第22話決して

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―――


 街の北側入口に到着した。

 十メートル先には街の兵士や冒険者が念入りに準備を整えながら討伐に備えている。

 ここに来る途中では入口近くになるに連れて街の民間人は家に立て籠って静まり返っていた。


 一度、冒険者に話を聞くと奥の山から魔物の群れが来るらしく、草原には予想で昼間というのが偵察に行った冒険者からの情報を聞いての見解らしい。

 そして、その時間はそろそろという所に差し迫ってきた。

 自分から赴いても良いが何もない所の方が他の冒険者との接触も少なく戦いやすいだろ。

 聖剣も戦闘前に抜いておいて良いだろう。


「何か用か、聖女」

「…少しお話しませんか」


 緊張感がないなと思った。断る理由もないが、今はそういう気分ではない。かといって話す気もないのだが。


「暇潰しにはちょうど良いか」

「暇っ!……いえ、お話できるなら暇潰しでも構いません!」


 ポロッと出てしまったソリトの独り言に反応したルティアは若干興奮気味に感情を昂らせ燃えていた。戦闘前だからだろうか。


「で、また何でだ?」

「その…本格的な戦いって初めてで、その感慨深くなって……」


 なんだ、この聖女は戦死しにでも行くのだろうか。

 後味悪いのでそれは止めて欲しいのだが。


 いや、もしかしたらそれは逆で、本当は自分なのかもしれない。

 冒険者や街の兵士がいたところで単独で討伐していくつもりだ。

 怪我を負い、徐々に追い詰められて、挙げ句の果てには命を落とすかもしれない。

 もし、そうなった場合。国の人間はソリトの死体を見てきっとこう思うだろう。

 〝犯罪者の末路に相応しい〟。

 全く馬鹿馬鹿しい話だ。そこでソリトは考えるのを止めた。


「どうして、ここまで俺に構う。ただの恩返しだろ」

「………私は孤児でした」


 自分と同じだった事にソリトは背を向けながら驚いた。





「ステラミラ皇国の辺境にある海と山に囲まれた村の小さな教会施設でした。裕福とは言えませんが、楽しい日々でした………」


 ステラミラ皇国は軍事力より国民の事を第一に考える施策をしているらしい。

 それにも限度があった。それでも辺境には最低限度の支援を行い貧困とは決してならなかったらしい。


 そんな中でルティアは赤子の頃、皇国の辺境の街の中心で捨てられており、偶々見つけた神父が引き取ったらしい。

 置き手紙もなかった為、生まれた月以外は名前も出身も、当然親も分からない。

 名前は神父が付けたそうだ。

 それでも、村の人はとても優しい人ばかりで互いに助け合いながらも楽しい生活だったそうだ。


 しかし、十二歳の時、突然魔物の群れが村に溢れ出たという。

 最初はゴブリン、コボルトが多く入り込んできたが、滞在していた冒険者達の助けもあり対応出来ていたらしい。

 だが、獣や巨大な虫の魔物が大量に現れ始め、防衛困難、最終的に崩壊へと陥っていった。

 魔物によって人は道に生えている草花を軽く潰すように次々と命を落としていった。


 ルティアの住んでいた村も崩壊寸前の被害で必死に魔物達から逃げ回った。

 魔物達は逃亡を許さず後を追い、無邪気な子供が駆け回って遊ぶように村の知人達を殺していった。

 ルティアは同じ孤児の子達と教会の神父と一緒に逃げていたが、徐々に迫ってきて、逃げ切れない事を悟った神父は足を止めて後ろに振り返り、自分達に微笑みかけた。


「ルティア、今は君が最年長だ。子ども達を頼むよ」

「え?」

「すまないね。これは私のワガママだ。皆、これから先辛い事が沢山あると思う。それでも私は皆が生きて楽しい日々を過ごせることを祈ってるよ」


 歳の近かった数人の子どもとルティアは神父が自分達を命懸けで逃がそうとしていることを理解した。


「待って!いや、いやああああ!!」


 神父がルティア達と魔物の中間辺りで立ち止まって少しして、地面が盛り上がり壁が出来た。

 神父が【地魔法師】のスキルを持っていたことは教会の子どもなら誰もが知っていた。


 壁の向こうに行こうとする幼い子ども達を無理矢理だったが連れて逃げざるを得なかった。

 数人の子達と一緒に抵抗する幼い子達を連れて、ただ逃げる事だけを考えて走った。


 気がついたときには知らない街の門の前にいた。

 直ぐに事情を兵士に必死に伝える。

 その度に徐々に記憶が鮮明に浮かび上がっていき、ピンと張りつめていた糸がプツンと切れたように、何かが切れた。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 子ども達はグスと泣くだけだったが、ルティアは泣きじゃくり、喚き、自分の体を傷付けた。

