第27話 孤高と嵐

ご迷惑をお掛けしてます。

お待たせしました。

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 城のとある城のとある地下室。

 その奥には部屋とは不釣り合いな装飾が施された白の台座。

 その台座に監視の下、ソリトの手によって聖剣は突き立てられる形で納められた。




 城内の修練場は、決闘場と化していた。

 修練場の壁に掛けられた松明用の油の染み込んだ木には火が焚かれ、城で働いている者達が皆ソリト達の戦いを席に着いて楽しみにしている。


 しかし、決着がどう着くのかは既に頭のなかで出来上がっている事だろう。

 一人ではまともに戦えない【調和の勇者】であったソリトと【嵐の勇者】であるクロンズとの戦い。

 何故、【嵐の勇者】一行ではなく一騎討ちなのかは不明だが、そこはクロンズのプライドや性格上一人で陥れたいとかそんな事ではないかと思う。

 そこは今どうでもいい。


 要は誰もが結果を想像出来ていること。

 現に決闘ではお決まりというべきなのか賭け事の声が聞こえてこないのだ。貴族という事もあるだろうが、ここには平民の騎士だっている。行われていても可笑しくはない筈。

 つまり、皆が分かりきっているとばかりに想像している結果―――ソリトの敗北を要求している。


 何とも滑稽に見えた。

 同時にクソッ!と苛立ちを覚える。

 敗北を望まれることなどどうでもいい。前の自分を馬鹿にするような行為が許せない。

 前の自分があるから【孤高の勇者】のスキルを持つ自分が今ここにいるからこその感情。

 誰も彼も、今は自分を嘲笑い蔑む敵にしか見えない。


 ならば、見せるまでだ。

 こいつは敗北するという思考を覆すような結果を。ただでことなどソリトはさせてやるつもりはない。

 クロンズには抑えきれない程の恨みがあるのだから。


「これより嵐の勇者と調の決闘を開始する。勝敗は敗北を認めるか、留めを刺す寸前まで追い詰めるかのどちらかとする」


 ソリトは軽く体をほぐし、剣の感触を構えながら確かめる。

 剣の重心が可笑しい。

 その感触にソリトは眉をしかめながら国王、次にクロンズと視線を移すと、クロンズだけがニヤニヤと笑みを浮かべて見ている。

 予想に過ぎないが、事前に騎士にでも頼んで勝手に国の剣に細工をしていたと考えていい。

 でなければ、決闘の話など持ち掛けない筈だ。


「今更だけどさ仲間でも呼んで強化したら?」

「夜お盛んなお前の方が必要なんじゃないか?」


 クロンズがキザったらしい鼻の掛かった態度でソリトを睨む。


「では、」


 戦いにおいて数が物を言う。

 しかし、それが烏合の衆であればまた別の話。

 どんなに兵を集めようと実力という質がなければ、優れた指揮がなければただの会合。

 実力に差がある者とでは相手にならない。

 この決闘はそういうものだ。

 それをソリトはクロンズに教えてやるのだ。


「始め!」

「うおおおおおおお!」


 クロンズは聖槍を構えながら走り、ソリトに一突き咬まそうと突っ込んでくる。

 少し遅れてソリトは少し踏み込んで床を蹴った。その瞬間、目の前からクロンズの姿は消えた。体を捻ればその後ろ姿が見えたがそれも一瞬で、回し蹴りを喰らわした感触はあったが姿はなかった。

 ドコンと激しい衝突音が鳴る。

 その場所を見れば、クロンズが壁にめり込んでいた。

 壁と分離し仰向けに倒れ、咳き込みながら体勢を四つん這いに変えた。

 どうやら、意識を刈り取らない程度には抑えれたらしい。


「俺は自分の言葉は裏切らないことにしてる。了承したからには殺さないように手加減してやる」

「手加減……ははは。自惚れるなよ。今のは僕が意識を攻撃に集中させて起きた偶然だ」


 自惚れているのはどちらだろうか。意識を攻撃に集中し過ぎているなど、戦いに置いては愚行の極み。

 気配感知などなくとも常に周囲に意識を向けて、視野も広くして全体を見れるようになるべくでもしておかなければいけない。

 連携ならば尚更だ。意識を向けていなければ仲間の行動が見えず、すぐに崩れてしまう。

 呆れたの一言だ。

 この男は一体魔王討伐を目指すと同時に受けてきた幾つかの依頼の中で何を学んできたのだろうか。


「ご託はいい。立てるなら早く立て」

「言われるまでもないさ。今度ぉうぁ!」

「俺は早く立てと言った筈だ」


 一瞬で間を詰めてクロンズの腹に膝蹴りを一撃入れながら言った。

 クロンズは再び四つん這いになって酷く咳き込む。


「油断して力を抜くなよ」


 ソリトは四つん這いのクロンズをそのまま蹴り上げる。

 今度は力が入っていた為に少し浮く程度で地面を引き摺りながら修練場中央近くまで行った。


 これが俗に言う三度目の正直だ。


「うん?…………なんか違うな」


 と、ソリトは即否定した。

 その間にもクロンズが立ち上がっていた。


「この……調子にのるな!」


 開始の時と同様にクロンズが一突き入れようと試みた。

 一気に距離を詰め、自分の間合いに入ったソリトにクロンズが槍を真っ直ぐ突く。

 分かりやすい攻撃程対処しやすいものはない。

 だが、


「ディスターブスピア!」


 クロンズの槍が一瞬で何方向にも別れて飛んで来た。

 ここで武技をかますとは良い判断だ。

 それをソリトは回避ではなく敢えて支給された剣で受ける。

 一度一撃を完全に受け止める。


「なっ!」


 クロンズの顔が驚愕の表情に変わる。

 そこでクロンズの武技は一度止まった。武技には魔法にはないクールタイムというものがある。それに入ったらしい。


「なぜ」


 クロンズが剣を見つめながら口からポロっと言った言葉にソリトは剣を見せるように構えて言った。

 クロンズの思惑通りながら、恐らく剣を槍と最初に交えた瞬間にでも折れる予定だったのだろう。

 そうならなかったのはソリトのスキルにある。


 王都にくる前に村長に問われた言葉を返し去る直前にソリトは武器屋の爺さんが言い忘れたことがあると言って知ったこと。

 実は紅姫の籠手の留め具を細工して研ぎ石を嵌め込んでいたのだ。

 ソリトが研ぎ石を貰った時に戦闘中軽く出来るようにと思ったらしい。

 決闘開始直後、ソリトは留め具と剣を高速で十回擦り合わせ、武器修繕技能が向上した【研磨】スキルで応急処置程度でバランスを合わせ、折れにくくしていた。


「この剣がどうかしたか?」


 剣を構え直しながら言った。

 すると、クロンズは苦虫を鋭い目でソリトを睨み付ける。思惑が外れて相当悔しかったのだろう。


「この!」


 それでもクロンズはソリトに向けて突っ込み槍を突いてくる。

 ソリトは突っ込みながら紙一重でクロンズの突きを回避し、拳を作る。体重を軽く掛けて踏み込む。

 そして、クロンズの何とかして防ごうとしながら戸惑う顔面へと拳を叩き込んだ。

 力加減をまた間違た。ただ今度は逆に弱かったらしく、後ろに下がる程度の威力。


 自惚れている訳ではないのだが、それだけの差が出来ていることをソリトは良く理解しているが故の手加減だ。

 殺す加減より、殺さないようにする手加減の方がとても難しい。


「仕方ない」


 ソリトはずっと手持ちぶさたにしていた剣の戦闘に切り替えることにした。これなら力の伝え方が不安定でも多少は融通が聞く。

 細工の件もあるので、剣がどこまで耐えられるかは分からないが、その間に手加減の基準を見つければ問題ない。


「くそ、くそ」


 剣速に滅茶苦茶戸惑いの声を上げているクロンズを見て、クククと内心で笑うソリト。

 必死に剣を目で追っているクロンズの足を自分の足に軽く引っ掻ける。


「いて!」


 クロンズは間抜けな声を上げながら尻餅をついた。

 何も武器だけが攻撃手段ではない。観察力も攻撃手段と一つとなるのだ。


「蹴るぞ!」


 顔に向かって下から蹴りを入れる。クロンズは少し宙に浮きながら壁に勢い良く激突した。


「流星閃」


 距離の離れた所から光の剣閃を放ち追撃する。

 周囲の観衆から悲鳴が上がる。

 ソリトには知ったことではない。

 煙が晴れると聖槍を前に翳していた。咄嗟に防いだようだ。


「正々堂々と……戦え」


 どの口が言っているのだろうとついつい言いたくなりそうになった。それより、それを実戦でも言うつもりだろうか。そんな言葉は戦場では通用しない。

 そして、それを教えてやるなどソリトにはない。


「俺は悪人扱いなんだろ?それなら、精一杯嫌がらせでもなんでもしてやるよ。ターゲットは………その顔と男の象徴の股間様だな!面とお玉様が無くなったらどうなるんだろうな!」

「なっ!や、やめるんだ、やめろぉぉぉぉぉぉ!」

「嫌なら抵抗してみろぉぉぉぉ!」

「精霊よ、我、嵐の勇者が声を聞き届け、水と真空の竜巻の刃の一撃で彼の者を吹き飛ばせ〝ハリケーン〟!」


 クロンズの【嵐の勇者】たる嵐魔法の一つの範囲攻撃らしき巨大な竜巻がソリトに向かって放たれた。

 だが、ソリトはこれを待っていた。全魔法習得可能。この項目に間違いがないのならばで嵐魔法も習得できるという事だ。

 そして、聞いた通りの詠唱を唱える。


「精霊よ、我が声を聞き届け、水と真空の竜巻の刃の一撃で彼の者を吹き飛ばせ〝ハリケーン〟」


 距離ギリギリまで待ち魔法を唱えた直後、ソリトは嵐魔法を自分に向けられた嵐魔法に向かって放った。

 巨大な竜巻同士が衝突した瞬間、一つの竜巻が消失し、もう一つはクロンズを襲った。


「ぐあああああ!」


 威力か軽減された嵐魔法がクロンズを吹き飛ばした。


「魔法が跳ね返った!?」


 魔法が返ったように見えた誰かがそう叫ぶのと同時に修練場にいる者全員が動揺の声を出した。

 ソリトがギリギリ待ったのはそもそもこの為だ。態々手の内を明かす必要などないのだから。

 しかし、スキルの習得には至らなかった。

 もしかすると習得するに当たってまだ何か足りないのかもしれない。


「…【調和】…何した」

「耐えたか」


 聖槍で防いではいたのは見えていたので特に驚きはしない。


「で?決闘を持ち掛けておいて終わりか?」

「そんなわけないだろ!」

「なら聖槍でも使ってみろよ」

「は?使ってるだろ!」


 まさかとは思っていたが、それでもソリトは驚きを隠せなかった。発言からしてもそうとしか考えられなかった。

 クロンズは本当の意味で聖槍を使えていないようだ。

 呆れてものも言えずソリトは溜息を吐いた。

 

「話にならないな」


 呟いた言葉が聞こえたらしく怒りに歪んだ顔でソリトを睨み付け手を前に翳すクロンズ。


「精霊よ、我、嵐の勇者の声を聞き届け、雷撃の如く真空の竜巻で彼の者を貫け〝スパイラルサンダー〟!!」


 雷を纏う螺旋の槍がソリトを穿とうと凄まじい速度で放たれた。

 ここでまた同じように打ち消して反撃を加えても良いが、少しばかり聖武具について教えてやろうとソリトは思い目を閉じる。


「諦めるなら早く降参したらぁ?」


 仮面が剥がれていることなど気も止めずに嫌みたらしくほざくクロンズを無視して、ソリトはを感じ取ることに集中した。


(離れてるが………いける)


 ソリトにとってもこれが初めての試み。それも最初が半端な形で。少々不安になりつつも口を開く。


、目覚めろ」


 白光の剣。それが突如ソリトの頭上に七つ顕現し、嵐魔法目掛けて射出された。


「なっ!?魔法?使えないはずだろ!」

「それはそうだ魔法じゃないからな」


『聖剣解放』

 聖武具は全てで四つ存在し、そのそれぞれが意思を持っているとと云われている。それゆえか人間のようにスキルを持っており、自身の秘めたる力を解放出来きる。そして、武具によってその効果は異なる。


 聖剣の効果は、あらゆる魔法を切り裂き遮断する。


 ただ魔力消費が少々激しく連発は出来ない。

 ソリトの場合は繋がりは持っていたものの魔法適性が無いことを示すように魔力が乏しかった為に使うことが出来なかった。

 行使しているということ、つまり今は改善されたという事だ。


 今は手元に無いため、今なおある繋がりを通しての半端な解放となってしまった。幸い、そのお陰で魔力はそれほど消費されずに済んでいる。


「けど、たった七つで対抗出来ると思ってるの?」

「対抗?はっ!不正解だ」


 射出される七本の白光の剣がソリト目掛けて襲い掛かるクロンズの嵐魔法を斬り裂き遮断していく。


「魔法を切断された!?ありえない!」

「いや、ありえるのさ!」


 ただやはり、半端な解放だった為能力が低く、七本全てで遮断する結果になってしまった。

 と、不服に思う間も一瞬で終わらせ、魔法が断たれた直後にクールタイムの過ぎた流星閃をクロンズに放つ。

 と、ソリトは流星閃を追い越さないタイミングで駆けた。

 遮断された魔法が晴れた瞬間に正面に現れた流星閃をクロンズが防いで、無防備になった瞬間を狙って。


「しまった」


 流石に察したクロンズが声を上げた。


「このままだと犯罪者の勇者が勝つぞ」

「まさか【嵐の勇者】様が負けるのか!」


 周りからしたら予想外の番狂わせだろう。

 本当なら早く終わっていても可笑しくはなかった。

 が、どうもソリトの勝利を認めない審判がいるようなのだ、とソリトは審判をしている国王に一瞬視線を移す。

 観戦してはいるがただじっと見ているだけ。犯罪者に勝利は与えてくれないとみる。八百長も良いところだ。


 ならばどうするか。クロンズに降参を認めてもらうしかない。かといってそう簡単には認めるはずもない。

 だからソリトに勝つのは無理だと教えてやることにした。

 そんな様子は全然無いのだが。


「降参したらどうだ?」

「誰がするか!」

「だろうな。ならするまで付き合ってもらう」


 まずは剣で攻撃をすることにし上段から振り被る。

 その時、【危機察知】が唐突に発動した。だが、既に体は攻撃動作に移っていた。

 そして、


「ぐっ」


 突然前から上段に振り上げていた剣を押され、ソリトは仰け反る。

 【危機察知】の原因の衝撃が来たと思しき方角を見る。そこにはフィーリスがいた。


(あのアバズレエルフ!)


 修練場の席の一番上から弓をソリトに向けていた。

 矢が無いところを見て【魔弓師】のスキルで生成した魔法矢だろう。それもおそらく、風属性の魔法矢だ。


 〝エアレンスウィンド〟という魔法があり、それを【魔弓師】に能力によって矢に変換した〝エアレンスアロー〟という魔弓だ。

 目を凝らして見なければ、空気の揺らぎに気付かない透明の矢で、敵を欺いたり、隙を作ったりするのに重宝していて、フィーリスが良く使っていたのを思い出す。

 フィーリスが馬鹿と言うように舌を出した。


「このぉぉおおおお!」


 その時、先に仰け反っていたクロンズが体勢を戻して反撃に出た。


「ディスターブスピア!」

「くっ」


 武技を使って連続でソリトに槍を向け、槍の先端が右肩と左二の腕、右脇腹と三発刺さった。

 更に仕返しとばかりに足を引っ掛けられソリトは倒れ、直後肩で息を荒くしながらクロンズが槍を構える。


「…僕の勝ちだね」


 辛そうな表情で宣言しながら槍をソリトに向けて放った。

―――

まさかの番狂わせ!?

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