第53話あまあまぁ!

すいません。

ドーラの服問題を考えていたら遅れました。

―――


「ソリトさん。聞き忘れていたんですけど、師匠はどうしたのですか?」

「師匠?」

「聖剣さんです」


 ルティアは聖剣を師匠と呼ぶことにしたらしい。剣を教わっていくのだろうから気持ちはわからなくはないが、早すぎないかと思うソリト。


「さぁな、いつの間にか剣に戻っていた」

「そうですか」

「人の姿になるのも大変なんだろ。二回も聖剣解放をしたしな。お陰で俺も魔力をごっそり持ってかれて怠い」

「そんな様子には見えないのですが」

「弱ってるところなんて見せるわけないだろ」

「にへへ」


 突然ルティアが緩みきった笑みを浮かべた。


「何だ?」

「確かに弱ってるようには見えませんねぇ」

「そういう風に振る舞ってるからな」

「なるほど……そうですかぁ」


 ルティアは声を弾ませながらにへらと微笑み続けている。


「回復魔法掛けます?」

「いやいい。何か今のお前気持ち悪いし。一層止めろ」

「久々に即答な辛辣!ん?久々でもない?」

「俺に聞くな」

「そうですよね」


 やはり今のルティアはご機嫌が大変宜しいようだ。そんなに弱ってる事がいいのだろうか。

 本当は協力関係というのは嘘で弱ってるところを襲撃、にしては回復魔法をかけてこようとする。いや、それこそ油断させる為に言ったことかもしれない。そうソリトは考えているが、どう見てもそんな感じではない。それに襲撃するなら、馬鹿みたいに緩みきった笑みは浮かべられない。


「笑うほど何が嬉しいんだ」

「え、私笑ってます?」


 自覚が無かったらしい。


「ドーラここで降りろ」

「はいやよー」


 ドーラに降りてもらった場所は職人区域南側に入った二十メートル先の場所の一件の木とレンガで造られた三角屋根の建物だ。洋裁屋を探そうと思ったが、まずはガイドのカナロアに教えてもらっていた場所を当たることにしたのだ。

 教えてもらった通りなら、防具の取り扱いと仕立てもしているという店の筈……にしてはそう見えない。だが仕立てをしているのなら納得出来そうな、女性が好感を持ちそうな可愛らしい外観だ。


「では、私は用がありますのでここで」

「用?」

「はい。【癒しの聖女】としての仕事です」

「へぇ……本当か?」

「タイミングが悪いので疑うのも分からなくはないです。ソリトさんですし」


 さりげなく貶されたが、止めた理由を理解してはいるようなのでソリトはそこは見逃すことにした。今回は、だが。


「……まあいいか。行ってこいよ」

「やっ…」

「ただし、裏切ったら奴隷になってでも信用してもらうっていう言葉を守ってもらう」

「やった!の一言くらい言わせてください」

「少しの間だが世話になった」

「お別れしませんよ!」


 と、不満気なままのルティアと別れた。

 それからドーラには精神体とで別れてもらってから、ソリト達は防具店に入った。


「なにこの子可愛いわぁ!」


 防具店にいたのは女性物の上着を胸元だけはだけさせて着た体格の良い男だった。

 思わず一歩引いてしまいそうになる濃い存在と印象を受けるソリト。


「小さな翼……飛竜に似てるわね。こんな亜人族がいるなんて初めてみたわぁ。しかもこんなに可愛いなんてぇ!」

「いや、コイツは魔物だ」

「あら?そうなの。あなた凄いのね」

「あるじ様ドーラ凄いの?」

「ええ、亜人にも翼を持った種族はいるけど。皆他に特徴があるの。でもあなたにはそれがない。凄いと思うわ」

「褒められたやよ!」


 ドーラはピョンピョンと跳ねながら喜ぶ。


「服を作って貰いたい。本来の姿になると着てるものは使い物にならなくなるからな。ただ、コイツは少し特殊でな」

「具体的には?」

「この人の姿は精神体でな。実体はあるが本当の姿じゃない。本当はあっちだ」


 窓から見えるドラゴンに背を向けたまま指差し、それからある程度服を求める理由を説明した。


「ごめんなさいね。多分無理だわ」


 特にソリトは落胆しなかった。やはりと予想の一つでもあったからだ。


魔綿まめんの虹布っていうのがあるのだけど。その布は所持者の魔力を通すことで形が変わる珍しい物でね。変身能力を持つ亜人族に重宝されているのよ」

「破れたりしないからか?」

「そう。でもドーラちゃんだったわね。この子の場合肉体が姿を変える訳じゃない。多分だけど、身体から離れているという事はゴースト系の魔物に近い状態になっていると思うのよ。だから、作るなら普通の服を一回一回着せた方が良いわ」