 落ち着いた頃、今度は知らない場所で眠っていて、そこは助けを求めた街の教会だったらしい。

 あの後、皇国騎士団や冒険者が新たに駆けつけ魔物達を全て討伐したらしい。

 そして、それが魔王復活の前兆だったというのが皇国の見解だったらしい。

 それからしばらくして、十二歳になったルティアは洗礼の儀で【癒しの聖女】のスキルを得た。


 悔いるしかなかった。

 あの時十二歳でこのスキルを持っていたらと、何度も後悔した。その度に「ごめんなさい」とただ呟くばかりだった。


 保護してもらった教会は村より断然大きく沢山のシスター、神父がいたお陰で、他の子達は最初は落ち込む子、村に戻ろうとした子がいたそうだが、徐々に元気に過ごすことが出来るようになっていった。

 そんな子達を部屋の窓から見たときにルティアは神父の言葉を思い出した。

 楽しく過ごせる日々。それを守るには誰かが守る必要がある。

 全てなんて傲慢な事は言わない。スキルがあったところで一人の力では手に余る。


 だから、ルティアは自分の目に入る人達を助ける事を心に決めた。

 そして、体が回復した頃、ルティアは皇都の大聖堂に赴き、回復、光魔法の習得、他にもテーブルマナーなどを教わったそうだ。休みの日はこっそりと城の騎士団にバレない時間を考えて剣の基礎稽古のみだがつけてもらった。


 それからしばらく経ち、大陸の村や街などを周り、プルトの街でソリトと出会ったという。

 ソリトを見たとき、助けたいと思った。使命ではなく、自分の意思でこの人の心に巣くうものから。


「大袈裟と思うかもしれませんが、私はソリトさんに沢山助けられました。旅の間もずっと私は決意した使命だけを勤めてきました」

「………」

「でも、そんな私がソリトさんとの時間は不思議と楽しく感じたんです。この人無視するけど、最後は折れて話してくれて、助けないと言いながら助けてくれて、心配してくれた」

「…………」

「信じろとは言いません。でも、これだけは心に留めていてください」

「…………」

「私はあなたを、決して見捨てない」

「ああ、そうかよ」


 酷い返事だとソリトは思った。

 それでも、この時のソリトにはそんな返事しか出来なかった。

 話が終わった雰囲気だったので、ソリトはルティアから距離を取った。


「絶対に見捨てるもんか」




 地が微かに震える。

 草原の奥から吠える声が聞こえる。


「来たぞ!」


 その声に皆が身構えた。

 粗方姿が見えた。見えるだけで五百はくだらいないだろうか。

 そして、姿が見えた瞬間、開戦の合図が叫ばれた


「戦闘開始だー!」


 再び誰かの合図で群れへと全員が走り出す。

 同時にソリトも踏み込み凄まじい速度で誰よりも早く辿り着き、聖剣を横一文字に振るった。


『ゴブリンを討伐により全能力が上昇します』

『レッドリザードマンを討伐により全能力が上昇します』

『モンキーナイトを討伐により全能力が上昇します』

『スカルソルジャーを討伐により全能力が上昇します』

『ブラックウルフ七体を討伐により全能力が上昇します』

『爪撃黒熊三体を討伐により全能力が上昇します』

 ………etc.


 討伐数は十五体ちょっと。


「少ない、次!」


 跳躍して群れの中へ着地した瞬間、ソリトは縦横無尽に広範囲に連続で攻撃する。


『ポイズンキラービーを討伐により全能力が上昇します』

『スカルソルジャー十体を討伐により全能力が上昇します』

『ゴブリン十五体を討伐により全能力が上昇します』

『ブラックウルフ十二体を討伐により全能力が上昇します』

『ホワイトコングを討伐により全能力が上昇します』


 討伐数は多いが上昇が少ない。

 代わりにレベルが一つ上がり56となったのは幸いだったが。

 ソリトのステータス上昇には不相応なようだ。

 冒険者や兵士も群れと接触し戦闘を始めていた。


 その時、広範囲に大きな影が何処かへ向かっているのが見えた。

 向かっている方向は西。

 それが分かった瞬間、カールトン村の事がソリトの頭に過った。


「だから、後味悪いんだよ!」


 見ていないだけかもしれないが、街に避難してくるような人間を見た記憶がない。

 あの村では色々と世話になった。

 死なれたら寝覚めが悪いと、ソリトはこの戦場から離脱して駆け出した。

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