中心に出来ることにも手を出した。
手紙や書類といっても、どこぞの商人に渡す物に重要なものはないが、料理と薬で小さな信用が作れたのか小銭は稼げた。
都市を出てからも配送を続けてみても良いかとしれない。
そうして品数が減り切れりしたところで、ソリト達は防具店に顔を出した。
店内には誰もいなかったので、裏に行ってみると女物の服を着た体格の良い防具店の店主が防具を打っている最中の違和感漂う光景があった。
ただ、防具を打つ際の真剣な面持ちは鍛冶師としてのものなのだと理解できるほどに物を言わせぬ雰囲気と集中力が鍛冶場の中を支配しているのが分かった。
見た目との差が激しいのは置いておいての話だが。
暫くして、終わったの一段落着いたのかして集中力を切らし一息吐いた防具店が気配に気付きソリト達の方に顔を向けた。
「あらやだぁ来てたのね!恥ずかしいわ。服よね!出来ているから表で待っていて頂戴」
「あ、ああ」
そう言って、防具店は上の階に上がっていった。
「女性でも鍛えればあんな風になるんですね」
「一つ言っておくが男だからな」
「え゛?」
だが、ルティアの勘違いするのはソリトも分からなくもない。口調や立ち振舞いは女性なのだが、男性には違いない。しかし、どことなく〝姉〟のような雰囲気があるのだ。
「ごめんなさい。あの後急に防具の修繕の依頼が来たものだから、しかも次の日には依頼に戻るって言うから」
「という事は徹夜ですか?」
「ええ、で、一段落着いたところに来たわけ。そういえば初めて見る子ね」
「初めましてルティアと申します」
「アランよ。あなたの恋人かしら?」
「こいつは協力者だ。断固として恋人ではない」
「断固……あ、だーんこ団子なんて、ふふふ」
「後で慰めてあげて」
「お姉ちゃん、かわいそかわいそやよ?」
ソリトはドーラがルティアの頭を撫で慰められているのを視線だけを向けて見ながら、何やら大変そうだなと思いながら話を戻す。
「とにかく服を貰いたいんだが」
「なんだか大変そうね」
と、防具店のアランは隅の方で布を被せられている服を持ってきて、布を下ろした。
見た目は黒を基調としたドレス。
襟やスカートの裾にフリルをあしらっており、襟の真ん中とスカート丈に白いリボンが付けられ、二重構造のスカートは下の方が白いフリルスカートとなっている。
「あるじ様これドーラの服?」
「そうだ」
「ドーラの!」
すると、ドーラは来ていたボロのマント風毛布を脱ごうとする。
「は!ドーラちゃん駄目です」
茫然としていた意識を戻したルティアが止める。
「なんでー?」
「ソリトさんがいるからです」
「あるじ様ならいいんよ」
「駄目なんです」
「わかんないやよ」
「いつか分かります」
「とにかく鍛冶場とは別のところに更衣室があるから行きましょ」
ドーラはルティアとアランに更衣室のある奥へと連れられた。
「どうやって着るんよ?」
「私がやるので動かないでください」
「ゴシックドレスだけどワンピース風にしてあるから着やすくしてあるわ」
奥の方から女性陣?の聞こえてくる声から様子を窺いつつソリトは黙って待つ。
「やっぱり可愛いわぁ!あと、このヘッドドレスを付けて」
「あはぁヤバイです!可愛いですぅ!」
着替えさせている二人が変なテンションで喜んでいる。
「これもうお持ち帰りね」
「そうですねぇ」
ソリトはルティア達から危険な臭いを感じずにはいられない。
「さて、行きましょうか」
「はいやよー!」
奥から戻ってきた女性陣?からソリトはドーラの方に目を向ける。
白と黒のコントラストの髪と同色のドレスを着たドーラは小柄な体型と合わさり人形を連想させる雰囲気がありよく似合っている。また横や斜めから見れば小さな翼がしっかり視界に入り不思議な雰囲気に変わる。
それで胸の大きな白リボン二つの雰囲気にも合っており、二面性に近い事が出来るドーラにピッタリの服となっている。
「あるじ様ー」
「あ?」
「ドーラ似合ってるん?」
「似合ってるじゃないか」