 変身能力と幽体離脱はまったくの別物。ソリトは女物の服を来ている防具店の男を見て、それは凄く説得力があると感じた。


「そうか」

「あるじ様、新しい服作るんよー?」

「お前のな」

「何でやよ?」

「身体に戻った時に破けるからだ」

「それならドーラ作れるんよー。見ててみててー!」


 そう言った直後、ドーラの身体がボフン!と煙に包まれた。

 そして、晴れた先には服を着たドーラがいた。

 しかも、それはノースリーブの青いラインの入った白服に刺繍の施されたローブ、太ももが半分隠れるスカートに膝上まである靴の下と履き口がもこもこしたブーツとルティアの聖女らしからぬ服装だった。

 しかし、サイズもルティアと同じなのかダボっとしている。


「そんな事が出来たのか」

「んー。あるじ様の話聞いたら何となく出来ると思ったんやよ」

「本の沢山ある場所で言っていたと…あぁ」


 そういえばその時、ドーラは空腹で「ごはん〜」と上の空な感じだった。頭の中がご飯一択で聞いていなかったのだろう。


「はぁ…で、他の服は出来るか。自分に合わせて」

「んー難しいやよ。ちゃんとじゃないと出来ないと思うんよ」


 どうやら明確なイメージがないと服は出来ないらしい。しかも全てイメージの為かサイズもそれに釣られてしまうらしい。


「ねぇそれなら服のデザイン私に任せてもらえない!」


 女装した防具店店主は提案している間にも、既にメジャーでドーラの身体のサイズを測り、全体を見ながら紙に服のデザインを書き始めている。

 服ならソリトも作れるが、デザインには今のところ自信が無い。断る理由も無いのでこのまま任せてみることにした。


「雰囲気的には不思議な感じね。シンプルな服もいいけど、少しドレスアップさせてみても良いかもしれないわね。あぁ素材良いから迷うわぁ」

「あ…う…あるじ様ぁ」

「少し、我慢してくれ」


 困っているが、服無いと困るのでこう言うしかなかったのだと、ソリトは行く末を見る。


「外のドーラちゃん本来の姿を見させてもらうわね」

「あんたが良いなら、ここで体を呼び戻すことも出来るが……」


 見渡す限りサイズ的に天井に当たるか当たらないかの瀬戸際だ。

 これは外に出てもらう方が良いかと思っていた時、チラッと視線が体ドーラの方に視線を移した瞬間に浮かんだ事をドーラに命令する。


「ドーラ、座って丸まってからここで体に戻れ」

「はいやよ」


 ドーラは体を呼び寄せて中に戻った。一体どういう原理なのだろうか謎である。


「こっちの姿は綺麗ねぇ。ドレスにするわ」


 驚愕する瞬間を見た筈なのに動じずデザインを考える防具店にソリトは内心で称賛する。


「はっきりとしたのだとやっぱり作る必要があるかしら」

「そうだろう」

「なら明日までには服を仕上げるから待っていて」

「早いな。ちなみに幾らだ」

「んーそうねぇ。銀貨百二十枚って所かしら」

「うぐ」


 またそんなに掛かるのかと思った瞬間、ソリトは声を漏らしてしまった。

 金額的には問題ないが、それだと後々心許なくなる。

 そこは明日の売り上げ次第となるだろう。


「分かった明日払う」

「待ってるわね」


 防具店店主に手を振られながら、一度ドーラに精神体に戻ってから店を後にしてからもう一度ドラゴンの姿に戻ってもらいソリトは背に乗る。

 とりあえずここでの行商以外でやることは終わったので、約束通りドーラに美味しい物を食べさせるために東の観光区域に向かった。


「あるじ様ここ?」

「ああ、地図通りならな」


 着いた場所は他の建物とは違って横に長く一階しか存在しない木造のみの建築。窓はガラスではなく紙で、入り口には『かんみ』と書かれた布が下げられており、簡単に侵入されてしまいそうな外観だ。

 それを全部まとめて変わった店、そして中央都市は見たことのない物で溢れていて本当に見飽きる事がない。それがソリトが抱いた感想だ。


 カナロアが勧めたのもきっと変わった食べ物が出されているからだろう等と考えながらソリトはドーラと共に中に入る。


「いらっしゃいませ二名様ですね。こちらへどうぞ」


 そう言って、三角の布を付け、見たことのない服を着た女性店員が案内する席にソリト達は座った。


「こちらお品書き、メニューになります」


 渡された変わった料理名の書かれた冊子を開く。


「マンジュウ、アンコロモチってなんだ?」


 初めて聞く物ばかりで戸惑っていると先程の女性店員がやって来た。


「饅頭は小麦粉を餡ころ餅はもち米という穀物を使った和菓子という遠い東方にある国のスイーツでどちらも小豆という豆を使った餡子という甘味が詰められてるんです」


 他にも団子やどら焼き、羊羹ようかん、ういろう等様々な和菓子というスイーツを女性店員に勧められる。

 ちなみにこの店の外観も店の制服、作務衣と言うらしいこれらも、その東方の国から取り入れたものらしい。

 さらにこの和菓子を扱う店はここだけだという。にもかかわらず銅貨百枚からの値段のものまであり良心的な対応だ。

 ただ種類も豊富な事もあり迷ってしまうのが痛い。


「決まったか」

「んーまだやよー。あ、」

「決まったか?」

「ルティアお姉ちゃんやよー」


 振り返ると外の大通りの方に確かにルティアが白ローブのフードを深く被って歩いていた。怪しさ漂って逆に目立っているので一目でよく分かるくらいに。


「ソリトさんにドーラちゃん」


 座っていた席が入り口の近くだった事もあり、ソリト達に気付いたルティアが声をかけてきた。


「ドーラ、早く食べるもん決めろよ。でないと食べれなくなるぞ」

「え、やだー!」


 ドーラはお品書きと睨み合うように目を離さずどれを食べるか見つめる。

 ソリトも早く決めないとと、お品書きのメニューを見る。


「無視しないでくださいよ」

「ん、なんだ聖女か」

「私がいること分かってましたよね!?しかもなんだとは何ですか!もうちょっと私がいることに興味もってくださいよ!」

「何でここにいるんだ?」

「よくぞ聞いてくれました」

「今興味が消えた」

「早いです、早すぎます!調子に乗りませんから興味を取り戻してください!」

「興味が湧いてきたな」

「良かったぁ」

「冗談に決まってんだろ」


 ルティアがしゅんと落ち込む。


「ソリトさん……私で楽しんでませんか?」

「楽しむ?そんな分けないだろ」

「笑ってたじゃないですか」


 コロコロ変わる表情の変化に可笑しいとは思ったが、それで笑った覚えはソリトには無い。


「見間違いだろ」

「笑ってました」

「笑ってない」

「笑ってました」

「笑ってない」


 そう返すとまたルティアも同じ事を繰り返し言い返す。これはきりがないと思い、ソリトはメニューを選ぶことに集中する。

 すると、隣に座ったルティアが「絶対笑ってました」と不貞腐れながら呟いた。


「頼むなら頼んでくれないか」

「え、良いんですか」

「少し前まで南側にいたのに東側にいるんだ。休まず走り続けたんだろ?」

「う……仰る通りです」

「それで倒れられて協力出来ませんなんてのは御免だ。だから奢ってやる」

「ありがとうございます、ソリトさん!」

「それ言うくらいなら早く決めろ」

「はい!」


 それから暫くして、ソリトは白玉栗ぜんざいの抹茶セット、ルティアは苺大福とウサ饅頭の緑茶という飲み物のセット、ドーラはみたらし団子、カステラ、どら焼きの三つを注文した。


「お待たせいたしました。抹茶セットと緑茶セットの二つに、みたらし団子、カステラ、どら焼きになります」

「わーい」


 女性店員が注文した和菓子を配膳した瞬間、ぱくっと一口でみたらし団子を一串食べた。


「あまあまぁ!」


 次にカステラ、どら焼きを「ふわふわ」「うまうまぁ」と感想を上げながらパクパク食べていく。


「それ以上は頼まないからな。味わって食べろよ」

「ふぁいわおー」


 本当に分かっているのかと思いたくなるほどにドーラが和菓子を頬張って食べる。


「この苺大福というの甘酸っぱくて餡子という少し塩っけのある甘さが合いますし、この不思議な柔らかい生地の食感が堪らなく美味しいです」


 逆にルティアは、半分食べつつも細かくコメントを述べられるまで味わって食べている。


「ソリトさんのはどんな感じですか」

「塩っけと控えめな優しい甘さ」

「そ、そうですか。そういえば服の問題解決したんですね」

「半分な」

「半分?」


 半分はソリトの中で無駄骨だったような気がするからとは、内心で言っておく。


「あるじ様おかわり」

「あれだけと言ったろ」

「物足りないやよー」

「はぁ」


 それから追加でソリトは和菓子を注文することにした。その夜、更にドーラはルティアが取った宿で晩飯を大食らった。

 そして、ソリトが食費で減る金銭を心配したのは語るまでもない。

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