第21話 勇者の堕ちた名声

応援、感想、フォロー、評価ありがとうございます。正直予想外でした。

――――――――――――


 翌日、ソリトは武器屋にやって来た。


「お、来たな小僧」

「来たなってことは出来たのか」

「おう!今持ってくる」


 爺さんはそう言って店の奥から、籠手と胸当てプレートを持ってきた。

 曇りのない紅色の籠手、白色の無骨な胸当てがカウンターに置かれた。籠手の金属部分は鱗模様のオープンフィンガーグローブ仕様になっている。

 プレートは赤いと思っていたが白い。グリムバード尾羽を使って変化したらしい、装着稼働部を触ってみるとグリムバードの羽毛が使われているようでサラサラしている。


「……籠手だよな」


 なんというか防具というよりは防寒具のグローブのような籠手だ。

 紅姫の籠手と言っていたがソリトが嵌めると外見が異人になりそうだ。


「小僧に合わせてついでに少し手を加えた」

「何か見た目がだんだん異人になってきた」

「ジャケット来てる時点で今更だな」


 確かにその通りだし、ソリトも見た目にこだわるつもりは余り無い。それに自分の体に合わせて貰えるのは有難いありがたいが、これは流石に目立ち過ぎる。


「ソリトさんならきっと格好いいですよ」

「そうかあ!だから何で毎回毎回知らない間にいる!?」

「おはようございます、ソリトさん」


 ぶれずにルティアは笑顔で軽くお辞儀をして挨拶する。


「いつからいた」

「ついさっきです」

「ジジイ、入店扉のベル取り換えろ」

「大丈夫です。ベルに異常はありませんよ」


 それはもっと問題なのではなかろうか。というか、何故ルティアが判断しているのだろうか。

 ここにいる聖女は本当に色々謎である。

 爺さんに関しては既に当たり前のように順応して、ルティアと気楽に挨拶をしている始末だ。


「まあ、とりあえず着けてみてくれ」

「……頼んだのは俺だし、値引きもしてもらったんだ。着けるか」


 見られながらは嫌だったので、ソリトは更衣室の中で装備する。

 今更ながら、指や腕のサイズ等測ってもいなかったのに何故こんなにもジャストフィットするのかソリトは驚いた。

 だが、老人ながら未だ逞しい体をして武器屋を経営している爺さんだ。沢山の人間の武器に触れてきたはず。

 きっと、経験で目視しただけで分かったのかもしれない。


「……………」


 後で口止めしようと思いながら、装備を着けて更衣室から出た。


「うん。目付きで野生……いや乱暴者な感じで似合っているな」

「おい、誰が目付き悪いって?」

「良い意味で言ってるから安心しろ」


 何を言っているのだろうか、そしてどう安心しろと言うのだろうかと疑問を抱くソリト。


「やっぱり格好いいですよソリトさん!」


 対して、なんてことをルティアはまじまじと笑顔で言う。

 ソリトはギロッとルティアを睨む。


「あの、何ですか?」


 睨みに動じることなく、きょとんと首を横に傾けてごく普通に話しかけてきた。本当に本心から思って言っているらしい。

 一体どんな環境で育ったのだろうか。


「目立つ」

「気にしたら負けですよ」


 そういえば、聖女というにはルティアは臆することなく魔物を倒してしまうほど精神が逞しかったとソリトは思い出す。

 寛容なのかもしれないが、もしかしたら美的感覚にも影響しているのかもしれない。


 ステータスを確認してみると、少しの割に魔法防御が意外と高い。どういう事かと言うように、ソリトは爺さんに視線を向けると、気付いた爺さんが腕を組んだままサムズアップをしてきた。