「おもち帰りしたいくらい可愛いやよ?」
「お前ら何覚えさせてんだ?」
「「ごめんなさい」」
それは捨て置き、ここまで容姿を生かした服を作れるとは、さすが職人だ。
「ドーラ自分ですぐに出来るか?」
「んーもうちょっと」
「なら、その間はそれを着ておけ」
「やよー!」
「破るなよ」
「はーい!」
ニコニコと笑いながらドレスを着てくるくる回るドーラ。
その間、ソリトは支払いをする。
「じゃあ銀貨百二十枚だったな」
「ああ、そうそう昨日言い忘れていたのだけど銀貨百枚にするわ」
「は?」
ソリトはすぐさま怪訝な表情に豹変する。
「そんな怖い顔しないで。感謝みたいなものだから」
「感謝」
「そのバトルジャケット私が作ったものなのよ」
「ん?待て、これを買った店では異国のを貰ったって言ってたが」
「ええ、ここに来る前に違う国で作ったものだから。間違ってはないわ」
「……それは分かった。だが感謝されるまでではないだろ」
「恥ずかしながら、私が初めて作った防具服の試作品でね。でも見た目普通のジャケットっぽいし、当時自信もなかったから一着だけ出して売れたら報告してほしいって知り合いの商人に頼んでいたんだけど中々それがなかったの。だから服は服。防具は防具って分けることにしたの。でも今回あなたが着ているのを見てもう一度やることにしみたの」
「そうか?良い防具だと思うが」
「なら良かったわ。それで徹夜で新しい防具服を作ったのだけど」
値下げの条件としてソリトにそれを受け取って欲しいという事だろう。
しかも、徹夜で防具服を作り、修繕とは無理をしすぎなのではないだろうか。
そこまでされて断ることはできない。
ソリトは首を小さく縦に振った。
「分かった。受け取ろう」
「交渉成立ね」
アランは後ろに回していた手を前に出し折り畳まれた防具服をソリトに渡した。
広げると今着ているジャケットガードと見た目は余り変わからない。一部腰辺りまでの裾が長くなっているがそれだけで、新しく作ったにしてもこれでは違いが全然分からないくらいだ。
「見た目はあまり手を加えてないわ。そっちの方が違和感なく着れるでしょ」
「まあな」
「あとこれは防具の効果ね」
「ちなみに名前は」
「前の覚えてないし、見た目からバトルジャケットで良いかしら?」
「まんま変わってないだろ」
「そうだったわね。んーそうね……コート・オブ・ガードでどうかしら?男の子ならカッコいい名前の方が良いんじゃない」
確かにソリトも一瞬良い名前だと思ってしまった。
「凝りすぎじゃないか?」
コート・オブ・ガード
防御力上昇 魔法防御力上昇 火耐性(大) 水耐性(小) 斬撃耐性(大) 衝撃耐性(中) 防汚加工 自動修復加工
色々と耐性が付き過ぎている。
凄いのは自動修復というものではないだろうか。斬られても、破けても、直るというのだから。
「一生ものになりそうだな」
「あら!嬉しい事言ってくれるわね」
「というか、自動修復があるなら斬撃耐性はちとやりすぎじゃないか?」
「いやよ。久しぶりに作ったのを早々斬られるなんて嫌だわ。自動修復はあくまで保険よ」
保険で付けるものではない気がする所だが、アランからしてみれば久しぶりに作ったものだからやり過ぎたみたいなものだろう。
「まあ困ることはないか」
「そうよ。困ることなんてないわ」
「ソリトさん、これからは余り無茶して突っ込まないでくださいね」
「お前が言うなよ」
「む」
それから、支払いを済ませ防具店を後にし、明日のための薬草や食材、布等を調達するためにドーラに体に戻ってもらい竜車を引かせた。
―――
ゴスロリ幼竜少女ドーラちゃん爆誕!
どうも、本当は連投したかったぁ!翔丸です。
こほん……さて、どんなゴシックドレスかは皆さんのご想像にお任せします(^○^)。
それにしても寒かったり、暑かったり体壊しますよ全く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます