第49話 side4 山奥で知らずに…

お待たせしました。悩んだ末クソ勇者sideにしました。

――――



 ソリト達が中央都市アルスに到着する数日前。クロンズ一行はクレセント王国王都南西に向かった先にあるアポリア王国との国境を目指していた。


 目的は聖槍の能力解放の方法。

 決闘時にソリトに言われた「聖槍でも使ってみろ」という言葉の後に見せられた聖剣の能力の光景が頭から離れない。


 ゆえにその方法を知るためアポリア王国に戻る事にしたクロンズ。

 ソリトの鼻を明かすのはその後。その間も蹴落とす為の策を考えるのは止めないが、聖剣の力に対抗するには聖槍の力が必要だとファルの助言を受けて納得した。


 そしてもう一つ。聖剣の奪還。

 出立前、王城の地下室から聖剣が消えたという報告があった。何故消えたかなんて理由は考えるまでもなく、ソリトだと断定された。

 しかし、決闘の翌朝にソリトが王都から離れている事は確認されていたため、違うと一時は覆ったが、遠隔で聖剣の力を解放出来る。

 ならば、その類いによる方法で奪っていったに違いないと国王が発した事で更に覆った。

 ただ、周囲の宰相等官僚や護衛騎士等はそれに対して疑問を持っていた。


 原因は【癒しの聖女】の国王、いや、演習場にいる全ての人間に対して「まともに調べもしないで確証もなくソリトさんを犯罪者にするなんて!」というこの一言によって、正論、その通り、と感じた者は少なくなかった。が、疑問を抱いた大半は孤児というだけで犯罪者である理由で判明した【癒しの聖女】の出自が【調和の勇者】ソリトと同じ孤児であること。


 孤児は犯罪者。


 その考えを通すと聖女も犯罪者とすることになる。他国の聖女をそんな理由だけで犯罪者にすればステラミラ皇国も教会も黙ってはいないだろう。

 実際、聖女自身にも言われたこともあって、頭にその思考が過る程に浸透していた。


 それに、勇者は一国の支援に対して聖女は一国と四国全てと繋がりを持つ教会の支援と権限を持っている。

 敵に回すのは得策ではない。その理由は、聖女が〝歩く国家権力〟、〝歩く教会〟等と密かに言われている程存在が大きいからである。


 それゆえ、あの場で誰も発言することが出来ず、正論を言われて考えを改めざるを得なかった。となれば、クロンズ達に対しての疑念を抱くのは当然と言える。

 だが、唯一の手掛かりがソリトであるのも本当だった。

 結局、悩んでいた者達もソリトを捕獲することに賛同し、捜索や国境の検問強化をすることになった。


 今の状態でソリトを陥れるのは難しい。下手に行動すればボロが出るだろう。そうしてファル達と話し合った結果、まずは信用を取り戻す考えを取った。

 ついでという訳ではないが、帰国も兼ねて南西を重点的に回って村があれば立ち寄り、そこで問題があれば解決する事にした。


 その初めとして、食糧難に悩まされているという村が近くにあるので訪れることにした。しかし、全ての村民に食糧を渡すことは不可能。

 その時、ファルが以前クレセント王国の王城に訪れる商人から偶々聞いたらしい話の中に、食糧難を解決する物が近くの山奥にある事を思い出したらしく、まずはそこを目指すことにした。


「ファルまだなのかい?」

「もうすぐだと思うよ」


 それから山を登っているが中々辿り着かない。クロンズがファルに尋ねるも曖昧な返答しか返ってこない。

 聞いたと言っても随分前の事で場所が曖昧なのは仕方ないのかもしれない。

 途中、魔物と遭遇もしているので尚進まない。

 更に言えばここ最近魔物に手こずる事が多くなっていた。


 今まで遅い、弱いと感じていた魔物が早く、強く感じるようにクロンズ達はなっていた。

 アポリアとクレセントの国境、南西辺りはレベル5~レベル30の魔物しか棲息していない。

 クロンズ達が今登っている山はレベル30前後が多く棲息しているらしい。

 これなら余裕だと思っていた。しかし道中で遭遇した魔物達には少し手こずる事になるなど思ってもいなかった。

 レベルやステータスで考えれば問題ない相手の筈にもかかわらずだ。

 何故か。そう考え、クロンズが出した答えは精神的要因。

 最初はソリトにバレた事が無意識に言いふらされてしまわないかという焦燥感だったが、未だに決闘で無様な姿を曝してしまった事もと考え、そして最後はその元凶である【調和の勇者】が全ての原因と結論付けた。


 ゆえに、少し苛立っているクロンズは思い出すくらいなら明確に思い出せと悪態を吐くように内心で思った。


「賢者が聞いて呆れる」

「何か言った?」

「仕方ないよね。頑張って」

「うん!」


 思わず漏れてしまった本音だったがファルには聞こえてなかったらしい。それでも一応誤魔化したので大丈夫だろうと、フォローするのに嫌気をさしながらクロンズは溜息を吐く。


「……は………の………だ……勇者」

「何だって?」

「慰めてくれるなんてクロンズは勇者だって」

「こんなの普通でしょ」


 上部言うのは、とは付け加えて言わずにクロンズは返す。


「もぉだるいよぉ」

「うだうだ言ってないで歩きなさい私達も同じよ」

「もぉ、魔物の肉で良いでしょ〜?途中で倒してきたの持ってかえろぉよぉ」

「村民全員に渡せる程の数運ぶなんて無理に決まってるじゃない。それを考えたら楽でしょ」

「そうだけどぉ」


 後方ではアリアーシャの愚痴にフィーリスが眉をしかめて付き合っている。ただ、長引くと魔物が声を聞き付けかねない。クロンズはアリアーシャ達の会話に入り込む。


「ごめんねアリアーシャ。僕の我儘に付き合わせて」

「う、ううん!大丈夫!わたし頑張るねぇ!」

「ありがとう。目的の物を村に渡したら沢山可愛がってあげるから」

「えへへへ、ありがとぉクロンズ!」


 アリアーシャはクロンズの言葉に赤く染める頬に手を当て体をくねくねさせる。


(アリアーシャは単純でいい)


 機嫌を良くしたところで、再び登山を再開する。とはいえ、パーティーに加わってからこの調子なのでクロンズは気にはしていない。


 それから一時間程して目的の場所へと着いた。

 そこは崖で開けた場所となっており、奥には小さな石の祠がポツンと建っている。


「クロンズあれよ」


 ファルが指差す祠の中に小さな四方形状の箱があった。

 祠の方に近づく。

 とはいえ、何故こんなところに祠があるのか、とはクロンズは考えとしなかった。

 水の染み跡、ひび割れは長年放置されていたとしか思えないからだ。

 そして、クロンズは箱を手に取る。こちらは風化した様子は全くない。何故なんだろうとクロンズは考える。


「クロンズ、こんな所に突っ立てないで早く村に行こ?」


 その時、クロンズの腕にファルが体をくっ付ける。触れた瞬間の柔らかな感触に思わず口が緩む。


「そ、そうだね」

「あぁ!ファル抜け駆けはずるいぃ!」

「アリアーシャ静かに!……でもその意見には賛成」

「そんなの早い者勝ち。何ならもう片方の腕に抱き付けば良いんじゃない?良いよねクロンズ?」

「構わないよ。でも山を下りてからにして魔物に遭遇した時危ないからね」

「ずるぅい」

「そうだけど……」

「帰ったら皆のしたいことをしてあげるから」

「なら良いわ!」

「やったぁ!」


 そしてクロンズ達は山を下り村に向かい、箱を渡した。

 その夜、村の宿でアリアーシャを中心にクロンズ達は盛り、翌朝アポリア王国の王都へと向かった。


 その後、自分達が渡した物が村に災いを引き起こすとも知らずに。

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