 何か企む理由はないし、サービスと受け取って良いだろう。


「受け取っとく」

「おう」

「?何がですか?」


 そう言うルティアを見て、付き纏われている時点で知らない内に目立ってるんだったと、納得しながら溜息をつく。


「何故私はこんなにショックを受けてるんでしょうか」


 良く分からないがルティアが肩を落として気持ちを沈ませていた。



「そうだ小僧知ってるか……」

「爺さん、武器をあるだけ買いたい!!」


 扉をバンッと勢い良く開けて冒険者らしき男が入ってきた。


 入ってきた男の話によると。何でも、魔物の群れがこの街に近付いてきているらしく、そのことを突然店にやって来た冒険者が伝えに来たようだ。

 武器調達は依頼から帰って来た冒険者達の武器の代わりに購入しに来たらしい。


「分かった。持っていけるだけ持っていけ」

「ありがとう!後で使用分払いに来る」


 そして、他の冒険者達と一緒に必要な分だけ武器と防具を持って店を出ていった。


「良いのか?払わないかもしれないぞ」

「その時はギルドに問い詰めて強制的にでも払わせるさ」


 ガハハと笑う爺さんを見て、ソリトは武器屋の爺さんなら本当に強制的に払わせそうだと感じた。

 その時、ふと、ルティアが店からいなくなっていたのに気付いた。


「ん?そういえば聖女の嬢ちゃんは?」

「聖女として加勢にでも行ったんだろ」

「小僧は行かないのか?」


 爺さんにはかなり世話になったソリト。他にもお礼だからといって街で店を経営している村の人間から良くはしてもらった。

 義理を返すという事で助けて良いかもしれないな、とソリトは思った。


「それで何を言いかけたんだ」

「随分他人事だな小僧」

「いいから」

「分かった分かった……何でも【調和の勇者】が仲間の女達に強姦をしようとしたんだってよ」

「は?」


 何の事か訳が分からず、ソリトは困惑した。

 いや、そうではない。言われたことを無意識に頭で理解しようとしたくなかったのだ。

 身に覚えの無い事を突き付けられるとは思いもしなかった。

 一体誰がそんな事を言ったと思考するが、そんな事するまでもなく理解した。


 確証が欲しいと思い、ソリトは爺さんに詳しく聞くことにした。

 だが、爺さんも店に来た冒険者を伝っての事で細かくは知らないらしい。大まかでも良いからと爺さんに聞いた限りの事を教えてもらった。

 それによると、ソリトは犯罪者扱いとなっていた。ただ、魔王に対抗するための人間として現状罰は与えられないらしい。


 そして、嘘の罪を着せた犯人達が誰なのか確実となった。


(身に覚えの無い事に何故俺が咎められなきゃならないんだ?)


 血が沸騰するように上ってくるのを感じる。

 被害者面で城に報告する様が目に浮かぶような感覚を覚える。

 何が目的か知らないが陥れたい、最悪抹殺でもしたかったかもしれないと考えた。


 それにしても、証拠もない事に何故国は信じたのか。その事にソリトは疑問に感じた。

 しかし、それも直ぐに分かることだったのかもしれない。

 きっと、王や大臣も最初からグルだったのだ。貴族じゃないから、孤児だから、ソリトを邪魔者だと思っていた。

 だから信じたのではないか。そうでなければ他国の勇者の言葉を信じる理由が無い。

 汚い奴等だ。奴等に関しては何処まで卑怯で醜悪で最低な連中なんだ、とソリトの心の奥底から殺意が噴出するのを感じながらそんな考えが頭に過った。


(そんな連中を何で俺が助けなきゃいけない。知るか、知ったことか!滅べよ、滅んじまえ!こんな国)


「……小……小僧!」

「あ?何だよ?」

「い、いや。もしかして小僧、勇者の知り合いか?」


 勇者の名前は万が一を考えて伏せられている。ゆえに武器屋の爺さんが知るはずがない。

 だが、いつバレても可笑しくない。偽ってでも話を合わせて早くここから消えるのが今は良いだろう。


「まあな……じゃあジジイ世話になった」


 それだけを告げて店の扉の行き、ノブに手を掛けて開けてソリトは店を出る。


「おい小僧。そんなデマ、余り気にするなよ!」


 爺さんが何か言っていたが、ソリトの耳に入る事は無かった。

 こうしてソリトは知らない内に所持するもの以外の全てを失った事を知った。


 店を出た後、これからどうするかを考えた。

 周りを見ると全てが醜く見えて仕方なかった。

 殺意が湧き上がる。

 鬱憤晴らしにそこら辺の人間でも殺すかなんて考えが思い浮かんでしまったが理性で抑えて、ソリトはその思考を消した。

 無作為に無意味に命を奪うなど、それこそクズ勇者達の思う壺となって終わりだ。

 何より、同じクズ、それ以上の外道に成り下がるなんて冗談だとしても笑えないし、心が強く拒絶していた。


 それならどうするかと考えている時、街の周りの雰囲気がピリピリとしていて、家に入り、店を閉めていく人達が見られる。

 そこで、つい先程冒険者がやって来て魔物の群れが来るとか言っていた事を思い出す。

 鬱憤晴らしには丁度良いと思ったソリトはプルトの街の北側入口に向かった。


「ソリトさん」


 途中、声に思わず反応して正面を見るとルティアがソリトの方へと走って向かって来ていた。

 近くまで来ると徐々に速度を落として最終的に立ち止まった。

 立ち止まった時の表情は何処か暗い表情だった。

 だが、ソリトはルティアの隣を横切って通り過ぎた。


「あの……」

「何だ?」

「い、いえ……」


 身じろいだルティアは黙り込んでしまった。

 苛立ちのせいで、ソリトは沈黙の時間が不愉快で仕方なかった。


「あ…」

「何処か、行くんじゃなかったのか」

「………はい」


 ソリトの機嫌が心底悪いのを察したルティアは俯きながらとぼとぼと何処かへ向かっていった。


 どうせ、本当の事を言ったって信じるわけがない。それはルティアとてきっと同じだろう。だが、他と違って奴等とルティアの大きな違いは彼女が聖女であることと、ソリトに恩を感じて返そうとしていることだ。


 だが、結局ルティアとて教会に所属する人間だ。自由が与えられていたとしても命令が下ったりすれば手のひらを返すにちがいない。

 ソリトはルティアを見送ることもなく、止めてしまった足を再び動かして北側入口に向かった。

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